“トゥルーパンクバンド”を標榜するmoreruのニューアルバム「ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい」がリリースされた。
moreruは高校を中退した夢咲みちる(Vo)と、熊本から革命を目指して上京したDex(Dr, Vo)によって2018年に結成されたバンド。20代前半という若さならではの衝動性、脳髄を刺激するエクストリームな轟音、そして予測不能なライブパフォーマンスでじわじわとリスナーを獲得している。
ニューアルバムの完成を記念して、音楽ナタリーでは夢咲とDexの2人にインタビュー。“普通”であることや既定路線に抗い、自分たちの表現をとことんまで突き詰める2人に、結成から「ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい」完成に至るまでを聞いた。
取材・文 / 小山守撮影 / 森好弘
音楽性とは違う面でつながっていたみちるとDex
──音楽ナタリー初登場なので、moreruというバンドの結成から現在に至るまでの経緯をうかがえればと思います。2018年に、夢咲みちるさんとDexさんの2人でバンドが始まりますよね。それ以前のみちるさんは、例えば代々木公園で1人でノイズパフォーマンスをしている動画が残っていますけど、その頃からノイズが好きだったんですか?
夢咲みちる(Vo) ノイズっていう音楽があるということは、14歳くらいのときに知りました。それがなんかやたらすごい、究極的な表現だなと思って。その頃からソロというか、1人でノイズをやっていた。ノイズはすごく聴いていましたね。1980年代から活動しているMerzbowとか非常階段とか、ハナタラシのスキャンダラスな側面に、自分が追い求めていて、当時偏愛していたパンクミュージックの究極があるんじゃないかと思いながら聴いてて。好きでしたね。
──Dexさんは熊本出身ですが、上京する前から音楽はやっていたんですか?
Dex(Dr, Vo) 高校生のときに、日本とカナダのミックスのやつがいて。めっちゃデスボがうまくて、そいつがメタルやりたいと言うんでオリジナルのメタルバンドを組んでました。ホントに一瞬だけ、17くらいのとき。上京する前はそのくらいですかね。高校辞めるか辞めないかくらいのときに通信(制高校)に行こうかなと考えて。でも、それなら地元にいる意味もないかなというんで、前からみちるとTwitter(現X)でずっと連絡を取っていたので、「じゃあ一緒になんかやるか」と上京した流れです。
──レーベルサイトのプロフィールに「革命を目指して上京した」とありますけど、そういう気持ちがあったんですか?
Dex どうでしょうね。とにかく世間のちゃぶ台をひっくり返したいという気持ちで東京に来て。今もずっとそうですね。
──人をびっくりさせたいとか、とんでもないことをやりたいとかということですか?
Dex そうですね。イライラしていたんで。今もそうですけど、自分が正しいと思っているものと世間で正しいとされているものがあまりにも違いすぎるので、それをなんとか正したいという気持ち。バンドを始めて、音楽くらいしか自分の自己表現の方法がなかったので、やるしかないなと思ってmoreruに入りました。
──音楽を一緒にやる以前に、そういう鬱憤が溜まっていて吐き出したいという価値観が2人で共通していたことが大きかったんですか?
Dex うん。だって、そもそも自分はmoreruみたいな音楽を聴いていたわけではないんで。音楽性とは違う面でつながっていたと思います。
夢咲 そうっすね。やりたい音楽というよりは、単純に蹴散らしたい無数の敵みたいなものがあって。同じ敵を指差せた感じです。
全部やる、全部やりたい
──moreruは2人で始まって、作品を出すごとにメンバーが増えていき、音楽的にも変化していきますよね。ただ音楽性については、ノイズ~ハードコアというところで一貫しています。
Dex ハードコアって全然まだ開発されきっていなくて、音楽のジャンルの中でトップクラスに可能性があるなと思っているんです。その可能性を未知の領域まで発展させていきたいという思いはあります。
──moreruはすごくシンプルな形で始まりましたが、音楽性がすごくカオスな方向に変化して、ハードコアの可能性を追求してきた感じはしますね。
Dex 既存のものを踏襲するより、自分たちでもうちょっとこうしたほうがいいと考えるスタンスが、moreruの音楽にはすごく表れていると思います。換骨奪胎というか、いろんなフォーマットの領土に踏み入って、それを自分のものにしちゃう。それをひたすら繰り返して今がある。
夢咲 自分はもともと何か1つのことができないんです。YouTubeで音楽に触れてから、とにかく次から次へと音楽を聴いて。ちゃんとCDを買って聴いたりするようになる中で、守備範囲がすごく広く浅くなった。その守備範囲を絞るんじゃなくて、そのまま全部やる、全部やりたい。だから音楽性の変化は当然のような感じですね。
──2019年にリリースされた1stアルバム「itsunohinikabokunokotowoomoidasugaii そして…」は、すごくシンプルでプリミティブなノイズ~ハードコアですけど、この作品を今振り返ってみてどう思いますか?
夢咲 作ったのが17とか18なんで、すごく切実で、つらそうで、かわいそうだなと思う(笑)。あれ(「itsunohinikabokunokotowoomoidasugaii そして…」)だけちょっと特殊なんです。バンドの編成が固まってなかったし(当時はメンバー3人)。moreruの中でも一番シンプルでピュアな作品ではある気がしますね。
Dex 1stアルバムがああいう作品になったのは、けっこう面白いですよね。渋くて。
──シンプルといっても、展開が激変したり歌詞に終末的な世界観が表れていたりと、あの段階ですでにしっかりした独自性が出ていると思うんですが、その時点で「普通のバンドにしたくない」という意思はあったんですか?
夢咲 moreruを始めた頃からそれはあります。音楽をやるなら、特定のシーンに属してやっていくのが普通の考え方だと思うんですけど、それが嫌で。どこにも属したくないっていう意思を1stアルバムには感じます。僕は今もすごく好きですね。エネルギーがあるから。
限界をちょっと突破できた
──1stアルバムをリリースしたあと、メンバーが増えて、ツインギターでノイズ担当メンバーもいる6人編成になり、2022年に2ndアルバムの「山田花子」が出ます。moreruのキャリアの中では一番エクストリームな爆音が鳴っている作品ですが、そういうアルバムを作りたかったんですか?
夢咲 そうですね。この頃、コロナでライブが全部なくなって。それで破壊力のあるものを作りたくなった。
Dex 「山田花子」はすごいですよね。今後どうなるかはわからないですけど、今の自分たちが「山田花子」を作れと言われても、たぶん作れない。moreruのバイオレンスな側面の、今のところの極北が一番表れている。そういう側面では、もう「山田花子」で1回完成を見てるんじゃないかと感じるくらい、我ながらすごくいいアルバムだなと思ってます。
──そして2023年にDHSさんが抜け、ノイズとボーカル担当で岩本雪斗さんが加入します。以降、岩本さんのスクリーム要素が加わりましたが、彼女の加入はmoreruとして大きかったのでは?
夢咲 バンドとしてすごくよくなった。限界をちょっと突破できた部分はあります。
──岩本さんが加入したタイミングで発表された3rdアルバム「呪詛告白初恋そして世界」は、現在のmoreruサウンドができあがった作品だと思うんです。ノイズ、ボーカル、スクリーム、急展開などの要素がそろって、カオスな空間を生むというスタイルが確立されている。
夢咲 そうっすね。3rdアルバムでmoreruの音楽が決定的になった。「念写」と「夕暮れに伝えて」ができたときに、わかりやすくmoreruというものを表した曲ができたと思いました。実際にあの2曲がきっかけでいろんな人に聴いてもらえるようになったし。
──ミックスとマスタリングはDexさんが担当しているんですよね。
Dex ノイズにまみれて爆撃するみたいな音楽は2ndアルバムで一度やったから、とりあえずもういいなと思ったんですよ。そういうのが聴きたい人は2ndを聴いときゃいいし。なんかそれまでとは違うことをやろうっていうんで、いろいろとつぎはぎしてやってきた音楽性をもう少し広げて、結果としてそれがキャッチーさにもつながった。わかりやすいところでハイパーポップの文脈やストリングスなんかを取り入れて、かなり聴きやすい感じになったかなと。あと個人的に意識したのは、2ndアルバムよりボーカルを聴かせること。それまでボーカルは楽器の1つとして聞こえるようにミックスにしていたんです。でも、3枚目からはmoreruの構成要素を考えて。みちるの書くメロディがすごくいいし、moreruの音楽の核になり得るので、3枚目はそれをしっかり聴かせようと意識してミックスしたところはあります。
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「は?」とか「なんで?」みたいな展開がすごく好き