MONDO GROSSO「BIG WORLD」特集|アルバム全曲解説&大沢伸一×PORIN(Awesome City Club)対談 (3/4)

大沢伸一×PORIN(Awesome City Club)対談

想像のつかないような曲にしたかった

──お二人が会うのは歌入れのレコーディング以来ですか?

大沢伸一 そう、レコーディング以来ですね。

──今回、MONDO GROSSOのアルバムでPORINさんがボーカルを務めた「CRYPT」はビートに対する歌のアプローチやフロウという面でも新しいチャレンジがたくさんあったと思います。

PORIN かなりありましたね。デモをいただいたときに「あ、私には無理かも」と思いましたもん。

大沢 あははははは(笑)。

PORIN だから必死に練習しました。仮歌のガイドボーカルも素晴らしかったので。

大沢 仮歌ですら大変だったからね。

PORIN ここまで速いビートやフロウで歌ったことは今までなかったし、キーもいつもより低めで。自分の中でなかなかイメージをつかめなかったのですが、必死に練習していざレコーディングに臨んでみたらうまくいきました(笑)。

大沢 1テイクか2テイクで終わりましたよね。すごく練習してきてくれたことがわかりました。さすがですね。

PORIN いやいやいや(笑)。新しいチャレンジができてすごくうれしかったですし、最高の気分でした。こんな機会はなかなかないですね。

大沢 PORINちゃんにお願いすると決めてからこの曲を生み出したので、僕もうれしいです。これはどの曲でもそうですが、せっかく一緒にやるからにはリスナーの想像を超えていきたいという思いがありますし、この組み合わせから期待されているサウンドとは違うところに、リスナーの意識をずらしたいという思いもあって。Awesome City Clubのファンに向けて、間口の広い曲を作っても、それではMONDO GROSSOとして一緒にやる意味がないだろうなと。そのために必要なお互いのストレッチもあって。もし今後また何か一緒に曲を作る機会があるとしたら、最初からガッツリ組んでやれることはたくさんあると思いますが、今回のようにお互いに距離のある状態でできることは、この組み合わせから期待されることを超えることしかないと思うんです。これからお互いを知っていけばいくほどもっと歩み寄るし、相手のことも考えるし、「こうしなきゃ」という発想が生まれるので。でも、今回は「このタイミングでしかできないことってなんだろう」と考えたときに、全然想像のつかない曲にしたいと思いました。

左から大沢伸一、PORIN。

左から大沢伸一、PORIN。

いつかMONDO GROSSOで歌わせてください!

PORIN 「CRYPT」のリリックは、未来感がありますよね。想像を超えるような世界に没入していく感覚がすごくあって。

大沢 ある種のディストピアみたいな世界を描きたいと思ったんです。ソロインタビューでもお話ししたんですが、フィルターがかかったようなPORINちゃんの存在感を引き出せたかなと思います。Awesome City Clubではもっとエモーショナルに歌っていると思うんですが、それとはまったく違う、いい意味での無機質感というか。そこはすごくハマったなと思います。

PORIN 私自身、歌に感情を出すのはもともと苦手なんですよ。「CRYPT」のデモをいただいたときに仮歌がわりと感情的だったから、その心配もあったんです。「こんなに感情を出せるかなあ」って。

大沢 むしろあのデモを真似されると困るなとは僕も思っていて(笑)。それくらい仮歌はエモーショナルなので。

PORIN でも、いざ歌詞の世界の中に私の声をはめてみたら「あ、これでいいのかな」と思えました。実際にそれがハマって本当によかったです。

大沢 でも、普段は感情を出すのが苦手というのは意外ですね。確かに完成した音源の印象と、実際にボーカリストの感情がどれだけこもっているかは、また別の話だしね。それが受け手の自由でもあるということか。面白いな。

PORIN 私自身、自分はもともと感情にフィルターがかかっているようなボーカルだと思っているんですが、今回はさらに自分の声じゃないような新しい扉を開けてもらえましたね。

PORIN

PORIN

──そもそもお二人はいつ、どこで出会われたんですか?

PORIN 最初にお会いしたのは、確か渋谷のクラブだったはず……。

大沢 あ、CIRCUSですね。

PORIN そうです! 2017年くらいかな?

大沢 そうですね。僕がMONDO GROSSOのアルバム(「何度でも新しく生まれる」)をリリースした年でした。PORINちゃんとは共通の知人もいて。

PORIN はい。それでCIRCUSで大沢さんがDJをされているイベントに遊びに行って。共通の知人に紹介していただいたときに「いつかMONDO GROSSOで歌わせてください!」と言ったんです。

大沢 そんなことをダイレクトに言ってくれる人はあまりいないので、よく覚えています(笑)。

──大沢さんに「MONDO GROSSOで歌わせてください」と言えるのは、確かになかなかの度胸だと思います。

PORIN そうですか? だって、実現したら夢のようなことじゃないですか!

大沢 そのときのことはちゃんと記憶に残っていたし、タイミングが合ったらご一緒したいなと思っていたんです。今回、そのタイミングが来たという感じですね。

MONDO GROSSOの役割はカウンター

──大沢さんはAwesome City Clubの音楽性についてはどのような印象がありますか?

大沢 やっぱり2021年を代表する存在ですよね。あえてJ-POPという言葉を使わせていただきますけど、そのJ-POPというシーンの真ん中にいる存在だと思います。今やavexの屋台骨みたいな(笑)。

PORIN いやいや、そんなことないです……。でも、確かに最近みんなが優しくなりましたね(笑)。

大沢 でしょ?(笑) 今のうちに楽しんでおいたほうがいいと思うし、その立ち位置をキープする努力をしたほうがいいと思いますよ。あとは、音楽的に僕が絶対にできないことをやられているグループだと思います。言葉を選ばずに言うと、僕はとても屈折しているので。

──そのニュアンスをもう少し詳しく聞かせていただけますか?

大沢 逆に聞きますけど、僕がAwesome City Clubのような曲を作れると思います?(笑) 技術的にできるかどうかは別として、僕がAwesome City Clubのような曲を作って、いい評価を得られると思いますか?

──うーん……そこはなんとも言えないですね。

PORIN 名義を変えたらいけるかもしれないですよね?

大沢 そうかもしれないですね。ただ、やっぱりそれぞれの役割というものがあって。彼ら、彼女たちが担っているような役割に対してカウンター的な味付けをするのが自分の役目なのかなと。今回の「CRYPT」も、そういう観点で作った曲なんですよ。Awesome City ClubのPORINちゃんという存在に、僕が楔のように入っていたときに、どれだけその大きな存在感に食い込んで行けるか。さらに、その大きな存在の振れ幅を見せられるかがポイントで。それゆえに、僕がPORINちゃんに歩み寄っても仕方がない。むしろ、PORINちゃんの存在感をグッと引っ張って「こういう側面もあるんじゃないの?」と見せるのが僕の役目なので。奇しくもavexに僕やMONDO GROSSOのような者から、Awesome City Clubのようなグループまで所属しているのが1つのダイバーシティというかね。

PORIN  先ほど、「J-POPの真ん中にいる存在」と言っていただけましたけど、確かにメジャーデビューを経てavexに移籍してから、さらにAwesome City Clubがどんどんマスに向かって行くようになりましたし、「自分がポップアイコンとしてがんばっていかないといけない」という覚悟は生まれていて。でも、それは自分を苦しめることでもあるんですよね。そんな中で、今回のMONDO GROSSOとのコラボは、そういうことに対するカウンターパンチのような感じがするんです。自分のミュージシャンとしての奥行きを見させてもらえるし、新しい一面を引き出してもらえるというか。そういう思いもあって、「いつか一緒に歌わせていただきたい」と思っていたんです。だから、本当に今回のコラボレーションが実現できてよかったなと思います。

左から大沢伸一、PORIN。

左から大沢伸一、PORIN。

──バンドにとって激動だった2021年を経て、2022年前半にこういう曲を発表できる喜びがあると。

PORIN 本当にそうですね。ようやく1人のアーティストとして認められたという感覚があるんです。大沢さんと初めてお会いした2017年のタイミングで、MONDO GROSSOで歌わせていただくことはありえなかっただろうし、自分自身でもそういう想像はできなかったので。本当にちょうどいいタイミングで、MONDO GROSSOと一緒にやれるレベルまでようやく来ることができて。だからこそ、こうやって歌わせていただけたんだと思っています。「勿忘」という楽曲だけでAwesome City Clubを認識している人に、「PORINにはシンガーとしてこういう側面があるんだ」と思ってもらえるとうれしいです。

大沢 サンプル数がそこまで多いわけじゃないんですけど、うちのスタッフが高校生に「BIG WORLD」を聴かせたときに、「CRYPT」が好きという子がダントツで多かったんですよ。

PORIN へえ! うれしい!

大沢 それは僕もすごくうれしかったし、このアルバムを作った“編集長”として間違っていなかったと思ったんです。やるべきことをやれたんだな、と。この曲を作っているときにMONDO GROSSOチームのLINEグループに「これやりすぎ? ポップすぎない?」と聞いたんですよ。「いや、めちゃくちゃいいですよ」という返信が来たんだけど、僕は「どこまでいったらMONDO GROSSOとしてやりすぎで、どこまでがポップスとして成立しているのか」というボーダーラインをたまに見失うことがあるので。そういう意味でも、若い人たちの反応がすごくいいということはとてもうれしいんですね。しかもAwesome City Clubのポップス感とはまた違うところにある曲なので。

2022年2月11日更新