MONDO GROSSO「BIG WORLD」特集|アルバム全曲解説&大沢伸一×PORIN(Awesome City Club)対談 (2/4)

誰かにMONDO GROSSOを引き継いでもらってもいい

──6曲目の「最後の心臓」ではsuis(ヨルシカ)さんを迎えていて。不穏さと美しさが等しく同居している曲で、トラップなどのテイストもありつつ、歌としてのすごみに富んだ曲だなと思いました。

この曲は、「何度でも新しく生まれる」にボーカリストとして、前作「Attune/Detune」にボーカルと作詞で参加してもらった大和田慧ちゃんと共作した曲で。もともとは、あるアーティストに頼まれて作った曲のスケッチだったのですが、うまくハマらずにお蔵入りになっていたんです。でも、MONDO GROSSOのスタッフサイドは「絶対にどこかで使いたい」と言っていて。僕自身、最初はしっくりこなかったんですが、アレンジを進めて、歌詞が入ったことで生まれ変わりましたし、僕が表現したかったコントラストをいいバランスで出せた曲になりました。

──イノセントな存在同士が官能的に交わるようなリリックだなと思いました。

それは大和田慧ちゃんの世界ですね。僕と大和田慧ちゃんのコンビネーションという意味では、前作の「偽りのシンパシー[Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)]」以来でもあり、続編とまではいかないまでも通じるところがあるかもしれないですね。

──齋藤飛鳥さんとの7曲目、「STRANGER」はまさかのシューゲイザーで驚きました。

僕のファンで、すごく仲よくさせてもらっている人がいて。彼は編集者なんですけど、このアルバムを聴いて、こういう感想を送ってくれたんです。ちょっと読み上げますね。「これはもはや作曲だけではなくて一流の編集者としての企画・表現になっています。もちろん賛辞なんだけど、MONDO GROSSOが媒介者や表現者など多機能型に最適化・アップデートしているんだと思う(多機能はパーマカルチャー的にも重要なポイントだし)。そのダイナミズムでこの勇気ある挑戦を僕らができるかどうか、勇気を見せられた、という感想です。これの教育版とか記事版をできるようになったらいいなっていうのを教習しました」と。彼のメッセージを踏まえて言うと、この「STRANGER」という曲は僕の企画から生まれたものではなくて。僕の長年の友人が「IN THIS WORLD」と「STRANGER」のMVの監督をやってくれたんですが、彼が「もう1回、飛鳥ちゃんとやりましょうよ」と提案してくれたんです。さらに、「シューゲイザーをやりたい」とリクエストを出してきたんですね。例えば15年以上前の僕であれば、そういったリクエストは受け付けなかったでしょうけど、「なるほど、シューゲイザーか。嫌いじゃないし、俺なりのシューゲイザーをやってみようか」と答えて、彼にオケを投げたんです。そうしたら、「いいじゃないですか!」と言ってくれて。だからこの曲はMONDO GROSSOという枠を使った別のプロジェクトという感覚なんです。僕が音楽の指揮を執りつつ、確かに編集長的な仕事をしているかもしれない。アルバムのこの位置にこの曲を持ってくるという采配ができたことにも、すごく満足しています。

──それは今のMONDO GROSSOだからこそ持てる感覚というか。

そうですね。だから、僕が身体的にMONDO GROSSOをできなくなったときに誰かにMONDO GROSSOを引き継いでもらってもいいかもしれないとさえ、今は思うんです。

──例えばDaft Punkも解散を選ばないで、そうやって続いてもよかったと思う人がいるかもしれないですよね。

そうそう、Daft Punkも解散と言わなくてもよかったのになってすごく思うんですよ。

MONDO GROSSOらしさを排除して

──続いて中納良恵(EGO-WRAPPIN')さんをボーカルに迎えた8曲目「迷い人」。ローファイヒップホップなどを想起させるイントロからのヨレたピアノが印象的で、さらにトラップ的なビートで中納さんが歌っているのも刺激的です。

前作からプロデューサーの1人として参加してもらっている石坂慶彦くんというピアニストがいるんですけど、僕から彼に「MONDO GROSSOらしさを排除したところで何か考えてほしい」というリクエストをして。そこで彼が打ち込みで出してくれたのが、このピアノだったんです。そこからメロディを作る前に、何がこのピアノに対する“裏切り”になるかを考えて、ドープな低音のブレイクダウンを用意して。曲の構造としては「最後の心臓」の逆バージョンというかね。そこからメロディを乗せていきました。僕は中納さんがどんな歌を乗せるかをあまり想像せずにオファーしたところもあって、今回のレコーディングの中で一番リスナーとして楽しめましたね。素晴らしい歌唱だったし、また違う形でご一緒したいなと思いました。

──リリックもUAさんとはまた違う角度で、大きな愛が歌われているなと。

僕が提示したお題をきちんと受け止めて中納さんなりの表現で返してくださいましたね。

大沢伸一

大沢伸一

──続く「幻想のリフレクション」には、中納さんと同じく意外にも初のコラボレーションとなる田島貴男(Original Love)さんがボーカルで参加しています。この曲はアシッドジャズ的なフィーリングがあるなと。ラッパーのKamuiさんのヴァースも印象的なアクセントになっています。

これはアルバムの中で最後にできた曲ですね。この曲にも前段階があって。「何度でも生まれる」のときに採用しなかったスケッチがあったんです。それをずっと使いたいとチームみんなで考えていて、僕がその曲を田島くんに歌ってもらいたいと思ったんですよ。でも、いざ田島くんに歌ってもらうとなったときに、曲を仕上げられなくて。一旦レコーディングのスケジュールも全部白紙にして、イチからスケッチし直して作った曲なんです。バンドの頃のMONDO GROSSOを1人で表現したようなオケになりました。アルバムの最後の曲「BIG WORLD」を歌ってくれているRHYMEが「この曲にこういうラップが入ったら面白いコントラストになると思う」とKamuiくんを紹介してくれて。それも編集長的な目線で「やろう」となりました。

──リリックは酩酊状態で異次元に行くような趣があるなと。

僕が歌詞を書いたのですが、コロナ禍で文章を書く楽しさに目覚めたんです。3、4年前くらいからnoteで文章を書くようになって。そのきっかけはフォトグラファーでアートディレクターのワタナベアニさんという方の影響なんです。彼は「ロバート・ツルッパゲとの対話」という本を出していて。それは架空の人物との対話形式で哲学的な考えをユーモアたっぷりに書かれたエッセイなんですが、めちゃくちゃ面白いんですよ。ワタナベアニさんはその本をまとめる前にnoteやTwitterなどで文章を書いていて。それを読んで「僕も文章を書いてみたい」と思うようになったんです。この曲の歌詞は、“文章を書くようになった自分の歌詞”という感じです。

これがMONDO GROSSOの王道

──10曲目はPORIN(Awesome City Club)さんがボーカルを務めた「CRYPT」。序盤の印象ではムーディなエレクトロかと思いきや、そこからまるでハウスとレゲトンが融合したかのようなサウンドやフロウが展開されていく。PORINさんのボーカルアプローチもかなりフレッシュです。

「PORINちゃんを迎えて曲を作る」という前提の中で、最初はAwesome City Clubという記号性にとらわれてしまうところがあって。冒頭のエレピは僕の中のシティ感なんです。ただ、それは僕の真髄ではないので、そこからいかにカウンターを当てていくかを考えたときに、シティポップとはほど遠い、エレクトロのえげつないベースリフを思い付いたんです。そこにきれいなメロディを乗せるという選択肢もあったんですが、あえてそれはやめました。ベースフレーズとユニゾンするようなメロディのほうが面白いなと思って。

──この曲については、このあとのPORINさんとの対談でも語っていただきますが、アンドロイドのような無機質さ、無表情さを感じさせるPORINさんのボーカルがサイバーパンク的なリリックとマッチしています。

デモの仮歌は大和田慧ちゃんが歌ってくれたんですけど、PORINちゃんが歌ってくれたことでいい意味での無機質さがさらにブーストされたと思います。

──中島美嘉さんを迎えた11曲目の「OVERFLOWING」は王道のMONDO GROSSOナンバーに仕上がっていると思います。リリックは大沢さんと大森靖子さんの共作ですね。

この曲は最初にできていて。一昨年の暮れくらいに書いたんですね。書いたときはものすごく好きな曲ができたと思って、歌詞もスルッと書き上げたんです。でも、歌を中島美嘉ちゃんに頼もうというアイデアが出たときに、大森靖子さんに歌詞をお願いしたいと思い付き、打診しました。驚くことに、彼女から出てきた歌詞の中には、僕が最初に書いた歌詞と同じフレーズがあったりして。最終的に僕が書いた歌詞を部分的に採用してもらったのですが、なんとその中にも、大森さんが最初に出してセルフ却下したアイデアと重なる部分があったと聞き、さらに驚きました。おっしゃっていただいたように、これがMONDO GROSSOの王道な曲だというのもわかる気がするし、クラシックな雰囲気を持つ曲になったと思います。

大沢伸一

大沢伸一

さらに自由になったMONDO GROSSO

──そして、ラスト12曲目はRHYMEさんのボーカルによる表題曲「BIG WORLD」です。

これは、それこそ僕の中ではDaft Punkのオマージュのような意識があるんですよ。

──それは感じました。例えば「Something About Us」に近い歌のムードがあるなと。

10年前の僕だったらそういうことは言わないし、そもそもやらないんですよ。でも、Daft Punkが解散したことに対する寂しさや怒りのような感情がこの曲には表れた。「どれだけ俺らに影響を与えて、勝手に終わっとんねん」という気持ちもありますし。だから、この曲はMONDO GROSSOなりのDaft Punkに対するアンサーでもあります。RHYMEが「『MONDO GROSSO』を英語に訳すと『BIG WORLD』でしょ」とそれをモチーフにスケッチしてきたフレーズがあって、そのフレーズをさくさくとアレンジして骨格ができあがりました。たぶんこのアルバムの中で、制作に一番時間がかかってない曲です。でも、僕にとってはめちゃくちゃ深い曲でもあって。結果的にアルバムタイトルにもなりましたし。

──歌詞もMONDO GROSSOとこのアルバムを総括するような内容になっていると思います。ざっくりと和訳すると「この数年で自分の耳でリアルに感じたことに愛してると言いたい」というラインは大沢さんのリアルな心情が表れていると思うし、RHYMEさんの「高校生の頃にMONDO GROSSOの音楽に触れ、『LIFE』を聴いて泣いていた」というラインもエモーショナルですよね。

ちょっと恥ずかしいですけど、いい歌詞ですよね。歌詞はレコーディングのときに少し変わったんです。余談ですが、最初は「クラブに遊びに行くときにRadioheadの『Creep』を聴いていた」というようなフレーズもあったんですよ。

──最後に、改めてこうして全曲を振り返ってみて、どのような思いがありますか?

ちょっと泣きそうです(笑)。いいアルバムですね。編集長としていい仕事ができたと思います。このアルバムを作ったことでMONDO GROSSOはさらに自由になったと思うんです。MONDO GROSSOでの活動を編集として考えれば、もっと自由度が広がるなって。編集者という立場にいたらもっといろんな人をアサインできるし、大げさな言い方をすれば、自分の音楽のクリエイトのあり方をもっと変えられるんじゃないかとも思っています。

2022年2月11日更新