ナタリー PowerPush - mondaysick

架空の映画館「九月七日座」へようこそ 札幌在住バンドが伝える新作の魅力

歌詞カードを見なくても歌詞が伝わる歌

──mondaysickはひんやりした中にも独特の温かみがある、非常に独特な世界観を持っています。鎌田さんが初めてライブを観たときから、今のようなスタイルでしたか?

鎌田 そうですね。本当に神々しかったですよ。

飯濱 いや、でも観る人が観たらもっとアングラだったと思います。鎌ちゃんが入って今の5人が揃ってからは速いスピードで、ライブハウスの評価もお客さんの数もどんどん変わっていって。もちろん札幌っていう小さい音楽シーンではあるんですけど、自分たちが評価されてることは肌で感じてました。そこからさらに、もっと多くの人に自分たちの音楽を聴いてもらいたいっていう欲が出てきて、そこから今のスタイルに変化していったんです。

──具体的にはどういったところが変わっていったんですか?

飯濱 1つは歌詞カードを見なくても歌詞が伝わる歌。全てが聴き取れなくても、その曲が何を言わんとしてるかがオーディエンスに伝わって、「もう一度聴きたい、ライブを観たい」って思ってくれたらうれしいなって。だから歌詞もシンプルになったし、それに伴ってメロディもシンプルになっていった。特に鎌ちゃんが入ってからは、その傾向がより強まりましたね。それでも周りの人たちからは「暗い」って言われますけど(笑)。

──mondaysickの歌詞ってストーリー性が強いものが多くて、最後までグイグイ引き込まれちゃうんです。サウンドにしても演奏やアレンジがとても工夫されていて、ちょっと聴き逃せない要素が多いし。そこに鎌田さんの声が乗ることで、完全にmondaysickだけの世界が作り上げられてる気がします。

飯濱 ありがとうございます。歌詞のストーリー性はもちろんなんですが、アレンジも歌詞のシーンチェンジに合わせて工夫していて、その歌詞の風景が思い浮かぶような音を選ぶところもこだわってるんです。「うたうのは」の2コーラス目に出てくる「神宮例大祭」っていうのは札幌の夏のお祭りのことなんですけど、曲中ではその歌詞のところで祭囃子っぽいリズムを叩いてもらってる。「風が止んだら」では「僕が仕事を終える18時には迎えにいくよ」っていう歌詞のところで、カツッカツって時計をイメージして叩いてもらってます。

ライブはエンタテインメントだと思ってる

──今回の「九月七日座」の楽曲は、元々ストックしていた楽曲の中から厳選したものなんですか? それとも、このアルバムのために新たに作ったものなんですか?

飯濱 全てある一定期間に連続して書いた新曲で、曲の中で描きたいと思ったことが一貫してるんです。僕の場合、物語を先に考えてから曲を書くんですけど、以前テーマにした話でも視点を変えて歌詞を書くことが結構あって。例えば僕と君がいたとしたら、最低でも2つの視点による2つの物語ができると思うんです。でも、そこにもう1人ストーリーテラーがいたらストーリーテラー目線の物語もできる。そうやって作るから、ある一定の期間に歌詞を書くと、同じことをいろんな視点で、登場人物を変えて歌詞を書いちゃうんです。だから、「九月七日座」の楽曲群もストーリーという意味では全部つながってると思います。

──その一定期間に、どのようにして曲作りをしているんですか?

飯濱 僕はギターを持って「曲を作ろう」っていう感じでは作れなくて。自分の中で「こういう物語で、こういうことについて歌って完結する」ってストーリーが漠然とできて、「Cメロは物語がこう展開する」とか「サビではこういう言葉が出てくる」とかある程度つながって、1曲が完成する。それを短期間に続けると、曲のストーリーがどんどんつながっていく。いろんなストーリーが展開されるけど、結局言いたいことは1つだったりするんですよね。「雨」「月」「空」「星」というワードがいろんな歌詞の中に出てくるんですけど、それは自覚して書いているところはあります。

──mondaysickの楽曲は短編小説に曲を乗せる、そんなイメージがあります。

飯濱 物語を書いてるつもりなので、それはすごくうれしいですね。

──さっき曲を聴くと風景が浮かびやすいって言いましたけど、もしかしたらmondaysickのアルバムって短編映画をオムニバス上映する映画館みたいなものなのかもしれないですね。「九月七日座」というアルバムタイトルからしても、そういうイメージができるし。飯濱さんが脚本を書いて、楽器隊が音楽で演出をして、鎌田さんが各ストーリーの主人公を歌で表現する。そういう映画を5人で作っているような印象を受けました。

飯濱 実際にレコーディングスタジオでも「これが映画だったら」っていう例えも出ていて、「このシーンを想像してみろ。主人公がこうなってるシーンでその音選びはないだろう」って言ってたんです。あと、悲しい曲1つ取ってもオーディエンスは最初からその悲しい曲を楽しみにライブに来ると思っていて。ライブはエンタテインメントだと思ってるから暗い曲、明るい曲、楽しい曲、悲しい曲、どんな曲を演奏する人でも、パフォーマンスをもっとブラッシュアップして劇を演じるようにやりたいと考えてるんです。ライブパフォーマンスがちょっと演技がかってもいいと思うし、そういう空気感をもっと作りたいんです。

ミニアルバム「九月七日座」 / 2011年11月23日発売 / 1500円(税込) / Yumechika Records / HTBY-1101 / Amazon.co.jpへ

CD収録曲
  1. 折れない十字架
  2. うたうのは
  3. 姑獲鳥
  4. スターとレイン
  5. Gen
  6. 風が止んだら
mondaysick(まんでーしっく)

鎌田勇佑(Vo)、飯濱壮士(G)、金子裕幸(G)、中村之則(B)、清水崇(Dr)からなる、札幌を拠点に活動するロックバンド。飯濱を中心に2007年12月結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2009年5月に現在の編成となる。2010年11月に北海道TSUTAYA限定シングル「インターネットローカルニュース」をリリース。翌2011年3月には初のミニアルバム「school」を発表し、北海道内を中心に好セールスを記録した。同年4月には新曲「風が止んだら」をiTunes Store、music.jpにて期間限定配信リリース。同作品の売上は、日本赤十字社を通じて東日本大震災の被災地に全額寄付された。5月からは関東および関西でライブツアーを実施。11月に2ndミニアルバム「九月七日座」を全国リリースした。