視聴者参加型の楽曲プロジェクト・MILGRAM -ミルグラム- DECO*27×山中拓也|同世代の2人が企てる“音楽裁判”

声優さんへの細かなディレクション

──DECO*27さんが手がけた音楽は現在までに3作品リリースされていますが、まずは第1弾として5月に発売された「アンダーカバー」の制作過程についてお話いただけますか?

山中 この曲、めちゃくちゃカッコいいですよね! MILGRAM -ミルグラム-で表現したいことを、うまいこと曲にしてくれたと思いました。

──「アンダーカバー」はユーザーの依り代となるキャラクター・エス(CV:天海由梨奈)の曲ということもあって、MILGRAM -ミルグラム-のテーマソングのような位置付けになっていますね。

DECO*27 そうですね。この曲を聴けばMILGRAM -ミルグラム-のことがわかる、というものを作ろうと思っていたので、プレッシャーも大きかったです。曲の中でいろいろなキャラクターの心情をエスが歌っていますけど、MVで囚人たちが出てきている部分の歌詞は各キャラクターに対応しているので、そこも重要なヒントになっています。MILGRAM -ミルグラム-のテーマソングとしてラフに楽しんでもらえる一方で、実はさまざまな伏線も隠れている曲ですね。制作自体は、サビの「すべてを知った 僕はちゃんと 赦せるかな?」というフレーズができてからはスムーズに進みました。このフレーズは、考察していてみんなが引っかかっている部分じゃないかと思うんですけど、聴いていて違和感を覚える歌詞や歌い方はどれものちのち大事な意味を持ってくるので、よく聴いてみてもらえるとうれしいです。

──「アンダーカバー」で言うと、「フューチャー」の歌い方が特徴的ですよね。

DECO*27 声優さんにお渡しする仮歌音源は僕が歌唱したものなのですが、「フューチャー」はエス役の天海さんにニュアンスが伝わるように自分で納得いくまで何回も録り直したのを覚えています。

山中 MILGRAM -ミルグラム-の歌は声優さんたちにお願いしているものなので、歌の要素が3、芝居の要素が7ぐらいのイメージで作られています。こういうお芝居をして、こういう顔をして歌ってほしいというディレクションも細かく伝えさせていただきました。

──CDに収録されているボイスドラマの延長線上にもある感覚なんですね。

DECO*27 はい。なので実際に第1弾の「アンダーカバー」の全収録曲をリピートして聴いてもらうと、ラストに収録されているボイスドラマの最後で「さぁ、お前の罪を歌え」というセリフがあって、そのまま1曲目が始まるようにもしています。

ギターロックもエレクトロポップも

──そして第2弾となったのが、ハルカ(CV:堀江瞬)の楽曲「弱肉共食」でした。

DECO*27 これは共食いの歌、ですね。

山中 OTOIROが作ってくれたMVも本当にクレイジーというか、「やったろかい!」という気持ちを感じました。MVではイノウエマナさんがコラージュを作ってくれているんですけど、それをアニメーションと混ぜていて。各クリエイターが得意分野で勝負しているのがとても心強いです。

DECO*27 その手法を使って、ハルカの罪を不気味に描いています。

──DECO*27さんがMILGRAM -ミルグラム-の曲で大切にしているのはどんなことでしょう?

DECO*27 MILGRAM -ミルグラム-の音楽に関しては、まずは2パターンの方向性を考えて、すべてロック調でMILGRAM -ミルグラム-の世界に沿うようなタイプのサウンドにするか、キャラクターごとにジャンルを変えていくようなサウンドにするかで悩んだんですけど、最終的には後者を選択しました。僕の役目は、山中拓也が作ったストーリーをその物語に合った曲調で表現して、いろんな形で彼の作品とコラボすることでもあるので。今、YouTubeで公開されているトレイラーでは第1審にあたる囚人10人の各曲のサビを聴けますが、意図的にさまざまなジャンルの曲を聴けるようにしているので、そのあたりも楽しんでもらえるとうれしいです。

──実際、MILGRAM -ミルグラム-の楽曲は本当に多種多様ですが、シリアスな作品だからといってすべてをロック調のダークなものにはしないことで、逆にキャラクターそれぞれの人柄が伝わってくるような工夫がされているように感じました。

山中 キャラクターの心情を表わしてくれていますよね。傍から見たらグロテスクなことをしていても、その人にとってはポップなことをしている気分なのかもしれないわけですから。僕自身もDECO*27から音源が送られてくるたびに「こう表現するのか……」と唸っています。

──そういう意味では、今回リリースされるユノ(CV:相坂優歌)の楽曲「アンビリカル」は、サウンドだけ聴くとギターロック的だった「アンダーカバー」「弱肉共食」とは大きく異なる、明るいエレクトロポップ調の曲になっていますね。

山中 もともと構想の段階から、エスやハルカの曲を聴いてくれていた人がびっくりするような曲調にしたいね、という話をしていたんですよ。

DECO*27 「アンビリカル」はエレクトロポップですが、実は、曲の中に入れているオケヒ(オーケストラルヒット)の音もそこに関係していて……今よりも前の、90年代頃に流行った音をわざと入れているんですよ。

山中 この曲はMVの背景もかなり意識的に作り込んでいるんですが、そこも注目して観てもらうと、わかる人にはわかるかもしれません。また、それぞれの曲は「最初に聴いたときは、きっとこう感じてくれるだろう」とお客さんの気持ちを想像しながら作っています。物語が進むにつれて過去の曲を聴き返すことで新たな発見もあるんじゃないかと思います。

DECO*27 CDのカップリングには毎回DECO*27曲のカバーが入っていますけど、これはキャラクターの声に合う曲を僕自身がセレクトしています。声に合うというだけで、キャラクターの性格や犯した罪には関係ないものなんですが、キャラに合わせてキーやアレンジを変えているので、そこも楽しんでもらいたいですね。

脳みそが違う2人

──今のところ、ユーザーの皆さんの反響はいかがですか?

山中 僕の場合、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也さん(Vo, G)と間違えられるようになりました……。オーラルファンの方からTwitterをフォローされて、ちょっとしたら外される、ということが増えています(笑)。

DECO*27 (笑)。あとは今回参加してくれた声優さんたちの歌唱力がものすごくて。そのこだわりに、曲を聴いて気付いてくれたときはとてもうれしいです。皆さん演技だけでなく歌も素晴らしくて、最初から「これが正解だ」というものを出していただいたので、「もっと行けるところまで行きたい!」と思って、追加でいろいろとディレクションさせてもらいました。

──同時に、お二人がお互いの魅力を改めて感じる瞬間もあったのではないでしょうか?

山中拓也

山中 一緒にものを作っていく中で、DECO*27の特筆すべきところは、とてもピュアなところですね。僕の場合、何かエンタメを体験したときに「作り手としてはこうだな」「僕ならこうするかな」と俯瞰で見てしまうところがあって。でも彼はエンタメを100%受け取って、それを最大限楽しめる人なんです。だからこそアイデアが次々と生まれているんでしょうし、同い年ですが、ちょっと少年的な魅力を感じるというか。それをずっと持ち続けられるのが、10年以上ヒット曲を作り続けられる秘訣なんだなと思います。作家性ももちろんあるうえで、自分の感性を常にアップデートし続けているというのは、ちょっと異常なことなんじゃないかなと。

──逆にDECO*27さんから見た山中さんの魅力というと?

DECO*27 彼の場合は、いろんな“if”を持っている人、ですね。成功の“if”も失敗の“if”もあらかじめ持っているので、「こうなるかもしれない」のツリーが大量に用意されていて。自分の場合は想定外のことが起きると「うわぁ、やべえ!!」と慌てるんですけど、彼は冷静に選んでいるというか。

山中 僕はネガティブな性格なので、うまくいかなかったときのことも考えるんですよ。

──そう考えると、MILGRAM -ミルグラム-はタイプの違う2人が組んだプロジェクトなんですね。

DECO*27 本当にそう思います。キャラクターがしゃべりそうな言葉を選んでいく様子を見ていても、脳みそが違うんだなと。MILGRAM -ミルグラム-においては、キャラクターごとのセリフが、僕が書く歌詞に引用されたりもしています。一方で、ボイスドラマのレコーディング時にセリフを聴いていたら、「歌詞から拾ってくれてるじゃん!」と思うこともあって。しかも、「ニクイね」「そこだよね!」というところを引っ張ってくれる。

全員が赦されたら地獄を見せてやろう

──お二人のやりとりが影響し合って、同時にユーザーの皆さんの選択によってもプロジェクトの内容が変わっていくというのは、非常に面白いですね。

山中 ですから、皆さんの選択によっては「ああ、こういう結末になるのか……!」と僕たちも想定していなかった驚く展開になるかもしれませんし、それがすごく楽しみでもあります。

──ユーザーとしては、今後どんなことを楽しみにしていておけばいいでしょうか?

DECO*27 音楽目線で言うと、第1審の楽曲はそれぞれのキャラクター自身の自己紹介と、その罪の説明を兼ねている曲なので、まずは「このキャラクターが、実際に歌うとこうなるよ」ということを楽しんでほしいですし、サビはすべてメロディを重視しているものの、それ以外のパートに関してはキャラクターごとに個性を出すことに注力しているので、そこも気にしてもらいながら映像と一緒に楽しんでもらいたいです。

DECO*27

──先立って聴かせていただいた限り、いわゆるキャラソンマナーのパートがある曲もありますし、トラップの要素が入っている曲もありますし、ソウルやR&Bの要素を加えたシティポップのような曲も、デスボイスがある曲もありますし……本当にさまざまでした。

DECO*27 これはRockwellの力も借りて実現できたことですね。トラップのパートがある曲は海外のトレンドを意識していたり、シティポップっぽい曲はクールなキャラクターが歌ったり。キャラクターと音楽ジャンルの組み合わせにも注目してほしいです。

──山中さんはいかがでしょう?

山中 僕らはMILGRAM -ミルグラム-において、ユーザーに考察をしてもらいたいと思っているんですけど、その考察が正しいかどうかは、実は大した問題ではないんです。むしろいろんな目線で見てもらう中で「もしこうだったら私は赦せない」「もしこうだったら赦してしまうかもしれない」という自分の感情と想像力に、キャラクターを通して向き合ってもらえたらうれしいな、と思っていて。それはMILGRAM -ミルグラム-に限らず、人生においても大切なことだと思っています。

──キャラクターのことを知るだけではなく、自分自身を知る機会になってほしい、と。

山中 そうなんです。そのためにも、キャラクターを二次元のキャラクターとして扱うのではなく、ちゃんと人間として扱いたいと思っていて。「こういう人が実際にいたら、自分はどういうふうに感じるかな」ということを考えてもらいたいですね。

──MILGRAM -ミルグラム-というプロジェクトの名前は、権威者の指示に従ってしまう人間の心理を調べるためのミルグラム実験からきているそうですが、これも今お話しいただいたことと関係しているんですか?

山中 関係してもいますし、それだけでもない、という感じですね。MILGRAM -ミルグラム-というタイトルではあるものの、シチュエーション的にはミルグラム実験よりも、監獄を模した施設で被験者を囚人役と看守役にわけて行動を観察する心理学実験「スタンフォード監獄実験」に近かったりもしますし。ただ、ミルグラム実験自体が人間の何を証明しようとしたものだったのかという部分は、作品の根幹にかかわる思想になっています。

──皆さん自身は、MILGRAM -ミルグラム-の今後にどんな期待をしていますか。

山中 期待していることとはちょっと違うんですけど……おそらく皆さん全キャラクター“赦す”寄りに振れると想定しているんですが、仮に全員が赦されることがあったら、「地獄を見せてやろう」とは思っています(笑)。

DECO*27 (笑)。現実に置き換えて考えると、仮に殺人があったとして、それを“赦す”ということは、その人たちが全員そのまま社会に出てくるということですもんね。

山中 そうですね。でも一方で、身内の愛情というものも確かにあるはずで。その人と自分との距離感によって、きっと感じ方は変わると思うんです。そういうところが本当に面白いなと。僕としては、まるで心理実験をしているような感覚です(笑)。

左から山中拓也、DECO*27。