ミドグラは挑戦の場、タイアップ曲「Moonlightspeed」の制作秘話を星街とイノタクが語る (2/2)

「Allegro」のような勢いを前提に

──9月14日には、モスバーガー「月見フォカッチャ」のタイアップソングとなる新曲「Moonlightspeed」がリリースされました(参照:星街すいせい×TAKU INOUEのミドグラ新曲でモスバーガーとコラボ)。

TAKU はい。ちょうど「Overture」を出した頃に、モスバーガーさんからオファーをいただいて。アルバム曲を使ってもらうのもいいかなと思ったんですけど、レーベルスタッフから「今書かないでいつ書くんだ」と言われまして(笑)。曲調としては、「Allegro」のような勢いのある楽曲を使いたいと言っていただいたので、まずはそのイメージが大前提でした。それに加えて、音楽的に試してみようと思った部分もいろいろとプラスしていきました。

「MIDNIGHT GRAND MOS BURGER」キービジュアル

「MIDNIGHT GRAND MOS BURGER」キービジュアル

──今回はオーケストラの要素を加えたポップソングというこれまでのミドグラらしさもありつつ、ドラムがかなりシンプルで、まるでパンクのような勢いを感じました。

TAKU まさに「パンクをやりたい」と思っていたんです。自分の場合、「Allegro」もそうですけど、あのぐらいのBPMだとドラムンベースになりがちなので、今回はちょっと最近の流行というか、ザ・キッド・ラロイとジャスティン・ビーバーの「STAY」のような、キックが「ドン! タン!」と鳴っている楽曲にしようと考えていました。「Allegro」そのままの雰囲気にしても面白くないと思ったので、ビートを変えてみようと思って。

──なるほど。星街さんはデモを聴いてみてどうでした?

星街 スタッフさんから「『Allegro』っぽい方向性で曲を作っている」という話を聞いていて、「続きを待ってます!」と、まるでマンガの読者のような立ち位置でデモを待っていました(笑)。普段のソロ曲だと「こうしたいです」と希望を出すことが多いんですけど、もともとイノタクさんの音楽のファンでもあるので、特に私から要望を伝えることはありませんでした。できたデモを聴いて「『Allegro』と『Stellar Stellar』を混ぜた感じでいいですね!」と伝えて、そのあと歌詞が一部上がってきて「よし、私もがんばって書くぞ」と自分の歌詞パートを書き始めました。

TAKU ミドグラの曲作りはだいたいそんな順番ですよね。

星街 曲に関して私が何か言うとしたら「キーを変えていいですか?」と言うぐらいです。

──具体的に歌詞はどんなふうに考えていったんでしょう?

TAKU 今回は僕が1番の歌詞を書いて、「2番よろ!」とすいせいさんに渡しました。

星街 イノタクさんから歌詞がポイッとやってきて(笑)。届いた1番の歌詞を読んだりメロディを聴いたりして「こういう主人公でこういうストーリーなのかな」とイメージを膨らませて、2番と3番の歌詞を書いていきました。

TAKU あと、タイトルは今回すいせいさんが考えましたよね。

星街 イノタクさんが歌詞を送ってくれたときに「lightspeed」という仮タイトルが付いていて、「おお」と思って続きの歌詞を書いているうちに、「Moonlight」という歌詞が浮かんだので、タイトルは「Moonlightspeed」にしたらどうかな、と思ったんです。「月見フォカッチャ」の曲なので、その要素もあったらいいなって。

──リレーのようにバトンを渡しながら歌詞を完成させるのは、ミドグラならではの楽曲制作の方法ですね。やはり1人で考えるのとはだいぶ感覚が違いますか?

TAKU すごく楽ですね。しかも、リレーはだいたい1回で終わるような感じなんです。今回も何度もやりとりすることはありませんでした。

──お互いの好きな歌詞はありますか?

星街 私は「今フルスロットル 向かってる 下を向かないように走ってる」ですね。「めちゃくちゃ韻を踏んでるぞ……!」と思って、「2番も踏みまくらなきゃ」と意気込んだ結果、私は死にました(笑)。

TAKU でも、2番のサビ頭の「光速で巡り 巡り 今度こそMake it Make it」の部分とか、努力のあとが見えてよかったですよ。

星街 「『巡り』に語感が近い単語ってなんだ?」「Make it……!?」とがんばって考えました(笑)。1番でしっかりと韻を踏んでいたので、その先を考えるのに苦労しましたね。「光速じゃ足りない 足りない 切り取ったStarry Night Starry Night」なんてほとんど同じ音で構成されていて「こんな言葉、私じゃ思いつかないよ!!」って(笑)。

──でも、すごく耳に残りますよね。

星街 ホントにそうですね。

TAKU あと面白かったのが、歌詞の中で「月が満ちるまであと115秒」という部分があるんですけど、最初はそこが150秒だったんですよ。その数字は「月が満ちるまであと115秒」のパートから曲の終わりまでの秒数で。「ここから終わりまでそんなにあるんだ?」と思って調べてみたら、全然なかった(笑)。

星街 単純に計算を間違えてました(笑)。ここの歌詞はけっこう悩んで、「3時12分」(星街がボーカルで参加したTAKUのメジャーデビュー曲)を参考に時間を入れてみたんです。

TAKU 僕がイメージしていた歌詞の世界をすいせいさんがしっかり作り上げてくれて、奥行きを出してくれたのがよかったです。

星街が走る

──レコーディングについても教えてください。今回はスタジオで作業できたんですか?

TAKU 僕は今回リモートで参加しました。マイクテストが2回終わった頃に、急に「走っていいですか?」とすいせいさんの声が聞こえてきて。水か何かを取りに行くのかなと思っていたら、スタッフが大笑いし始めて「今、星街さんがブースの周りを走ってます」と(笑)。ブースが見えないので、何が起こっているのか全然わからなくて怖かったです。

星街 (笑)。普段は17時とか18時にレコーディングすることが多いんですけど、あの日は15時ぐらいから録り始めて、エンジンが十分にかかっていなかったんですよ。実際に歌ってみても声に硬さがあったので、初ライブを思い出して、「あのとき、もしかしたらダンスを踊って体を動かしていたから調子がよかったのかな」と気付いて、ブースの周りを3周ほど走りました。

──調子がよかった「Midnight Grand Orchestra 1st VIRTUAL LIVE "Overture"」を思い出したんですね。

星街 そうなんです。

TAKU しかも、実際にそのあと歌がよくなりました。

──当日のやりとりの中で楽曲が変化した部分はありますか?

星街 ほとんどなかったと思うんですけど、1つだけ、「愛を込めて」という歌詞が最後に2回出てくる部分の1回目を日和ってファルセットで歌っていたら、「そこはすいせいさんなら、ファルセットなしでいけると思うんだよな」と言われてがんばりました。

TAKU あそこは絶対裏声ではなく表で歌い切ってほしかったし、「GHOST」(「Still Still Stellar」収録曲)の一番高いところと同じキーなので、「すいせいさんならいける」とわかっていたんです。結果的に神テイクが録れたので、ここはぜひ聴いてみてほしいです。

──歌い出しのコーラスも凝っていますね。

TAKU あれは「Stellar Stellar」へのオマージュですね。最初は、僕とすいせいさんが作る曲で「Stellar Stellar」の要素を持ってくるのはなんとなくカッコ悪いかなと思ったんですけど、せっかくのタイアップ曲ですし、冒頭は大切だと思ったので意識してみました。

星街 最初のコーラスは録り終わってから「声をもっと太くしたほうがいいかもしれない」という話をして録り直したりもしました。

TAKU すいせいさんの歌はもともと最高だと思っていましたけど、今回ももちろん最高で何も言うことがなかったですね。

星街 ニコニコ。

──(笑)。星街さんは今回のイノタクさんの曲、アレンジを聴いてどうでしたか?

星街 それはもう、「いい曲だなあ」「最高だなあ」という感じでした。

TAKU 文字にするとものすごく安っぽくなりそう。

星街 インタビューなのに……!(笑)

曲作りをがんばって現実世界でライブを

──ミドグラの活動が個人の活動に影響を与えることもありそうですね。

TAKU 僕はめちゃくちゃありますね。単純にストリングスが使えるようになったというか、使い方がわかった。これまでは自分のスタイルだとあまりストリングスをメインにした曲は作ってこなかったんですけど、そういう引き出しが増えた気がします。

星街 星街すいせいの活動の場合、自分の中に曲調やコンセプトのようなものがあって、そこからブレないようにいろいろな曲を出してきました。ソロではできないことをミドグラでできているような感覚があって、それが楽しいし、いい刺激になっているなと思います。

──お二人にとってミドグラは、新しいことを試せる実験場のような場所なんですね。

TAKU その通りですね。なぜチャレンジができるかというと、すいせいさんの歌がしっかり軸にあるからで。「俺は何をやっても大丈夫だな」という安心感があります。

星街 私も、作詞面では今までにないような歌詞をしっかり書けているような気がしています。ソロの曲では、だいたい心情や私を取り巻く世界のことを歌詞にすることが多いんですけど、ミドグラでは自分と切り離して主人公を作って、その世界観に則って書いているので、マンガとか小説を書いている感覚に近いのかなって、楽しい気分になっています。

Midnight Grand Orchestra ©︎VIA / TOY'S FACTORY, ©︎2016 COVER Corp.

Midnight Grand Orchestra ©︎VIA / TOY'S FACTORY, ©︎2016 COVER Corp.

──これからユニットとしてやってみたいことはありますか?

TAKU 今度はこっちの現実世界でもライブをやりたいですね。それはずっといろんな人に相談をしています。でも、それをやるためには曲を増やさないといけない。

──ライブでは「次回までにはミドグラのオリジナルソングが50曲ぐらいになっているかも」という話も出ていました。

星街 イノタクさんが「もうちょっとできてるかなあ」とも言っていたので、100曲ですよね(笑)。

TAKU (とぼけながら)言ったかなあ(笑)。曲作りもがんばって、またライブがしたいですね。

──こういうユニットになっていけたらいいな、という理想像もあれば教えてください。

TAKU 僕としては、ユニットではあるんですけど、バンドをやっている感覚で、曲作りもこの間のライブも含めて、固定のメンバーでどれだけ振り幅を出せるかを意識しています。今はそういう表現力をもう少し突き詰めたいなと思っていますね。「Overture」でもバンド感と打ち込みのバランスをいろいろと考えましたけど、「Moonlightspeed」でも、引き続きそのバランスを試していて、永山(ひろなお)さんのストリングスアレンジが入って、途中のギターソロをてっぺいちゃん(tepe)にお願いすると「ミドグラっぽくなるな」という感覚になったりします。

星街 ライブをするときに、最先端の技術を盛り盛りでできるようなユニットでいたいな、とも思います。例えば、Perfumeの皆さんを見ていると、「紅白歌合戦」のような場所で毎回新しいテクノロジーを使ったライブで驚かせてくれますよね。ミドグラも、そういうユニットになれたらいいな、と思うんです。バーチャルで生きている人間とリアルで生きている人間が集まって、科学の進歩を感じられるステージにできたらいいなと思っています。

プロフィール

Midnight Grand Orchestra(ミッドナイトグランドオーケストラ)

星街すいせいとTAKU INOUEによる“ユニバースミュージックプロジェクト”。2022年4月配信の1stシングル「SOS」でトイズファクトリー内のレーベル・VIAよりメジャーデビューし、7月に1stミニアルバム「Overture」をリリースした。同年8月に初ライブ「Midnight Grand Orchestra 1st VIRTUAL LIVE "Overture"」を行い、9月にモスバーガーのタイアップソング「Moonlightspeed」を配信リリースした。