え、もう終わり?
──撮影はどうでしたか?
Mega こんなこと言ったらアレですけど、「こんなにラクでいいの?」と。
木村 あははは。
Mega 普段、自分で監督もする撮影は軍隊レベルの過酷さなんですよ。例えば「ナードと天使」の撮影もすごくて、まずめちゃくちゃ暑かったんです。12時間くらいサーキット場で撮影して、その間、1回しかトイレに行ってない。家に帰ってシャワーを浴びたら、日が当たっていた手首のところだけめっちゃ焼けてて、次の日に皮までむけて。そんな状態でもすぐに編集作業を始める……という感じだったんですけど、「禁断少女10」の撮影は「え、もう終わり?」って(笑)。「もっと動いたりできますよ?」と思ってました。
──MV的なアクションしましょうか?みたいな(笑)。
Mega そう(笑)。でも「演奏シーンだけで大丈夫」と言われて。完成図が見えてないから不安だったんでしょうね。自分でMVを撮ってきたのも「人とセッションして作るのが怖い」という理由もあったんだと思います。しかも今までで最速の撮影だったので、余計に心配になっちゃって(笑)。
木村 不安がってたよね(笑)。
Mega 予定より早く終わったから、TikTok用の動画を撮ったりしてました。
──撮影が早いというのはもちろん、完成形が見えているから……ですよね。
木村 そうですね。僕はミュージシャンが一番カッコいいのは演奏している瞬間だと思うんです。いろんな表現方法があるけど、一番輝くのはやっぱり演奏しているところだなと。「禁断少女10」のMVでも、まずはカッコいい演奏シーンを撮ろうと考えてました。
Mega 僕は「ミュージシャンが一番カッコいい瞬間は演奏しているところ」という精神で生きてませんでした(笑)。今回の演奏シーンはマイクを立ててたんですけど、それもたぶん初めてじゃないかな。
木村 バンドが演奏している場面でマイクが立ってないと萎えるんですよ。「マイクがないのにどうやって聴かせんの?」って(笑)。作品において一番大事なのはリアリティだから。たとえ「東京が消えてなくなる」みたいなSFの話でも、その設定に見合ったリアリティがないと。だから演奏シーンにはマイクやアンプ、ケーブルが映っていてほしいし、それが自分にとってはすごく大事なことなんです。
Mega 僕もリアリティ主義ではあるんですよ。MVはドキュメントを撮ってるような感じがあって、MVの中で“MVを撮っている”というリアルを伝えたい。だからマイクなしなんです。「プロモーションのために撮ってます」「口パクです」みたいなことも映したいし、それが自分にとってのリアリティなのかなと。
木村 それも“設定のリアリティ”だよね。あとね、個人的にも「音楽はロックがいい」というところに戻ってきていて。いろんな音楽を聴くし、ヒップホップが好きな時期もあったんですけど、その場で演奏しているというのがライブの意味なのかなと。
Mega そうなんですね。木村さん、編集もめちゃくちゃ速かったんですよ。「え、もうできたんですか?」って。
木村 撮影帰りの車の中でほぼ終わってたんだけどね。
Mega え!?
木村 あの頃は月に9本くらいMVを撮ってたので、「移動中のこの時間しかない」という感じで。普段から編集は速いし、「編集が独特だね」と言われることも多いので、そこが強みでもあるんでしょうね。Megaくんはどんな感じでやってるの?
Mega 僕は友達と一緒にやってますね。普段はプレステ4をつないでいるHDMIをパソコンにつなげて、テレビ画面に映しながら「こうしてこうして」という話をして。友達が作業している間に、僕は曲を作ったりしてます。
木村 手作り感がいいですよね。ほかのアーティストの実家で撮ったやつも観たんだけど、あれもよかった。
Mega 崎山蒼志くんの実家で撮ったMVですね。
木村 固定のアングルでいろんなパターンを見せていくのも面白かった。
Mega 仲のいいカメラマンと一緒にやることが多いんですけど、やり方は曲によっていろいろですね。フリースタイルです。
──木村さんがこれまで監督してきたMVも、1つずつ作風が違う印象があります。
木村 それはよく言われます。自分としては、現実社会でやったら怒られるようなことをやりたいという意識があって。映像作品を観るときって、現実逃避をしているところもあると思うんですよ。人を殺すという表現もそう。「名探偵コナン」もそうじゃないですか(笑)。
──確かに(笑)。
木村 映像作品の中では、現実で絶対にやってはいけないことも表現できる。それを観てスカッとするのは、エンタテインメントが自分の代わりに本来はやってはいけないことを体現しているからだと思っていて。「禁断少女10」のMVでいうと銃もそうだし、学校でタバコ吸うこともそう。
Mega そうですよね。
木村 Megaくんが撮った「ナードと天使」のMVもそうで、羽の生えたメイドなんて現実にはいないじゃないですか。それを映像のクオリティによって「カワイイな」とか「なんかカッコいいな」と思わせているわけで。そういう違和感みたいなものも大事にしてますね。撮り方や表現については、シネマティックだったり写真っぽくしたり、コメディにしたり、確かにバラバラかもしれない。まあ、1つのことしかできない監督ではないので(笑)。
──一度やると飽きてしまう、みたいなことも?
木村 MVの場合は「飽きるから」というより、曲に合わせてるだけですね。オファーとしては「今までとは違った雰囲気にしたい」ということが多くて。今回はどうだったの?
Mega さっきも言いましたけど、MVを人に任せること自体が自分にとってはすごく勇気が必要だったんですよ。「禁断少女10」は自分としても気に入ってる曲で、だからこそ、普段とは違うやり方で撮ってみようと思えたのかもしれないです。
木村 「禁断少女10」のあとに出た曲のMVもいいよね。いろんな人とごはんを食べてるだけっていう。
Mega 「ごはん食べヨ」ですね。「禁断少女10」とは曲調が全然違うから、ファンからは二重人格だって言われてます(笑)。13組のゲストとの食事シーンを2週間で撮り切ったので大変だったんですよ。
無視するのが大事
──お二人ともさまざまなカルチャーや作品からの影響を受けながら、ご自分のオリジナリティを築き上げてきた印象があります。自分らしさや個性を生み出すうえで、意識していることはありますか?
木村 まずは観る人のことを気にしないで、やりたいことをやることですね。よく言ってるんですけど、無視するのが大事だと思っていて。それは人の意見をまったく聞かないということではなくて、例えば「禁断少女10」のMVでも、最初にMegaくんから「こうしたい」というイメージを聞いてるんですよ。それに納得したうえで撮ったんですけど、なぜ納得したかというと、もともと僕の中にそういう引き出しがあったから。Megaくんの話を聞いて、「自分にもそういう引き出しがある」と気付けました。
Mega うん、うん。
木村 もし納得できなかったとしたら、こういう撮り方はしてないですからね。いくらクライアントに言われたからと言って、自分の引き出しにないものはやらなくていい。そういう意味ですね、無視するのが大事というのは。
Mega 僕も人の意見を全然聞かないタイプでした(笑)。小学生、中学生の頃から学校が嫌すぎて、高校は無事に中退したんですよ。そのときも先生に囲まれて「あと1年だからがんばって通いなさい」と言われたけど、無視しました。昔から競争社会に加わるのが嫌だったんですよ。例えば「歌姫になりたい」と思ったとしたら、「誰が一番うまいか」という競争に加わらなくちゃいけない。そういうのが本当に嫌で、みんなと違うことばかりやってたら、こうなりました(笑)。
──特に今は“こうすればバズる”みたいなことを気にすることも多そうですよね。
Mega たまに下の世代の子と話すと、“いい子”が多いなと感じます。TikTokとかでバズって、大手の事務所やレーベルに所属して、売れそうな曲を忠実にやってて、「がんばります!」みたいな。僕はそういう人間ではないし、まあ、クソガキですね。コロナ禍で第1期のクソガキ期が終わったので、今はクソガキ期のフェーズ2です(笑)。
──木村さんは海外にも拠点があるので、より自由にクリエイティビティを発揮できるのかも。
木村 どうなんですかね。海外は強烈なキャラクターも多いし、それこそ人の話をまったく聞かない人もいるので。日本のアーティストは、まずリスペクトから入ってきてくれるんですよ。それはすごくいいところだし、お互いにリスペクトを持ちつつ、「ここからどうやって壊していくか」みたいな感じ。海外は最初からバンバンぶつかり合って、作品が完成したときに初めてリスペクトが出てくる。それは面白いところでもあるし、フラストレーションもありますね。この前も海外アーティストのMVを撮っていたときに、グチャグチャといろんなことがあって。最終的にその人が自分で編集するって言い出して、笑っちゃいました(笑)。
Mega それはヤバいですね(笑)。
木村 そういう人が作るMVって、当たり障りのない映像になっちゃってることが多いんですよ。でも、MegaくんはMegaくんにしか撮れないMVを作ってるし、それはすごいなと思います。
Mega (左手を突き上げる)
木村 僕らからは出てこないアイデアも持ってるし、自分のベクトルでやってるのがいいよね。
Mega そうじゃないと本人が撮る意味がないと思ってるので。MVを撮るのは大変だし、そこに注目してもらえることもないので、「やる意味ないかな」と思ったこともあるんですけど。今後はもうちょっと自信を持って「映像もやれます!」というところを見せていきたいです。
公演情報
Mega Shinnosuke ONEMAN TOUR 2026
- 2026年1月10日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2026年1月11日(日)広島県 Live space Reed
- 2026年1月17日(土)大阪府 BIGCAT
- 2026年1月18日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2026年1月24日(土)北海道 cube garden
- 2026年1月31日(土)宮城県 仙台MACANA
- 2026年2月8日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
プロフィール
Mega Shinnosuke(メガシンノスケ)
2000年生まれ、福岡県出身。作詞、作曲、編曲、プロデュース、アートワークおよび映像制作を自ら手がける。2017年秋よりオリジナル楽曲を作り始め、2018年に発表したEP「momo」で本格的に音楽活動をスタートさせる。自身の楽曲のほか、菅田将暉、King & Prince、私立恵比寿中学らさまざまなアーティストへの楽曲提供も行う。2025年10月にテレビアニメ「野原ひろし 昼メシの流儀」の主題歌「ごはん食べヨ」を配信。11月にアルバム「天使様†」をリリースする。“メガシンノスケ”という名前が本名であることをSNS上で公表し、大きな話題に。
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木村太一(キムラタイチ)
1987年生まれ、東京出身の映像ディレクター。映画監督を目指し、12歳で単身渡英して映像制作を学ぶ。King Gnu、ONE OK ROCK、The Chemical Brothers、Chase & Statusなど国内外のアーティストのミュージックビデオを多数手がける。一方、映画監督として2016年に自主制作した短編「LOST YOUTH」が海外メディアで高い評価を獲得。2023年に公開された自身初の長編映画 「AFTERGLOWS」が、映画祭「Asia film festival Barcelona 2024」において最優秀監督賞を受賞した。
Taichi Kimura / 木村太一 (@Darumavision) | X



