プロ直伝のオペラ歌唱
──フルアルバムは「ima」(アイマ)で5枚目ですよね。毎回アルバムを作るうえで意識していることはありますか?
コンセプトはいつもないんですよね。テーマを事前に決めて、それに沿ってアルバムを作るってことができない。もともといろんな曲を作りたいから、テーマを決めても制作中に我慢できなくなりそうで(笑)。あとは以前と比べると、あんまり徹夜をしなくなりましたね。こだわりが強くなった分、1回徹夜するくらいじゃ終わらなくなってしまって。昼から作ろうという気持ちに変わりました。レコーディングにも変化があって、今までは5分の曲なら5分で終わらせていたんですけど、1時間以上かけるようになりました。意識爆上げって感じです。
──「ima」というタイトルはどうやって決めたんですか?
いつもできあがった曲たちをギュッとまとめてるだけだから、今回の「ima」のタイトルにも特別なこだわりはないですね。「ima」は「~する予定です」と未来の話をするときに使う「I am going to~」を省略した言葉なんですけど、「いま」とも読めるから、“今を生き急ぐ女”である私を表しているなって。
──アーティスト写真とジャケットでは眉村さんがピザになっていますが、これはどういう意図で?
ピザになりたかったんです。もともとピザが好きで、アルバムには「旧石器PIZZA」という曲も入ってますし。今年は若い子たちに憧れられるお姉さんになりたいので、「おしゃれな雰囲気を出しつつピザに変身したい」とデザイナーさんに伝えました(笑)。
──アルバムにはその「旧石器PIZZA」も含めて18トラック入っています。これだけたくさんの曲を作っていたら、制作に行き詰まることはありませんでしたか?
夢中で作りすぎて体力が追いつかないときはあったけど、悩んで進まないってことはなかったかな。たとえ1つの曲で行き詰まっても、並行して別の曲を作ってました。最近どんなことがあったか振り返ってみて、「友達に『ありがとう』と言われてうれしかったな」と思い出したら、そのときの気持ちをどんどん掘り起こしていきます。
──曲の種になるようなものをストックしている?
そうですね。それこそ岡村靖幸さんのライブを観てインスピレーションを受けたこともあります。岡村さんの両サイドに女の子2人が立っているのを観て、彼女が2人いる人について書いたら面白そうだなとか。他人と比べて妄想力が高いんだと思います。
──もっと原始的な、「こういう音を出したい」「こんな声を入れたい」という思いから作られた曲も多いのかな?と感じたんですが、実際はどうですか?
その通りですね。「モヒート大魔王」は「かわいい声を出したいな」と思って「にゃにゃー」って歌いながら弾いてたらできました。「BEAT UP」は「ささやくようなボーカルにしたい」と最初から決めてたし。「なまらディスコ」は“ズーチャズーチャ”というトラックを作って、それに合わせて歌ってたらなんとなく演歌っぽくなって、その方向性を突き詰めてできた曲です。
──音や声のバリエーションが増えている印象を受けました。例えばオペラっぽい歌い方が随所に盛り込まれていたり。
前回のアルバムでオペラを入れたんですけど(「夜の女王アリア 復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」)、そのときにプロの先生に教えてもらったんですよ。力を入れるタイミングや発声方法も理解して歌っています(笑)。
矢沢永吉、広瀬香美、堂島孝平、ダイアモンド☆ユカイ、ヒャダイン、眉村ちあきの共通点
──アルバムには堂島孝平さんとコラボした「フリースタイルハンドメイド」や元宝塚花組の天真みちるさん参加の「Blaze of Glory」といったデュエット曲も収録されています。
「フリースタイルハンドメイド」はもともと男性とデュエットしたくて作ったんです。それで誰と歌おうかなと考えたときに、笑福亭鶴瓶さんや堂島さんがいいなと思って。
──なぜ鶴瓶さん?
鶴瓶さんだったらいい味が出そうだなって。堂島さんは「ヤノフェス」で初めて競演して、矢沢(永吉)さんや広瀬(香美)さんと波動が似ている気がして、絶対に仲よくなれると自信があったんです。それで堂島さんに「デュエットしてもらえませんか?」と声をかけたら「いいよ」と引き受けてくれました。
──矢沢永吉、広瀬香美、堂島孝平、眉村ちあきに共通のラインがあるんですね(笑)。
はい。ダイアモンド☆ユカイさんとヒャダインさんにも同じ波動があります(笑)。
──堂島さんとのデュエットはいかがでした?
めっちゃ楽しかったです! 「ここを歌ってほしいです」と伝えたら完璧に歌ってくださったので、「いい感じ!」しか言ってませんね。
──天真みちるさんとのコラボは何がきっかけだったんでしょうか。
私は宝塚の花組が大好きで、Twitterに「花組最高」と書きまくってたら、それを読んでくれたLOFT HEAVENさんから「みちるさんとトークイベントをやりませんか?」と声をかけていただいたんです。天真さんも在団中に私の歌を聴いてくれていたみたいで、「えー!?」とびっくりしました。実際に2人きりでしゃべったらめちゃくちゃ気が合って、イベントが終わってすぐに曲を作りました。私が好きなトップスターの柚香光さんに宛てた曲で、みちるさんが歌詞をつけてくれて、それが「Blaze of Glory」です。
寂しくて眠れない
──新たな出会いが増えて作品にも反映される一方、「愛でられほっぺ」などは眉村さんが1人で孤独に悶々と悩む姿が見えます。
基本的にはポジティブな人間に見せてるんですけど、気を抜くとすぐネガティブになっちゃいますね。なんでも自分のせいにする癖がついちゃって、つい考えすぎてしまう。ネガティブな感情があれば、無限に歌詞を書けますね。ただこの曲はトラックでけっこう苦労しました。“エレクトロリルカルパレードの曲”をイメージして作ったんですけど。
──イメージしたわりには全然言えてないですね。
(笑)。エレクトリカルパレード。この曲はシンセサイザーの音色に悩みすぎて。どういうフレーズを弾けばいいんだろうと調べまくってたら、けっこう時間がかかっちゃいましたね。すき家のCMソングの「愛でほっぺ丼」は橋本竜樹さんという方に編曲をお願いしたんですけど、自分でもアレンジしたいなと思って歌詞も少し変えて「愛でられほっぺ」を作りました。
──ほかにも難産だった曲はありますか?
「寝かしつけろ」は本当に眠れないときに書きました。12時くらいに布団に入っても3時頃まで起きてるんですよ。毎日寂しいから宝塚の映像を観て気を紛らわすんですけど、そろそろ寝るかってタイミングでまた寂しさがこみ上げてくる。
──なんで寂しいんでしょう?
夜は暗いし暇だし、どんな夢を見るかもわからないから不安で。1人で布団に入るっていう行為自体が寂しいなと思います。本来ならずっと寝ないで誰かとしゃべっていたいんです。「精神が落ち着くよ」ってオススメされてハーブティーを飲んでも寂しさは消えません。
──それは昔から?
そうですね。いつも寂しさを感じていて、そんな気持ちを歌にしました。眠れない人のために、癒されるようなサウンドを作りたいなと思って、この曲ではドラムを使わなかったですね。自分のいいところはコーラスかもと気付いて、コーラスメインの曲にしました。結果きれいな響きになってよかったです。
──そういう内向きな曲もあれば、TBS系「はやドキ!」のテーマソングになった「この朝を生きている」ではすごく前向きな気持ちが歌われていて。自由でつかみどころのない曲を書く眉村さんが、タイアップにふさわしい“仕事”をきっちりこなしているなと。
これはコンペで選ばれた曲なんです。コンペが通ったあと、「サビをもっと開けていくイメージにしてほしい」「ネガティブな言葉は一切入れないでほしい」といくつか要望がきて、「そんなに言われたら何もできないじゃん」って泣いちゃったんですよ。今日泣いちゃったって話をTwitterに書いたら番組サイドから謝られて、最終的に2つだけオーダーに応えることにしました(笑)。
──2つとはいえしっかり仕事をしたわけですね。
そうですね。書き直しているときにレーベルの人から「あのミュージシャンもこのミュージシャンもタイアップ曲の制作で悩んだことがあったんだよ」と聞いて、「今の私じゃん!」って。「みんな苦しいときがあるんだな」と思ったら少し元気になったんです。「これを乗り越えたら書き下ろし曲も“ぶっ飛び曲”もできるし最強じゃん!」と思ったら、急にやる気が出てきました(笑)。
──「この朝を生きている」はミュージックビデオの内容もいいですね。眉村さんが0歳から80歳まで10通りの年代を演じています。
西帯野蓮(SIX)さんが出してくれたアイデアが面白そうだなと思って乗っかりました(笑)。それを斉藤友和監督(EPOCH)が形にしてくださいました!
──このMVを観て思い出したんですけど、「ヤノフェス」の振り返り生配信企画のときに、「自分が70歳になった姿を想像できるか」と出演者に質問していましたよね。その質問に眉村さん自身が答えるとしたら、具体的にどんなイメージですか?
高いヒールを履いてエレキギターを弾く白髪のおばあちゃんになりたいですね。ライブをやるとしたら天井から吊るされて登場したい。
──(笑)。それにしても、いくつになっても音楽を続けているイメージなんですね。MVには歌手として華やかな活動をしていた自分の姿を懐かしむシーンがありましたが、実際の眉村さんは引退するつもりはない?
はい。70歳のおばあちゃんが何をやったら面白いかなってことしか考えてないですね。のんびり孫の面倒を見る時間はなさそう(笑)。
収まりきらなかった3曲
──アルバム全体を通して、今現在ご自身のやりたいことは全部詰め込むことができたのかなという印象を受けたんですが、実際はどうなんでしょう。
やりたいことはめっちゃできたなと思うんですけど、CDの収録時間の都合で3曲くらい省かれちゃって、それは「なんでだよ!」って感じです(笑)。Blu-rayは映像も観れて何時間も収録できるのに、CDは70何分しか入らない。この前も水野しずさんとその話題になったときに「CDは甘えてるよね。やる気ないよね」って(笑)。そこでA&Rに「CDの収録時間を延ばしてください。CDの概念を変えるのはあなたです」って頼んだんですけどダメでした。
──CDの規格自体変えなきゃいけないから相当困難ですね(笑)。結果的に18トラックに絞られたアルバムの満足度はどうですか?
満足しています。入れられなかった残りの3曲はシングルでも映える曲なので、前向きな気持ちで省いた感じです。その3曲は今年中にリリースできるように計画してます。
次のページ »
野心家・眉村ちあきの3つの夢 2022