ナタリー PowerPush - MAMALAID RAG
4年ぶりニューアルバムとベストアルバム同時リリース
風街散策を楽しむアクティブなポップリスナーを中心に、2002年のデビュー当初から熱い視線を集めてきたMAMALAID RAG。かつてのトリオ編成も現在は田中拡邦のソロユニットとなり、2006年以降活動は停滞していたが、一昨年暮れから本格的に再始動。2009年には、2年7カ月ぶりの作品となった「オフェリア」を手始めに、3枚のシングルをリリースした。
そして2010年。2002年から2006年にかけて在籍したメジャーレーベルでの音源をコンパイルしたベストアルバム「the essential MAMALAID RAG」をリリースすると同時に、自身のレーベル「ALDENTE」から実に4年ぶりとなりオリジナルアルバム「SPRING MIST」を届けてくれた。
取材・文/久保田泰平
「好きにやってください」って、非常にレアなケースで始まった
──4年ぶりのニューアルバムとなるわけですけど、併せてメジャー時代のベストアルバムもリリースされたということで、ここ最近はご自身の過去を振り返る作業も多かったと思いますが。
そうですね。マスタリングのときに改めて昔の作品を聴いたり、ビデオクリップも通して観たりしてたんですけど、要は僕の20代が詰まってる記録なんで、まあ、自分でも面白かったというか、興味深かったですね。それに対してニューアルバムは、30代になってリリースする作品ということで、20代の作品と30代になっての作品という、そこにも面白い対比があったりして。
──MAMALAID RAGがメジャーデビューしたとき、田中さんは22歳。その当時の意気込みはどんな感じでした?
MAMALAID RAGというバンドになる前にCROSSWALKっていうバンドでデビューしてるんですけど、それが全然うまくいかなかったんですよ。CROSSWALKっていうのは、ブリティッシュロックを志向したトリオのバンドだったんですよね。高校のときにCREAMをよくコピーしてたんで、長いギターソロがある曲にポップなメロディが乗ってるような、そんな感じのバンドで。で、まあ、うまくいかなかったこともあって、そういう音楽をやることにちょっとうんざりしはじめてた頃、はっぴいえんどを通じてアメリカの音楽を真剣に聴き始めたんです。ジェームス・テイラーとかキャロル・キングとかMOBY GRAPEとか、あとはジャズやボサノヴァも同じ頃に聴き始めて。それで、CROSSWALKとは違う方向性のバンドをやろう、だったらアメリカっぽいバンドの名前にしようってことでMAMALAID RAGになったんですよ。で、CROSSWALKでデビューしたときは、僕ら上京したばっかの頃で右も左もわかんない若者だったこともあり、わりとスタッフ主導な動き方をしてたんですよね。それでうまくいかなかったので、僕としてはいい機会だったというか、今度は自分の思うとおりにやるよっていう雰囲気をそれとなく出せたんです。で、レコード会社からも「好きにやってください」って、非常にレアなケースで活動できる場をいただいたんですよ。好きにやってくださいって言われたらやるしかないし、意気込みうんぬんっていうよりは、気持ちは非常に強気でしたね(笑)。
“現代のはっぴいえんど”と言われるのはうれしかった
──そう言われてみれば、デビュー作「春雨道中」で初めて田中さんに取材した時、年齢のわりにはすごく毅然とした印象がありました。その当時、CROSSWALKとしてのキャリアは知りませんでしたし。
CROSSWALKでの経験も、その当時はイヤな過去でしたけど、今思うとそれがあったからこそMAMALAID RAGがやれたと思いますね。負の状態に一度なっているから、その裏返しとして力強くやれたんじゃないかなって今は思えるんですけどね。
──デビュー当時、音楽性が多少なりとも重なるということで、解散したサニーデイ・サービスやキリンジなどを例に出して紹介されることも多かったと思います。キャリア的にはそういったアーティストの下の世代として見られてたような。
まあ、そういうことはよく言われてましたよね。“現代のはっぴいえんど”って言われることはすごくうれしかったんですけど。それも「イヤでしょう?」って訊かれることがあったんですけど、はっぴいえんどって言われてイヤなわけないでしょうっていう(笑)。ただまあ、サニーデイ・サービスとかキリンジとか、僕の知らなかった人たちだったので、いろいろ言われても何の感情も湧かないっていうのが正直なところだったんですよ。イヤでもないし、うれしいわけでもない。「恋におちたら」っていう曲を作ったときは、「サニーデイ・サービスの曲と同じですね」とか言われたりしたんですけど、古いジャズの曲のイメージで付けたタイトルなので、全く関係なかったんですよね。ただ、事実として、サニーデイ・サービスやキリンジといったアーティストと常に同じカテゴリには入れられてましたよね。レコード会社の担当者も、一般的に見れば同じだって言い切ってましたから(笑)。僕自身、やってることは全く違うんじゃないかなって今でも思ってるんですけどね。
──“現代のはっぴいえんど”ということで言えば、田中さんのボーカルは大瀧詠一さんの影響を強く感じさせるものですよね。
バンドをやり始めた頃って、日本語の曲がうまく作れなかったんですよ。というのは、洋楽しか聴いてなかったので、日本語で作るとダサくてしょうがないものになっちゃてたんですよね。日本の音楽なんてダサくて聴いてられない! っていうような中高生だったんで、自分で作ってみても、そういう匂いを敏感に感じちゃって。で、そうならないようにするにはどうしたらいいのかっていうことを、はっぴいえんどを聴いたことによってわかったというか、言葉の使い方や大瀧さんの歌い方から教えてもらった感じなんですよね。こういうふうに歌えば、日本語のいいところを活かしながら欧米の曲にも対抗できる雰囲気を出せるっていう。だから、当然似てくるんですよね。
CD収録曲
- SPRING MIST
- ILOVE
- ずっと二人で
- 彼女の恋
- MY LOVE
- THE CRAZY WORLD
- ある冬の寒い朝
- GO ON
- 春から春へ
- PATHETIC SCENERY
- ノック
- 涙あふれて
- 眠りから覚めたように
- 恋を抱きしめよう
CD収録曲
- 春雨道中
- 目抜き通り
- 夜汽車
- 悲しみにさようなら
- きみの瞳の中に
- そばにいたい
- 街灯
- ふたりで目覚めたら
- 銀の爪
- 消えた恋
- レイン
- 春雨道中(2006.7.9 Live at東京キネマ倶楽部)
初回限定盤DVD収録内容
- 春雨道中
- 目抜き通り
- 夜汽車
- きみの瞳の中に
- そばにいたい
- 街灯
- ふたりで目覚めたら
- 銀の爪
- 消えた恋
- 春雨道中(2006.7.9 Live at東京キネマ倶楽部)
MAMALAID RAG(ままれいどらぐ)
1995年、中学の同級生だった田中拡邦(Vo,G)と江口直樹(B)の2人が高校進学を機に結成。1996年頃より、地元・佐賀のライブハウスでライブを行うようになる。1998年に上京し、都内を拠点に活動をスタート。2002年3月に初音源となるミニアルバム「春雨道中」を発表した。はっぴいえんどに影響を受けたやわらかなポップサウンドと、繊細な歌詞が多くの音楽ファンを魅了。コンスタントにリリースを重ね、2005年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たす。2006年に江口が脱退し、以降は田中のソロプロジェクトとしてライブを中心に活動を続けている。