ナタリー PowerPush - MAMALAID RAG
4年ぶりニューアルバムとベストアルバム同時リリース
音楽を追究していくことが楽しい
── 「好きにやってください」と言われてスタートしたMAMALAID RAGですけど、とはいえメジャーのレコード会社から作品をリリースするわけで、そのあたりのバランスはどのようにとってたんですか?
考えてたのは、自分の好きなことをやろうと。自分の好きなことをとことん突き詰めてやればいいんじゃないかって。自分は決して特別なタイプの人間ではないっていう気持ちがあったんですよね。
──好きにやっても、そんなに大衆の感覚とズレることはないと?
というよりは、自分と似た人って結構いるんじゃないかと思ったんですよ。自分が思いっきり好きなことをやっても、私もそれが好きっていう人が少なからずいるんじゃないかなって。だから、どういう人たちに向けて曲を作るっていうことは極力やめて、とにかく自分の好きなことをやるっていう。で、それに賛同してくれる人はおそらくいるだろうっていう。
──CROSSWALKで一度失敗しているので、「売れたい」という気持ちが強いんじゃないかと思ったんですけど、そうでもなかったようですね。
そうですね。ベースの江口(直樹)は売れたかったみたいで、そのへんが僕と食い違ってたみたいですけど(笑)。まあ、売れるにこしたことはないですけど、売れるにもいろんな方法があると思うんですよ。そのバンドに合った売れ方っていうのもあると思うし、安易な方向で売れて短命に終わるケースだってあるわけですよね。それよりも、ある程度時間はかかるかも知れないけど、試行錯誤を繰り返していくうちにスタイルを作り上げていくっていう成長の過程が、MAMALAID RAGの場合は必要なんですよね。「売れたいですか?」って訊かれても、なんとも答えようがなくて、それよりも音楽をやること自体に興味があって、それは今も変わってないところですね。何が楽しいかって言ったら、たくさんの人が聴いてくれることよりもまず、作ってることが楽しいんですよね。もちろん、たくさんの人には聴いてほしいんですけど、優先順位としてはそれ以上に音楽を追究していくことが楽しい。その延長としていい結果がついてくれるのが理想ですよね。
──成長過程ということでは、途中から制作環境も変わっていきますよね。メンバー構成も3人から2人、2人から1人になりましたし、宅録での曲作りという制作スタイルにも移行していきました。
宅録を始めたのは、音色にこだわり出した時期ですね。スタジオで録る音、HDでレコーディングする音では思ったようにならないなって思うようになったんで、好きな機材を集めて、自宅でゆっくり納得のいくまで、エンジニアリングも自分でやって。それによって自分好みな質感に近い音が録れるようになったんですよね。
20代のときに吸収したものを総動員したアルバム
──そろそろ新作「SPRING MIST」の話を。作品を作るときの気分は以前と変わってきてますか?
今回の「SPRING MIST」に関しては、とにかく楽しかったですね。楽しみながら作りました。去年の10月に体調を悪くして、4年ぶりに断食をしたんですよ、1週間。そしたらすごくナチュラルハイになって、曲が16日間で18曲書けて、まあ、それが今回のアルバムになったんですけど、それぐらいの恐るべき集中力が出て。で、もう毎日が楽しくってしょうがなくて、っていう制作だったんで、今までとはまったく違う成り立ちのアルバムになりましたね。「SPRING MIST」っていうタイトルは、ナチュラルハイな感じを僕なりに例えた言葉なんですけど、春の霧になんとなく包まれているような、不思議な感じっていう意味合いで付けたんです。
──レコーディングは基本1人でされてるんですよね。
そうですね、ギターとベースを除いた弦楽器と、ドラムス、コンガ、ホルン、フルート以外は全部僕がやってますね。
──MAMALAID RAGらしいなあっていう世界観の曲もあれば、意外な雰囲気の曲もあり。なかでも「The Crazy World」という曲の歌詞は“ボヤキ”というか、飾らない言葉で感情を吐露しているものだったりしますよね。
そうですね。まあ、言ってしまえば典型的なブルースの詞ですよね。
──ご自身の中でトピックだった曲はありますか?
最後の「恋を抱きしめよう」ですかね。アルバムの中でいちばんポピュラリティがある曲で、今まであまりなかったタイプの曲ですよね。
──楽曲のバリエーションも広がってますし、すごく聴き応えのあるアルバムだと思います。でき上がっての率直な感想は?
20代のときに吸収したものを総動員して作っている感じがあるので、これまでの作品と比べて非常にクオリティの高いものになったと思います。20代の作品には30代の僕にはできない魅力がもちろんあって、そのあたりはベストアルバムを聴くと改めて思うんですけど、逆に「SPRING MIST」は20代の僕、今までのMAMALAID RAGでは決してできなかったもの、完成度の高いものができたっていう印象ですね。
ジャケットで自分の顔を出したのは相当な自信作だから
──これまでCDジャケットにはあまり顔を出さなかったですけど、今回のジャケットは、そういった自信の表れだったりするんですか?
まあ、相当な自信作なので、顔を出してもバランスが取れるだろうっていう意味合いと、あとは1人になって初めてのアルバムなので、MAMALAID RAG=僕だっていうことで。1人になったっていうのを知らなかった人もわりといるような気もするし、解散してるって思ってた人もいるかもしれないし(笑)。
──30代の壁を越えたっていうのは、やはり意識する部分なんですかね。
やはり、20代から30代になるっていうことは大きいですよね。昔から言われるように、20代で学んだことを30代に活かしていくみたいな、どの分野でもそういうことは当てはまると思うし、音楽も同じじゃないかなって。
──最近、聴かれる音楽は変わってきてますか?
そうですね、ここ数年はわりと80年代、90年代モノも聴いてます。それまでは完全に50、60、70年代しか聴いてなかったんで。音楽家っていうのはやっぱり、やったことないこととか、聴いたことないものに興味を持つものだと思うんですよ。で、ふと立ち止まった時に、80年代も聴いてみようっていうのが2、3年前にあって。
──具体的にはどのあたりを?
グレン・フライのソロとか、ブライアン・アダムスとかブルース・スプリングスティーンとかエルトン・ジョンとか、70年代からやっていたアーティストの80年代盤が多いですね。日本人だと財津和夫さんとか高中正義さんとか、あとはYMO関連ですよね。
──アーティストとしての現在のモードはどんな感じですか?
もう次の作品を作り始めてて、ぼんぼん出していこうかなって思ってるんです。流通会社の人からはそんなにぼんぼん出さないほうがいいよって反対されてるんですけど、ゴリ押しして出そうかなって(笑)。今の僕はレーベルのオーナーでもあるんで、会社のことも考えなきゃいけない、アーティストという肩書きだけじゃないんですよね。形態がインディーズなので、メジャーのように宣伝が思うようにできる状態ではないし、出していくこと自体が宣伝だと思ってるんですよね。
──今できあがっている作品には、新たな変化が見えていたりするんですか?
今は、よりポピュラリティのあるものっていう方向に興味が向いてきてるんで、楽曲にもそういうモードの変化はわりと表れてますね。
CD収録曲
- SPRING MIST
- ILOVE
- ずっと二人で
- 彼女の恋
- MY LOVE
- THE CRAZY WORLD
- ある冬の寒い朝
- GO ON
- 春から春へ
- PATHETIC SCENERY
- ノック
- 涙あふれて
- 眠りから覚めたように
- 恋を抱きしめよう
CD収録曲
- 春雨道中
- 目抜き通り
- 夜汽車
- 悲しみにさようなら
- きみの瞳の中に
- そばにいたい
- 街灯
- ふたりで目覚めたら
- 銀の爪
- 消えた恋
- レイン
- 春雨道中(2006.7.9 Live at東京キネマ倶楽部)
初回限定盤DVD収録内容
- 春雨道中
- 目抜き通り
- 夜汽車
- きみの瞳の中に
- そばにいたい
- 街灯
- ふたりで目覚めたら
- 銀の爪
- 消えた恋
- 春雨道中(2006.7.9 Live at東京キネマ倶楽部)
MAMALAID RAG(ままれいどらぐ)
1995年、中学の同級生だった田中拡邦(Vo,G)と江口直樹(B)の2人が高校進学を機に結成。1996年頃より、地元・佐賀のライブハウスでライブを行うようになる。1998年に上京し、都内を拠点に活動をスタート。2002年3月に初音源となるミニアルバム「春雨道中」を発表した。はっぴいえんどに影響を受けたやわらかなポップサウンドと、繊細な歌詞が多くの音楽ファンを魅了。コンスタントにリリースを重ね、2005年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たす。2006年に江口が脱退し、以降は田中のソロプロジェクトとしてライブを中心に活動を続けている。