ナタリー PowerPush - 牧野由依

ハイブリッドアーティストの本質は? 多彩な光を放つ新作「ホログラフィー」に迫る

もっと深く、しっかりとした柱に

──今作はレーベル移籍第1弾アルバムということもあり、新しいことに数多く挑戦しているアルバムではありますけど、これまでの2枚のアルバム(「天球の音楽」「マキノユイ。」)をふまえた上でその延長線上にある作品、という印象を持ちました。

はい。今までとガラッと変わったアルバムを作ろう、というのは元々考えてなくて。移籍をしてから広がったところも含めて、もっと深く、しっかりとした柱にしていきたいという気持ちが今は大きいですね。

──大きな柱を組み上げていく中で、牧野さんの中でどの顔が一番の軸になっていくと思いますか? ボーカリストなのか、ピアニストなのか、作曲家なのか、作詞家なのか……。

インタビュー風景

どれが一番って決めてしまうのはきっと違うと思うんですね。中途半端な答えに聞こえちゃうかもしれませんけど、その現場に行ったらそれが一番なんです。歌のブースに入ればボーカリストとしての自分を一番に考えたいし、ピアノを録るときは歌は関係なく1人のピアニストとしてちゃんと演奏したい。ボーカルのセレクトを自分でやることもあるんですけど、そういうときには、この言い方が適切なのかわからないですけど「牧野由依っていう子が歌ったものをディレクションする」っていう別物として考えるようにしていて。そうそう、今回のレコーディングで「地獄聴き」っていう言葉を覚えました! ボーカルを全部細かくチェックして、良い部分に印を付けて、もう1回全体で聴くという(笑)。

──文字どおり地獄のような作業ですね(笑)。

それはEPOさんがやられてたのを見て、私もやるようになったんですけど。今回は自分でやりたいことを「こうしたいです」って押し通した感もちょっとあるので、コケたら責任重大ですね。アハハハハ。

──あー、リアクションは自分に戻ってくるわけですね。リリースが楽しみでもあり、恐怖でもあり。

恐怖ですねえ。エヘヘ。「自己満で終わらないように」っていうのはすごく考えてますけど、自分でやるっていうのはこういう気持ちなんだなーというのがやっとわかった感じです。

存在自体が“飛び道具”な人になりたい

──アルバムのラストに収められる牧野さん作詞の「その先へ」は、シンプルな言葉で力強いメッセージが込められていますね。

この曲を最後に聴いてもらって、私自身の“その先”を楽しみにしてもらえたらいいな。

──実際のところ、“その先”はどのぐらい具体的に考えてます?

現時点でのリアルな“この先”は、アルバムを引っさげてのコンサートですね。その後は……まだ隠し持っている曲がこの牧野由依チームにありまして、それを巣立たせることかな。またこれもすごくいい曲なんですよ。それをいい形で出していくことが今の目標です。それにはまず自分自身が魅力的でないと絶対に振り向いてもらえないと思うので、自分を磨きつつ前に進めていきたいですね。あと、ピアニストとしても何かやりたいねっていうお話も、今ちらほらと出ています。

──ほかに、まだやったことがないもので挑戦してみたいことはありますか?

これはもうずっと変わってないんですけど、フルオーケストラでのコンサートです。

──牧野さんの音楽性を考えると、それはある意味ひとつの大きなゴールになりそうですよね。

うん。それを達成しちゃったら、後はどうなるのかなと思いますけど。

──これはでも遠からぬ将来に実現しそうな気がします。

インタビュー風景

いやー、どうでしょうね。やらせていただけるのかしら。そのときはぜひサントリーホールでやりたいです。やっぱりクラシックの大きい会場というと、サントリーホールのイメージが小さい頃からあって。今の一番の目標は「サントリーホールでフルオケをバックにコンサートをする」。本当にやりたいことはたくさんあるし、もっといろいろ面白いことが考えられる人になりたいなと思います。コンサートもそうだし、存在自体が“飛び道具”な人になりたい。

──存在が飛び道具?

「掘り下げたらいろいろ出てきそうな人だな」って常に思ってもらえる人になりたいです。「だいたいこういう人だよね」「あーハイハイ」ってわかる人じゃなくって、「どこを掘り下げても何か出てくる」みたいな人になりたいです。

のどに小骨が刺さった“やさぐれ歌姫”

──最後に、一応「やさぐれ歌姫」にも触れておこうと思いますけど(笑)、あの方向性はいろんな意味で大丈夫なんでしょうか。先日のニコニコ生放送でも……。

めっちゃやさぐれ出てましたね(笑)。

──普通は女性アーティストが「のどに小骨が刺さってる」ってわざわざ報告しないですよ。

そうそう。小骨がね、取れなくて。アルバムには小骨が刺さったままレコーディングした曲が何曲か入ってます。

──牧野さんの繊細な世界観をきっちり守ろうと思ったら、小骨の話はノイズなんですよ、本来は。ブログに「寝ぼけて腹筋してた」と書くことも。

えー、だってつまんないじゃないですかー、音楽のイメージそのまんまだと。たぶん昔からあった反発心だと思うんですよね。「クラシックやってる=お嬢様」って思われるのがすっごく嫌で。

──なるほど。でも、やさぐれっぷりはレーベルの方も事務所の方も止めようとはしてないみたいですから。ファンの方々はどう思ってるんでしょうね。

行き過ぎるとたぶんダメだと思いますけど(笑)、現状を保ってればきっと大丈夫かなと。

──ライブでの反応を観てる限り、明らかにお客さんはやさぐれを望んでるように見えますけど。

変なこと言ってますけど、実際音楽を作るときにはちゃんとした姿勢で取り組んでるし、ライブでは「ピアノを弾く前の一瞬の空気でこれだけ変えますよ」っていうのを見せたいから、無意識にバランスを取っちゃうのかも。でも基本、変だと言われるのは否めないです(笑)。

インタビュー風景

ニューアルバム「ホログラフィー」 / 2011年7月6日発売 / EPIC RECORDS JAPAN

  • 初回限定盤[CD+DVD] 3500円(税込) / ESCL-3694~5 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] 3059円(税込) / ESCL-3696 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. 春待ち風
  2. お願いジュンブライト
  3. Merry-go-round ~Album ver.~
  4. ふわふわ♪
  5. Cluster
  6. Precious
  7. hologram
  8. crepuscular rays
  9. 二度目のハツコイ
  10. Brand-new Sky
  11. 碧の香り
  12. 未来の瞳を開くとき
  13. その先へ
初回盤DVD収録内容
  • 「お願いジュンブライト」ビデオクリップ
  • Yui Makino Concert ~So Peace~@キリスト品川教会 グローリア・チャペル2010.12.16 ライブ&ドキュメンタリー映像収録
牧野由依(まきのゆい)

牧野由依

7歳で岩井俊二(映画監督)に才能を見出され、同監督の大ヒット作品「Love Letter」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」3作品に、8歳から17歳にかけてピアニストとして参加。2005年にシンガーデビューを果たし、同年には声優としての活動もスタートさせた。 2008年春に東京音楽大学ピアノ科を卒業し、2009年には事務所およびレコード会社を移籍。アーティストとして新たな第一歩を踏み出した。2010年3月3日にEPICレコード移籍第1弾シングル「ふわふわ♪」をリリース。同年8月には日本青年館でコンサートを行い、1200人の観客を集め大成功を収めた。2011年4月、EPOの作詞作曲によるニューシングル「お願いジュンブライト」をリリースする。この曲は資生堂「エリクシールホワイト」のCMソングとして、幅広い層に彼女の魅力をアピールするきっかけとなった。2011年7月、移籍第1弾アルバムとなる「ホログラフィー」を発売する。