マハラージャン|過酷な会社員生活を経てメジャーデビュー! 豪華メンバーと紡いだ社会派ファンク

今も現実感がないレコーディングメンバー

──では新作「セーラ☆ムン太郎」について聞かせてください。メジャーデビュー作を制作するにあたってどんなことを意識していました?

メジャーデビューのことはまったく考えてなかったですね。いきなりタイトル曲の「セーラー☆ムン太郎」というフレーズを思いついて、なんだかわからないけど「これだ!」と思って作りました。

──直感に従ったと。コミカルな題名ですが、歌詞には「真実を語る人が 孤独になる」というフレーズもあって。

コロナ禍になって、いろんなことが起きたじゃないですか。今回のことって何も感じない人はいないと思うんですが、僕自身は“正義”だったり、何かを信じることの大切さを感じることが多くて。価値観の相違によって対立が生まれて、苦しんでいる人もたくさんいる。僕らにとって正義ってなんだろうとか、目立たなくても一生懸命やってる人にスポットが当たるようにしたかったり、今の社会状況を反映させたくて……それが「セーラ☆ムン太郎」のテーマにつながってるんですよね。

──めちゃくちゃシリアスなテーマなんですね。

シリアスというか、やや社会性を帯びてるくらいですけどね。「いいことがしたい」もそうですけど、「よくわかんないけど、ビビッと来た」という言葉が浮かんだら、それが曲になることが多いいです。

──レコーディングメンバーがびっくりするほど豪華で。ハマ・オカモトさん、石若駿さん、皆川真人さんとトップミューシャンがそろってますね。

僕もビックリしました(笑)。今までは全部1人で作ってたんですけど、せっかくメジャーデビューするんだから、好きなミュージシャンに参加してほしいと思って。言うだけ言ってみるかと「ハマ・オカモトさん、石若駿さん、皆川真人さんにお願いしたいです」と伝えたら、皆さんOKだったんですよ。「え、ウソでしょ?」って思ったし、今も現実感がないです(笑)。こんなことが実現するなんて、メジャーはすごいですね。

──この楽曲に最適なメンバーだし、素晴らしいアンサンブルですよね。ハマさんのスラップベースを中心に、石若さんの個性的なリズムの解釈、皆川さんのメロディセンスがしっかり絡み合って。

すごかったです、ホントに。ハマさんには僕のほうから「スラップでお願いしたいです」という話をさせてもらったんですが、快く受け入れてくれて。本当に素敵な方で、僕のような新人に「プレベとジャズベ、どっちがいいですか?」と聞いてくれたんですよ。石若さんも素晴らしかったです。本来はジャズの方ですけど、「セーラ☆ムン太郎」みたいなダンスチューンにジャズのエッセンスが入っているのって、すごく面白いと思うんですよ。僕もジャズは好きだし、その匂いを感じさせたいという気持ちもありました。皆川さんの音色も気持ちよくて、耳が幸せで。しかも高山徹さんがミックス、山崎翼さんがマスタリングって……どうなってるんですかね?

──(笑)。こんなにすごいサウンドになったんだから、いい歌を録らないといけないというプレッシャーはなかったですか?

いや、それは全然なかったです。自分の歌がどうこうよりも、納得のいく曲を作りたいだけなので。レコーディング現場に入ったときは「すごい人たちがそろった」と緊張しましたけど、いざ始まれば、一緒に音楽を作るという感覚になれたので。もちろん歌は大事ですけど、各パートの音も聴いてほしいですし。

歌詞を書くときは「めちゃくちゃにしてやれ」

──2曲目の「示談」、3曲目の「適材適所」も“踊れる”“ポップ”“歌詞が個性的”と3拍子そろってますね。

マハラージャン

ありがとうございます。「示談」はイントロから作り始めたんですよ。シンセサイザーのフレーズが気に入って、そこから続きを考えて。イントロは楽曲全体の雰囲気を決めるし、すごく大事ですね。

──「示談」のやりとりを描いた歌詞も強烈ですが、このアイデアはどこから生まれたんですか?

こんなこと言っていいかわからないんですけど、すごく好きなトラックができて、歌詞を書くときに「めちゃくちゃにしてやれ」みたいな気持ちになることがあるんですよ(笑)。そのままカッコいい歌詞を乗せられる人もいるでしょうし、それもいいと思うんだけど、自分はそうじゃない気がしていて。カッコつけないのがカッコいいと感じるタイプなんでしょうね。

──(笑)。「適材適所」も同じ発想ですか?

「これ、めっちゃいいな」と思う曲ができて、ずっと聴いてるうちに「これは“適材適所”だな」という気がして(笑)。この曲、石若さんのドラムがすごいんですよ。すごくトリッキーなフレーズを叩いてくれてるんですけど、それがめちゃくちゃカッコよくて。リズムにもこだわっているので、ぜひ聴いてほしいです。

──続く「空ノムコウ」ですが、このタイトル、どこかで見たような……。

え、そうですか? 曲に合ったタイトルを付けただけなんで、ちょっとわかんないですね。

──(笑)。この曲のリズムセクションは、Ovallのmabanuaさん、Shingo Suzukiさんですね。

曲を作ったときに「Ovallっぽい感じが似合いそう」と思い、お願いしてみたら受けてくださって。自分が求めたゾーンにバッチリ入ってきて、素晴らしい演奏でしたね。Jamiroquaiの気分も反映されているし、それ以外にもいろんな要素が入っていて。自分が今までに聴いてきた音楽、やりたいことのエッセンスが込められた曲だと思います。

「誰かと同じになりたくない」という気持ちが強かった

──「僕のムンクが叫ばない」は、マハラージャンさんの1人多重録音による楽曲です。

これはもう“叫び”がテーマですね。社会に対してもそうだし、周りの人に対してもそうだと思うんですけど、言いたいことがあるのに言えないことって、すごくあるじゃないですか。僕自身の人生もそんなことばっかりですからね(笑)。社会人時代も怒られてばっかりだったし、そのたびに「なんで怒られてるんだろう?」と……まあ、自分が悪いんでしょうけど。

──マハラージャンさん、明らかにクリエイター気質ですからね。組織の一部として働くのは向いてないような気がします。

マハラージャン

人から「こうやってください」と言われてもできないですからね(笑)。そうやって逃げてきたところもあるんですけど、そのおかげで自分にしかできないことが見つかったのかなと。「その人にしかできない」というものが面白いと思うんですよね、僕は。地産地消という言葉も好きだし……あ、ちょっと話がズレました?

──いえいえ(笑)。“その場所、その時だから生まれた”というのも、音楽の醍醐味ですよね。

ホントにそう思いますね。ハマさんの太い音とグルーヴ、石若さんのリズム、皆川さんの演奏もそうですけど、その人にしか出せないよさが好きだし、自分の曲にもそういう要素をどんどん取り入れたくて。1人で作るときもなるべくソフトを使わず、自分で弾くようにしてるんです。全然うまくないですけど、自分で弾いたほうが面白くなるし、グッとくるので。漂白されたものより、人の匂いがするほうがいいというか。曲にも歌詞にも音にも自分が滲み出るようにしたいし、そのほうが面白いと思うので。

──滲み出るどころか、マハラージャンらしさがあふれかえってると思います(笑)。自分らしさを押し出すことと、ポップスとして幅広いリスナーに届けることのバランスについてはどう考えてますか?

自分が面白いと感じているものは、必ず人に伝わると思ってるんですよ。普段音楽を聴いていて「いいな」と思ったものがヒットすることも多いし、「感覚はズレてない」という自信もあるので。一番大事なのは、自分が本気でいいと思うものをやることかなと。

──メジャーデビューをきっかけに、マハラージャンとしての音楽人生が本格的に始まりますね。

そうですね! 前は「目が死んでる」と言われてたのに、最近は「若返ったね」と言われるようになって。心なしか、肌ツヤもよくなった気がします(笑)。

──(笑)。いろいろ回り道はあったけど、それもすべて楽曲に反映されていて。

それはすごく感じてます。回り道というか、いろんな経験をしてきて、いろんなことを感じたからこそ作れた曲もありますからね。「誰かと同じになりたくない」という気持ちが強かったんですよ、とにかく。大学は大阪だったんですけど、それも「留学は無理だけど、東京じゃなくて大阪の大学に行くって、人と違っていいな」という判断だったので(笑)。いろいろ苦労もしたけど、今は自分にしか作れない曲ができている実感もあって。好きなものはたくさんあるので、これからも面白いことをやっていきたいですね。