ナタリー PowerPush - 真心ブラザーズ
「君に届け」をめぐる鼎談 in 札幌
1stアルバムに近いかも
──新しいアルバムが3年半ぶりというのは少し意外な気がしました。ちょうどデビュー20周年を挟んでたからというのもあるかもしれませんけど。
桜井 そうですね。ベストアルバムなんかもあったし。
──今作は、まず曲数の多さに驚きました(笑)。インタールード的な短い曲を合わせた曲数なのかなと思ったら、全19曲ガッツリ歌モノで。
桜井 ええ。なかなか終わらないと評判のアルバム(笑)。久しぶりなんでボリューム多めにしてよ、とは制作スタッフ陣からも言われてたんですけど、自分たちでもそうなるだろうなとは思ってました。ただ、ここまでとは(笑)。全体のボリューム感については最後まで読めないままひたすら録り続けていて、だんだん「……なんか俺ら、レコーディングばっかしてね?」みたいな。そもそもコンパクトディスクの枠に収まるのかすら不安になってきたけど、みんなそれを口に出さずに(笑)。録れるだけ録って入るだけ入れよう、と思ってたら、意外となんとか収まりましたね。
──曲作りにおいては、昨年のアコースティックツアー「真心道中歌栗毛」からの影響は大きかったですか? 今作はフォーキーな楽曲が多いのが印象的で。
桜井 はい。このアルバムはきっぱり、フォークのアルバムですね。
──直接的に弾き語りのアレンジではない曲にも、どこかフォーキーな雰囲気があって。最近の流れとしては珍しいですよね。
桜井 あんまりこう、サウンドで遊んではしゃぐようなものよりは、歌モノを素直に。前からね、歌モノで素直にやれたら、それが一番ド真ん中だなとはとは思ってたんですけど、今回はそういうモードに自然となれたので。いいタイミングでしっかりした歌モノがやれてよかったです。
──20周年の節目を経て、シンプルな歌のアルバムになったと。
桜井 そういう意味では1stアルバムに近いかも。ポンポン出てきた曲をドバドバ入れてっていう。
札幌は空気が乾いてるからギターがよく鳴る
YO-KING そうそう、弾き語りの曲は札幌でレコーディングしたんですよ。最初にレコーディングしたのがその5曲で。
椎名 えっ、そうなんですか?
桜井 ギター1本でCDの音像を成立させるのってむずかしいんですよ。ちゃんと録らないとショボくなっちゃうから。そんなときに、芸術の森にすごくいい生音が録れるスタジオがあるって聞いて。内心は「やった! 秋の札幌に行ける!」って思いながら(笑)。でもホントにいい音が録れたね。
YO-KING あの5曲からスタートできてよかった。別荘地にポツンとあるようなスタジオでね。
──札幌は気候として録音に影響するところはあるんですか?
YO-KING 札幌は空気が乾いてるから、アコースティックギターの録音にはすごくいい。ギターは木でできてるから、乾燥してるほど良くて。
桜井 実際、札幌はびっくりするぐらい違う。ホントはバンドの曲も全部持ってって札幌で録りたかったんだけど、なかなかそれは大変なんで。だからギター1本ぶら下げて、ってことならいけるかなって。
YO-KING ドラムも皮だから、乾いてるところで録ったほうがよく鳴るんですよ。……ってエンジニアの人が言ってました(笑)。でも実際、いつもとおんなじギターとは思えないぐらいの音がスピーカーから出てきたから、びっくりしましたね。
ファックスに通してブーッて
桜井 ホントにいいスタジオだったなあ。毎年札幌でレコーディングしたいです。恒例にしようかなと。マンガも描く土地によって影響あるんじゃないですか?
椎名 あー、梅雨の時期は湿気が多いとペン先が引っかかるというのはよく聞きます。ペンの流れが悪くなるって。
──椎名さんが北海道で描き続けてるのには、何かマンガ家として理由があるんですか?
椎名 いえ、特に。ただ地元ってだけで(笑)。
桜井 マンガ家って東京にいなくても、どこでもできるんだ。
椎名 はい。海外で暮らしてる日本のマンガ家もいますし。
YO-KING & 桜井 へえー。
桜井 今は通信手段も発達してるから、出版社の近くにいなくてもいいのかな。あの、ネームっつうんですか? あれはやっぱりパソコンでやりとりするんですか?
椎名 や、私はファックスに通してブーッて。
YO-KING & 桜井 ファックス!?(笑)
桜井 生の原稿はどうするんスか? 郵送で送るのは怖いですよね、生原稿。
椎名 普通に送っちゃいますねー。週刊連載となるとやっぱり東京にいないと難しいでしょうけど。
桜井 そうかあ。ミュージシャンは現場でライブをやるってのがあるから、なかなかどこに住んでてもいいってわけにいかなかったりするからなあ。
YO-KING 景気がいい頃はマスタリングでロスやロンドンに行けたりもして。「向こうのほうがいい音が録れるから」って大義名分があるけど、今は「データだけ送って、お前らは日本にいていいよ」って話になっちゃうから(笑)。
桜井 行けないならマスタリングも東京でいい(笑)。
CD収録曲
- 胸を張れ
- アメンボ
- 朝が来た!
- サニー
- 生きる
- 話
- のりこえるの歌
- 青木橋に陽は落ちて
- イナズマに乗って
- 炎の後半戦
- カモン!カナガワン
- キスっていいよね
- OFF
- 君にだけ
- 夜空
- Keep on smiling
- ぼくのギター
初回限定盤DVD収録内容
- 「真心道中歌栗毛2011」ツアードキュメント
収録内容
- うみ
- 荒川土手
- 朝が来た!
- かべ
- 軽はずみ
- 僕は喜劇王
- Sound Of Love
- 流星
- FLYING BABY
- 情熱と衝動
- GREAT ADVENTURE FAMILY
- 絵
- 500マイル
- アメンボ
- 胸を張れ
- サニー
- サマーヌード
- (男・桜井が歌う)BABY BABY BABY
- どか~ん
- 空にまいあがれ
- RELAX~OPEN~ENJOY
真心ブラザーズ(まごころぶらざーず)
YO-KINGと桜井秀俊によって1989年に結成。テレビ番組の「勝ち抜きフォーク合戦」で10週勝ち抜いたことをきっかけに、同年9月にシングル「うみ」でメジャーデビューを果たす。「モルツのテーマ」「どか~ん」といったナンバーがTVソングに起用され、そのフォーキーなサウンドが好評を博した。1995年リリースのシングル「スピード」以降は、それまでのイメージを払拭するようなロック&ソウル色の強い音楽性へと移行。「サマーヌード」「拝啓、ジョン・レノン」「空にまいあがれ」など、数々の名曲を発表する。現在までに34枚のシングルと12枚のオリジナル・アルバムを発表。定評のあるライブ・パフォーマンスも健在である。2012年4月25日に通算13枚目となるオリジナルアルバム「Keep on traveling」をリリース。
椎名軽穂(しいなかるほ)
10月23日北海道生まれ。1991年、「別冊マーガレット」(集英社)にて「君からの卒業」でデビュー。同誌での短期連載を活動の中心にしていたが、2003年に長期連載「CRAZY FOR YOU」が開始すると、天然で冴えないヒロインが懸命に恋する姿が読者の共感を呼び話題に。2005年、同誌にて「君に届け」を読み切りとして発表。好評を受け翌年より連載開始となった。陰鬱な外見とは裏腹に純粋なヒロインに魅せられたティーンエイジャーが続出し大ヒットを記録。同作で2008年度第32回講談社漫画賞少女部門を受賞した。「君に届け」は1~15巻まで発売中。最新16巻は2012年5月11日に刊行される。