マジカルミライ2021 cosMo@暴走Pインタビュー|“神様のような存在”初音ミクが開闢したクリエイターたちの世界

10月から11月にかけて大阪および千葉で、「初音ミク」たちバーチャル・シンガーの3DCGライブと、創作の楽しさを体感できる企画展を併催するイベント「初音ミク『マジカルミライ 2021』」が開催される。

今年のテーマソング「初音天地開闢神話」を制作したのは、初音ミク発売直後の黎明期からボカロ曲を投稿し続けているクリエイター・cosMo@暴走P。人間には再現できないほどの速さでボーカルが進行する「初音ミクの消失」に見られるような“ボカロらしい”表現を追求してきたcosMo@暴走Pは、「メルヘンファンタジー」というコンセプトのもと、どのようにテーマソングを完成させたのか。cosMo@暴走Pなりの初音ミクに対する思いや体験が詰め込まれた「初音天地開闢神話」制作の裏側を聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦

今年は変化球で攻めたいのかな

──「マジカルミライ」のテーマソングのオファーがあったとき、率直にどう思いましたか?

まさか自分にオファーが来るとは正直思ってなくて(笑)。代表曲であるところの「初音ミクの消失」に表れているように、僕は音楽的に尖った作風の作家だと自覚しているんです。だから公式から声がかかるようなことはないだろうと思っていたので、最初に連絡をもらったときは驚きました。

──毎年テーマソングを担当される方は「驚いた」とおっしゃっている気がします(笑)。cosMoさんに声がかかった理由はなんだと思いますか?

今年は変化球で攻めてみたかったのかなと(笑)。オファーの際に「好きに作ってください」と言ってはもらえたんですが、公式からのオファーというプレッシャーは大きくて。どう期待に応えようか、どう楽曲を尖らせようかというのは悩みました。

──今年の「マジカルミライ」のテーマは「メルヘンファンタジー」です。オファーの際にはこのテーマも決まっていたわけですよね?

はい。「メルヘンファンタジー」と聞いて、自分の中にはまず日本のRPG的な、剣と魔法の世界みたいなイメージが思い浮かんだんです。実際クリプトンさんからいただいた資料には、オーバーテクノロジーで作られた謎の動力の飛行船とか、いわゆるオープンワールドのゲームを彷彿とさせるような世界観のイラストが描かれていて。RPG的な世界観を思い描きながら、場面としては年に一度の村の収穫祭みたいなお祭りのイメージですね。RPGでは、そういうお祭りで盛り上がった村は翌日に焼かれてしまうことが多いんですが(笑)。

「初音ミク『マジカルミライ 2021』」KAITO、MEIKO、巡音ルカ、鏡音レン、鏡音リンの衣装デザイン。Art by 左 ©CFM

「エキセントリックかつダイナミックな展開を」

──「メルヘンファンタジー」というテーマはありつつ、今年のテーマソング「初音天地開闢神話」はかなりいろんなギミックを詰め込んだ複雑な曲という印象があります。

クリプトンさんからは「メルヘンファンタジー」というテーマ以外に、「cosMo@暴走Pらしくエキセントリックかつダイナミックな展開を」というオーダーをいただいたんですよ(笑)。普通にポップなことをやりつつ「何かほかの人がやらないようなことをやったほうがいいのかな」と考えて、高速ボーカルのパートや架空言語のパートを入れてみたり、ちょっとケルティックな音楽をイメージして5拍子とか不思議な拍子を取り入れてみたり。ポリリズム的なパーカッションも入っているので、かなり難解な曲になってしまったかもしれませんね(笑)。

──歌詞で「♪V♬♫♩V♬♫♫V」と表記されている架空言語の部分はなんと言わせているんですか?

特に意味は持たせていないんです(笑)。逆に変な空耳に聞こえないように気を使いました。

──音符に交じって表記されている「V」には何か意味があるんでしょうか?

ああ。あれは純粋に音楽記号の1つで、ブレスを表すものを入れたくて、ああいう歌詞になっています。

──なるほど。ブレスと言えば、曲の冒頭に初音ミクの息を吸い込む音が入るのも印象的でした。

だいたいああいうのは削るものですからね(笑)。「マジカルミライ」における初音ミクを考えたときに、ブレスを入れてちょっと生っぽくする演出をしたほうがいいのかなと思ったんです。ちょっと過剰なぐらいしゃくらせたりもしていますし、ボカロらしいと捉えるなら息遣いはカットしたほうがいいとも言えるんですが、今回は息遣いを入れるほうが正解かなと思って。

「初音ミク『マジカルミライ 2021』」初音ミクの衣装デザイン。Art by 左 ©CFM

ボカロの弱点を消す=高速のボーカル

──cosMoさんの作品において、多くのファンが注目しているのがボーカロイドによる高速ボーカルのパートだと思います。振り返ってみれば「初音ミクの消失」(2008年4月に投稿されたオリジナル曲)で生まれた手法ですが、こういったボカロの使い方はどのように生まれたんでしょうか?

ボーカロイドというツールを使い始めたときに僕が感じたのは、ボカロは人間的に歌うことがそこまで得意ではないということなんです。普通に歌わせるとどうしても人間の代わりのように捉えられてしまうし、その場合に「人間より下手」みたいな印象を持たれてしまうのはよくないなと。その結果、どうしたらボカロらしくなるか、ボカロならではのものが作れるかと考えて、早口という表現にたどり着きました。ボカロの弱点を消す形で歌わせるにはどうしたらいいんだろう、と考えた末ですね。

──今回「マジカルミライ」のテーマ曲を担当するにあたっては、この高速ボーカルを入れないことには……。

僕にオファーが来た以上、高速ボーカルを入れないわけにはいかないですよね(笑)。これはクリプトンさんにもファンにも期待されている部分だと思ったので、これは外せないなと。

──ファンの間では楽曲中盤の早口パートでここ数年の「マジカルミライ」のテーマソングのことを歌っていると考察されています。これに関しては?

皆さんの考察をぶち壊すようで申し訳ないんですけど、実はこちらとしてはそこまで意識していなくて(笑)。偶然そう捉えられるような詞になっているというか……。

──では中盤の早口パートの詞はどこからインスピレーションを得て書かれたものなのでしょうか?

神話の世界を描いた絵本とか、そういうイメージですね。「神様のようなものがいろんなところを巡って人を助ける」みたいな物語が子供向けに平たい文章で書かれている形をイメージして書いたのがあの詞なんです。動画を公開したら、皆さんがここを深読みしてくださって……(笑)。

──偶然一致しているというのも、ある意味ロマンチックなことだと思います(笑)。もう1つ、歌詞に「オーパーツ」と出てくるのも「砂の惑星」のオマージュなんじゃないかと言われていますが……。

あっ、そうなんですね。それも偶然です(笑)。過去の「マジカルミライ」のテーマソングは初音ミクに言及する曲が多い印象だったので、逆に自分はそこからちょっと離して書こうかなという気持ちが強かったんです。だから過去の作品から何か引用しようみたいなことは意識していなくて。

──「初音ミクの消失」に表れているように、もともとcosMoさんは「初音ミクに言及する曲」が得意なイメージがあったので、今回のアプローチは意外だと感じました。

「消失」という曲はボカロを機械と捉えてちょっと風刺的に描いた曲ですけど、ボカロが登場してからもう10年以上経って、シーンも様変わりしましたから。今回は「消失」的な路線からは一旦距離を置いて、純粋に初音ミクというツールを通してたくさんのクリエイターが羽ばたいていったという事実にフォーカスして曲を作りたかったんですよね。