ナタリー PowerPush - Lyu:Lyu

自らの苦悩と人々の期待の間で

もう一度自分を救うために

──でも、作品をリリースするとなると、自分のためだけに歌うわけじゃなくなってくるわけで。

コヤマ はい。何か期待に応えなければいけないんじゃないかとか考え始めて。そうすると曲が作れなくなって。かつ、作品をリリースするからには期限というものがあって。前回のミニアルバムのときも、発売できなくなるくらいのギリギリの状態だったんです。そういう切羽詰まった状況だからこそ、逆にいい部分が出たっていうのが前作だったんですけど。でも、それがあってからほんとに一時期自分を見失っていて。

コヤマヒデカズ(Vo, G)

──なるほど。それが2012年の前半だった。

コヤマ そうですね。

──ナノウとして弾き語りのアルバムを初めてリリースしたのが2012年9月ですけれど、あれを作っていたのが、ちょうどその時期になりますよね。

コヤマ 曲作りとか、音楽制作からとにかく離れたくてしょうがないみたいな頃、ほんとに半分ノイローゼみたいになってたときでした。だから、あれはカバーアルバムになったんです。

──そのスランプを抜けたきっかけになったのは?

コヤマ いよいよこのバンドのフルアルバムを出そうということになって、いろいろな人の意見を聞いて。それでようやく自分のやるべきことみたいなものが初めてはっきり見えてきた気がしたというところがあって。

──やるべきことというのは?

コヤマ そもそも表現をしている人間として自分に与えられた役割がなんなのかっていうのを、そこで考えたんです。今まで表現っていうのは自分のためだけのものだった。でも、積極的に世の中に発信していく立場に立ったときに、1人のミュージシャンとしてどうしたらいいのかをすごく考えたんですよね。

──自分のためだけじゃなくなったっていうこと?

コヤマ はい。自分の苦悩を書きなぐってぶつけることは変わっていないんですけど、そこにどんな意味があるのかということに自覚的になれた。それで自分のやることの腹が決まったというか。今現在の苦悩している自分も含めたこれまでの自分と、そして聴いている誰かをもう一度救いたい。そのためには、改めて自分の気持ちの深くまで潜っていって音楽を作るべきだって腹を括れたというか。やっぱりそれが一番のきっかけでしたね。

──1つのターニングポイントが去年の秋以降にあった、と。

コヤマ そうですね。

──では「深く潜ることができた!」っていう手応えを感じた曲ってどれですか?

コヤマ 1曲目の「神経町A10街」っていう曲ですね。それまでの3枚のミニアルバムの曲たちは、自分の中でタブーみたいなものを設けていた部分があって。こういう言葉は使ってはいけないとか、こういう内容の歌詞は歌ってはいけないとか。自分のバンドの音楽に対する美意識みたいなものがあって。

──それがルールになっていた。

コヤマ はい。ただ、逆にそのせいで行き詰まってた部分もあったんですよね。でも極端な話ですけど、明日とか明後日に突然自分が死んでしまったら、最後に出したアルバムが自分の遺作になるわけで。今回のアルバムが自分の生涯最後の作品になったとき、そのことに納得できるのか?って考えたら、勝手にタブーとしてきたことを全部取り払ってしまおうと思えて。そうやって腹を括って作ったのがこの曲なんです。

──この曲の言葉の振り切れ具合ってすごいですよね。「トマト頭が街で轢かれて」とか、「あの子のスカートの中身と核弾頭は等価交換」とか、インパクトの強い言葉を書いている。

コヤマ そうですね。さっきも言ったように、それまで自分が書いてきた歌詞って、徹頭徹尾自分に向けたものだったんです。でもこのアルバムを作っているときには、自分が担う役割とか、その意味みたいなものを自覚していたので。答えの出ないことに1人で悩むより、悩みを振り切りたい思いがすごくあって、それが歌詞の端々に出ているような気がしてますね。

歌うことで自分の過去に復讐を遂げてる

──純市さんと有田さんにとって、「このアルバムがいいものになる」という手応えを感じた曲はどれでした?

純市(B)

純市 自分は2曲目の「黒煙」ですね。この曲はもともとコヤマの持ってきた簡単なコード進行から、スタジオで3人で構成とか展開を決めて作っていて。短時間でできあがった曲なんですけど、Lyu:Lyuらしいパンチ力と疾走感が出せたと思います。

有田 俺は「Y」ですね。今回の作品の中で一番言いたいことを歌詞に乗っけてる曲だと思ってて。だから「これはほんとしっかり表現せんといかんな」と思ったというか。あと、色合いの幅が広い曲だと思うんです。自分たちが今まで決めつけてきたような色合いだったりイメージだったりを崩すとかではなく、それを広げていく挑戦のある曲だった。

──「Y」という曲はどういうふうにしてできてきた曲ですか?

コヤマ これも自分が大まかな枠組みを考えて、バンドに持っていった曲なんですけど、今までバンドでは、恋愛の歌とか、男女関係に関する歌っていうのは一切歌ってこなかったんですよ。それもさっき言っていた自分に課していたタブーの1つだった。いわゆるJ-POP的な恋愛の歌がものすごい嫌いだったので、「絶対そんな歌、歌ってやんねえぞ」と思ってたんですけど。ただ、この曲は誰にでも当てはまるような恋愛の歌ではなくて、むしろ正反対の、ごくごく個人的な過去に対する復讐の歌なんですよね。よく週刊誌とかで「あいつとの性生活はこうだった」って芸能人に抱かれたことを暴露する女の子がいるじゃないですか。言ってみれば、自分にとってはそれと同じ類の歌なんですよね。歌うことで自分の過去に復讐を遂げてる。だから、聴いてて一番吐き気がする歌です。暗すぎて(笑)。

ニューアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」 / 2013年3月20日発売 / 2300円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3041
「君と僕と世界の心的ジスキネジア」
収録曲
  1. 神経町A10街
  2. 黒煙
  3. 回転
  4. 梗塞
  5. アノニマス
  6. 文学少年の憂鬱
  7. 君から電話が来たよ
  8. Destrudo
  9. Y
  10. ヒビ
  11. それは或る夜の出来事
Lyu:Lyu(りゅりゅ)

ボーカロイドプロデューサー・ナノウとしても知られるコヤマヒデカズ(Vo, G)と、純市(B)、有田清幸(Dr)による3ピースロックバンド。2008年、コヤマが同窓生の純市、有田に声をかけて結成。2009年よりLyu:Lyu名義で活動を開始し、2010年、1stミニアルバム「32:43」をリリース。オリコンの「ネクストブレイクアーティスト」に選出されるなど、アグレッシブなサウンドと絶望的な言葉の中に希望を垣間見せる詞が話題を集める。2011年には2ndミニアルバム「太陽になろうとした鵺」を、2012年には3rdミニアルバム「プシュケの血の跡」を発表し、「SUMMER SONIC2012」の大阪公演にも出演。そして2013年3月、1stフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースした。