luz「FAITH」特集 luz×堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)|2人が打ち立てた“信仰”の向こう側へ

手を動かさず、自分のセンスを疑う時間

──自身も作曲で参加している堀江さんは「FAITH」「信仰」というキーワードをどう解釈して作品作りにつなげたんでしょうか?

堀江 「信仰」ってすごく難しいテーマだと思うんですよ。そもそも日本において信仰というものの解釈がバラバラですよね。人によっては非日常的なワードだし、人生の中心に信仰がある人がいるかもしれないわけだし。

luz 「信仰」の捉え方は人それぞれなんですが、僕自身は誰もがみんな何かしらの“信者”なんじゃないかなと考えているんです。例えば最近「推し」という表現が流行っているように、何か熱を持って応援しているものがある人、そうでなくても愛するもの、大切なものがある人はみんな、ある意味何かの信者なんじゃないかなって。

堀江 思い浮かぶ風景が人それぞれだから難しいテーマではあるんですが、楽曲発注という意味では解釈がバラバラだからこそ作家に委ねる部分が大きくて面白いと感じました。実際、打ち合わせの中で「信仰」というテーマを伝えたときに戸惑うような人はいなかったよね。

──堀江さんが提供した「FAITH」は、アルバムの看板にもなる楽曲ですよね。「信仰」というテーマを真正面から扱うこの曲をどう作り上げたんですか?

堀江 まだほかの曲がまったくない段階から作る曲だったので、それなりのプレッシャーがあったんですよね。この曲がどう仕上がるかによって、アルバム全体の道筋が変わると思っていましたから。作る際にはけっこう時間を取らせてもらって、1カ月くらいは考える時間に使ったと思います。これは曲作りに限らないんですが、いきなり手を動かすんじゃなくて、まず立ち止まって考えることが大事だと最近特に感じていて。自分のセンスを疑う時間というか。手を動かせばなんらかの形にはなるんですが、その前に本当にこれでいいのか、自分自身と向き合う時間が必要なんです。考える時間が多ければ多いほど、洗練された、新鮮なものが作れるはずなので。luzくんから「FAITH」という言葉をもらってから、自分の中にある「信仰」という概念を考え直して、疑って、何か見えるまでは手を動かさずにずーっと考える時間に費やしていました。

luz でも実際に書き始めてから曲が上がるまではかなり早かったですよね。

堀江 うん。「FANATIC」のときにもらった「ラスボス」というキーワードが生きていた。例えばRPGのラスボスって実はもともと人間で、何かのきっかけで暴走してしまっただけだったりするんですよ。すごい力を手に入れて、それを自分自身がコントロールできなくなってしまい、ラスボス自身が救いを求めているというか。「FAITH」には信仰を受ける側の人間が実はもがいている苦しみを込めつつも、その内側には大きなエネルギーを感じる曲にしたくて。方向性が決まってからの作業はあっという間で、手を動かし始めてからその日のうちには送るくらいすぐにできました。

──作詞を担当したluzさんは堀江さんの曲を受けてどういうインスピレーションを受けましたか?

luz すさまじいエネルギーを感じる曲だったので、「信仰」という名の通り、妄信的に何かを強く思う気持ちを言葉にしなきゃと思いました。「FANATIC」が教祖目線の曲だとしたら、「FAITH」はそのアンサーソング、信者の側に立って歌う曲なんです。周りになんと言われようとも支えられて生きることの力強さや、仮に不幸だとしても生きる意味を与えられることの希望を言葉にできればと思って。堀江さんがキャッチーな曲を書いてくれた以上、そこに120%の言葉を乗せなきゃダメだと思って「FAITH」の作詞にはすごく苦労しました。歌詞もキャッチーじゃなきゃいけないし、アルバムの表題曲になるわけだからメッセージ性もちゃんと込められていなければならない。アルバムの中でも難易度の高い作詞でした。

堀江 僕が歌詞を書くこともできたんですが、今回はluzくんの表現したい世界観が明確にあったので、任せたほうがいいなと思って。書いてもらった歌詞はほとんど直すところがなくて、ちょっとだけサウンドに合わせてワードを変えてもらったくらい。luzくんは世界観を描くのが上手だから、「FAITH」にもその才能を生かしたいい歌詞が乗ったと思っています。

luz×第五人格の相性

──今回堀江さんが提供した曲は「FAITH」「Identity Crisis」「Despair」の3曲です。これらのうち「Identity Crisis」はゲーム「IdentityV 第五人格」のテーマソングとして制作されたものなので、成り立ちがちょっと特殊ですよね?(参照:luzが「第五人格」イベントに新曲提供、「心音MAX祭」最終日にはライブパフォーマンス

luz 「Identity Crisis」に関しては、アルバム制作を始めた頃には作る予定になかった曲なんです。この曲は「第五人格」とのタイアップ曲なんですが、オファーをもらった際に、タイミング的にも堀江さんに作曲してもらえたらアルバムの内容ともリンクするものができるんじゃないかなと思って。ただ、堀江さんは僕のアルバム作業以外にもいろんな提供曲があってお忙しそうなので……。

──これもまたダメ元でのお願いだったわけですね。

luz はい(笑)。

堀江 確かにタイミング的には難しかったんですが、のちのちアルバムに入れることを考えると、誰かに楽曲をお願いして作品のトーンを整える作業をするよりも、自分で書いたほうが早いと思って。タイアップ先の「第五人格」が、luzくんが持っている世界観と同じ空気感を持ったゲームだったんですよね。だからluzくんのスタンスやアルバムのコンセプトを捻じ曲げることもなく、完成まで持っていけた曲でした。

──ちょっとテンポが速めで、ライブ映えする曲でもありますよね。

堀江 「第五人格」のイベントでluzくんが歌唱することも決まっていたので、ライブでどう使えるかも考慮に入れています。僕もライブでluzくんが歌うところを観させてもらったんですが、かなり盛り上がっていたのでひと安心でした。

luz スピード感のある曲なので、ライブで盛り上がるし、アルバムの中の1曲としてもいいスパイスになっているんですよね。

堀江 うん。アルバムプロデュースという観点から見ても、「Identity Crisis」が入ってよかったと感じるので、ありがたいタイミングでいいタイアップが舞い込んできたなと実感しています。

“信仰”の次を予見させる“絶望”

──もう1曲はアルバムの最後に収録されている「Despair」ですね。これはちょっとこれまでの提供のラインとサウンド感が違うと思いましたが。

luz アルバムの曲数を13曲にしようというのは最初から決めていて、最後の1曲だけはどういう曲にするかしばらく保留にしていたんです。

堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)

堀江 ほかの曲が仕上がってきてから、最後のピースを考えようと思って。曲が出そろってきたときにluzくんが言ったのが「最後に救いになる曲が欲しい」ということだったんですよね。ただ手放しにハッピーエンドにするわけじゃなくて、アルバムで描かれてきた狂気や熱烈な信仰心など紆余曲折をすべて前提とした救いを描かなければ意味がない。なので、少し変わった救いを描く必要があったんです。

──「Despair」は「絶望」という意味ですよね。歌詞に関してもここまでアルバムで貫かれてきた「信仰」というテーマを抜け出た印象がありました。

堀江 そうなんです。「信仰」というテーマでこれまでいろんな曲を歌ってきたluzくんの次を予見させるような1曲にしたくて。そうなったときに、曲を作るのは前提として、詞に関してもこの曲だけは自分で書いたほうがいいかなと思って、「作詞もやらせてくれないか」とお願いしました。

luz 堀江さんがそう言ってくれたので、僕としてはもうお願いするだけでした(笑)。「ライブで歌う光景が浮かぶような曲にしたい」という要望だけ伝えたかな。

堀江 「Despair」はアルバムのエンディングとして喜劇でも悲劇でもなく、“愛”という一番身近な信仰をテーマに、その喪失を歌った曲なんです。luzくん自身とこの曲を聴いた人たちを次の場所に連れていくような曲にしたくて、自分の中ではアンコールで歌うような曲だろうな、というイメージがあります。

luz この曲は本当に神曲で、もしこれをライブで歌ったらきっと泣いちゃうだろうなと思って。

堀江 そう言ってもらえるとうれしいな(笑)。

luz 歌でちゃんと気持ちが伝えられる曲と歌詞なんですよね。「Despair」が完成して、アルバムの収録曲が出そろって、本当に堀江さんにお願いしてよかったなと思いました。