luzが4thアルバム「FAITH」をリリースする。
「FAITH」はluzが約4年4カ月ぶりにリリースするアルバム作品。堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)が全楽曲のサウンドプロデュースを担当しており、作家として山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)、明希(シド)、ケンカイヨシ、すりぃ、奏音69、蝶々P、かいりきベアといった面々が参加している。音楽ナタリーでは本作の発売を記念してluzと本作のサウンドプロデューサーである堀江へのインタビューを実施。luzのライブで欠かさず披露される「Dearest, Dearest」を提供するなど、兼ねてから親交があった両者がタッグを組んで制作したアルバム「FAITH」制作の裏側に迫る。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 前田立
最初に会ったときは“才能の原石”
──そもそもluzさんと堀江さんはいつ頃から交流があったんですか?
堀江晶太(PENGUIN RESEARCH) 5、6年前かな。一緒のライブに出る機会があって、そのときにお互いのステージを観ていたんです。
luz ピコさんの主催ライブですよね。堀江さんがPENGUIN RESEARCHとして出演していて、そのときに初めてお会いしました。
堀江 そのときは僕が不勉強なこともあって、luzくんの呼び方がわからないくらいだったんですよ。「luz」という名前はよく見かけるけど、どういう人なんだろうって。ステージを観てまず思ったのは「華があるな」ということでした。それと同時に、当時はそのステージでの魅力をどう伸ばしていくのか模索しているんだろうな、という発展途上な可能性のようなものも感じて。方向性を見出して、本人が努力したらきっとこれから先に化けるであろう、才能の原石みたいな人だなと感じたのを覚えています。
luz 僕はもちろん当時から堀江さんのことをよく知っていました。kemuさんとしてボカロ曲を公開しているのも知っていたし、大好きな曲も多くて。でもkemuさんの曲はレンジが広くてとにかく難しいから、いつか成長したら曲を書いてもらいたいな、と初対面のときに思っていました。
──luzさんのその思いは「Reflexión」(luzが2017年6月にリリースしたアルバム作品)のときに叶うわけですよね。
luz はい。アルバムを作る際にダメ元で堀江さんに書き下ろしのオファーをしたんです。正直断られるだろうなと思っていたんですが……。
堀江 いやいや。断らないよ(笑)。
luz 書き下ろしの依頼をする際の打ち合わせで、いろんなリファレンスを共有してみたら、好きな音楽のジャンルがけっこう共通しているような気がしたんですよね。その後に「Dearest, Dearest」のデモが送られてきたとき、「これだ! やっぱり趣味が同じかも!」と思って興奮してました(笑)。いろんなお願いを全部受け止めてくれて、かつ音作りが最高だったので、「ここぞ」というときに堀江さんにまたお願いしたいなと思っていたんです。
ラスボス感のある曲を
──その願いが実現したのが「FANATIC」という楽曲ですね。堀江さん提供のこの曲は、2019年のツアーのテーマ曲として発表されました。
luz 「Dearest, Dearest」のおかげで自分のライブスタイルが確立して、言うなれば堀江さんが僕のライブの方向性を見出してくれたんですよね。それならばツアーのタイトルと同じ楽曲を堀江さんにお願いしたいなと思って完成したのが「FANATIC」なんです。
堀江 「FANATIC」の発注のとき、luzくんが「ラスボスっぽい感じがいい」と言ったんですよ(笑)。「ラスボス感がある」「一番強そうな感じ」みたいな。
luz 言いました(笑)。
──抽象的なように聞こえますが、おそらくゲーム好きな堀江さんからするとわかりやすいキーワードですよね。
堀江 そうですね。しかもluzくんとは好きなゲームが完全に一致していたんですよ。
luz 僕はゲームの中で「ゼノギアス」が一番好きなんですけど、堀江さんとお話していた際にその話題になって、すごく盛り上がったことがあって。
堀江 お互い好きなゲームが共通していたから「ラスボス」と聞いたときに、「ああ、あの途方もないスケールのアレね」みたいな感じですぐわかって。だから曲作りの足がかりとしては「ラスボス」のひと言で充分でした(笑)。
間口を広げつつ、ファンを置いていかない
──ライブで肝となる曲を書いてもらっていた堀江さんを、今作のサウンドプロデューサーとして起用したのはなぜですか?
luz まず配信ライブをする際に実施した人気投票で圧倒的1位が「FANATIC」、2位が「Dearest, Dearest」という結果が出て。圧倒的に堀江さんの楽曲が僕にハマっていることがわかったので、だったらもっとがっつりとタッグを組んでもいいんじゃないかと思ったんです。ただ堀江さんはいろんな方に楽曲提供をしているから、またしてもダメ元で「アルバム全体のプロデュースをお願いしたいです」と依頼してみたら、二つ返事で快諾してもらって。
堀江 最近は僕はプロデュースワークにも興味があって、いいタイミングでいいお話があれば受けたいとは考えていたんです。luzくんはその才能が開花する前からライブを観させてもらって、楽曲提供をしながら本人が作りたいものが明確になっていく過程を一緒に歩んできた感覚もあったし。サウンドプロデュースのオファーをもらったとき、luzくん自身がやりたいことのビジョンが伝わってきて、僕が力になれる手応えもあったから、今luzくんと一緒に作品を作るのは僕にとっても相応しいタイミングなんじゃないかと感じたんです。
luz サウンドプロデューサーを引き受けてもらってからは、かなり綿密に打ち合わせを重ねました。アルバムのコンセプトの打ち合わせだけでも10時間以上はZoomで話し合ったと思います。
堀江 うん。通話してから各自持ち帰って、また通話して煮詰めていく作業にけっこう時間をかけたよね。
──コンセプトから相談しているということは、どの作家に楽曲を提供してもらうかも当然お二人で相談して決めているわけですよね?
luz はい。まず堀江さんと話し合ったのは、僕の持ち味を生かした楽曲を追求しつつも、今まで僕のことを応援してくれたファンの方々を置いていかないようなアルバムにしようということでした。なので、奏音69さんや蝶々Pさん、すりぃさんのようなボカロPの方々からの書き下ろしを入れるというのはマストにしようと考えていて。その上で、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)さんや明希(シド)さんといったこれまでコラボしていない方々にも楽曲提供をお願いしているんですが、そこには新しくluzを知る人の間口を広げたいという思いも入っています。
堀江 luzくんの持っている魅力をいろんな方面の人に引き出してもらうのが目的だったので、バラエティに富んだ作家さんに参加してほしかったんですよね。ただバランスを見誤るとこれまでのファンに刺さらなかったりする可能性もあったので、そこは慎重に本人とも話し合って、いろんな層の人にアルバムを楽しんでもらえるよう気を使いました。
luz 作家さんたちとは1人ひとり打ち合わせをさせていただいたんですが、印象的だったのはボカロPのすりぃさんで。話してみたら実は音楽の趣味がいろいろ共通していたんですよ。僕と同じですりぃさんもAcid Black CherryやJanne Da Arcのことが好きで、それが打ち合わせ早々にわかったので話が早かったですね。
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手を動かさず、自分のセンスを疑う時間