Lunv Loyalとはどんなラッパーなのか? その才能を絶賛するSEEDA、Jinmenusagiが証言 (3/3)

Lunv Loyalソロインタビュー

メジャーなら1人じゃできないことができる

──まずは今年に入りメジャーレーベルとのディールをしたというのは大きなトピックだったと思います。その経緯について教えてください。

最初はユニバーサルのアカウントからのDMがきっかけでしたね。「一度お話ししたい」と。自分も今後を見据えてもっと外側にアプローチできる環境だったり、ライトな層……普段ヒップホップを聴かないようなリスナーにもアプローチできる方法だったりを模索していたタイミングだったので、話してみようと。やりとりの中で、自分の音楽をちゃんと聴いてくれてるのも伝わってきたし、自分の音楽をもっと広めたいという熱意も感じて。自分の音楽を売るために自分以外の人間が自分のこと以上にがんばってくれるっていうことが、今まで仲間以外ではなかなかなかったので。その気持ちが純粋にうれしかったというか。自分自身、経験してみたいという気持ちがあったので、一緒に話を進めてきた感じですね。

Lunv Loyal(撮影:Atsuko Tanaka)

Lunv Loyal(撮影:Atsuko Tanaka)

──Lunvさんご自身としてはメジャーでの活動においての具体的なメリットってどういう部分だと思いますか?

1人じゃできないことができるってことですね。例えば先日のスタジオライブはいい例かもしれないです。そういう動きはなかなか1人ではできなかったなと。自分がやりたくてもできないことを実現させてくれる力を持ってるじゃないですか、大きい会社のほうが。

──それこそ、スタジオライブで披露されたバンドセットもここ最近の新しい試みですね。

バンドセットでのライブは自分が絶対やりたいことの1つだったので。配信でのスタジオライブだったんですけど、観客ゼロのライブということ自体やっぱり新鮮だったし、反響を見てると、やってよかったなと思えた。これまでリリースした過去の楽曲が新しい形で届けられる感覚もあって楽しかったです。

──少しさかのぼって、去年末にリリースされたアルバム「LOYALITY」についてのご自身が思う成果もお聞きしようと思っていて。

アルバムは20代までやってきたことをうまくまとめられたかなという満足感はありつつも、もっといろんな人に聴いてほしいなというのが正直な気持ちかもしれません。とはいえ自分はできた作品に関して満足しているので何も問題ないかなと思ってますけど。

「こいつはこうだ」じゃなくて「俺はこうだ」

──そして30歳を迎えたわけですが、20代の頃の自分を振り返るとどうですか?

時間はかかってしまったけど、それでも最短距離でここまで来たなという自覚はあって。どれひとつとっても飛ばせなかったかなと思います。歌う内容に関しては20代の中で自分としては変化がたくさんあったと思っていて、昔はもっと攻撃的だったし、自分の外に目を向けて歌ってたって感覚があります。そこがだんだんと自分の内面にベクトルが向くようになったというか。「こいつはこうだ」じゃなくて「俺はこうだ」になったし、「あいつがどう」っていうよりは「自分がどう」になった。

──そういったマインドは直近の楽曲でも感じられますね。例えば「存在」の中でも「受け止めよう」と繰り返し歌っているし、最新曲の「Air Life」では「全部を自分のせいにすれば感謝が生まれた」と、やはり原因を自分の中に求めるリリックが印象的でした。ご自身の中でマインドが変化したきっかけはあったんでしょうか?

なんだろうな……あの、3年ぐらい前に臨死体験みたいなのをしたんですよ。気を失って、パッと目覚めたときに「生きてる……」と思って。自分では死んだと思ってた。そのタイミングに人生観がめちゃくちゃ変わって。生きてることに感謝できた……というか感謝ということがどういうことかちゃんと自分で考えることができた気がしますね。自分1人の無力さがわかったというか。物の見方が変わって、気付けてなかった部分に気付けるようになってきた。

──臨死体験ではあるものの、その経験がポジティブな方向に働いたと。

そうですね。それまでは何もわかってなかったんだと思います。自分は1人なんだと思ってた節があったけど、そうじゃないんだなって。そう思ったら自ずと歌のベクトルも変わってきて。これまで「戦い」がテーマだったのが、「救い」になった。

最初から「行くしかねえ」って気持ち

──その臨死体験が内面のターニングポイントだったとして、外側……Lunv Loyalというラッパーのアーティスト的な転換期って客観的に見ていつ頃だったと思いますか?

Lunv Loyalを名乗ってラップを始めた頃からそこまで変わってない気が自分ではしてるんですよ。もちろん数字はじわじわ伸びてきてるけど、爆発的な転換点ってそこまで自覚してなくて。最初から「行けるかも」というより「行くしかねえ」って気持ちでやってるし。

──ラッパーを名乗ったときから遊びや半端じゃなかったということですね。

そうっすね。絶対ナメられたくなかったし、当時はラップするやつは周りでも珍しかったんで、それはもう結果で黙らせるしかないなって思ってましたね。

──その決意の固さは何に起因したものなんでしょう。

自分ができることをやっと見つけた感覚もあったし……自分次第でどうにかできるっていう状況が、俺にとっては最高に痺れたというか。これでダメだったらもう全部自分のせいなわけで、その状況に最初はたぶん興奮してた。そこにナメられたくないとか意地が加わった感じなのかな。あとはやっぱり自分は音楽に救われた部分がデカかったんで。今度は自分自身が誰かを救えるかもしれないなんて最高じゃないですか。そのチャンスがあること自体が最高。自分にとってのバイタリティやモチベーションはそういう部分ですね。

──これまでも尾崎豊からの影響はいろいろなところで公言されてますね。ご自身でもそういった音楽に救われたという思いがある?

だいぶ救われたと思いますね。ただ、最初は「じゃあ自分も歌を歌ってみよう」とはならなかった。ラップを始めたのも友達の影響だったし、ノリだったけど、だんだんとヒップホップにハマるにつれて、自分が尾崎を聴いて救われたように、自分の曲で誰かを救えたりできるんじゃないかと思えるようになってきたんだと思います。

──正のスパイラルというか。Lunvさんがキャリアを続けてこれた秘訣みたいなものをほかにも伺いたいなと思っているんですが、自分の中での決めごとみたいなものはあるんでしょうか?

そこまでは考えてないけど、やっぱり1年単位で作品を出していくっていうのはなんとなく決めてますね。それを積み重ねるという。続けられない人って多いじゃないですか。最初は言いたいことがいっぱいあるから1、2枚は作品を出せるけど、常に言いたいことが湧いてくるタイプの人間じゃないとやっぱり続けられない。自分はそれができたのがでかかったのかなと。幸いにも次から次に訴えたいことがある人生だった。ラッパーは自分に起きたことを、いいことも悪いことも全部歌い上げてなんぼだって俺は思ってるし、そうでありたいんで。それができる限りは楽しめるかなって。

Lunv Loyal「Air Life」配信ジャケット

Lunv Loyal「Air Life」配信ジャケット

曲は死ぬまで作り続ける

──ここから1年、2024年から2025年にかけてどんなことを達成したいか、ビジョンは見えてますか?

まずはワンマンライブ。これを成功させることっすね。あとはなんだろう……これは毎年変わんないんですけど、去年よりヤバいことをする。去年よりカッコいい曲を作る。そんぐらいですね。

──ありがとうございます。では最後に。Lunvさんは折に触れて地元のシーンへの還元であったり、次の世代へどうバトンを渡していくか、ということをおっしゃられてると思うんですけど、そういった思いの動機はなんだったのかというところで締めていこうかなと。

自分にはフックアップしてくれる先輩がいなかったというのが大きかったと思います。仲よくしてくれる先輩はいたけど、ラップでしっかりメシ食えてる先輩もいなかったし。ほかの地域で「あんな先輩がいて」とか「同世代のやつが一緒にいて」みたいな話はうらやましく感じてたんで、地元で下の世代の音楽やりたいやつらにはそういう思いをさせたくないんですよ。ただ、シーン全体を見回してみても10年前よりは確実に面白くなってきてますもんね。昔に比べたらもう最高だと思いますよ。そんな時代に自分が地元や下の世代に対してできることがあるならなんでもやってあげたいというか。

──秋田のシーンの底上げがしたいと。

はい。あと自分が思うのは、ラッパーはどんどん増えていってるけどDJが減ってるなっていう。以前はもっとイケてるDJとかイケてるパーティがあったような気がする。

──若い人にとってはラップよりDJのほうが参入障壁が高い感じがしますよね。お金もかかるし。

そうそう。でもパーティはDJがいないと成立しないから。そのためにももっとDJが増えてほしいっすね。

──将来、Lunvさんが地元でクラブを開く、みたいなことがありえるかもしれません。

それは面白そうだし、やりたいことの1つですね。俺はやっぱりイケてるパーティを作りたいですね、これから。

──そういった将来のプランはほかにもありますか?

地元と日本全国、そして海外を飛び回りたい。具体的なプランニングは考えてないけど、そういう動きができたら。そのためにも死ぬまで曲は作り続けるし、できればライブも死ぬまでやりたいと思ってる。そのために今できることを考えてる最中です。

プロフィール

Lunv Loyal(ルナロイヤル)

秋田県秋田市土崎港出身、1993年9月30日生まれのラッパー。17歳でラップと出会い、2014年にSEEDAのコンピレーションシリーズ「CONCRETE GREEN THE CHICAGO ALLIANCE」に参加する。R-指定に絶賛された楽曲「100」や、ゆるふわギャングを客演に迎えた「Outside feat. ゆるふわギャング」、SEEDAやWatsonとコラボした「高所恐怖症 Remix feat. SEEDA & Watson」などで注目度を高め、2023年12月にアルバム「LOYALITY」をリリース。2024年4月にシングル「存在」でメジャーデビューを果たし、スニーカーセレクトショップ・atmosとのタイアップ曲「Air Life」を5月にリリースした。

SEEDA(シーダ)

東京都出身のラッパー。バイリンガルスタイルのキレのあるラップでストリートの詩情を切り取り、2006年発表の記念碑的作品「花と雨」をはじめとする数多くのクラシックを生み出している。主に若手の楽曲を集めたミックスCD「CONCRETE GREEN」シリーズを2006年からDJ ISSOと制作し、日本のヒップホップシーンのイノベーターとしても活躍。2017年からはYouTube番組「ニートtokyo」を主宰しており、楽曲以外のクリエイションの評価も高い。

Jinmenusagi(ジンメンウサギ)

1991年生まれ、東京都千代田区出身のラッパー。14歳から作詞・作曲・ミキシングを独学で身に付け、2012年にLOW HIGH WHO? Productionからデビューアルバム「Self Ghost」を発表した。2015年以降は自身のレーベル・インディペンデント業放つを拠点にリリースを重ね、2016年にはDubbyMapleとの共作曲「はやい」がバイラルヒット。翌2017年にはAIのアルバム「和と洋」に参加する。2023年11月に最新アルバム「DONG JING REN」をリリースした。