Lunv Loyalとはどんなラッパーなのか? その才能を絶賛するSEEDA、Jinmenusagiが証言 (2/3)

Lunv Loyal × Jinmenusagi対談

「すごくラップがうまいタイプの男」

Jinmenusagi 最初に会ったのはSocial Club Tokyo(※東京・渋谷のクラブ。2017年4月に閉店)だったと思うんですよね。なんのイベントだったかは覚えてないけど、当時はあそこに行けば日本語ラップの中核プレイヤーはだいたい会えた。

Lunv Loyal 懐かしいなあ。楽しかったっすよね。

Jinmenusagi バーカンで一緒に酒飲んだの覚えてる。たぶんそのときがファーストコンタクトだったと思う。もちろんその前からLunv Loyalの存在は認識してて。SEEDAさんの「CONCRETE GREEN 13」(2015年10月リリース)にLunvくんの曲も自分の曲も収録されてるんですよ。その当時から「すごくラップがうまいタイプの男」だなと思ってて、そのイメージは今も変わってないっすね。

左からLunv Loyal、Jinmenusagi。

左からLunv Loyal、Jinmenusagi。

Lunv Loyal 自分もけっこう昔からジメサギさんのことは知ってたんですよ。10年以上前、自分が秋田いるときから。いわゆるネットラップがめっちゃ勢いあった時代で、その流れで動画とかで観たのがジメサギさんだったんです。

Jinmenusagi ありがたいけど、恥ずかしさもあるなあ(笑)。

Lunv Loyal めっちゃすげえなと思って聴いてましたよ。けっこう衝撃だったっす。当時、ネットラップ的なものも新しかったし。それで知ってからはインディベンデントで独立してやってたりする動きも見てたし、曲も毎回チェックしてて。ホント、ラップうまい東京の人ってイメージ。

パンチラインの作り方

Jinmenusagi Social Clubで初めて会ってから、一緒に曲をやろうってなるまで、ばっこし時間が空くんですよね。やっとできたのが、こないだ一緒に作った「GOAT」って曲になるんで、出会ってから8、9年は余裕で経過してるっていう。

Lunv Loyal 確かに。「GOAT」のオファーもらってすごいうれしかったっすね。しかもトラックを聴いてみたらドリルで、ワクワクしたし。自分ら世代のトラップ以前からラップを始めてるような人間って、ドリルに乗るのけっこう難しくて、ナチュラルな合わせ方がなかなかできないんですよ。ちゃんとオリジナルのフロウで飽きさせずにケツまで持っていけるラッパーってあんまいないと思うんで、ジメサギさんはやっぱさすがだなと思った。

Jinmenusagi でも自分からデータを送って、Lunvくんはもう3日ぐらいでヴァースを入れたデータくれたっすよね。これ、業界的に言うと神速なんですよ。で、そこから自分とこのスタジオで合わせてみましょう、という。だいぶ早い進行でしたね。さらに歌詞の中身もちゃんと面白い。これはLunvくんの曲全部に言えるけどね。3小節ぐらい使って状況を説明しつつ、その説明が別の部分に意味がかかってたりして。そういうフレーズの連続で展開していく。そういう理論的な部分とは別に、単純に聴いてて面白い単語を放り込んでくるところもあって。「GOAT」でいうと、「Vapeはメロン / ヘイズはレモン」の部分。これ、すげえ固いし、意味もすごいんですけど……なんだろうな。うまく言葉にできないけど、もうクラブだったら「イエー!」みたいな。そういう感じのがスルっと出せるのはすごい。で、そのあとに続くのが「長男マンチ / 二郎ペロン」。これがかなり俺の中では面白くて。

Lunv Loyal でも最近はわりとオチを決めずに、最初に言った言葉から派生させて話を広げるのが好きかもしれない。だからどうしても3、4小節くらいかかっていくのかな。昔はオチから考えて4小節目とか8小節目のラインまでをどうつなげるかとか考えてたけど、今は最初の言葉からどんだけ世界を広げられるかとか、そういう作り方のほうが好きかもしれないですね。

Jinmenusagi へえ、なるほど。自分はここ数年で作り方が変化して、今は2行とか3行とかの塊がバラバラにあって、それをパズルみたく組み立てていく感じになってますね。そのバラバラの塊の中からオチっぽいやつを選んだり、このラインから始まったら面白いなって感じで組んでる。……こんな技術的な話、普段は2人でもなかなかしないよね?

Lunv Loyal 確かに。でも、こういう話、自分は好きっすね。そもそもあんまできる人もいないし。

「逆境に強いな、この人」って

Jinmenusagi Lunvくんの魅力は発声が一番大きいと思ってます。この2、3年ぐらい際立ってLunv Loyalの声が確立されてる感じがあって。普段の地声はわりと低めなんだけど、ラップのときには全然違う印象ですね。なかなか言葉だと説明しづらいですけど。

Lunv Loyal 自分でも発声に関しては変化させてきたと思いますね。それこそ、初期の「CONCRETE GREEN 13」に入ってる曲とかはもっと低かったんですよ。そこからどんどん変化させていって……声が気持ち悪いって言われるまでやろうと思ってた。気持ち悪いって言われたら勝ち。「気持ち悪い」というのは耳に引っかかってるってことでもあると思うんで。で、現在の発声に至るという。ただ、今の声の出し方はけっこう喉に負担かかるんですよね。風邪とか引けないなって。

Jinmenusagi そうだろうなあ。あと、これはLunvくんのイメージが変わったというか「おおっ」と思った話なんだけど、コロナ禍のとき、俺めちゃくちゃ調子悪くて。もうラップの仕事を4割5割に減らして、別の仕事とかやってバランス取ったほうがいいかなっていうぐらい。そんなときにLunvくんはクラブでのライブとかめっちゃやってたじゃないですか。服作ったり、シングルをボンボン出してアルバムにしたりとかめちゃめちゃ活発だったから「逆境に強いな、この人」って。そんときぐらいから自分がドリルに挑戦するタイミングでLunvくんと一緒に作りたいと思ってたんですよね。で、1人で「GOAT」の制作に取りかかってるタイミングでLunvくんとSEEDAさんの「高所恐怖症」がリリースされたんですよ。自分と世代の近いアーティストが、新しい音のジャンルにSEEDAさんみたいなOGやWatsonくんみたいな若手の有名なラッパーとかを招いて活発にやってるのを見て、ものすごく参考になったというか。だから「GOAT」では完全に胸を借りる気持ちでLunvくんにお願いしたんですよ。

Lunv Loyal うれしいっすね。自分はコロナの時期に「これはチャンスだな」と実は思ってて。自分もだいぶ仕事が減ったし、東京で初めてのリリパもクラブが閉店するから潰れちゃって。それは自分も食らったんすけど、「……ってことは?」みたいな。これは逆にチャンスというか。そう思って意識して無理やりライブを増やしてたんですよね。今がんばればコロナ明けた頃にはいろんなことが変わるだろうと思って。

Jinmenusagi おお、Lunvくんは自分の得意なことがわかってる感じしますよね。

Lunv Loyal やってることは作品作って、リリースして、ライブして、のルーチンだけなんですけどね。でもあのときはそのルーチンが崩されかけたから。

Jinmenusagi

Jinmenusagi

次はブーンバップでも面白いかも

──お二人ともシーンにおいてすでにキャリアを築いて中堅の世代になっていると思うんですが、その中でどうサバイブしていくかという部分に個人的に興味があって。今の時代、現在のご自身の年齢も含めてどのように考えていますか?

Jinmenusagi その質問に関連してるかわからないけど、俺、最近Watsonくんの歌詞のスタイルをすごい研究してて。本人とは一度しかしゃべったことがないけど、勝手に研究してるんです。彼のリリックって2小節ごとにきちんとオチがくるんですよ。そこに日本語らしいダブルミーニングが入って、1曲の中にものすごいギュッと面白みが入ってる。そういう面白みってまた聴きたいと思うきっかけになるし、そんなに細かく聴かなくても言ってることの引力が強いから引き込まれる。例えばですけど、数年前に「KEN THE 390よりでっかいちんこ」っていうラインだけを10回ぐらい繰り返すだけの曲をリリースしたラッパーがいるんです(※YUNG HIROPON「KEN THE FLEXIN」)。

Lunv Loyal ハハハ。

Jinmenusagi めっちゃ面白くて、一瞬で好きになったんですよ。例として極端ですけど(笑)。そういう引力って若い世代になればなるほど最新の技術というか、最新の発想なので、真似まではできないけど、どういうことをやってるのかというのをちゃんと解剖してみて、自分の中に吸収できたらなと思って。サバイブの方法かどうかはわからないけど、年齢を重ねてもそういう観察と研究をすることで自分のスキルの向上にはなるかなって思います。

Lunv Loyal SEEDAさんを見てると、年齢を重ねてもそれぞれの時代の中で自分のやれることを探して実践してる人たちは輝いてるし、すごく勇気をもらえる。だから、まだまだ上に行けるなっていうのは正直思ってて。自分のこれまでのキャリアにしても近道とかなかったし。目標というか、行きたいとこに行けるかどうかが重要で、そこにかかった時間とかは関係ないと思うんですよ。だからこの先も時間がかかってもいいから、焦らずにやりたいことは全部やっていきたいなって思ってます。

Jinmenusagi Lunvくんはちゃんとローカルのフックアップを常に考えてるし、それに対して近道せず、面倒臭がらず、自分のやるべきことを見据えて活動してるイメージがある。すごいですよね。秋田のライブハウスでのワンマンもすげえカッコいいと思うんですよ。日本全国回っても、節目のでっかいワンマンはちゃんと地元でやるよっていう。きれいじゃないですか、道筋が。見ててすごく背筋が伸びるし、参考になりますよ。

Lunv Loyal そういった部分を評価していただけるのはうれしいです。またぜひ曲でも共演したいっすね。

Jinmenusagi ドリルはもうやったんで、トラップか、もしくはブーンバップでも面白いかもしれない。

Lunv Loyal ブーンバップ系の曲、そろそろ作りたいなとは思ってましたね。

Jinmenusagi どんな感じでやるかはまだわかんないけど、絶対面白くなると思うんで、またぜひやりましょう!