マンガ家の方って締め切りが大変な
イメージがありますが実際は?(ロザリーナ)
ロザリーナ あの……今日は「からくりサーカス」以外にもお聞きしたいことがあって。マンガ家の方って締め切りがいつも大変で睡眠時間もないイメージがあるんですけど、実際どうなんですか?
藤田 そういうイメージをお互いに投げ合うのは面白いですね(笑)。俺が今連載しているのは週刊誌だから、毎週木曜日に締め切りがやってくるんです。最初は余裕をかましているんだけど、だんだんと締め切りが近付いてくるごとにみんなの顔色が青くなって、締め切り直前には一番のピークを迎えます。
ロザリーナ その生活サイクルには慣れました?
藤田 慣れましたね。30年もマンガ家をやっているのに毎週担当編集に「締め切り大丈夫ですか?」と言われてたらバカじゃないですか? 「お前、何年間やっているんだ」ということになるので、だんだん落ち着いてできるようになってきました。新人マンガ家にも「いずれは慣れるよ」と言ってます。逆に、俺の頭の中では大勢の人の前で歌うなんてとんでもないんです。しかも楽器を弾きながら歌ったりするじゃないですか? 俺は自分でマンガを描いて、印刷をして配るなんてできないから。ロザリーナさんはそれを全部やっているような気がする。だけど、やっていると周りもやっているし「私も慣れたよ」って感じになりますよね?
ロザリーナ ライブに関しては慣れないです……実は私、いまだに人前が苦手なんですよ(笑)。
藤田 おお、それは好感持てますね(笑)。歌を歌う人は人前なんて全然平気だと思ってました。
ロザリーナ 緊張しちゃうんですよ。
藤田 じゃあ、音楽をやっていて何が一番のご褒美なんですか?
ロザリーナ 曲が完成したときもうれしいし、完成した曲に対して誰か1人でもいいから共感してくれるとうれしいですね。
藤田 それはマンガ家と近いかな。自分の描いたものを喜んでくれたら、俺もガッツポーズですもん!
アニメとかマンガを楽しめる方は、
物語とピッタリ重なるような音楽を作ってくださる(藤田)
ロザリーナ 藤田先生は長年マンガを描き続けていらっしゃいますけど、作品のことを考えない時間ってありますか?
藤田 その質問の意図はすごいわかります。ずっと音楽を作っていると「いったい私の時間はどこにあるの?」って感じですよね。俺も常に「このあとの展開はどうしよう」と考えちゃって。一生それを引きずっていくと思います。
ロザリーナ 私は曲を1人で作るから、「いつ作るのか」「どこで休憩を挟むのか」を考えるのも自分次第なんですよね。締め切りがあれば焦ってやるんですけど、そうじゃないと自分を動かすのがなかなか大変だなって。
藤田 アイデアはあふれてくるほうですか? それとも絞り出さないと思いつかないですか?
ロザリーナ 降りてくるタイプです。逆に、降りてこないと書けないんですよ。ただ、締め切りがあるときは頭をフル回転させてる感じですね。思い浮かばなくて「もう今日は無理だ」と思った瞬間に思いつくことがあります。
藤田 今、お話ししたケースは数ある内の1つで。きっといろんな悪戦苦闘がありますよね? 俺がアイデアを出す方法は木曜日に原稿が上がったあと、担当編集さんに電話をかけて「次のネームが何時に終わるから来てください」と連絡をする。そしたら、当然打ち合わせをするときはネームができてないと意味がない。だけどたいてい電話をかけているときにはまだできてないんですよ。
ロザリーナ そうなんですか!
藤田 その約束した時間までに用意するのが勝負。アイデアが浮かばなくても、どうにか考える。そうしないと人は弱いから、「できたときが完成のときなんだ」とか言ってたら「からくりサーカス」は完結できなかったと思います。ロザリーナさんの「もういいや」と一度あきらめてからアイデアが思いつく思考回路もすごくわかります。「考えても出ない! いっそ寝ちまうか」と思いつつ布団の中で考えてるから、途切れないんですよね。
ロザリーナ そう。それはアニメとかマンガに触れている時間も一緒なんです。純粋にお客さんとして楽しんじゃったらダメだと思っていて。意識しないと何も吸収できないから、曲が書けないんですよ。
藤田 今後、違うアニメのテーマ曲とか音楽を作るときに、その気持ちがあると作者さんはすごく喜ぶと思うし、親和性が高い曲になるはずですよ。例えば、ありものの3曲を出して「この中から主題歌を選んでください」と言われて、それがどんなにカッコいい曲だとしても作品のために作られてない曲って、とってつけた感じになっちゃうんですよ。逆にいったん作品を通ってから出てきた音楽はやっぱりひっ付きがいいと言うか。初めてロザリーナさんの「マリオネット」を聴いたとき、俺は気に入っているんだけど無理に作品に寄せていたら少し悲しいな、と思ってた。だけど、今日話を聞いて、読んでくださったから曲ができたことが知れてうれしいです。
ロザリーナ 作品を読んで「舞い上がれマリオネット」というフレーズが浮かんだときに、これしかないと思いました。一応、しろがね目線で4曲作ったんですけど、私のイメージする「からくりサーカス」は「マリオネット」しかない!と思ってました。
藤田 アニメとかマンガを楽しめる方って、物語とピッタリ重なるような音楽を作ってくださると思うんですよね。「こういう作品だから、この手触りかな」って。だけど、「マンガやアニメはわからないけど、設定を聞いて曲を作らせてください」だと、物語の内部までしみ込む曲を作れないと思うんですよね。要するにロザリーナさんが「からくりサーカス」を読んでくれてありがとうって話ですよ!
- ロザリーナ「マリオネット」
- 2018年11月28日発売 / Sony Music Records
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通常盤 [CD+DVD]
1300円 / SRCL-9952 -
期間生産限定盤 [CD+DVD]
1800円 / SRCL-9953
- CD収録曲
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- マリオネット
- タナトス
- Stereo
- 期間生産限定盤DVD収録内容
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TVアニメ「からくりサーカス」エンディングムービーノン・クレジットver.
- 「からくりサーカス」
- 毎週木曜 22:30~TOKYO MX、
BS11ほかにて放送中
Amazon Prime Videoにて日本・海外独占配信
- ロザリーナ
- 女性シンガーソングライター。2016年に西野亮廣(キングコング)の著書「えんとつ町のプペル」のテーマソングを担当し、知名度を一気に上げる。12月に1stミニアルバム「ロザリーナ」を発売した。その後、首都高速道路ETC2.0やauなどのCMソング、「妖怪アパートの幽雅な日常」のテーマソングを担当。2017年10月にそれらの楽曲を収録した1stシングル「音色」をリリースし、2018年4月にシングル「タラレバ流星群」でソニー・ミュージックレコーズからメジャーデビューを果たした。10月よりTOKYO MXほかにて放送中のテレビアニメ「からくりサーカス」のエンディングテーマ「マリオネット」をシングルとして11月にリリース。
- 藤田和日郎(フジタカズヒロ)
- 1964年5月24日、北海道旭川市生まれのマンガ家。1989年、第22回小学館新人コミック大賞佳作受賞作「連絡船奇憚」が週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載されデビューを果たした。1990年より週刊少年サンデー(小学館)にて代表作となる「うしおととら」の連載を開始。同作で1992年に第37回小学館漫画賞少年部門、1997年に第28回星雲賞コミック部門賞を受賞した。同誌にて「からくりサーカス」を連載したのち、「邪眼は月輪に飛ぶ」(小学館)「黒博物館スプリンガルド」(講談社)などの中篇を出版社をまたぎ刊行する。現在は「週刊少年サンデー」にて「双亡亭壊すべし」を連載中。本人の人気もさることながら、安西信行、雷句誠、井上和郎など氏のアシスタントを経てデビューし、人気作家となった者が多いことでも知られる。