ロザリーナ×マンガ家・藤田和日郎|「からくりサーカス」原作者と語り合う、アーティストとマンガ家の共通点

1997年から2006年にかけて「週刊少年サンデー」で連載された人気マンガ「からくりサーカス」が12年の歳月を経て、今年10月よりTOKYO MX、BS11ほかでテレビアニメとして放送されている。エンディングテーマを務めるのは、自身もマンガやアニメ好きを公言しているロザリーナ。彼女が作品のために書き下ろした「マリオネット」は作中の登場人物・しろがねをイメージして作られた楽曲である。

音楽ナタリーでは「マリオネット」のリリースを記念してロザリーナと「からくりサーカス」の原作者・藤田和日郎の対談を実施。2人が作品にかける思いから、マンガ家とミュージシャンにおける作家としての苦悩や共通点を探った。

取材・文 / 真貝聡 撮影 / 草場雄介

「私がこの作品のエンディングテーマを歌えるんだ!」
(ロザリーナ)

──ロザリーナさんは「からくりサーカス」を読んでどう感じましたか。

ロザリーナ 純粋で、まっすぐで、キラキラしていて美しいなと思いました。だから私が普段歌詞を書くときは、わりと回りくどい言い方をしがちなんですけど「マリオネット」に関してはまっすぐな言葉で書きたいと思いました。

藤田和日郎 ありがたいですね。そもそも少年マンガって若い読者に向けて描いているものだから、「からくりサーカス」も回りくどくはならないようにしたんです。だから、その感想はバッチリですよ。これは本音なんですけど「マリオネット」でしろがねのことを歌ってくれてシンプルにうれしかった。

ロザリーナ 本当ですか!

藤田 いろんな選択肢があるじゃないですか。ミュージシャンとして「客観的に歌ってみよう」とか、グッと作品のキャラクターに近寄って「この子と私は近いな」と思ってその人を歌うやり方とか。その中でね、一番やってもらいたい曲を作ってもらえた気がしてうれしかったです。Twitterを見ていても「マリオネット」の評判はすごくいいですもん。

ロザリーナ

ロザリーナ 曲を作るときに「これを書こう!」と思ったシーンがあって。それは、しろがねが(加藤)鳴海に「すまない、うまく笑えなくて」と言う場面。そしたら、鳴海が「お前おかしいな。笑えないから謝るなんて」と返すんですよね。個人的な意見なんですけど、しろがねはあの瞬間、鳴海に恋をしたんじゃないかなと思ってて。なんでかと言うと、しろがねはみんなから「笑って」と言われ続けていた中、鳴海だけは「笑えないから謝るなんておかしいな」と逆なことを言う。そのひと言で鳴海が特別な存在になったと思ったんです。

藤田 なるほどね。そういう意見はうれしいですよ。

ロザリーナ 原作を読んですごく作品の世界にのめり込みました! 読んでいる最中から「私がこの作品のエンディングテーマを歌えるんだ!」と本当にうれしくなったんです。

藤田 それは何よりです! アニメの歌を歌ってくださる方が、原作マンガを読んでそういうふうにちょっとでも面白いと思ってくださるのはすごい幸せなことですから。

周りの意見をシャットアウトしないことが大切(藤田)

ロザリーナ あと、もう1つ好きなセリフがあって。仲町(信夫)さんの「人が人を呼ぶ」というセリフ。大道芸をやるときに人が集まる。その人だかりに対して、さらに人が集まるじゃないですか。私は路上ライブをやっていて、実際に人が人を呼ぶのを体験したから本当にその通りだなと思ったんです。

藤田 なるほど。路上ライブをやっていたなら、人が集まらない恐怖もありますよね。だからこそ、人がこっちに注目してくれたときに感謝できる。こういう仕事って人が聴いてくれたり、人が読んでくれたりしないと職業として成り立たない恐怖があって。きちんと相手に対して奉仕するのがエンタテインメントなんですよね。「私は勝手に歌うから、あなたたちも勝手に観て」じゃダメだし、「自分の描きたい作品を自由に描きます」だけじゃダメ。ライブに来ている人たちに向けて、喜んでもらえる歌やMCをやらないといけない。こっちも読んでくれている人を喜ばせないとマンガ家として生きていけないんですよね。

──藤田先生は1997年から2006年にかけて「からくりサーカス」を連載していたとき「読者からあまり反響がなくて、ファンレターも週2、3通届くくらい」と話してましたよね。その時期って、どんなモチベーションで描かれていたのでしょうか。

藤田 おっしゃる通り「からくりサーカス」って連載中は読者からほとんど反応がなかったんですよ。だから先ほど話した“こっちを向いてくれない恐怖”のトンネルの中でずっと描いていて。当時のモチベーションは「一度始めたからには、絶対に自分の中できれいな形で終わらせるんだ!」という意地だけでしたね。アニメ化にあたって、Twitterで読者の方たちが「この日を待っていた!」と声を上げてくれたときに「こんなに読んでくれている人がいたのか!」と驚いたんです。単行本はある程度売れていたからメシは食っていけたんですけど、あの頃は「読んでどんな気持ちなの? 反応をちょうだい!」という感じでしたから。

ロザリーナ 私は曲を作ったときに、まずスタッフの人たちにデモ音源を聴いてもらうんです。今のお話は「新曲を聴きたい」と言われて書いたのに全然リアクションがなかったときの気持ちと似てるな、と思いました。それを9年間も続けていらしたんですね。

左からロザリーナ、藤田和日郎。

藤田 週刊誌は毎週18ページ描くんですよ。それが10回分溜まると単行本1冊になる。ミュージシャンの1曲に匹敵するエナジーが、おそらくマンガ家にとっては単行本1冊分だと思うんです。だけど、こっちは連載で紆余曲折を経て「さあ、どうだ!」と出したときに「……あんまり」と言われたら「ああ、そっか」となるけど、ロザリーナさんは物語を1曲に集中させて自分の思いも込めるから、反応がなかったときのがっかり度は俺よりも大きいと思います。

ロザリーナ 確かにがっかりしますね。さらにそこからリリースするかしないかという話になるので。

藤田 「からくりサーカス」を描いているときにいろんな芸人さんの談話とか、サーカス芸人さんや路上芸人さんのエピソードを参考にするつもりで読んでいたんです。その中にパントマイム芸人・マルセ太郎さんの「芸人魂」という本があって。「自分の状態がマズイかなと思ったときには、まずは仲間の意見を聞け」と書かれていたんです。仲間だったら、自分のマズイところを正直に言ってくれる。逆に関係の遠い人に意見を聞くと、相手は気を遣って「いい作品ですよ」と言うんです。だから自分も身近なマンガ家やスタッフ、家族の意見を聞かないとダメなんだなと思ってます。つらいだろうけど、近い人のリアクションは受けないとなって。

ロザリーナ ああ、わかります。作品を作っている人とか同じミュージシャンに言われた言葉はすんなり受け入れられるんです。だけど、知らないくらい近い距離でも、同じ立場じゃない人からポーンと簡単に意見を言われると「じゃあ、やってみてくださいよ」と反発したくなる(笑)。

藤田和日郎

藤田 今、俺は30年くらいマンガ家をやっているんですね。ロザリーナさんがこれから有名になっていくとするでしょ? そうするとね、正直な意見って言われなくなるんですよ。みんな「(小声で)いいんじゃないですかね」みたいな。声も小さくなってくる。そうすると「もっと生の感想をちょうだいよ!」となるんです。だから、今の悔しい気持ちはだんだん寂しい気持ちになっていく可能性がある。おっちょこちょいな発言とか、デリカシーのない発言は必要になってくるときがくるかもしれない。

ロザリーナ 確かにそれが曲を書くきっかけにもなるし、曲を書くことでストレスの発散にもなりますからね。

藤田 その環境がなくなったら寂しいですよ。Twitterとか裏では文句を言ってるくせに、表では言わないとかね。だから、うちのアシスタントには「思ったことは正直に言ってね」と伝えてる。作る側にとって意見をシャットアウトすることは簡単じゃないですか。だけど、それではいい作品はできないんじゃないかなって。

ロザリーナ「マリオネット」
2018年11月28日発売 / Sony Music Records
ロザリーナ「マリオネット」通常盤

通常盤 [CD+DVD]
1300円 / SRCL-9952

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ロザリーナ「マリオネット」期間生産限定盤

期間生産限定盤 [CD+DVD]
1800円 / SRCL-9953

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CD収録曲
  1. マリオネット
  2. タナトス
  3. Stereo
期間生産限定盤DVD収録内容

TVアニメ「からくりサーカス」エンディングムービーノン・クレジットver.

「からくりサーカス」
毎週木曜 22:30~TOKYO MX、
BS11ほかにて放送中
Amazon Prime Videoにて日本・海外独占配信
ロザリーナ
ロザリーナ
女性シンガーソングライター。2016年に西野亮廣(キングコング)の著書「えんとつ町のプペル」のテーマソングを担当し、知名度を一気に上げる。12月に1stミニアルバム「ロザリーナ」を発売した。その後、首都高速道路ETC2.0やauなどのCMソング、「妖怪アパートの幽雅な日常」のテーマソングを担当。2017年10月にそれらの楽曲を収録した1stシングル「音色」をリリースし、2018年4月にシングル「タラレバ流星群」でソニー・ミュージックレコーズからメジャーデビューを果たした。10月よりTOKYO MXほかにて放送中のテレビアニメ「からくりサーカス」のエンディングテーマ「マリオネット」をシングルとして11月にリリース。
藤田和日郎(フジタカズヒロ)
1964年5月24日、北海道旭川市生まれのマンガ家。1989年、第22回小学館新人コミック大賞佳作受賞作「連絡船奇憚」が週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載されデビューを果たした。1990年より週刊少年サンデー(小学館)にて代表作となる「うしおととら」の連載を開始。同作で1992年に第37回小学館漫画賞少年部門、1997年に第28回星雲賞コミック部門賞を受賞した。同誌にて「からくりサーカス」を連載したのち、「邪眼は月輪に飛ぶ」(小学館)「黒博物館スプリンガルド」(講談社)などの中篇を出版社をまたぎ刊行する。現在は「週刊少年サンデー」にて「双亡亭壊すべし」を連載中。本人の人気もさることながら、安西信行、雷句誠、井上和郎など氏のアシスタントを経てデビューし、人気作家となった者が多いことでも知られる。