ナタリー PowerPush - LOVE ME TENDER

“奥渋谷系”バンドが描き出す、アーバンな「大人の思春期」

駅前はチェーン店だらけだから、周辺がディープになっていくのは必然

──世の中的にLOVE ME TENDERはシティポップスバンドと形容されていますよね。

インタビュー写真

SOTA TAKAGI でも、俺らはシティポップスをやろうと思ってやってるわけじゃないし。シティポップスとかフュージョンを好きな人はLOVE ME TENDERを聴かずにキリンジとか流線形を聴くでしょ。

TEPPEI 自分たちがどう思われてもいいけど、 ただ、汗臭いバンドはヤだな。

SOTA TAKAGI ヤーマンじゃなくアーバンね。それだけは言っておきたい。

ACKKY うん。だから、お山のヒッピーVS都会のヒッピーって感じですよ。俺らにはあんまり“お山感”がないっていう。LOVE ME TENDERは東京じゃなきゃありえないバンドだよね?

ARATA ああ、それはもう。

SOTA TAKAGI 地方に行くと日本がどういう国かよくわかるよね。「ああ、スティーリー・ダンが聴きたい!」って思うもん。

──もうひとつ、LOVE ME TENDERは「奥渋谷系」というキーワードも打ち出しています。

ACKKY 誰かに「LOVE ME TENDERは渋谷系を引き継いでるよね」って言われたことがあるけど、実際、渋谷系に関わっていたのは壮太くんだけだよね。

──GREAT3ほか数々のサポート仕事をやられていますしね。

SOTA TAKAGI え、そうなの? 渋谷系っていうのは、地方出身者はなれないんでしょ? 東京が地元で、和光出身じゃないと。

ARATA まあ、でも自分も、 二見(裕志:DJ)さんが関わっていたフリーソウルのコンピレーションCDとか、あと松永(耕一 aka コンピューマ)さんがバイヤーをやってたタワーレコード渋谷店5Fの品揃えに影響を受けたという意味では、渋谷系と無関係ではないと思うけど。

MAKI999 個人的には高校生のとき、制服でEL-MALOのライブに行ってましたからね。まさか、その10数年後に今回のアルバムに入ってる「メスカリーター」のビデオクリップで柚木(隆一郎)さんと一緒に渋谷の街を走ることになるとは思わなかったけど(笑)。

──海外でも家賃の高騰やクラブの規制などの理由から、以前は治安が悪かったイーストロンドンとかニューヨークのブルックリンに街の拠点が動くことで新しい音楽が生まれているように、渋谷も中心地からその周辺の奥渋谷のバーに面白いスポットが移っていて、LOVE ME TENDERはそういう背景から生まれたバンドであることは事実ですよね。

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SOTA TAKAGI 駅に近いところは和民とかケンタッキーフライドチキンとか、そういうチェーン店だらけ。だから、その周辺がどんどんディープになっていくのは、繁華街の必然的な構造ですよね。奥渋谷にしても街のグランドデザインは完全にそうだと思いますね。

ARATA LOVE ME TENDERは遊び場から生まれたバンドだから、そういう街の移り変わりも間違いなく関係してますよね。

高木壮太の人格=LOVE ME TENDERだと思われがちだけど、それは違う

──そして、遊び場から生まれたバンドだからこそ、LOVE ME TENDERではふわっとした夜の出来事が描かれています。

MAKI999 まあでも、そういうこと以外、書くことないですからね。

ACKKY そうかと思えば、「プロ無職入門」なんていう面白い本を出してる壮太くんが歌詞を書けないのが興味深いっていう。

SOTA TAKAGI いや、歌詞も書きますよ。でも俺が書くと理屈っぽくなっちゃうし、メロディに言葉を乗せるのはまた別の才能ですよね。

ACKKY 俺、最後に加入したメンバーじゃないですか? LOVE ME TENDERを外から見て、一番耳を惹きつけられたのは歌詞の世界観なんですよ。「こういう歌詞、ほかで見たことないけど、すごいステキだな」って。それはずっと思っていて。

──LOVE ME TENDERは都会の夜遊びの危うい酩酊感や色恋の機微を繊細なタッチで描いてますよね。

MAKI999 そこは気を使ってますしね。

SOTA TAKAGI 中年の思春期感というか、中年ピーターパン。

MAKI999 気持ちはそうなんですけど、みんな若くないから、二日酔いがすごいわけですよ。だから、にじみ出る気怠さもそこにはあって(笑)。

SOTA TAKAGI あとは、渋谷、下北、三茶のバーでのゴシップとか。

MAKI999 1日もあれば、そういう情報は全部入ってきますからね(笑)。

ACKKY だから、全てをひっくるめての「LOVE」ですよ。そういう洗練されたポップスはメンバー全員好きだったりしますし。

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TEPPEI 逆に世の中にこれだけアーシーなジャムバンドがいなければ、自分たちの音楽を「洗練された……」とか「アーバンな……」って感じで強調はしなかったと思いますよ。

SOTA TAKAGI そういうジャムバンドに対するアゲインストなスタンスは、LOVE ME TENDERにはありますね。

ACKKY ファッションが嫌いなんですよ。タイダイのTシャツにフレアパンツなんて格好はとてもできないですよ。

ARATA 原発問題も突き詰めたら、アーバンとヤーマンの葛藤なんじゃない? だって科学なんて、自然の中から人間が法則を見つけただけのものだから、科学も自然の一部なのに、自然と科学を対比させること自体、どうかと思うし。

SOTA TAKAGI そう考えたっていいとは思うけど、そういう考え方がファッションになっちゃってるのがちょっとね。

──壮太くんの書かれた「プロ無職入門」でも、批判的な視点から世の中の表と裏をひっくり返していますよね。

SOTA TAKAGI そういうのは楽ですよ。目の前で起こっていることの逆張りすればいいんだから。でも、俺はナンセンスが言いたいだけ、何に対しても批判精神を持って臨んでいるだけであって、それに対してマジになっちゃダメだよね。

MAKI999 壮太くんのTwitterや単行本の反響もあって、ここ数年、「高木さんってどんな人なんですか?」ってよく訊かれるんですけど、ただの変なおじさんですよ(笑)。

ACKKY ただ、壮太くんの人格イコールLOVE ME TENDERだと思っている人がすごくいっぱいいて。それは違うとここでは言っておきたいですね。

MAKI999 だって、LOVE ME TENDER自体、架空のバンドだと思われてて、「ホントに存在してたんですね」って言われたりもしますから(笑)。

ニューアルバム「SWEET」 / 2012年11月21日発売 / 2100円 / P-Vine Records / PCD-20241
ニューアルバム「SWEET」
収録曲
  1. メスカリーター
  2. Unlimited featuring LUVRAW
  3. ロンリーダンサー
  4. リバウンド
  5. 恋をしたなら…
  6. ムードウーマン
  7. リーガール? イリーガール?
  8. 富士山
  9. タイムライン
  10. 神泉サンライズ
  11. ロマンティックあげるよ
LOVE ME TENDER "SWEET" RELEASE PARTY ~また逢う日まで~

2012年11月28日(水) 東京都 WWW
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者>
LOVE ME TENDER / ホテルニュートーキョー / LUVRAW & BTB / DJ:二見裕志

LOVE ME TENDER(らぶみーてんだー)

「奥渋谷系」とも評される、MAKI999(Vo, Dr)、ARATA(G)、TEPPEI(B)、SOTA TAKAGI(Key)、ACKKY(Sax)からなる5人組バンド。シティポップスを思わせるアーバンで洗練されたサウンドに乗せて、わずかな毒を含んだ歌をあどけない声の女性ボーカルが歌う。なおMAKI999はHBのドラマーで、LASTORDERZのオリジナルメンバー。SOTA TAKAGIはさまざまなアーティストのサポートメンバーを務める傍ら、高木壮太名義で映画「RAWLIFEとその時代」の監督や著書「プロ無職入門~高木壮太の活ける言葉」を発表するなど映像作家や文筆家としての顔も持ち、サックスのACKKYは国内の地下ハウスシーンでDJとしても活躍している。