LMYKは“矛盾”を歌い続ける、初のドラマタイアップ曲で浮き彫りになるアーティスト像 (2/2)

「買い出しに行って夕焼けを見る」という日本人ならではの感覚

──今の話を聞いて、より印象深いなと思うのは、「毎日毎日おめかししても ちょっとしたことで振り出し 買い出しに急ぎ 夕焼けに涙し やっと元通り」という歌い出しのライミングで。今日はいい日だった、悪い日だったという二元論ではなく、1日24時間の中に静かな悲しみにつぶされそうになる瞬間もあるし、ちょっとしたことで気持ちが浮上する瞬間もある。そういうレイヤーが最初から歌われているリリックだなと。

ここは最初に書けた部分ですね。ここのラインから歌詞を広げていきました。ここで韻を踏んでいるので、2番でもちゃんと踏みたいと思って。ドラマで流れているのは2番なんですけど、ドラマサイドから「朝のイメージで」というリクエストがあったので、2番は朝の情景にしました。カップルが同棲しているお話なので、それを思い浮かべながら韻を踏んで、この曲で書きたかったテーマも添えて。

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──この曲はコーラスを除き全編日本語詞ですが、これまでの2曲は日本語と英語の割合がほぼ半々でしたよね。日本語詞と英語詞はどういう感覚で書き分けてますか?

話してる言語でキャラクターが変わるという人がいますけど、私もそうだと思います。日本語詞を書いているときは日本の文化や日本人だからこそ感じるニュアンスが出ていて、英語詞を書いているときは英語圏の文化や英語のニュアンスにしかない感情が出ていると思いますね。姉に言われて気付いたんですけど、「Square One」の「買い出しに急ぎ 夕焼けに涙し」という感覚はすごく日本人っぽいなと。英訳した歌詞もあるんですが、英訳を考えたときにすごく違和感を覚えて。「買い出しに行って夕焼けを見る」という感覚はアメリカとか英語圏にはあまりないのかなって。

──日本のスーパーは夕飯の買い出しで夕方が一番混雑している、みたいな。

そう。アメリカだったらコストコとかで何日か分をまとめ買いしたりする人も多いと思うし。日本語は曖昧な言語とも言われていますけど、だからこそ相手の感情を汲み取るということに対して意識的な部分もあると思うんです。今作ってるほかの曲も無理やり「よし、英語の曲を書くぞ」とか「日本語で書くぞ」というふうにはなってなくて。そこは自分でホッとしているところでもあります。

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矛盾を歌うことが私のアーティスト像

──「Square One」は鼻歌のような軽やかなポップソングとして成立しているんだけど、絶妙に踊れる要素もサウンドにある。このバランスがコロナ禍以降の日常に陽光が射すようなイメージを想起させるなと。

ありがとうございます。確かに口笛みたいな軽やかさがありますよね。

──これからも、どんなタイプの楽曲でもあくまでポップスとして着地させたいという思いがありますか?

これまでの2曲もそうですが、自分自身ではポップソングを書いているという意識はそこまでなくて。ただ、やっぱり自分のルーツにあるのは洋楽も邦楽もポップスなので、自分から出てくるメロディはポップス然としていると思います。ただ、デモの段階で自分の頭の中ではすごくポップな曲が聞こえているんですけど、それを完全に表現できていないときがあるんですよね。そんなときはスタッフと相談しながらもっとポップスに寄せていくことはありますね。デビューするまでの数年間は、自分でどういう曲を書きたいのかをずっと探ってました。もともとは弾き語りをやっていて、DTMのトラック制作経験もなかったので。歌詞で伝えたいことは変わってないんですけど、サウンドやアーティスト像は試行錯誤しながらやっと自分の中で固まってきたと思います。LogicやAbleton Liveを使ってデモを作っていく中で、自分がこんなに音にこだわっているんだなということに気付いたんですよね。最初はプロデュースチームにデモの状態からどんどんアレンジしてもらおうと考えていたんですけど、意外と「この音じゃなきゃイヤだ」という執着心があって。それも最近の新しい発見でした。だから、これからは音色に対してもデモの段階から「この音でいきたい」という意識を持って作ろうと思ってます。

──今の話に出た「試行錯誤しながら固まってきたアーティスト像」をご自身で言葉にできますか?

そうですね……やっぱりそれもさっき言った“確かな不確かさ”という矛盾をはらんでいるところなのかなと。数年前に「盾と矛」という曲を書いて、それは全部“矛盾”について歌ってる曲だったんです。当時、自分の中では無意識に書いていたんですが、今は「ああ、私はずっと矛盾を歌いたかったんだ」と思うんです。だから、矛盾を歌うことが私のアーティスト像と言えるかもしれない。今作ってる曲もこれまでの3曲とは異なる雰囲気を持っている曲がたくさんあって。ジャンルにとらわれないサウンドで、この変わらないテーマを歌う曲が、これからもできていくと思います。

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プロフィール

LMYK(エルエムワイケー)

大阪府出身のシンガーソングライター。ドイツ人の父、日本人の母を持つ。大学在学中にニューヨークにて音楽制作を開始。マイケル・ジャクソン、ジャネット・ジャクソン、マライア・キャリーなどの作品を手がけた世界的音楽プロデューサーチームのジミー・ジャム&テリー・ルイスにその歌声と楽曲を見出され、日本へ帰国後、2020年11月にジャム&ルイスプロデュースによる1stシングル「Unity」でメジャーデビューを果たした。2021年8月にテレビアニメ「ヴァニタスの手記」のエンディングテーマである新曲「0(zero)」を配信リリースし、9月には同作のCDを発売する。翌2022年6月に、BS松竹東急の連続ドラマ「いぶり暮らし」のオープニングテーマとして書き下ろした「Square One」を配信リリースした。

衣装協力
パンツ 37400円(TAN)
その他 スタイリスト私物
TAN : contact@tanteam.jp