伝説の音楽イベント「Live EPIC 25」がBlu-ray化!豪華アーティストが集結したステージを徹底レビュー

さまざまな個性豊かなアーティストたちを世に送り出し、日本の音楽シーンを牽引してきたEPICレコードジャパンが今年8月に設立45周年を迎えた。この節目の年に“EPIC 45”プロダクツ第1弾としてライブフィルム「Live EPIC 25 (20th Anniversary Edition)」のBlu-rayリマスター盤が9月20日にリリースされる。

「Live EPIC 25」は、EPICレコードジャパンの創立25周年を記念して2003年2月16日に大阪・大阪城ホール、22、23日に東京・国立代々木競技場第一体育館で開催され、のべ4万人を動員したライブイベント。ステージには1980年代から90年代にかけてEPICの歴史を築いた鈴木雅之、大沢誉志幸、大江千里、THE MODS、HARRY、BARBEE BOYS、TM NETWORK、渡辺美里、佐野元春らが出演し、その豪華なラインナップと競演は、音楽ファンの間で今なお語り継がれている。

ここでは出演者たちの3時間を超えるパフォーマンスとその魅力を紐解きながら、EPICレコードジャパンが果たしたイノベーターとしての役割を改めて検証してみたい。

文 / 佐野郷子

EPICのソウルメイト、鈴木雅之&大沢誉志幸

「Live EPIC 25」のトップを飾るのは、シャネルズ(のちのラッツ&スター)で1980年にデビューした鈴木雅之。“ラブソングの帝王”として現在も活躍を続ける鈴木は、ミリオンセールスを記録したシャネルズのデビュー曲「ランナウェイ」を1曲目に披露。ドゥーワップ、R&Bといった音楽をお茶の間まで浸透させたラッツ&スターの成功は走り始めたばかりのEPICにとっても大きな布石となった。鈴木はラッツの桑野信義とともに「め組のひと」、実の姉である鈴木聖美と「ロンリー・チャップリン」をデュエットし、ソロデビュー曲「ガラス越しに消えた夏」でステージを締めくくった。

鈴木雅之

鈴木雅之

鈴木聖美と鈴木雅之。

鈴木聖美と鈴木雅之。

次に登場したのは、鈴木の「ガラス越しに消えた夏」の作曲およびプロデュースを手がけ、鈴木に「レーベルのソウルメイト」と紹介された大沢誉志幸。デビュー前から沢田研二、中森明菜への楽曲提供でも知られていた大沢は、ブラックミュージックをベースにしたコンテンポラリーなサウンドと憂いのあるハスキーボイスで「CONFUSION」「宵闇にまかせて(Kiss & Kiss)」をスタイリッシュに聴かせる。作詞家の銀色夏生とタッグを組んだ「そして僕は途方に暮れる」は、数多くのヒットを生んだEPICの歴史の中でも屈指の名曲との呼び声が高い。

大沢誉志幸

大沢誉志幸

新たな時代を切り開いた実力派シンガー、小比類巻かほる、松岡英明、大江千里

80年代の前半からそれまでの邦楽とは一線を画すポップス / ロックを目指す新人アーティストを輩出したEPICが、1985年に送り出した実力派シンガーが小比類巻かほる。「Hold On Me」の大ヒットでブレイクを果たした彼女は伸びやかな歌声で「I'm Here(Acapella)」などを披露。アルバムのプロデュースを一風堂の土屋昌巳が手がけ、鈴木雅之が楽曲を提供するなど、レーベルの先輩が新人をバックアップする体制もEPICの特徴だった。

小比類巻かほる

小比類巻かほる

小比類巻と同期デビューの松岡英明は、80'sの第2次ブリティッシュインベンションに影響を受けた世代らしいポップネスで人気を博した。彼はEPICの同期である「今日このステージに立つことができなかった天才アーティスト」岡村靖幸に思いを馳せつつ、自身の代表曲「以心伝心」を岡村の「だいすき」の歌詞を交えながら歌った。

松岡英明

松岡英明

シンガーソングライターの大江千里も80年代のEPICを象徴する存在と言えるだろう。現役の大学生として1983年にデビューした彼は等身大の若者のリアルを歌い、時代と共鳴しながらEPICイヤーズを駆け抜けた。スタンディングでピアノを弾きながら「YOU」を歌った大江は、大阪と東京を往復しながら活動していたデビュー当時を振り返り、「今日は1985年頃の大江千里に戻って歌います」と「REAL」を熱唱。シングルのジャケットに何万枚もサインをしたという思い出話を挟みつつ、スタッフやファンとともに歩んだ頃を懐かしみ、代表曲「十人十色」で次のアーティストにバトンをつないだ。

大江千里

大江千里

“ロックのEPIC”を代表するTHE MODS、HARRY、BARBEE BOYS

「Live EPIC 25」の前半がポップス / R&Bサイドだとすれば、後半は“ロックのEPIC”を証明するラインナップが見どころだ。メジャーフィールドでパンクロックシーンを牽引したバンドTHE MODSは1981年にデビュー。CMソングに使用された「激しい雨が」で始まり、「NAPALM ROCK」をエネルギッシュにプレイし、当時のキッズの涙を誘った「バラッドをお前に」へ。最後に森山達也(Vo)が「EPICの洋楽に敬意を表して」と、The Clashの「I Fought The Law」をカバーしたのも印象深い。

THE MODS

THE MODS

「どうも、こんばんは。HARRYです」。“ロックのEPIC”の中でも不世出な存在であるThe Street SlidersのHARRY(村越弘明)が1人でステージに立ち、弾き語りで訥々と「風が強い日」を歌う。東京・福生の米軍キャンプで“リトルストーンズ”と呼ばれていたスライダーズは、80年代にロックが産業化していく過程においてもヤバい匂いを放ち続け、圧倒的なライブパフォーマンスで若者の心を捉えた。レコード制作のみならずライブ活動を熱心にサポートするレーベルの方針が、THE MODSやスライダーズのようなバンドのコアな支持層の獲得に結び付いたのだ。今年、スライダーズは22年ぶりに再集結し、5月に東京・日本武道館をソールドアウトさせている。

HARRY

HARRY

1992年の解散以来、「Live EPIC 25」の出演限定で再結成されたBARBEE BOYSの映像は今回の「Live EPIC 25(20th Anniversary Edition)」に初めて収録された。KONTAと杏子による男女ツインボーカルと、掛け合いのスリリングな歌詞をタイトなバンドサウンドに乗せて歌った彼らの独特な個性は、既存の日本語ロックの枠に囚われない気鋭のレーベルであるEPICだからこそ開花したと言えるのかもしれない。「チャンス到来」「泣いたままで listen to me」といった人気ナンバーのあと、KONTAは「明日からフツーの中年に戻ります」とMCで叫び、杏子の激しいダンスとともに「負けるもんか」「女ぎつね on the Run」を演奏し、満員の観客の喝采を浴びる。

BARBEE BOYS

BARBEE BOYS

レーベルの先見性を示唆したTMN、ガールポップ / ロックの先駆者・渡辺美里

シンセサイザーやコンピュータがロック / ポップスの世界に導入された時代にいち早くユニットとして活動を開始したTM NETWORKのステージは「Be Together」から始まる。1987年発表の5thアルバム「humansystem」に収録され、のちに鈴木あみ(現:鈴木亜美)のカバーでも知られることとなった曲だ。小室哲哉という稀代の才人を擁し、徹底したイメージ戦略で成功を収めたTMはEPICの先見性を示唆していたと言えるだろう。彼らのブレイクに大きな役割を果たしたのが、80年代にEPICが全国各地のレコード店などで主催していたビデオコンサート「BEE」。ミュージックビデオやライブ映像を観る機会が限定的だった時代に、EPICが実施したこのプロモーションはTMのようなビジュアルに力を入れていたアーティストには特に効果があり、多くのファンをつかんだ。ステージで披露された「Get Wild」「Self Control」は“映像のEPIC”から生まれたビッグヒットでもあった。

TM NETWORK

TM NETWORK

レーベルを代表する女性アーティストといえば渡辺美里をおいてほかにない。10代でデビューし、1986年の「My Revolution」の大ヒットで一躍人気となった彼女は90年代に続くガールポップ / ロックの先駆者でもある。西武ライオンズ球場(現・ベルーナドーム)などの大規模コンサートを成功させた貫禄のパフォーマンスは「Live EPIC 25」でも際立ち、彼女は会場いっぱいに声量豊かな歌声を響かせる。「きみに会えて」「My Revolution」を作曲者である小室哲哉のピアノの伴奏とともに披露したのはEPIC 25周年ならではのサプライズだった。小室、岡村靖幸などレーベルメイトから楽曲提供されたヒットソングも多数あり、ファンに人気の高い大江千里作曲の「10years」をこみ上げる思いで歌った彼女の目には光るものがあった。

渡辺美里

渡辺美里

“ロックのEPIC”の長男、佐野元春が生み出した幸福な風景

「Live EPIC 25」のトリを飾ったのは佐野元春。彼は、本イベントのハウスバンドのメンバーであり、2003年当時の自らのバンド、The Hobo King Bandにも参加していた佐橋佳幸(G)、Dr.kyOn(Key)、山本拓夫(Sax)とともに「約束の橋」、1980年のデビューシングルの「アンジェリーナ」を歌い、国立代々木競技場第一体育館をヒートアップさせる。佐野はこの日の全出演者をステージに呼び出し、さらに「この人がいなければ今、僕らはここにいない」とEPICレコードジャパンの創立者・丸山茂雄を敬意を込めて紹介し、最後は時代を超えたアンセムとなった「SOMEDAY」を出演者全員で歌い上げた。

佐野元春

佐野元春

“ロックのEPIC”の長男であり、80年代以降の日本のロックに多大な影響を及ぼした佐野元春の「SOMEDAY」をEPICの所属アーティストたちや観客が口ずさむ幸福な光景は、まさに25年前にEPICレコードジャパンが夢見た“SOMEDAY”だったのかもしれない。その貴重な記録をライブから20年後の「Live EPIC 25(20th Anniversary Edition)」で確かめてほしい。

「Live EPIC 25」の様子。

「Live EPIC 25」の様子。