1989年公開の長編アニメーションを、創立100周年を迎えるウォルト・ディズニー社が実写化した映画「リトル・マーメイド」。6月9日に封切られた本作は全国映画動員ランキングにおいて3週連続で1位を獲得し、興行収入が20億円を突破した。また、アラン・メンケンとリン=マニュエル・ミランダが手がけた劇中音楽も大きな話題を呼び、CDと配信でリリースされたサウンドトラックも好調なセールスを続けている。
実写版「リトル・マーメイド」の大ヒットを記念し、音楽ナタリーでは日本語吹替版でアリエル役を務めた豊原江理佳と、アースラ役を務めた浦嶋りんこへインタビュー。美しい映像と感動的なストーリーを彩る「リトル・マーメイド」の音楽の魅力について、アフレコ時のエピソードを交えながら語り合ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 須田卓馬
「絶対に素晴らしい作品になる」という確信があった
──実写映画「リトル・マーメイド」の公開から少し時間が経ちましたが(取材は6月中旬に実施)、お二人のもとに感想は届いていますか?
浦嶋りんこ 「観ました!」というメッセージをSNSでいただいたりはしていますね。ただ、世の中的な反響がどうなのかはまだわからなくて。ご覧になってどう思われましたか?
──公開前にはいろいろな意見があったと思うんですけど、純粋に楽しめるとても素晴らしい作品だと感じました。先入観を持たないでその世界に飛び込めば、今作ならではのよさが伝わるんじゃないかなと。
浦嶋 確かに当初はいろんな意見はありましたよね。
豊原江理佳 そうですね。でもSNSで皆さんの感想を見てみると、「最初は受け入れられるかわからなかったけど、実際に観てみたらすごくよかった」という感想がかなり多くて。そういった反応はすごくうれしいですね。
浦嶋 そういう反応はどんどん調べていきましょうね(笑)。
──日本語版の吹替に参加されたお二人にとっては、どんな作品になりましたか?
豊原 この作品に参加させていただくことが決まった瞬間、「絶対に素晴らしい作品になる」という確信があったんですけど、完成したものを試写で観たときにそれが間違っていなかったことを実感しましたね。今の時代はもちろん、次の世代に向けて投げかける大きなテーマが注がれた作品になっているので、そこに携われて本当によかったと思います。収録中は無我夢中でしたが、公開が近付くにつれて「私がアリエルの声を演じたんだ」という実感がどんどん湧いてきて。今ではもうプレッシャーで毎日お腹が痛いです(笑)。
浦嶋 あははは。私もプレッシャーはありましたよ。メリッサ・マッカーシーが演じるアースラが持つエネルギーを損なうことなく吹替ができるかどうかという不安がすごくあった。今回、収録は個別に行われて、ほかの声優の皆さんとブースで顔合わせすることもなかったので、最後まで全体像がわからなかったですしね。だからこそ完成したものを観た瞬間、純粋に感動できたところもあって。自分のアースラの吹替に関しても、「大失敗になってなかった!」という安堵がありました(笑)。
豊原 へえ! 浦嶋さんでもそんなプレッシャーがあるんですね。
浦嶋 ありますよ! 作品の印象としては、映像がとにかく素晴らしいですよね。海の中の世界がものすごくきれいでありつつ、どこかシュール。とは言え、嘘のような脚色はされていないんです。色合いがトロピカルではあるけど、アニメーションのような派手さはなく、そのバランスが素晴らしい。その中で、ダークな世界を司るアースラの声を担えたことも私としてはすごくうれしかったですね。私はもともとアースラが大好きでしたし。
──吹替をするにあたっては、それぞれどんなことを大事にしながら収録に臨まれましたか?
豊原 ハリー・ベイリーが演じているアリエルからは、等身大のティーンエイジャーというか、大人と子供の狭間で自分を模索しているような印象を受けたんです。そのリアルで、ありのままの演技がすごく魅力的だなと思ったので、そこは吹替をするにあたっても丁寧に寄り添っていこうと思いました。同時に、これまでアニメーションやミュージカルで築き上げられてきたアリエルのキャラクター性も間違いなく存在しているので、そことのバランスも考えましたね。細かい部分に関してはディレクターの方にかなり助けていただきました。私は声優のお仕事が初めてだったので、技術的なところも含め、たくさんのことを教えていただきながら収録しました。
浦嶋 アリエルちゃんは本当に末っ子らしいキャラクター。健やかだし、わがままを通してもらえている部分もある。トリトン王に溺愛されていることは間違いないですよね(笑)。そんなイメージ通りのアリエル像を豊原さんがきっちり吹替で表現されていたので、私はアースラとして「この子をどうしてやろうか」という気持ちを込めて声を当てていきました。キャラクター性や声の違いによって、いいコントラストが生まれているんじゃないかと私は思っているんですけど。
豊原 実は私、映画館に何回か足を運んでいるんですけど、毎回アースラに感情移入をして観てしまうんですよ。大人になると、「本当はこうしたいのにできなかった」とか「なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないの?」と感じる場面が多いような気がしていて。アースラを見ていると、そういう部分をすごく突かれるんですよね。映画の中で「真実の愛なんてない」と言うアースラの気持ちがとても痛くて、いつもそこで泣いてしまうんです。
浦嶋 なるほどね。巨大化したアースラと対峙するシーンでは、エリックとアリエルがそれぞれ自分の不得手なやり方で戦うじゃない? 人間のエリックは息が続かない海の中で一生懸命戦おうとするし、人魚だから歩けないアリエルは船の上を這って舵を切ろうとする。要は、2人は愛を武器に戦いを挑んでいるんですよね。私はその点に感動しました。
豊原 そこには気付かなかったです! 確かにそうですね。
浦嶋 でしょ。そんな2人にアースラがやられちゃうというところがすごく重要だなと思いましたね。
鳥肌が立つ瞬間が何度も
──「リトル・マーメイド」は音楽の素晴らしさも特筆すべきものがありますよね。
豊原 私は小学6年生のときから「リトル・マーメイド」のサントラをずっと聴いてきたんですよ。なので、アリエルとしてあの「パート・オブ・ユア・ワールド」を歌えることになった喜びはものすごかったです。実写版独自の新曲もありますし、新たなオーケストラアレンジが加わってもいるし、ちょっとラテンのテイストが加わっている曲もあるので、映画を観ていて鳥肌が立つ瞬間が何度もありました。映画館ならではの大迫力の音響で、美しい映像とともに素晴らしいキャストの方々の歌が聴けるのは本当に幸せだと感じましたね。って、思い切り観客目線で話してますけど(笑)。
浦嶋 あははは。どの曲も実は技術的にとっても難しいんですよ。それをキャストの方々が感情をしっかり込めて歌い上げていらっしゃいますからね。そこは何度見ても感動できる部分だと思います。豊原さんがおっしゃったように、映画館のサラウンドで聴く臨場感は本当に素晴らしいので、ぜひ劇場で体感していただきたいです。
──今お話に出た「パート・オブ・ユア・ワールド」は、物語の進行に沿って“リプライズ”を含めた3パターンが披露されています。
豊原 最初はキラキラした憧れに満ちていた心に、恋が芽生え、決意が固まり、時には挫折も経験する……ストーリーの中で描かれていく、そんなアリエルのさまざまな気持ちや、その中で成長していく姿が数回の「パート・オブ・ユア・ワールド」に乗せられていくので、そこはすごく注目していただきたいところですね。
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歌いながらゾクゾク