LISACHRIS×Maika Loubté対談+ゲスト・鎮座DOPENESS&lIlI交えたインタビューでコラボEPを紐解く (2/3)

時間軸の流れを描いた「emoh」

──2曲目の「emoh」は、シンガーソングライターのlIlIさんをフィーチャーしたダンストラックですが、キックドラムではなく、シンセベースとハイハットでグルーヴを生み出していますよね。

LISACHRIS 確かにドラムの音量は小さいですよね。この曲はけっこう前に作ったものなんですけど、トラックの段階でいろんな人に聴いてもらっていたんです。それで、みんなから「この曲には絶対歌を入れたほうがいいよ」と言われていたので、MaikaさんとlIlIさんと一緒に形にできてよかったな。

──「emoh」というのは“エモーション”、つまり感情を意味しているわけですね?

LISACHRIS そうです。私の音楽においては感情が一番大事だと思っていて、「emoh」は若い恋人同士の感情をイメージしながら作りました。

Maika Loubté この曲も最初からタイトルが付いていて、ビートもループに近い状態のものだったかな。歌を乗せる前の段階から、私はこのトラックが好きでひたすら聴いていて。ちょうどその頃にlIlIさんの作品を偶然発見して、「こんな才能を持った人がいるんだ!?」と思っていたので、彼女に力をお借りしたほうがいいものになるんじゃないかって。それでLISAさんに提案してから声をかけたんだけど、lIlIさんも快く引き受けてくれました。lIlIさんは歌詞を書くのがとにかく早くて、「emoh」のトラックを送ったら、その日の晩にはメロディと歌詞が返ってきて。最終的には私のスタジオに集まってレコーディングしたんですけど、LISAさんのパートとIlIlさんのパートが奇跡的にフィットしたんです。

左からLISACHRIS、Maika Loubté。

左からLISACHRIS、Maika Loubté。

──LISAさんとlIlIさんの歌詞は、夜から始まって、朝、昼、また夜になっていく時間の流れが描かれていますよね。

Maika Loubté そう。その時間が1周していく感じはlIlIさんのアイデアだったりするんですよ。

LISACHRIS 時間軸の流れはMaikaさんに言われて初めて気付いたんですけど、「もう何も怖くない」というフレーズから始まるlIlIさんのパートはリズムがヒップホップだったりしたから、自分にはしっくり来ましたね。

Maika Loubté  lIlIさんはご自身が影響を受けた音楽のプレイリストを公開されているんですけど、クラシックのピアノからゴリゴリのヒップホップ、90年代のアニソンとかポケットビスケッツみたいなポップスまで、いろんな音楽を聴かれていて、知れば知るほどディープな人なんですよね。そういう意味でLISAさん、lIlIさん、私の3人は、ルーツが違うところにあるようでいて、LISAさんも吹奏楽上がりだったり、私もクラシックのピアノから音楽を始めていたり、そういうクラシカルな部分が共通しているのかもしれないですね。

不器用な2人が共同制作の中で気付いたこと

──そして、3曲目の「メトロプレイヤー」はワブルベース使いのベースミュージックです。この曲からはイケイケな印象を受けました。

LISACHRIS このトラックは1年くらい前に作ったものですね。

Maika Loubté LISAさんと初めて会ったとき、最初に聴かせてもらったのが「メトロプレイヤー」だったかな。

LISACHRIS でも、そのあとずっと放置されていたんですよ(笑)。忘れてたでしょ?(笑)

Maika Loubté 忘れてはないよ(笑)。なんで放置していたかと言うと、トラックがすごく強いので自分が適当にやったらハマらなそうだなと思ったんですよ。それであくまでトラックを生かすようなメロディを入れて、しばらく置いておいたんですけど、夏が近くなってきて「そろそろ出そうよ」という話になって。そこからLISAさんがバーッと歌詞とラップを形にしてくれて。

LISACHRIS でも、私からしてみたらMaikaさんと一緒じゃなかったら、この歌詞は出てこなかったというか、自分に魔法をかけて書きましたね。

──魔法というのは?

LISACHRIS 自分自身がRPGのキャラクターになった気分というか、ゲームするような気持ちで都会のカオスでジャンプするようにテンション上げていけたらいいなって。そういうテンションで勢い付けて歌詞を書いて、レコーディングに臨みました。

Maika Loubté ラップの録りも早かったよね。ほぼ1発じゃない? 私は彼女が書いた歌詞を読んで、「この曲は9カ月間、一緒に遊んできたLISAさんの等身大の言葉だな」と思ったんですよ。嘘偽りがないし、いいことを言おうとしていないところに彼女の誠実さを感じるというか。

左からLISACHRIS、Maika Loubté。

左からLISACHRIS、Maika Loubté。

──今回お話を伺っていく中で、LISAさんの誠実さにMaikaさんも感化されて、9カ月の制作期間において、自由に自然発生的に生まれたのがこのEPなのかなと思いました。

Maika Loubté そう。確かに夏にリリースしたいということ以外、何にも縛られることはなかったですね。

LISACHRIS ただ、私1人だと曲を作っても、それを作品としてまとめることを怠りがちだったりするんですよ。その点、Maikaさんはすごくバランスがいいし、自由でありつつも作品をまとめることに長けていて、私も見習わなきゃって思いました。

Maika Loubté 今回の作品は自分だけのものじゃないので、客観視できたし、普段は1人で背負っているものを分かち合うことができて、自分のエネルギーを音楽制作だけじゃなく、仕上がりつつある作品をまとめたり、進行の作業に使うことができました。「2人ともコミュ障だよね」という話をよくしているんですけど、そんな不器用な2人で助け合いながらの制作だったから学ぶことも多かったですね。