LiSA「LANDER」インタビュー|変わってしまった世界の中でたどり着いた新しい惑星で (2/2)

「明け星」「白銀」「炎」と対峙して得たもの

──アルバムを組み立てるうえで、楽曲的にも立ち位置的にも「明け星」「白銀」「炎」をどう配置するかはすごく難しい問題だったと思うんですけど、中盤に固めるという結論になりましたね。オリジナルアルバムにまとめて収めることで、また客観的に向き合えたところもあったかと思うのですが。

いやあ、でも「明け星」のイントロは改めてすごいなと思いました。始まった瞬間に一気に梶浦(由記)さんの世界に持っていかれるんですよ。私がロックで戦っていたのに(笑)、梶浦さんが現れてすべてを「明け星」の色に染め上げてしまう。そこに対峙する緊張感がありますね。

──その3曲を抜けた先が、LiSAさん作詞、伊澤一葉(あっぱ、東京事変、the HIATUS)さん作曲の「逃飛行」……と書いて「ロマンヒコウ」と読む曲ですが、これまたすごく不穏な後半の幕開けで。これも繊細ながらカオティックな曲で、「あぁ、辛いな 陰険かな 思想 理想 問いただす 常識? 持ってないな 顔だけ大人になった」と歌っている曲に“ロマン”と名付けるんだ、という。

やっぱり溜まってるんですかね(笑)。

──正直まともに話せないくらいの状態も覚悟して来たんですけど(笑)。

これはそれこそ梶浦さんと楽曲をご一緒させていただいたからこそチャレンジできた曲で。ロックとクラシカルな音楽の橋を渡してくれるような、このアルバムを1つにつないでくれる力のある楽曲を作ってくれる人は誰だろう?と思ったときに、伊澤さんが浮かびました。

LiSA

──今作はLiSAさんの自作詞が共作を含めて全14曲中10曲と割合的には高いですよね。歌詞はスムーズに出てきますか?

アルバム制作の前にいくつかタイアップ曲を書かせていただいて……タイアップ曲はある種の強制を働かせて作詞をする難しさと楽しさがある。そんな経験を経て、いざアルバム用の曲を書こうとしたとき、筋肉を鍛えるために着けてたバネを外したら「なんだこれ、めっちゃ動ける」みたいな感じで筆が進んで(笑)。

──大リーグボール養成ギプスを外した星飛雄馬の状態に(笑)。「逃飛行」は歌詞もメロディも混沌としていて頭を掻き乱されるけど、最終的にめちゃめちゃポップで快楽的なんですよね。

伊澤さんが持っている、サビになった瞬間ポップスになるあのセンスは素晴らしいなと思います。

──そうですね。単なるアバンギャルドではない。

梶浦さんもそうですけど、ちゃんとポップスの常識の中ではみ出しているというか。だからこそ、私にも挑戦できると思えたところがあります。

LiSA
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私自身がLiSAに向かって歌っている楽曲

──そのあとも「HADASHi NO STEP」「シフクノトキ」「土曜日のわたしたちは」とタイアップ楽曲が固められていますが、ここは10周年を経て広がった表現の幅が明確に見えるゾーンになっている印象です。ドラマ「プロミス・シンデレラ」主題歌に始まり、「ピュアラルグミ」CMソング、情報番組「ズームイン!!サタデー」のテーマソングと、より幅広い“お客さん”に届けるべく作った楽曲だと思いますが。

そうですね。ドラマ主題歌である「HADASHi NO STEP」ができたから(参照:LiSAインタビュー|ドラマ主題歌で新たな挑戦、軽やかなステップで歌う新作「HADASHi NO STEP」)、「シフクノトキ」と「土曜日のわたしたちは」が作れたところもあって。身近な生活の中にあるものを感じられる、3部作のようなものだと思っています。

──アルバムの中でもとりわけブライトなゾーンだと思っていたら、次の「悪女のオキテ」が始まって……。

あはははは(笑)。

──LiSAさん自身の作曲で、メロからイラついている感じがあって(笑)。やっぱり精神状態が心配になるという。

この曲は収録する予定じゃなかったんですけど、アルバムの全体像が見えてきた段階で「私、まだ発散し切れてないな」と思ったんです(笑)。自分で背負うんだったら誰にも迷惑かけないかな……と思って作っちゃいました。

──そして今作の中では一番早く世に出たシングル曲「dawn」を挟み、ラストの「NEW ME」へとつながっていきます。「NEW ME」の編曲クレジット、あまり見ないような連名になっていますけど……。

晶太くんと「シフクノトキ」を作っているとき、アルバムのイメージや開催を控えていた「Eve&Birth」について会話する中で、この先の自分自身について考えていることを話したんです。その流れで「こんな曲があるんだ」と晶太くんに渡したら、それを原曲として晶太くんが制作を進めてくれて。「Eve&Birth」で新曲を初披露しようということで、それをバンドのみんなに持っていったら、1人ひとりが音を重ねてくれて、この形になりました。

──なるほど。ライブでの演奏を考えて、バンドメンバー全員で作ったアレンジがそのまま編曲のクレジットになっていると。

そうなんです。編曲をしていく中で1人ひとりの魂が乗っていって……自分がファンの方に向けて作った曲だけど、私自身がLiSAに向かって歌っている楽曲でもあるなと思ったし、いつもバンドメンバーから背中を押してもらっている、そのイメージが強くなっていって。みんなに支えてもらって立っているような感覚になりました。

──ワンコーラスまるまるたっぷり使って溜めに溜めて、1分44秒で一気に爆発するような大胆なアレンジですよね。そのままバラードとして進む曲なのかと思っていたら、ガツンとロックに切り替わるという。

さっき言った晶太くんとの会話で「やっぱりパンクロックだよね」という話をしていたんですよね。で、結果こうなりました(笑)。

誇れるものや大事なものだけを持った、新しい始まり

──しかし「NEW ME」ってすごく強いタイトルですよね。新しい自分。デビューして10年が経って、自分の中で明確に「新しくなった」「変わった」と思えるからこそ言える言葉だと思うんですけど、それをタイトルとしてこれ以上ないほどストレートに表現していることに少し驚いたんですよね。自信も持って誰かに向けるメッセージというよりも、自分に言い聞かせているような感じもあって。

泣かなくなったわけじゃないし、悲しいことに耐えられなくなったわけでもないし、この10年で何か変わったのか?と考えると……解決方法の見つけ方がちょっと上手になったくらいで、私の本体は何も変わっていない。だけど、生きやすくなるために、この世界の仕組みをちょっとだけ理解できた10年だったなって。根底の変わっていない自分が10年歩いてこられたことを考えると、私に似ている誰かも、きっと大丈夫なんだと思ったんですよ。そんな歌になればいいなと思いました。

──言い方が難しいですけど、もっと好き勝手に生きてもいいと思うんですよ。「誰かの支えになれば」と他人の思いを背負うことはきっと大変で、必要以上にすり減っていくかもしれない。

誰かのために何かをしようというおこがましいことは全然思っていないんです。でも、同じ気持ちでいてくれる人がいたら、自分が心強いなって。すごく自分勝手だけど「この世界を生きていてもいいな」って思えるというか。同じ気持ちでいてくれる人、理解しようとしてくれる人がいるから、がんばってみたい。自分にもできることがあるんだなって実感できる、自分勝手な思いが大きいのかなと思います。

LiSA

──自分を慕う後輩、直接的な影響を受けたアーティストがあとに続いてきて、“先輩”という立場になったときにまた違う景色が見えてくるんじゃないかと。今までは立ちはだかる壁や強大な敵に立ち向かっていく10年でしたけど、これからは下からの突き上げを食らう立場になっていくと思うので。

なるほど。そういう意味では、先輩から受ける刺激も、後輩から受ける刺激も、そんなに変わらないかも。新しい経験、新しい出会いという感覚には変わりがないし、後輩にだってしっかり影響を受けるかもしれない。

──大きな10年間を抜けた先、そしてコロナ禍のその先、というのが「LANDER」という言葉で表現されていると思いますが、着陸したこの“新しい惑星”をどういうものだと捉えていますか?

「NEW ME」の歌詞にも書いていますけど、誇れるものや大事なものだけを持った、新しい始まりだと思うんですよ。元には戻れないけど、そこで経験してきた大事なもの、必要なものだけを持って、ちょっと身軽になって始まった新生活みたいな感覚で。明確な夢として「東京ドーム」があったんだけど、今この世界の東京ドームってどうなんだろう? ドームを作るところから始めなきゃ、みたいな気持ちがあって(笑)。もう1回、みんなと大事なものを確かめながら歩いていく必要があるなと思っています。次は15周年という節目が待っているので、また新しくみんなと見た夢を叶えられたら。

──新生活、というのはいい表現ですね。今は晴れやかな気持ちでいる?

そうですね。「また最初から始めようかな」という感じです。本当にフレッシュな気持ちでアルバムを作ろうと思って、「変わってしまった世界で、自分が今本当にやりたいことはなんだろう」と自分に問いかけて出てきた答えがこれだったので、結局そんなには変わらない気もします(笑)。

LiSA

プロフィール

LiSA(リサ)

6月24日、岐阜県生まれ。2010年春、テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンドGirls Dead Monsterの2代目ボーカル・ユイ役の歌い手に抜擢され、同年5月にGirls Dead Monster名義のシングル「Thousand Enemies」をリリース。2011年4月にLiSA名義のミニアルバム「Letters to U」でソロデビューを果たす。2014年1月に初の東京・日本武道館でのワンマン「LiVE is Smile Always ~今日もいい日だっ~」を行い、翌2015年1月には日本武道館2DAYS「LiVE is Smile Always~PiNK&BLACK~」を成功させた。2019年4月にシングルとしてリリースしたテレビアニメ「鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編」のオープニングテーマ「紅蓮華」がヒットを記録し、同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2020年には映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の主題歌「炎(ほむら)」で「第62回日本レコード大賞」大賞を受賞した。2021年5月、ソロデビュー10周年を記念したミニアルバム「LADYBUG」を発表。その後も9月にはTBS系テレビドラマ「プロミス・シンデレラ」の主題歌「HADASHi NO STEP」、10月には映画「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」の主題歌「往け」、11月にはテレビアニメ「鬼滅の刃 無限列車編」のオープニング / エンディングテーマ「明け星 / 白銀」をリリースした。2022年4月に日本武道館2DAYSを含むライブツアー「LiVE is Smile Always~Eve&Birth~」を開催。11月に通算6枚目のオリジナルアルバム「LANDER」を発表した。