LIBROインタビュー | 友人の死や自分の人生と向き合い、心を決めた“素直100%”のラップ (2/2)

過去や未来への執着を手放さないと清々しさは手に入らない

──名前の出た鎮座DOPENESSとは表題曲の「なかいま」を作っています。

前作の「なおらい」も鎮さんとの「ヤッホー」という曲がなければ成立しなかったから、すごく勇気をもらった。それで今回も一緒にやりたくて。

──「なかいま」というのは、どういう意味ですか?

神道の「中今」から来ていて。そういう神社用語は好きっていうか、もうなんか歴史長いと偉いと思ってるから。

──なるほど。

簡単に言えば、“今”を大事にするということ。自分としては過去や未来に引きずられずに今を大事にしたいという思いがあって。最初は清々しさだけを求めていたけど、鎮魂というテーマが入ってきてしまって、この曲もけっこう苦労しました。今を大事にしたいというテーマなのに、最初のヴァースで幼少期の話を抽象的に書いて郷愁感を漂わせてしまっていて。それで鎮さんが「LIBROさん、難しいな」って(笑)。

──ふむふむ。

自分の大成功は今の自分の全力を出すことと考えていながら、過去や未来に囚われている自分もいて。そうやって囚われるということは、自分にとってそこに何かしらの得があるのかもしれないけど、やっぱりそうした執着を手放さないと清々しさは手に入らないから。そのあたりを整理して、リリックを書き直して、鎮さんにも理解してもらって完成しました。

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──7曲目の「破」にサックスで参加している元晴さんとは、どういうつながりなんですか?

前作の「シグナル(光の当て方次第影の形)」で参加してもらったときに、しっかり知り合えたんですが、昔Fuuriってユニットで作品を出したときにも参加してもらってたんですよね。めちゃくちゃ熱い演奏をする人ってイメージがあって、「シグナル(光の当て方次第影の形)」がすごくよかったので今回も是非とお願いしました。

猫には教えてもらってばかり

──清々しさにつながるかはわかりませんが、ジャケットには猫が描かれていて、「CATS」という猫の歌をアルバムの最後に持ってきています。猫が創作や音楽を作るインスピレーションになる?

疲れたときに猫を見て、「ああすればいいんだな」って思えるんです。猫は全然空回りしていないし、猫には教えてもらってばかり。それで疲れたときには猫の真似をすればいいんじゃないかって自分に言い聞かせている。これまで猫との悲しいお別れの歌は書いたことあるんですけど、こういう“家族モノ”として猫の歌は初めてです。

──猫とのお別れの歌は「てん」(「風光る」収録)ですね。ところで、鎮座DOPENESSとの「なかいま」の前の「SKIT(余韻)」がビートの次々に変わる面白いスキットで。

最初の「SKIT(間騒)」には猫の声を入れて、その鎮さんの前のスキットは、鎮さんと待ち合わせをして電車で移動しているときの気持ちを思い出して作りました。

──それで最後が電車の音なんですか。しかも途中でシカゴハウスみたいなトラックが始まってびっくりしました。

東京って電車に乗っていると景色がどんどん移り変わっていくし、いろんな音も混じっていくじゃないですか。あの曲は、そういうことを意識していました。

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みんなで一気に目覚めて世の中が変わる、みたいなことはない

──「なかいま」も10曲すべて自身でビートを作っていますが、バリエーションが豊富なのが魅力だと思います。例えば、「ありがとう」と「たった今(僕らの情報戦争)」はラガ、レゲエっぽいですし。

KRS・ワンがレゲエやラガをやっていた頃を意識したかもしれない。だけど、ビートはちょっとデジタル寄りにしたかったのと、もしリミックスを作るなら、本物のレゲエバンドの人たちに演奏してもらおうと、そういうイメージを持ちながら作りました。

──LIBROさんは、レゲエにどっぷりハマった時期はあります?

いや、そこまでどハマりしたことはないです。周りにHome GrownでMPCを叩いているSEIJImanがいたり、ちょっと怖いレゲエの先輩にお世話になったことがあったり、レゲエの外側にいる感覚ですね。まずは自分の音楽を確立したかったので、王道のレゲエではなく、エレクトリックダブ的なものとか、ヨーロッパ系のダブを聴いていた時期はあります。

──「たった今(僕らの情報戦争)」は確かにデジタルダンスホールっぽいです。「おれら暴力より創造力が背景 損得の前に信頼関係」という冒頭のリリックからして、ほかの曲にはないアグレッシヴさも感じました。この曲はどんなふうに書きました?

世界各地で国を挙げてお金を出して戦争をやっているじゃないですか。SNSとかYouTubeを見て、戦争を合理的だと考えてしまう人もいるし、戦争の商売に巻き込まれる人もいる。そういうことは現実としてあるから。友達同士だけでもちょっと気付いていこうよと。それが“僕らの情報戦争”ということです。

──こういう曲でもアップテンポで、シリアスな内容のラップには感じられないのがLIBROさんらしいです。

まずは音で楽しんでもらえる曲にはしたくて。だから、「こうなんだよ、わかってくれよ」と強く主張するというより、曲を聴いて気付いてくれたり、感じてくれたりした人たちとサバイブしていきたい、そういう気持ちです。みんなで一気に目覚めて世の中が変わる、みたいなことはないと思っているので。

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メロディがない無骨な“ラップらしいラップ”をやってみたい時期もあった

──どんな曲でも一貫して聴き心地のよさは追求していますよね。

ハッキリしない気持ちや感覚を歌詞にして、音まで曖昧にしてしまうと聴いてくれる人には何も伝わらないから。自分はいろんな音楽が好みだし、MCバトルにビートも提供するけど、ラッパーとしてのソロ作品は自分の内面を前に出さざるを得ないから、リリックは素直に吐き出して、その分、音では気持ちよさを出したいというのはあります。

──その「音を気持ちよくする」ためにオートチューンも効果的に使っている?

オートチューンでピッチをしっかり整えたいという意識ですね。

──つまり、オートチューン本来の使い方をしていると。

もちろん間違って使うことがカッコよくなる場合もあるけど、自分のラップには節回しがあるから、自然とメロディが定まりやすい。昔はメロディがない無骨な“ラップらしいラップ”をやってみたい時期もありました。そういうラップは、トラックを差し替えても全部合う。でも、メロディのあるラップは差し替えが効かない。そこが明確に違う。後者の自分は、そのメロディを生かす方向で楽曲を高めていきたいと考えていて。音楽はギターを弾くところから入っていますし。

──もともとメタルやグランジが原点でしたよね。

そうです。だから、自分でギターを弾いて歌をテープに録るところが出発点にあって、今もその延長線上でやっている。

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リアルの形はたくさんある

──以前、日本語で歌うセンスや方法論は、矢野顕子の「JAPANESE GIRL」(1976年)に大きなヒントを得たとおっしゃっていました。

そうです。フォーク系が多かった実家のレコード棚では珍しいレコードだったんです。それで、「なんだこれ?」と思って聴いてみると、昔の民謡をジャズ風やレゲエ風にアレンジしていたのが新鮮だったし、民謡の歌詞も面白かった。日本の音楽を海外から見ているような感覚に興味を惹かれて、しかも1976年の段階でこういう方法で音楽をやっている日本人がいたことにも刺激を受けて。それもあって、自分は、むしろ普通の言葉、日常的な言葉、誰でも知っている言葉を選んで、つなぎ方で新しい意味を出せればいいなと。そこは一生懸命やっています。

──LIBROさんの音楽はそうした日本の音楽の歴史に連なるな、と常々感じます。日本のヒップホップのラップは一種の型も根強いですから、そんな中でLIBROさんのスタイルは際立ちます。

「リアルとはなんだ?」っていうところで、ヒップホップはいまだに厳しい部分がありますし。だけど、リアルの形って本当はすごくいっぱいあるはずだから、1つの方向に寄せられずに、みんなもっと素直にやればいいんじゃないかなって思いますね。

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プロフィール

LIBRO(リブロ)

日本のヒップホップシーン黎明期の1997年にラップ、トラックメイク双方を手がけるスタイルでデビューしたラッパー / プロデューサー。1998年にリリースしたミニアルバム「胎動」は、さまざまなアーティストが自分のスタイル確立に切磋琢磨するヒップホップシーンの中において、新しい風を吹き込むオリジナリティ性を提示し、大きな話題を呼ぶこととなった。2003年の「三昧」リリース以降は、トラックメイカーとしてラッパーやシンガーにトラックを提供。2009年には自身のレーベル「AMPED MUSIC」を立ち上げ、LIBRO名義で初のインストアルバム「night canoe」をリリースした。2014年にリリースしたアルバム「COMPLETED TUNING」でラッパーとして復帰して以降は、コンスタントに作品を発表。2025年5月に最新アルバム「なかいま」をリリースし、東京・LIQUIDROOMで初のワンマンライブを成功させた。