LE SSERAFIMが5thミニアルバム「HOT」をリリースした。
「HOT」は、2024年にリリースされた「EASY」「CRAZY」に続く3部作の最終章。デビュー以来、「FEARLESS」や「UNFORGIVEN」で“恐れない強さ”を打ち出してきた彼女たちだが、この3部作では、その裏にある葛藤や情熱をさらけ出してきた。「EASY」では、完璧に見える彼女たちが抱える迷いやプレッシャーを描き、「CRAZY」では「不安に襲われるよりも、すべてを振り払ってCRAZYになろう」と抑圧から解放されていく。そして最終章「HOT」では、タイトル曲で初めて“愛”をテーマに掲げるなど、すべてを燃やし尽くす覚悟で突き進む姿を表現してみせた。
今回の特集では音楽ライター岸野恵加のレビューを通じて、3部作を貫くストーリーのつながりを紐解きながら、LE SSERAFIMがなぜこれほどまでにリアルな存在としてリスナーの心をつかみ続けるのか、その理由を探っていく。
文 / 岸野恵加
いつだって生き様を投影してきた
なんて率直で、正直な人たちなのだろう。LE SSERAFIMが新たな作品をリリースするたびに、そう思わずにはいられない。それぐらい彼女たちはいつも、自分たちの生き様を楽曲にそのまま投影してきた。
「HOT」は、LE SSERAFIMが2024年2月にリリースした3rdミニアルバム「EASY」、同年8月リリースの4thミニアルバム「CRAZY」に続く、3部作の最終章を飾る作品だ。「EASY」のイントロダクションとして収められた「Good Bones」には「EASY, CRAZY, HOT, I can make it」という歌詞があり、3部作の物語が続いていくことが示唆されていた。
「IM FEARLESS(私は何も恐れない)」という意志が込められたグループ名の通り、デビュー初期に発表した「FEARLESS」や「ANTIFRAGILE」では、揺らがず堂々とした姿を見せてきたLE SSERAFIM。しかし「EASY-CRAZY-HOT」の3部作では、その裏で悩みや不安を抱える姿や、情熱的に愛に没頭する様子を表現し、より生々しく人間らしい側面を描き出している。
「EASY」の表題曲のリリックでは、「怪我するとしても道を歩く」「時には力が抜ける、私の脚」と、完璧なパフォーマンスを見せる裏で向き合うさまざまな苦難を見せつつも、「簡単じゃないなら私が簡単にしてみせる」という強い決意が示される。またメンバーのKIM CHAEWON、SAKURA、HUH YUNJIN、KAZUHAが作詞に参加した収録曲「Swan Song」でも、見えないところで血と汗を流し努力しているという、自分たちのありのままの姿を打ち明けていた。
続く「CRAZY」では、「EASY」で描かれた悩みや不安をすべて投げ出して、「LE SSERAFIMと一緒にただCRAZYになろう」というメッセージを表現。アッパーでダンサブルなEDMに乗せて、5人が笑顔で軽やかなパフォーマンスを繰り広げる。しかしただ底抜けに明るいわけではない。1曲目の「Chasing Lightning」では、メンバーそれぞれが欲求をあらわにするが、すぐに「我慢しなよ」「もっと大事なことがあるんだから」と、抑圧するような声が響く。自問自答を繰り返したLE SSERAFIMは、「天気を変えることはできないけど、ただ稲妻を追いかけたいから追いかける(=自分の好きなことに迷わず打ち込み、手の届く範囲の現実を変えてみせる)」という思考に行き着いた。ただ頭を空っぽにして解放を願うのではなく、葛藤を重ねたからこそ、“CRAZYになろう”というメッセージが切実に響いてくるのだ。
ちなみに「Chasing Lightning」は歌詞に込められた各メンバーの欲求に「愛犬に会いたい(KIM CHAEWON)」「ギリシャヨーグルトをずっと食べたい(HUH YUNJIN)」「編み物をしてると、時間が経つのも忘れちゃう(SAKURA)」など、それぞれがリアルに愛好するトピックが反映されているのもポイント。トレイラー映像「CRAZY TRAILER 'Chasing Lightning'」にはKIM CHAEWONの愛犬・シロが出演しており、かわいらしいコラボを観ることができる。
LE SSERAFIMが“愛”を歌うと
そして最終章となる「HOT」は、LE SSERAFIMがタイトル曲で初めて“愛”を表現した作品。収録された5曲では、愛することに没頭するために、何もかもを燃やして全力を尽くす姿が表現されている(ちなみに「Good Bones」にも「いかなるものも私の情熱と熱望を止めることはできない」という歌詞があり、3部作の一貫性が感じられる)。「HOT」と聞くとギラギラと燃えたぎるようなほとばしりを想起するかもしれないが、この作品で描かれているのは強烈な熱気ではなく、一帯をオレンジに染め上げる夕焼け空のように、メロウで静かに熱く燃えるようなムードだ。
タイトル曲「HOT」の制作陣には、ショーン・メンデスとカミラ・カベロの「Senorita」やBTS「IDOL」などヒット曲に多く携わるAli Tamposi、LE SSERAFIMの「UNFORGIVEN (feat. Nile Rodgers)」にも参加したFeli Ferraroらが名を連ねている。どこか哀愁漂うメロディが際立つロック、ディスコ調のサウンドが特徴で、メンバーそれぞれのボーカルの魅力を存分に味わうことができる。個人的には、HUH YUNJINのしっとりとした歌声の表現に唸らされ、カムバック直前にソロで出演した番組「リムジンサービス」での歌唱力の高さが話題になっていたKAZUHAのボーカルも、楽曲によくマッチしていると感じた。
「HOT」では「私が私として生きることができるなら 灰になったとしても私はいい」という強いリリックが特に印象的だが、ここで歌われる“愛”は異性愛に限らない。リリース当日に行われたメディア向けショーケースにて、HUH YUNJINは“愛”の対象は「仕事や趣味、あるいは不安定な自分の姿、自分を応援してくれる人も含まれるだろう」と語っていた。またSAKURAは「過程より結果を重視してきたが、LE SSERAFIMとしてデビューしてからは結果よりも過程が大事だということに気付いた。『HOT』のメッセージは自分の人生と似ていて、すごく共感できる」と話し、「結末がわからずとも全力を尽くす」という楽曲のテーマに自らを重ねている。
LE SSERAFIMは音楽ジャンルやパフォーマンス面において、カムバックのたびに新たな挑戦を欠かさない。「EASY」ではメンバーが「一番難しくて体力を消耗する曲」と語るほど、まったく“EASY”ではないオールドスクールヒップホップのダンスに挑み、「CRAZY」ではヴォーギングを取り入れた。2024年の終わりに、筆者はLE SSERAFIMに直接インタビューする機会に恵まれたが(参照:LE SSERAFIM「CRAZY」特集)、その際にKAZUHAは「毎回のカムバックが挑戦」と語っていた。並々ならぬ量の練習を重ねることで、どんな表現も確実に自分たちのものにしてきた5人。スター然とした輝きを放ちながらも、1つひとつの質問をしっかりと受け止め真摯に言葉を紡いでくれる姿勢は、楽曲で表現されている彼女たちそのままだと感じた。
スピーディで激しい振付が多いLE SSERAFIMだが、「HOT」では力強さやしっとりとなめらかな動きを絶妙に合わせた振り付けが見られ、顔の横で手を扇いで熱気を表現するようなダンスと、カリスマ性を感じさせる表情が印象に残る。また習得するまで何度も練習を重ねたというムーンウォークや、ロングコートの裾をさっそうとはためかせるパフォーマンスには大人っぽさが漂う。
そしてイギリスのバンド・Jungleが手がけた「Come Over」では、ヴィンテージムードなサウンドに乗せて「今この瞬間の感情に素直に反応し、一緒に楽しく踊りながらこの瞬間を楽しもう」と軽快に歌われる。この曲は、音源を聴いて抱いた印象がパフォーマンスを観てがらりと変わり、度肝を抜かれた。心地よいビートと軽やかに口ずさむようなボーカルとは裏腹に、ダンスはメンバーの連携が肝となる、複雑なフォーメーションの連続。細かな裏の音にもしっかり振りを当ててくる構成と、シンクロ率の高さに圧倒される。LE SSERAFIMの楽曲はパフォーマンス込みで完成するものだし、生のステージを目撃すべきグループだと、改めて実感させられる1曲だ。
そのほかイントロ曲「Born Fire」では、LE SSERAFIMらしい強烈なビートに乗せて、火が燃えて灰になり再び火種を灯していく過程が、まるで神話のように語られる。ダークな雰囲気の「Ash」では、苦痛を受け入れた中での美しさが、はかなげで繊細な歌声で表現された。そして最後の「So Cynical (Badum)」では、KIM CHAEWON、HUH YUNJIN、HONG EUNCHAEが楽曲制作に参加。心臓がドキドキする音を表す「ba-dum」を繰り返し用いて、中毒性の高い余韻を残し、アルバムを締めくくっている。全編を通して感じたのは、メンバーが“愛”を全身全霊で表現する姿は、とてもナチュラルだということ。彼女たちはデビューしてから今まで、いつだって互いへの、そしてファンへの愛を絶やさずに活動してきたのだから、それはまったく不思議なことではない。
さらけだして、丸ごと抱き締めて
「EASY」のリリースで幕を開けたLE SSERAFIMの2024年は、それまで以上にグローバルな活躍が目立つ1年間だった。9月にはアメリカの4大音楽授賞式の1つと言われる「2024 MTV Video Music Awards」でプレショーのステージを飾り、「PUSH Performance of the Year」を受賞。そしてイギリスで11月に開催されたヨーロッパ最大の音楽授賞式「2024 MTV Europe Music Awards」にも登場し、華やかなパフォーマンスで現地を沸かせたほか、K-POPガールグループとして初めて「Best PUSH」を受賞した。
日本での活躍も目覚ましく、年末の「日本レコード大賞」ではK-POPガールグループとして初めて特別国際音楽賞を受賞し、デビュー年から3年連続で「NHK紅白歌合戦」に出場するという快挙も達成。確かな人気と実力を証明した。年末にインタビューで対面した際も、5人の充実感に満ちた表情から、多くのことを得た1年であったことがよく伝わってきた。
弱さも痛みもさらけだして丸ごと抱き締め、一緒に歩んでくれるグループ。それがLE SSERAFIMだ。5月のデビュー3周年を前に、4月には「EASY-CRAZY-HOT」をタイトルに冠した初のワールドツアー「2025 LE SSERAFIM TOUR ‘EASY CRAZY HOT’」が、韓国・仁川公演を皮切りに各地で開催される。3部作を経てさらに多彩な表現を手に入れたLE SSERAFIMは、これまで以上に世界中を魅了することだろう。
公演情報
2025 LE SSERAFIM TOUR 'EASY CRAZY HOT' IN JAPAN
- 2025年5月6日(火・振休)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
- 2025年5月7日(水)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
- 2025年5月13日(火)大阪府 大阪城ホール
- 2025年5月14日(水)大阪府 大阪城ホール
- 2025年6月7日(土)福岡県 西日本総合展示場 新館
- 2025年6月8日(日)福岡県 西日本総合展示場 新館
- 2025年6月12日(木)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
- 2025年6月14日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
- 2025年6月15日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
2025 LE SSERAFIM TOUR ‘EASY CRAZY HOT’ IN JAPAN | LE SSERAFIM Japan official site
プロフィール
LE SSERAFIM(ルセラフィム)
KIM CHAEWON、SAKURA、HUH YUNJIN、KAZUHA、HONG EUNCHAEの5人のメンバーからなる、HYBE MUSIC GROUPのレーベル・SOURCE MUSIC所属のガールグループ。グループ名は「IM FEARLESS」のつづりを組み替えたもので、「世の中の視線に動揺することなく前に進む」という強い意志を表している。ファンネームはFEARNOT。2022年5月、1stミニアルバム「FEARLESS」でデビューし、2023年夏に初のアジアツアー「2023 LE SSERAFIM TOUR 'FLAME RISES'」を開催した。2024年9月、アメリカの4大音楽授賞式の1つと言われる「2024 MTV Video Music Awards」でプレショーのステージを飾り、「PUSH Performance of the Year」を受賞。11月にはイギリスで行われた音楽授賞式「2024 MTV Europe Music Awards」に唯一のK-POPアーティストとして参加し注目を浴びた。
日本では、2023年1月に日本1stシングル「FEARLESS」で日本デビュー。2024年12月には日本オリジナル曲「Star Signs」も収録された日本3rdシングル「CRAZY」をリリース。同年「輝く!日本レコード大賞」で「特別国際音楽賞」を受賞し、「NHK紅白歌合戦」に3年連続で出場を果たした。
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