ナタリー PowerPush - kz(livetune)×八王子P

クリエイター2人が語る ネットミュージックの現気鋭在と未来

僕らが知らない、よくわからないものがまだ世界に転がってると思う

──これは僕の持論なんですけれども。ポップスとかロックとかを全部含めて、実は2007年というのが、インターネットと音楽における時代の変わり目の年になったと思ってるんですね。

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kz というと?

──例えばボーカロイドもそうですけれど、ニコニコ動画のベータサービス、それからUstream、SoundCloud、それらが全部2007年にサービスをスタートさせているんです。

kz SoundCloudって2007年でしたっけ? それは知らなかった。

──SoundCloudはベルリン発だから、日本で普及したのはあとですけど。で、YouTubeが先んじて2005年にスタートしていた。あとから振り返ると、音楽を共有するための新しい仕組みが世界中で同時多発的に生まれてきたのがちょうどその頃だったという。

kz 確かにインターネットミュージックがいい環境になってきたのって、UstreamとSoundCloudのおかげだという実感があるんですよね。そう考えると、確かに2007年は時代のターニングポイントだったのかもしれない。

八王子P 俺が曲を作り始めたのが2007年ですね。

kz そうなんだ。じゃあ、その流れに加わっちゃう?(笑)

八王子P いやいや!(笑) でも、自分はそういう時代から入ったから、そういう環境が当たり前の中でやってきた感じですね。

kz それでわかったんだけど、2007年とか2008年の頃って、みんなDIY精神が強かったんですよ。よくわかんない面白いものが転がってるから、それをどうにかして面白くしようぜっていう文化だったんですね。で、そこから僕が作った「Re:package」という曲がメジャーリリースされたり、いろんなことがあって、ルートが明確になっちゃったんですよね。ここに乗ればここに着くっていうのがわかっちゃった。それが堅苦しさの原因につながっちゃってるのかなと思うんですよね。さっきの八王子Pの話だって、「なんだかよくわからない面白いことをしよう」っていう感じがシーンから伝わってこないっていうことじゃないのかな。

八王子P そういうの、ありますよね。

──それ、僕にはすごく思い当たる節があるんです。実は、2007年の音楽業界の人たちって、みんな暗い顔をしていたんですよ。

kz そうでしたっけ?

──そうなんです。RADIOHEADが「In Rainbows」をフリーダウンロードでリリースしたり、プリンスがCDを新聞のおまけとして無料で配ったりしたのが、ちょうどその年のことで。この先CDというパッケージはどんどん売れなくなっていくんだっていう悲観論を誰もが語っていた。でも、みんなが暗い顔をしてた2007年って、実は新しい時代の始まりだったんじゃないかってことを、今になってみると思うんですよね。

kz 暗い顔をしてたんですね。僕はどっちかっていうと、あの頃はすごくポジティブなことを思ってました。面白いことがこれからいろいろできるじゃん、って。多分、それって、既存のシステムにいなかった人たちの見方なんですよね。システムの側にいた人からすると、無料で出されちゃどうしようもないだろってなっちゃうと思うんですけど。

八王子P 自分はまさに曲作り始めたばっかりなんで、もうやったるぜ!みたいな感じでした。まともな曲を作れるようになったらニコ動にアップするぞ!みたいな。

──まさに、目の前に遊び場が広がってるわけですもんね。それはワクワクしますよね。

八王子P はい。音楽を作り始めた時期っていうのも大きいですけれど、とにかく楽しい時期でしたね。

──そう考えると、5年前にできた遊び場はもうシステム化されたけれど、2007年と同じように、2012年の今も、きっとどこかにまた新しい遊び場があるんじゃないかって、僕は思うんです。

kz そうですね、多分。僕らが知らない、よくわからないものがまだ世界に転がってると思う。それに、今はbandcampっていう、自分で金額を設定して音楽を販売できるサイトもあるし。ミュージシャンがマネタイズできるシステムが新しく始まっている。いいバランスで今後は進んでいくと思います。フリーもいいことだけど、それには限界があるし、お金を払いたいっていう人も少なからずいると思うんですよね。だからこそtofubeatsが1位になったわけだし。だから、この数年間は暗かったのかもしれないですけど、ここにきて光のようなものが見えてきてるんじゃないのかなと思います。

八王子P で、だからこそやっぱりクリエイターはお金を出しても買いたいって思えるものをしっかり提供するべきだなっていうのも思います。

kz ひょっとしたら、数百年前のクラシックの世界みたいに、後援者がいて作曲者がいるというようなシステムが今後生まれるかもしれないですよね。あってもおかしくはない。

八王子P 確かに。

──未来がどうなるかはわからないけれど、大きく変わっていくんだろうなということは、ほんとに思いますね。

kz そうですね。特にインターネットのサービスって数カ月で移り変わるし、ひょっとしたら今年の年末によくわからない大事件が起こってるかもしれないですし(笑)。そこは面白いところですよね。

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kz(livetune) × 八王子P feat. 初音ミク「Weekender Girl」Music Video Version

CD収録曲
  1. Weekender Girlkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  2. fake doll八王子P feat. 初音ミク
  3. Weekender Girl Instkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  4. fake doll Inst八王子P feat. 初音ミク

iTunes Storeにて配信中!

iTunes - Weekender Girl / fake doll - kz(livetune)×八王子P
Toy's Hopにて Weekender Girl Tシャツ販売中! 定価 3500円
「Weekender Girl Tシャツ」画像
livetune(らいぶちゅーん)

音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し、注目を浴びる存在となる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、CM楽曲も話題に。2012年1月に同曲を配信リリースし、3月にミニアルバム「Tell Your World EP」を発表した。

八王子P(はちおうじぴー)

ボーカロイドを使って音源制作をする「ボカロP」として活躍中の男性アーティスト。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め、有名ボカロPの仲間入りを果たす。これまでニコニコ動画やYouTubeで公開した関連動画の総再生数は700万回を超える人気ボカロP。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売り上げチャートで4位に入る健闘ぶりを見せる。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビューを果たしている。