ナタリー PowerPush - kz(livetune)×八王子P

クリエイター2人が語る ネットミュージックの現気鋭在と未来

平日の熱量のなさを表現したかった

──「Weekender Girl」っていうタイトルはどういうイメージから?

kz そこもラフな感じを出そうというテーマからですね。「ラフさ」ってなんだろうなって思ったときに、週末にクラブに行くのを楽しみにしている平日の感覚というのを思い付いたんです。平日の熱量のなさみたいなものを歌詞にしよう、というか。

──確かに「カレンダーはまだ真ん中」って歌ってますからね。日常の曲であることがわかる。

インタビュー写真

kz そう。平日なんですよ。クラブに行ってないですからね(笑)。「クラブに行って楽しいぜ!」じゃなくて、行きたいってところで止まってる熱量のなさみたいなものを表現したかったんですよね。

──kzさんは「Tell Your World」という曲を作っていますよね。あれは逆にとても熱量の高い、まさにアンセムとして作った曲だと思うんですけれども。

kz そうですね。あの曲は、まさに熱量の塊です。

──あれを聴いて、僕はkzさんのことを、意識してアンセムとしての歌詞を書くタイプの人なんだと思ってました。

kz いや、そうでもないんですよ。むしろ、あれがイレギュラーなんです。歌詞で全てを表現しようという意識はそんなになくて。正直伝えたいことって、そこまで明確にないんですよ。クラブミュージック出身っていうのもあるんですけど、サウンドによって訴えかけるものをメインに作ってるので。

脳内で旅をしたいんでしょうね、結局

──僕が思うにクラブミュージックって、ビート感やサウンドはもちろんだけど、実は歌詞がすごく重要だと思うんです。例えば90年代のフレンチハウスの名曲「ミュージック・サウンズ・ベター・ウィズ・ユー」(※1998年にSTARDUSTがリリースした楽曲)では、「あなたと一緒なら音楽は素敵に響く」ということを繰り返し歌っていて。そういうシンプルだけど強い言葉がすごくハマる。

インタビュー写真

八王子P うん、それはすごくわかります。例えばtofubeatsさんの「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」も、そのワンフレーズでいいんですよね。確かに、自分がいいと思う歌詞ってワンフレーズで全部持っていっちゃうみたいな感じがあるかも。

kz クラブミュージックとしての歌詞は、それでいいんですよね。素晴らしいワンフレーズがあればアンセムになる。でも、J-POPはそれとは違って、歌詞の中にストーリーが必要になる。特に僕がlivetuneやkzの名義で作ってるのはポップスだという意識が強いので。ストーリーをイメージしながら歌詞を作ってますね。

──ボーカロイドのクリエイターとしても、歌詞をどう書くかってすごくポイントなんだろうなって思うんですけれど。

kz そうですね。いつも苦労するんですよ(笑)。僕は曲を作りたいタイプの人間なんで、歌詞を書くのはほんとに苦手なんですよ。なんでいつも締め切り間際に朝からずっとがんばってたりします。

──八王子Pさんはどうですか?

八王子P 自分も曲を作り始めようと思ったきっかけがクラブミュージックなんで、最初は歌モノを一切作ってなくて。ずっとインストゥルメンタルのよくわかんない曲を作ってて。

kz (笑)。

八王子P ボーカロイドには、自分の中では言葉を話せるシンセサイザーみたいなイメージを持っていて。あくまで音色なんですよね。人間が歌うときはその人の背景とかもあるけれど、そういうものがない。

──なるほど。ボーカロイドというのは、自分の考えていることや伝えたいことをストレートに乗せられるツールというふうに捉えていると。

八王子P そうですね。そういう意識はかなりあります。

kz ただ、ツールとしてはそういう考え方なんですけど、僕にはいかんせん伝えたいことが、いつも明確にあるわけではなくて。例えば村上春樹さんのような、風景が見えてくる文章の影響が大きいのかもしれない。日々パソコンの前で作ってるんで「どこかに行きたい」っていう気持ちがあるんですよね。それを歌詞にしているという。だから、メッセージを伝えるっていうよりは、情景を伝えるような感じのものを作ってるっていう意識があります。

八王子P なるほど!

kz 脳内で旅をしたいんでしょうね、結局(笑)。

CD収録曲
  1. Weekender Girlkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  2. fake doll八王子P feat. 初音ミク
  3. Weekender Girl Instkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  4. fake doll Inst八王子P feat. 初音ミク

iTunes Storeにて配信中!

iTunes - Weekender Girl / fake doll - kz(livetune)×八王子P
Toy's Hopにて Weekender Girl Tシャツ販売中! 定価 3500円
「Weekender Girl Tシャツ」画像
livetune(らいぶちゅーん)

音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し、注目を浴びる存在となる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、CM楽曲も話題に。2012年1月に同曲を配信リリースし、3月にミニアルバム「Tell Your World EP」を発表した。

八王子P(はちおうじぴー)

ボーカロイドを使って音源制作をする「ボカロP」として活躍中の男性アーティスト。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め、有名ボカロPの仲間入りを果たす。これまでニコニコ動画やYouTubeで公開した関連動画の総再生数は700万回を超える人気ボカロP。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売り上げチャートで4位に入る健闘ぶりを見せる。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビューを果たしている。