音楽ナタリー Power Push - クミコ with 風街レビュー
クミコ × 松本隆 16年ぶりタッグで生まれた“恋歌”
クミコ with 風街レビューによる両A面シングル「さみしいときは恋歌を歌って / 恋に落ちる」が、9月7日にリリースされた。
クミコ with 風街レビューは、クミコと松本隆によるプロジェクト。2人は2000年発売のクミコのアルバム「AURA」以来、16年ぶりにタッグを組んだ。さらに「さみしいときは恋歌を歌って」には作曲で秦基博、「恋に落ちる」には作曲でハナレグミの永積崇が、どちらの楽曲にも編曲で冨田恵一が参加している。音楽ナタリーではこのプロジェクト発足を記念して、クミコと松本隆の対談を実施。16年ぶりにタッグを組むことになった経緯や楽曲制作秘話などを聞いた。
取材・文 / 辛島いづみ 撮影 / 塚原孝顕
「風街」のDNAを次の世代に伝えたい
──今回のコラボレーションの始まりはどういうものでしたか?
クミコ 私から松本さんに声をかけました。「また一緒にやりましょう」って。というのも、歌手として自分が何を歌うべきか、これからどんなふうに音楽をやっていくのか、そんな迷いや葛藤のようなものが出てきてしまったんです。人間としてもう少し高みを目指すためにも、松本さんにもう一度、私と向き合ってもらいたいなって。
松本隆 以前から「必ずもう一度一緒にやろう」という約束はあったからね。「いつ来るのかな、そろそろ来るのかな」と思ってたら来た。忘れた頃にやってきた(笑)。
──2曲共作詞はもちろん松本さんで、作曲は「さみしいときは恋歌を歌って」が秦基博さん、「恋に落ちる」がハナレグミの永積崇さん、どちらもアレンジは冨田恵一さんです。
クミコ 16年前の「AURA」のときは、松本隆さんと鈴木慶一さんにプロデュースをお願いしたので、今回もその流れを汲んで、ソングライターも松本さんの遺伝子を継ぐ人たちとご一緒できればと思っていたんです。秦さん、永積さん、冨田さんに参加いただけたことは、普段の私だったらあり得ない展開。
松本 彼らは「風街」のDNAを持ってる人たちだからね。「風街」というのは、そもそもは僕の中に存在する街のことだけど、それは僕の詞の原点になっているし、はっぴいえんどの原点でもあって。だから今回のプロジェクト名は「クミコ with 風街レビュー」にした。「風街」のDNAを次の世代に伝えたいという思いで付けたんだ。
この10年くらい、まともなラブソングがない
──どちらの曲も、恋の始まりを歌った直球のラブソングですよね。
松本 「今回のテーマはラブソングにしよう」というのは僕は最初から決めていた。ラブソングに回帰するというか。クミコはそれまで、生きるとか死ぬとか、切羽詰まった歌が多かったから(笑)。
クミコ 最初に秦さんの曲の詞を松本さんからいただいたとき、「そうか、恋歌かあ」って。すごく新鮮な感じがしたんです。最近は私自身の恋関係が不足してましたから(笑)。松本さんがおっしゃるように、それまでは命をテーマにした歌がすごく多くて、正直、少々しんどかったというのもあったんです。「いいじゃん、恋歌でも」という気持ちはありながら、なかなかいい歌に巡り会えなくて。
松本 そろそろクミコをニュートラルなポジションに戻してあげたいなって思ってた。時代的にも、まともなラブソングがないんだ、この10年くらいは。奇をてらった歌ばかりが氾濫していて。そういう意味でも、ニュートラルなラブソングとはどういうものか、それを再認識してもいいんじゃないかなって。「普通」のことが存在しがたい時代ではあるけれど、でも「普通」であることは人間には必要なこと。普通に恋をして普通にドキドキする、普通にうれしくなる、普通に切なくなる。「恋歌」というのは、こういうことなんだよっていう見本を、もう一度世の中に提示したほうがいいなって。
クミコ 今回の詞は、それまでの松本さんの詞と比べてもすごく優しい言葉で書かれてるんですよね。ひらがなが多いんです。2曲共そう。
松本 難しい漢字を使ってないんだよね。
クミコ だからこれを一生懸命に歌っていると、この歌は実はものすごく奥が深いぞって。歌えば歌うほどに、聴けば聴くほどに深みが増す、そんな歌になったんじゃないかと思います。
松本さんってすごい作詞家なんだなあ
──秦さんの「さみしいときは恋歌を歌って」は、メロディがすごく大人っぽくて、上質なAORの雰囲気があります。
松本 複雑なメロディなんだよね。
クミコ そう、難しい。最初は、秦さんが仮歌でハミングしてる状態で聴いたので、これに詞を付けるのは相当難しいだろうなと思ったんです。どうやって詞を付けるのかなって。そうしたら「さみしいときは恋歌を歌ってね」というサビがきて、「これかあ!」って。松本さんってすごい作詞家なんだなあ、なんて失礼なことを思って感心しちゃいました。巨匠なのに(笑)。
松本 あはははは(笑)。
クミコ だって、この曲をもらって自分がどんな詞を付けるだろうと考えたら、私には絶対書けないなと思ったんです。ある種、茫洋とした海のようなメロディで、そこにどう取っ掛かりを付けるんだろうって。最初に曲だけ聴いたときはちょっと逃げ腰になったんです。このメロディ、覚えられないよーって(笑)。だけど松本さんの言葉が乗った途端、曲が立体化したんです。これはもうさすがだなあって。改めて。
松本 すごく難しいところにサビがくるんだよね。だから音を聴いたときに、「さみしいときは」、ああこの言葉しかないなって。
クミコ よくぞ当てはめました(笑)。
松本 作詞家歴46年ですから(笑)。
クミコ でもホント「さみしいときは恋歌を歌ってね」のリフレインは素敵。人前で歌うともっといいの。この間、イベントで初めてフルコーラスで歌ったんですけど、お客さんが泣いてたって。うちのマネージャーが客席の後ろで観てたんだけど、女の人が何人か涙ぐんでたって。タオル出して涙を拭ってたっていうから、汗かいてたんじゃないのって言ったんだけど(笑)。
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収録曲
- さみしいときは恋歌を歌って
[作詞:松本隆 / 作曲:秦基博 / 編曲:冨田恵一] - 恋に落ちる
[作詞:松本隆 / 作曲:永積崇(ハナレグミ)/ 編曲:冨田恵一] - さみしいときは恋歌を歌って(Instrumental)
- 恋に落ちる(Instrumental)
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問い合わせ先:店頭もしくは03-6800-4753(平日10:00~18:00)
クミコスペシャルコンサート2016
- 2016年9月24日(土)
- 東京都 EX THEATER ROPPONGI
- ゲスト:松本隆 / 秦基博(予定)
クミコ
女性シンガー。1982年にシャンソニエの老舗・銀座「銀巴里」でプロ活動をスタートさせた。2000年に松本隆が手がけたアルバム「AURA」で一気にその名を広める。2010年「INORI~祈り~」がヒットし、同年「第61回NHK紅白歌合戦」に初出演を果たした。2015年9月、つんく♂がプロデュースを手がけた楽曲「うまれてきてくれて ありがとう」をシングルリリース。レコード大賞作曲賞を受賞する。2016年9月、松本隆と16年ぶりにタッグを組み、「クミコ with 風街レビュー」として両A面シングル「さみしいときは恋歌を歌って / 恋に落ちる」をリリースした。
松本隆(マツモトタカシ)
1949年生まれの作詞家。ドラマーとして所属していたはっぴいえんどでは、多くの楽曲の作詞を手がけていた。1972年のバンド解散後は、作詞家として本格始動。太田裕美「木綿のハンカチーフ」、寺尾聰「ルビーの指環」といった数々の名曲の作詞を手がけ「日本レコード大賞」などを受賞する。作詞家生活45周年記念として2015年に開催されたコンサート「風街レジェンド2015」が伝説的なライブとなり、記念アルバム「風街であひませう」はその年の「日本レコード大賞」アルバム賞を受賞した。また同年、昭和から現在まで第一線で日本の音楽史を支えてきた功績が認められ「第66回芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞。2016年、クミコとタッグを組み、新プロジェクト「クミコ with 風街レビュー」を発足。9月に両A面シングル「さみしいときは恋歌を歌って / 恋に落ちる」をリリースした。