自分の思いが一番伝わる形
──ではここからは過去のお話……アーティスト・久保あおいがどのようにできあがったのかを探っていきたいと思います。子供の頃からお母さんが愛聴していた浜崎あゆみさんやglobeを一緒に聴いていたそうですが、自分の意思を持って最初に聴いた音楽はなんだったんですか?
中学のときに友達に教えてもらった、傘村トータさんの「贖罪」です。歌詞が自分にドンピシャに当てはまって、「この曲歌いたい!」と思ったんです。
──「歌いたい!」なんですね。
「ドンピシャな歌詞を自分の声で歌ったらどうなるんだろう?」という興味が大きくて。どの歌詞が自分の声に合うのか、響くのか……というのを常に探っています。
──久保さんにとって音楽というのは、娯楽ではないんですね。
そうですね。自分の思いが一番伝わる形だなと思っています。感情を出すのがすごく苦手なのですが、歌になるとそれができるので(笑)。本当に素の自分が出せる形だと思います。
──でも個人的に、楽しむために音楽を聴くこともありますよね。
もちろん。そういうのはやはりお母さんの影響を受けた曲が多いですね。Kiroroさんをよく聴いています。歌いやすいし、声がどストライクで。あとはバラードが好きなので、中島美嘉さんの「雪の華」などもよく聴いています。
──「歌いたい!」という気持ちが芽生えてきたはいつなんですか? 子供の頃から歌がうまい自覚はあったのでしょうか。
歌が好きになったのは、小学4年生のときですね。子供の頃は、お母さんが歌っている歌やお母さんが聴いている曲が常に近くにありました。うちのお母さん、めちゃめちゃ歌がうまいんですよ。一緒にカラオケに行っても、どれだけ私が練習してもお母さんのほうがうまくて(笑)。お母さんが私にとっての目標でもあり、ライバルですね。いずれは越したい目標です。だから、自分は歌がうまいと思ったことは一度もないんです。ただ、「この頃よりは成長できたかな?」とは思いますが。
すべてが学校とは全然違っていた
──では、具体的に歌で生きていく、歌手になりたいと思うきっかけはなんだったのでしょう。
カラオケに行って、友達や家族など周りの人が私の歌に感動して泣いてくれたときに、すごくうれしかったんです。それが自分の心に響いて、「歌いたい!」「歌をたくさんの人に届けられたらいいな」と思うようになりました。
──「歌で伝える」というのが、自分のアイデンティティになっているんですね。
はい。歌が唯一素直になれる場所なので。しゃべるのはちょっと恥ずかしかったり、怖かったりするのですが、メロディに乗せれば流れで歌えるんです(笑)。
──久保さんは15歳でデビューしたわけですが、どんな経緯で歌手になったのでしょう。
私自身がびっくりするぐらいトントン決まってしまって……。きっかけは、当時やっていたSNSに投稿していた歌を聴いた詠人不知さんから連絡をいただいたことだったんです。詠人不知さんの曲を歌ったら、いつの間にか歌手になっていて。最初に連絡が来たときはびっくりしました。歌は好きだったけれど自信がなかったので、「本当にいいのかな?」と思いながらの挑戦でした。
──ちょっと怖くなかったですか?
最初はすごく緊張しました。これ以上にないほどガチガチで。なんか「大人の世界だな」と思いました(笑)。詠人不知さんも落ち着いた雰囲気で、私がいつも一緒にいる同年代とは違うから、気持ちの切り替え方がわからなかったし。すべてが学校とは全然違っていました。
──詠人不知さんとは、具体的にどうやって曲を仕上げていったのでしょう。
まず詠人不知さんがいろいろなパターンのAメロ、Bメロを作ってくださって。そこから2つくらい選びます。それを歌って、歌に合っているものを残して完成させていくという手順です。ボーカルは、私が自由に歌わせていただく感じでした。その場で聴いた曲をその場で覚えて歌うというやり方だったので、考える時間があまりなかったのですが、その中で「心で歌う」ことを学びました。音程も大事にしつつ、自分の気持ちからちゃんと歌えるように心がけるようになったし、曲を覚えるのが早くなりました(笑)。
お母さんはホントに大きな存在
──久保さんにとって歌うことは特別なことではなく、日常なんですね。
これも、お母さんの影響かもしれません。普段からお母さんがかなりの声量で台所で歌っているので(笑)。私にとってお母さんは、ホントに大きな存在です。「絶対に歌手になれる」と言ってくれたのもお母さんなんですよ。うれしかったし、その言葉を信じてよかった。
──いい関係の母娘ですね。SNSで見出されて15歳でデビューしましたが、久保さんにとってデビューは目的ではなかったですよね。
そうですね。自分もつらい経験をたくさんしてきたので、同じような経験をしている方を救ってあげたいというのが一番の目的です。それは、デビューしても変わりません。YouTubeなどのコメント数を見ると、「多くの人に届いているんだな」と思うし、「ここが好き」って書いてくれるコメントに私自身もすごく元気付けられています。
──現在、16歳。アーティストではなく、16歳の少女、久保あおいは、どういう人間なのでしょう?
同年代の子たちはドラマや映画を観るのが好きだけど、私はそれよりも音楽のほうが好き。音楽が日常にありすぎて、音楽以外のことが考えられないというか。友達と遊ぶときも、何して遊ぶのかわからないんです。「みんなショッピングモールに行くけれど、何するんだろう?」って(笑)。
──でもそんなにいっぱい音楽のことを考えていて、疲れませんか?
疲れます。そういうときに、ノートに書き留めるんです。未来の自分がそれを見て、そこから何か学べることがあるだろうと思って書いてます。
プロフィール
久保あおい(クボアオイ)
東京都足立区出身の、16歳のアーティスト。独創的な楽曲と透き通った歌声が同世代の支持を得ている。2020年8月のデビュー以降、2週間に1曲という高頻度での連続リリースや、アニメのタイアップ楽曲のリリースなど、積極的に活動を展開。2022年3月、これまでは曲にしてこなかった自らの過去をテーマにした楽曲を12作品連続で毎月リリースすると発表。同月に初の自作曲「独り言」を配信リリースし、隠していたビジュアルも公開した。