Kradness|“死”と向き合い“生”を見つめ直した原点回帰の1枚

“死”を描くために“生”を描く

──lapixさんは「Kaleidoscope」「Pain(interlude)」「Ubugoe」「Nostalgia」の4曲を手がけていますが、彼はTwitterに「3曲に参加しました」と書かれていて。よくアルバムを聴いてみると「Pain(interlude)」と「Ubugoe」の2曲はシームレスでつながっていて、2つで1つの曲としても成立しているんですよね。

そうです。もともと「Pain」と「Ubugoe」は1曲のデータとしてlapixさんに渡していたんです。アルバムの前半に明るい曲やノリやすい曲を置いて、アルバム後半には前向きだけど落ち着ける曲を置こうと考えている中で、その中間地点に転換の1曲を置きたかったんです。「Pain」は「Ubugoe」のイントロ部分でもあるので、切り分けるとインスト曲になるなと思い付いて。ちょっとダークで絶望感を表現した「Pain」を中盤に挟むことでアルバムが締まるようになったと思います。

──「死」を表現した曲が多い中、「Ubugoe」はタイトルからして「生」を歌った曲ですよね。

Kradness

「死」を表現するうえでは、その対になる「生」もちゃんと表現する必要があるなと思って。本当はほかのタイトルに合わせて「Ubugoe」も何か英語にしたかったんですが、調べてみても「Ubugoe」に当てはまるしっくりくる英語がなくて、ローマ字表記で「Ubugoe」になりました。

──「生」を描いた曲ではありますが、「Pain」とつながった曲でもあるので、そこまで明るくはない印象を持ちました。

「Ubugoe」には目標に向かっている前向きな自分と、過去を引きずっている自分の2人を対象的に描いていて、その2人が合わさることで新しい自分が生まれる様子を歌詞で表現しています。「明けない夜」「止まった世界」とか歌っているので確かにちょっと暗いイメージが強いんですが、暗すぎる印象にしたくはなかったので、ドロップで盛り上がりを作りつつ、音で人生の回顧録というか、走馬灯のような表現ができないかと思い、ちょっと駆け回るような音像を意識しています。

──kors kさんが編曲で参加した「From now on」はライブを意識した曲なのかなと思いまして。サッカーで言うチャントのような合唱のパートがありますよね?

まさにチャントを意識してました。ワールドカップの開会式や閉会式で流れているような楽曲をイメージしていて。以前kors kさんに「IN THE NIGHT」という王道のEDMナンバーを書き下ろしていただいたことがあったので、その曲に通じるニュアンスを残しつつ、ライブでパフォーマンスしたときにみんなで歌えるような楽曲が欲しいなと思っていたんです。あと「From now on」はラブソングになっていて、自分の家族や、応援してくれるファン、支えてくれるスタッフに「ありがとう。これからもよろしく」というメッセージを伝える曲でもあるんです。アルバムの中でも一番前向きな曲なんじゃないかな。前向きと言ってもただ盛り上がるだけじゃなくて、AメロBメロでは土日の昼下がりにゆっくり紅茶を飲むような、穏やかなイメージのパートも入れていて。

──ダンスミュージック由来の音楽が多いのでしっかり盛り上がるパートが用意されている曲が多いですが、「From now on」のAメロやBメロのように引くべきところで引いているトラックが多い印象があります。

それはすごく意識しました。すべてが派手だったり、音が詰まりすぎていたり、逆に音数が少なかったりすると緩急が付いてなくて個人的にはどうかなと思うところがあって。穏やかなとこは穏やかにしつつも、ちゃんとサビやドロップは盛り上げるというのが僕なりの曲作りのルールなのかな。

アルバムタイトルとは異なる「Memento」

──アルバム終盤にはKradnessさんが作詞作曲から編曲までを1人で手がけた「Memento」「Life」の2曲が収録されています。ちなみに「Life」の冒頭に時計の秒針音が入ってますが、「Diorama」にも同じ音が入っていますよね?

そうですね。「死」を考えるうえでは「時間」という概念にも向き合わなきゃいけないと思うんです。時間が止まってくれないからこそ死がやってくるわけで、当たり前の毎日を当たり前と思っちゃいけない。ずっと同じ自分でいると思考停止してしまうし、考えることをやめたら死んでることと同義だと思っているので、常に考えることをやめずに自分をアップデートしていきたいという思いで秒針音を加えました。それと個人的に時計の音が好きなんですよね(笑)。ギミックとして好きなので、ここ以外にもけっこう時計の音を入れています。

──「Memento」という曲はアルバムタイトルと同じなのでヘビーなテーマの曲をイメージしていたんですが、聴いてみると優しさを感じさせる穏やかな曲で驚きました。

Kradness

アルバムタイトルは「Memento mori」に由来する「Memento」なんですが、この楽曲での「Memento」は言葉の持つ本来の意味に近い「記録」や「記憶」みたいな意味合いが強いんです。なのでアルバムを代表する曲ではなく、僕の表現したかった一部が楽曲「Memento」に表われていると思っていただいたほうが適切かもしれないですね。この「Memento」は僕の日記のようなイメージの曲です。すごく私的な内容なので、「Life」と同じく「Memento」は自分で編曲をしたいなと思って。

──ご自身で編曲まで担当するのは大変だったのでは?

ほかの作家さんと一緒に作った楽曲のクオリティが高いので、同じレベルまで持っていくために何度も試行錯誤しました。やはり大先輩たちと共同編曲した楽曲と並ぶわけですから、ハードルは高かったですね。編曲って自分でゴールを設定しなかったらどこまでも突き詰められてしまうんです。その中で「ここまでやれたら今の自分としてはゴールにしてもいいんじゃないか」というラインを設定しながら仕上げていきました。なので僕が今持っている編曲スキルはすべて注ぎ込めたと思います。

──アルバムの最後にエクストラトラックとして、GARNiDELiAのメイリアさんが作詞、tokuさんが作曲した楽曲「Burn up my life」、tilt-sixさんが提供した「ホシノアシアト」も収録されています。特に「Burn up my life」はここまでの10曲になかった突き抜けるような明るさを持った曲で、いい意味でアルバムの表現の幅を広げてくれたのかなと思いました。

「生きること、死ぬこと、死生観をテーマに曲を書いてください」とオーダーして作っていただいた曲なんですが、どちらも2組の個性を存分に発揮していただいたので、僕が表現しきれなかった領域で死生観を音で鳴らしていただいたと思います。歌詞に「命を燃やせ」といったメッセージ性がこもっていますし、曲調は違ってもアルバムのテーマとはブレていない、エクストラトラックとして楽しめる2曲を作っていただきました。

やっとスタート地点に立てた

──作品全体を振り返ってみて、Kradnessさんにとって「Memento」はどんなアルバムになりましたか?

Kradness

死生観を言葉で伝えるのって難しいと思うんです。日常会話の中でそこまで重い話をする機会も多くないし、今回は僕の伝えたかったこと、表現したいことを音楽に代弁してもらえた気がします。僕自身、ネガティブな部分を持っていて、コロナ禍で世の中がうつむきがちになると、普通に生きていても疲れてしまうときが多いと思うんです。そういうとき、音楽を聴いて前を向くきっかけになってもらえたらいいなと思いながらアルバムを作り続けてきたので、皆さんの心に寄り添うような1枚になってほしいですね。

──作詞作曲という大きな挑戦を経て、今後のKradnessさんの活動はどうなるんでしょうか?

2020年に活動10周年を迎えて、僕自身ももうアラサーと呼ばれる年齢になって、アルバムのテーマにもあるように「自分は最終的にどうやって死んでいきたいんだろう?」と考える機会が多くなったんです。もちろんボーカリストとしての活動は続けていきますけど、10年後や20年後に同じ声で歌えるわけではないと思いますし、僕が歳を重ねるたびに、若くて素敵なボーカリストが世の中にはどんどん生まれている。僕はもともと作家志望だったこともあり、若い才能に自分が書いた楽曲を表現してもらうのも悪くないなと思っているんです。なので今はシンガーソングライターとして作家的な側面を強化していきたい気持ちです。

──もともと作家志望だったKradnessさんにとっては、今作が念願の1枚だったわけですからね。

感覚的にはやっとスタート地点に立てた感じなんですよ。もちろん、ボーカリストとして培ってきた技術や経験を置き去りにせず、次の自分につなげる気持ちでこれからの活動を充実させていきたいですね。