ナタリー PowerPush - KOTOKO

作詞作曲を通じて明かす「リスタート」感

タイアップものでは作品と自分のどちらかに偏ることはない

──「Largo」の歌詞は「作詞するときは言葉遊びというゲームを楽しむ」と言っていたさっきの言葉がウソなんじゃないかと思うくらい(笑)、親密な2人の関係をストレートに歌ってますもんね。

実はここにもひとつ私の持論が込められていて。アニメやゲームのオープニングテーマや主題歌というのは「このアニメはこういうアニメ」「このゲームはこういうゲーム」と、その作品観や世界観がバンッとわかるもの。そういう作りにすることが一番大事だと思っているんですけど、逆にエンディングテーマというのは、そういう物語の扉であるオープニングテーマでは伝えられなかったことを伝えられる曲。キャラクターの気持ちを丁寧に追いかけることができるものだと思ってるんですよ。だから「恋愛リプレイ」のオープニングで流れる「リスタート」では何かをリスタートする僕の気持ちを歌って、エンディングテーマである「Largo」では作品の中で実際に恋をしている女の子の気持ちの部分をクローズアップしてみたんです。

──では、よりストレートに恋愛のことを歌いつつも「リスタート」以上に職業作家的に「恋愛リプレイ」の世界観をフィーチャーすることに注力して作っている?

いや、自分の思いや恋愛観も入っていますね。いつもそうなんですけど、タイアップものの楽曲を作るときは、作品と自分のどちらかに偏ることはなくて。きちんとキャラクターの気持ちを歌いつつも、必ずどこかには自分の経験みたいなものを入れるようにはしています。そうしないと詞の世界がウソになっちゃいますから。「Largo」に関しても「恋愛リプレイ」のシナリオにあった、高校生ならではの恋愛のむずがゆさみたいなものに「ああ、こういう会話してたよなあ」と共感できたので、その気持ちを解きほぐして私の言葉にすることで、ゲームとKOTOKOを一体にしてみたつもりなんですよね。

「なんで生まれてきたんだろう」ということは一番の関心事

──確かに基本的にいい意味で青くてかわいい恋愛を歌っているのに、詞の終盤、好きな男の子と添い遂げる話をしているんですよね。これは高校生キャラクターに成り代わっただけでは出てこない、KOTOKOさんが大人だからこそ生まれた視点、感覚なんだと思います。

急に世界が重くなっちゃってますもんね(笑)。でもそういった言い回しを使うことで「恋愛リプレイ」に共感しつつも、ただ共感しただけじゃない。自分の物語にできたんじゃないかな、とは思ってます。

──しかも直接的に「死」とは書かずに「違う世界に旅立つその時まで」とマイルドな表現を使っている。ストレートじゃないぶん、逆にビックリするんですよ。「あっ、よくよく聴いてみたら、この人死ぬことを歌ってる」って。

「なんで生まれてきたんだろう」ということは私の中で一番の疑問というか、関心事なんです。よく「重たいなあ」って言われたりもするんですけど(笑)。私が詞を書いている理由のひとつに「その理由を知りたいから」っていう面があって、1stアルバムの頃から結構生死については歌ってるんですね。「なんで私はここにいるんだろう」「イヤなこともあるのに、それでも生きて前に進もうとしているのはなんでなんだろう」って。その「生きることは喜びでもあるんだけど、葛藤もある」という私の人生のテーマが、今回もひょっこり顔を出しちゃったんでしょうね(笑)。

「Largo」は理想というよりも願望の歌

──では「Largo」の詞のように恋愛に生きてみるのも、人生のひとつの答えだと思います?

すごく理想的だなとは思います。「恋愛リプレイ」の中で描かれている甘酸っぱい恋愛模様に触れて「ああ。私は仕事ばっかりになっちゃってるけど、こうやって純粋に好きな人と人生を全うするっていう道もあったよな」って思い出しちゃったんですよ。特に現状の私は、仕事に生きている上に「KOTOKOちゃんは中身が男だよね」なんてしょっちゅう言われたりもしているので(笑)。

──ただ、理想の男が目の前に現れたところで、今のお仕事は……。

辞めないでしょうねえ……。だからこれは理想というよりも願望の歌なのかもしれない(笑)。

──「Largo」って音楽記号で「とてもゆっくり」という意味ですよね。なぜこれをタイトルに?

「恋愛リプレイ」って高校時代に気になっていた女の子との関係をリスタートすることになるんですけど、あのくらいの世代って、自信や経験がないことに焦って、2人の関係をダメにしてしまうことも少なくない気がしていて。実際ゲームはそうやってうまくいかなかった恋愛をリプレイする内容になっていますし。であれば、リスタートするときは焦らずゆっくりと今を見つめて、相手を見つめて関係を育みながらしっかり歩いていってほしいんですよね。

──ところで「恋愛リプレイ」のように高校時代に戻りたいと思い……。

戻りたいです! 私、人生の中で高校時代が一番好きなんですよ。ホントに楽しかったし、今もずっと仲がいいのは高校時代にできた友達ですから。あと、こういうことを言っちゃうと事務所の人やレーベルの人に叱られるのかもしれないんですけど、私、高校時代が一番のモテキだったので(笑)。

──じゃあ戻りたいのも当然だ(笑)。

そうなんです!

KOTOKO

北海道出身の女性シンガーソングライター。歌好きの母親の影響で幼い頃から歌手を志し、高校卒業後からボイススクールに通い始める。その後、北海道を拠点に活動する音楽クリエイター集団・I'veに参加。ゲーム主題歌やアニメ主題歌を担当した後、2004年4月にアルバム「羽-hane-」でメジャーデビューを果たす。歌手だけでなく、I've所属アーティストへの楽曲提供など音楽を軸に精力的な活動を展開。パワフルな歌声でファンを獲得し、2006年12月には横浜アリーナで単独公演を開催し成功を収める。2008年には映画「リアル鬼ごっこ」の主題歌を書き下ろし話題となった。2011年、I'veという枠から飛び出し、自身のオフィス「オルフェコ」を設立。2012年には日本をはじめ香港、韓国、中国、台湾を回るアジアツアーを敢行。同年12月にニューシングル「リスタート」をリリースする。