ナタリー PowerPush - KOTOKO

作詞作曲を通じて明かす「リスタート」感

転職の相談をされたら「冒険しなよ」

──KOTOKOさんの「リスタート観」ってどこでどうやって培ったんですか?

歌い手になれるまでに時間がかかったからですね(笑)。一時期、歌い手を目指すことをやめてバイトをしていたんですけど、実はその仕事って自分の性に合っていたんですよ。だから「将来はこの仕事でやっていこうか」と考えたこともあったんですけど、やっぱり夢を捨てきれなくて歌の世界に戻ってきた。そういう経験をしたこともあってか、私、周りの方から結構転職の相談をされるんですけど、そんなときも「冒険しなよ」と(笑)。「目標があるなら行けばいいじゃん」「どんなにお給料が下がっても夢があるならリスタートすればいいじゃん」って答えてるんです。

──相談してきた人は背中を押してほしい面もあるだろうから、その言葉に救われたりもするんでしょうけど、そう答えるのって結構勇気が要りませんか? もし相談相手がリスタートに失敗したら、KOTOKOさんに責任はないにせよちょっとだけ良心の呵責に苛まれたりしません?

そうですね。だから決して強制や命令をするわけじゃなくて、最終的に自分で道を選ぶための参考にしてほしい、っていう感じではありますね。ただ、例えば自分の彼氏が選択肢を前に悩んでいたなら、私はチャレンジする道を選んでほしいんですよね。

──でも恋人や家族の場合はリスタートに失敗したとき、KOTOKOさんが支えなきゃいけなくなるかもしれませんよ。

兄弟、姉妹なら「自分で決めた道なんだから、自分でしっかりやりなよ」って言って突き放しますけど(笑)、彼氏だったら支えます! お互いに支え合いながら、やりたいことをとことん突き詰められる関係でいたいな、とは思っているので「私が働くから、チャレンジしなよ!」って言ってあげたいですね。まあ「もし彼氏がいたら」って話で、あくまで理想なんですけど(笑)。

同じ言葉でも文字から受ける印象と音から受ける印象は違う

──もうひとつ歌詞で面白いのが言葉遣い。「delせなくて」と書いて「消せなくて」と読ませるアイデアはどこから?

最近の恋愛の在り方にかけてみたんです。今の高校生くらいの男の子と女の子の恋愛にとって、ケータイって欠かせないツールになってるんじゃないかな、って思うんですよ。会う機会よりもケータイで電話をしたり、メールをしたりすることのほうがはるかに多いでしょうし。しかも「恋愛リプレイ」はスマートフォン対応ゲームなので、「消す」ことをパソコンやケータイの用語である「delete」「del」って歌ったほうがよりリアルに伝わるんじゃないかなと思って、こういう表現にしてみました。

──そうやってカジュアルでユニークな言葉を発明する一方で、「瘡蓋」「躊躇う」と、あえて難読漢字を使っていたりもします。

たとえ同じ言葉であっても、文字から受ける印象と音から受ける印象って違いますよね。なので、これまでの楽曲でもあえて漢字を使うことは結構多くて。歌詞カードを読んだとき、曲を聴いたときに頭に浮かんだイメージとはまた別の感じ方、味わい方をしてほしいんですよ。歌詞カードも作品の一部だと思っているので、それを読む楽しみも提供したいというか。

──確かに「かさぶた」「ためらう」と書くよりも「瘡蓋」「躊躇う」とする方が印象はシリアスですよね。先程「詞の主人公は結構な覚悟を決めてリスタートしている」とお話したのには、そういう理由もありましたし。

そうやって、詞の中の物語の印象をくっきりさせたり、拡げたり、進展させたりするツールになればいいな、と思って漢字にこだわっている部分はありますね。あと「リスタート」では「記憶」を「マーク」と読んでいるんですけど、これも歌詞カードを読んだときに「あっ、主人公がマークしていたもの、しるしをつけていたものって記憶のことだったのか」「確かに記憶って、ある瞬間を指し示すマーク、しるしだよね」と思ってもらいたいからなんです。レコード会社のスタッフさんに歌詞を提出すると必ず「ここはこう歌っているのに、歌詞カードには別の言葉が書いてあるけど、これ合ってるの?」っていう電話をもらっちゃうんですけどね(笑)。それに曲を聴きながら「この音数、文字数の中でどんな表現をしてみようかな」「漢字を使えば短い文字数でもいろんなことを表現できるはずだ」なんて考えるのが楽しかったりもしますし。

KOTOKO

北海道出身の女性シンガーソングライター。歌好きの母親の影響で幼い頃から歌手を志し、高校卒業後からボイススクールに通い始める。その後、北海道を拠点に活動する音楽クリエイター集団・I'veに参加。ゲーム主題歌やアニメ主題歌を担当した後、2004年4月にアルバム「羽-hane-」でメジャーデビューを果たす。歌手だけでなく、I've所属アーティストへの楽曲提供など音楽を軸に精力的な活動を展開。パワフルな歌声でファンを獲得し、2006年12月には横浜アリーナで単独公演を開催し成功を収める。2008年には映画「リアル鬼ごっこ」の主題歌を書き下ろし話題となった。2011年、I'veという枠から飛び出し、自身のオフィス「オルフェコ」を設立。2012年には日本をはじめ香港、韓国、中国、台湾を回るアジアツアーを敢行。同年12月にニューシングル「リスタート」をリリースする。