ナタリー PowerPush - KOTOKO

作詞作曲を通じて明かす「リスタート」感

私は常に楽しく作詞をしているだけ

──ただ、タイアップものを多く手がけるKOTOKOさんは、一般的なシンガーソングライターとはまた違う配慮も必要ですよね。単に自分の好きな言葉を並べればいいわけではなく、きちんとアニメやゲームの世界にも寄り添わなきゃいけない。

それも含めて作詞って楽しいんですよ(笑)。今回のシングルであれば「恋愛リプレイ」というお題の大喜利みたいな感じで。この5分間の楽曲2曲の中にゲームの世界観を全て入れて、自分の気持ちも全て盛り込んで、しかも語呂もいい詞を作るっていうゲームなんです。

──お話を聞くぶんには、相当高難易度のゲーム、いわゆる「無理ゲー」っぽいんですけどねえ(笑)。ひょっとすると「恋愛リプレイ」よりも難しいかもしれない。

あはははは(笑)。ただ私は常に楽しく作詞をしているだけなので、その詞を皆さんに評価していただけているのはホントにラッキーだなっていう感じなんですよ。

──今の口ぶりから察するに、作詞は難産じゃない?

常に難産ではないですね。「リスタート」については作詞作曲にかかった時間全てを制作期間と考えているので、作詞に何時間かかったかっていうことを正確に把握してはいないんですけど、それでも6、7時間で書けたんじゃないかな。逆に長く時間をかけるとダメで、ピンときたとき、頭にインスピレーションや絵が浮かんだ瞬間にドーンと書かないと筆が止まってしまうタイプだからっていう事情もあるんですけど、それでもそんなに時間はかかってないですね。

──インスピレーションを得るまでにも時間はかからない?

あっ、そこには結構時間をかけます。ずっと曲をループして聴いていたり、ゲームやアニメのシナリオを繰り返し読んだりしながら、歌詞全体の世界観と1行目のフレーズが思い浮かぶのを待つことは多いですね。

──歌詞ってきちんと1行目から書き始めるんですか?

そうなんですよ(笑)。シナリオを読んでいて思い浮かんだフレーズをストックしておいたりすることはあるんですけど、そのフレーズを曲のどこかに当ててみて、そこから詞を膨らませるっていうことはほとんどなくて。大抵は「よし書くぞ!」って感じで1行目から書いてます。

──1行目の詞にはやっぱりこだわりがありますか。

そうですね。当然なんですけど、歌詞の1行目って曲の最初の言葉だから、その曲の印象を決定するものだと思っているんです。だからこそ1行目の言葉を思いつくまでに時間がかかることはあるんですけど、そこさえ決まればあとはダーッと一気に出てきますね。

作曲はドラムパターン作りから始める

──曲もAメロ、Bメロ、サビと順番に作っていくんですか?

いや、曲はサビから考えることが多いです。まずは一番の盛り上がりどころを考えて、そこにAメロやBメロを肉付けしていくという感じで。まあもっと厳密なことを言うと、サビのメロディを考える前にまずはドラムから打ち込むんですけどね。ドラムパターンを作って、そこにメロディを乗せて、そのあとにメロディとドラムに合ったベースラインとコードバッキングを付けて、最後に上モノを考えてます。

──まずはビートを考えて、そのあとボーカルトラックを考えるってヒップホップミュージシャンみたいだ(笑)。

まさにそんな感じですね(笑)。私、ほかのアーティストさんのライブでもずっとドラムばっかり観ているくらい、ホンットにドラムが好きなので。だから、まずはドラムから。

──ただ、先程「『リスタート』はノスタルジックな曲調にしたかった」と言ってましたよね。ということは「よし、ちょっと懐かしいテイストの曲を書こう」とばかりに鍵盤やパソコンに向かったら……。

まずはドラムを打ち込むんです(笑)。

私のデモってリズムトラックだけやたらとぶ厚くなりすぎてる

──あとちょっとビックリしたのが、きちんとデモテープを作り込むんですね。そのKOTOKOバージョンの「リスタート」ってどこかで公開したりは?

恥ずかしいから絶対イヤです! 私のデモって、ドラムが好きだからからかリズムトラックだけやたらとぶ厚くなりすぎてるらしいんですよ。細かいフィルがたくさん入ってたりして。I've時代もデモを持っていくと、高瀬(一矢)さんから、いっつも半分バカにした感じでホメられてましたし。「これカッコいいよね」って(笑)。なので、皆さんにお聴かせすることはまずないと思います。

──じゃあKOTOKOさんのアレンジは実際のレコーディングにはあまり生きてはいない?

あっ、でも1stアルバムで1曲、私のリズムトラックを使ったことはありますし、今回も「Largo」には私のアレンジの原型が結構残ってますね。音は差し替えられてはいるものの、私のアレンジへ肉付けしたという音になっています。

──では、最初からシンプルでフォーキーな構成のバックトラックの上でスムーズなメロディラインを優しく歌うアレンジになっていた?

ええ。寝物語というか、好きな人の隣で「あのね」ってささやきかけるような、本当に距離の近い感じにしたかったんです。「リスタート」はノスタルジックとはいえ、パーンと前に出る、言うなれば「広い曲」なんですけど、「Largo」は寝室くらいのスペースで展開されるイメージ。寝る前にお布団の中で聴く曲、好きな人とテーブルを囲んで聴く曲というイメージで作りました。

KOTOKO

北海道出身の女性シンガーソングライター。歌好きの母親の影響で幼い頃から歌手を志し、高校卒業後からボイススクールに通い始める。その後、北海道を拠点に活動する音楽クリエイター集団・I'veに参加。ゲーム主題歌やアニメ主題歌を担当した後、2004年4月にアルバム「羽-hane-」でメジャーデビューを果たす。歌手だけでなく、I've所属アーティストへの楽曲提供など音楽を軸に精力的な活動を展開。パワフルな歌声でファンを獲得し、2006年12月には横浜アリーナで単独公演を開催し成功を収める。2008年には映画「リアル鬼ごっこ」の主題歌を書き下ろし話題となった。2011年、I'veという枠から飛び出し、自身のオフィス「オルフェコ」を設立。2012年には日本をはじめ香港、韓国、中国、台湾を回るアジアツアーを敢行。同年12月にニューシングル「リスタート」をリリースする。