小室哲哉オーケストラツアー開幕直前インタビュー|変わることのない音楽への愛と、テクノロジーへの探究心 (2/2)

「やったよ、この響きだよ!」と子供のようにうれしくなってしまう

──今回の公演に関して言えば、さまざまな期待に応えるのと同時に、クラシック音楽に馴染みのない方々に、その面白さを伝えたいという思いもありますか?

それはもちろんありますね。クラシックに関する僕の知識が深かったら、もっと導いてあげることもできるとは思うんですけどね。僕はやっぱりポップス寄りの人間なので、本当に入り口ぐらいしか見せられないとは思う。ただ、クラシックならではの音の響きや揺らぎ、PAを通すことなく感じられる音圧、体に染み入る感じなんかは絶対に体験してもらえるはず。それをきっかけにほかのクラシックコンサートに行ってみようかなとか思う方がいてくれたら、それはうれしいことですよね。僕がクラシックの生演奏に惹かれたのはミュージカルからなんですけど、聴き手の感情を揺さぶるという意味においては、クラシックのスタイルは本当に効果的。来てくれた方が、何かしら面白いと感じてくれたらいいなとは思っています。

──そこには徹底的に考え抜かれた小室さんらしいアイデアもたくさん詰め込まれるでしょうし。

そうね。なんでここまでずっと考えてるんだろうなと思うんですけど(笑)。5月19日にTMのツアーを終えて、その翌日から本格的に今回の公演のために動き始めているんです。本当に毎日、いろんなことを考え続けていて。やっぱり1日中、作業をしていると寝られなくなるんですよ。オン・オフが難しいですよね。朝まで作業をしていて、ちょっと散歩をしてからようやく眠れるみたいなことを毎日やっています。ホントになんやかんや悩みます(笑)。

小室哲哉

──前回に引き続き、藤原いくろうさんが指揮とオーケストラアレンジを担当されますが、大本となるサウンドのイメージは小室さんが作り上げているわけですよね。

そうですね。オーケストラの方々に僕が何をやりたいのかわかってもらうために、まずプリプロダクションとして僕が作ったデモトラックを聴いてもらう作業から始めているんです。その後、スコアに起こしていく。最初から譜面を起こして、「これでお願いします」ってやるのが一番スピーディではあるんですけどね。言ったらもう二度手間、三度手間なことをしているという(笑)。

──そうしないとイメージ通りのものが生まれないということですよね。

そうそう。3度、4度の和声の組み合わせにしても、「こっちのほうがよかったな」とか思ってしまうことが多々あるので、僕がやりたいことをちゃんとわかってもらうためにはそういうシステムでやるしかないんですよね。

──藤原さんとはかなり密にやりとりされているんですね。

前回の公演のとき、すごく密にやらせていただいたんですよ。これまでにどんな音楽を聴いてきたかとか、そういうことも含めてプライベートでもお話させていただきました。ただ、30~40年、僕の曲に貢献してくださっているミュージシャンとは長いお付き合いの中で積み上げてきたものがあるけど、それと同じものを積み上げるために時間を短縮して藤原さんにお伝えすることはやっぱり難しいわけで。僕のクラシックに関する教養が幼いことで、どうしてもたどたどしいやりとりになってしまうこともある。でも、そこはしっかりコミュニケーションを取りながらわかってもらっていくしかないんですよね。それがちゃんと伝わって音になったときの喜びは本当にものすごいんですよ。もうね、「やったよ、この響きだよ!」みたいな感じで、子供のようにうれしくなってしまう(笑)。で、そうやって僕が大事にしていた部分っていうのは、理由がわからずとも聴き手の方にも一番届くものなんですよね。その曲にとって何が一番の鍵か。どこが人の琴線に触れるのか。それがわかる感覚だけは、まあまあ自信あるかなと(笑)。そこがわかっていなかったら、きっとここまでやれてこなかったと思うので。

「音楽が好き」という感覚は、音楽を始めた当初からビックリするくらい変わってない

──ヒットチューン満載の前回に対し、今回の公演がどんなセットリストになるのかも気になるところです。先ほどおっしゃったように、ダンスミュージックが1つの軸になるとは思うのですが。

はい。今回はヒット曲ばかりという感じではないですけど、リフレインが多いダンスミュージックをどう飽きさせずに、高揚感を持ったままアウトロまで持っていけるかという部分でのチャレンジをいろいろしていこうと思っています。同時に、すごく落ち着いた気持ちに着地する曲もやりたいですね。そういう両面の表情が出せたらいいなと。オーケストラだからと言って、同じフレーズをリフレインする曲がいけないかっていうと、そんなことはないと思うんです。聴いてくださった方はもちろん、一緒に回ってくださるオーケストラの方々に、「これもありだな」「こういうのも楽しいな」と思っていただけたら成功ですね。それが僕なりの1つの貢献だと思うので。

小室哲哉

──今回もゲストボーカルの方が参加されることが告知されています。

前回はBeverlyに出てもらいましたが、ある種、ボーカリストの方に助けてもらった側面もあったと思うんです。でも今回は、ダンスミュージックならではのミニマルな心地よさとオーケストラの揺らぎの組み合わせの妙でコンサートを引っ張っていきたい気持ちがすごく強くて。そのうえで、さらなる鮮やかな彩りとしてボーカリストの方に参加していただこうと思っていますね。愛知公演と7月19日の渋谷公演では、“渋谷系の女王”野宮真貴さんに出演していただくことになりました。ほかの4公演については発表をお待ちください。

──全6本のツアー、本当に楽しみです。

冒頭に話した「TM NETWORK FANKS 40th intelligence Days ~STAND 3 FINAL~」は全9公演だったんですけど、終わってみるとちょっと短かった気もしていて。公演を重ねる中でどんどん仕上がっていったので、あと1、2本あってもよかったかなという思いがあったんです。なので、今回の「ELECTRO」も6公演にプラスして、追加公演とかができないかなあと思っているんですけどね。間違いなく公演ごとにいい形に変化していくと思うので、本数が増えた分だけ絶対によくなるだろうなと。

──その確信を持ってツアーをスタートさせるって、本当に素晴らしいことですね。

音楽が好きなんでしょうね、ホントに(笑)。その感覚は音楽を始めた当初からまったく変わってない。ビックリするくらい変わってないんです。正直、テクニック面での限界を感じたりすることはあるんですけど、知識であったり、情報やテクノロジーの使い方みたいな部分はいまだに進化し続けているとは思うので、今後も生かせるものはどんどん生かしていこうと思っていますね。

プロフィール

小室哲哉(コムロテツヤ)

1958年11月27日東京都生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ。1983年、宇都宮隆、木根尚登とTM NETWORKを結成し、翌年「金曜日のライオン」でデビュー。同ユニットのリーダーとして、早くからその音楽的才能を開花させた。1993年にtrfを手がけたことがきっかけで、一気にプロデューサーとしてブレイク。以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなど、自身が手がけたアーティストが次々にミリオンヒットを記録した。TM NETWORK は2021年に再始動。2024年4月配信のNetflix映画「シティーハンター」に、代表曲「Get Wild」を25年ぶりに新録した「Get Wild Continual」を提供し、同曲を収録したデビュー40周年記念作品「40+ ~Thanks to CITY HUNTER~」をリリースした。