感情が伝わる“KOKIA語”
──KOKIAさんの曲はまずアジアで広がって、そのあとヨーロッパでも人気を得ました。KOKIAさんの曲は自然に広がる力を持っているんですね。
ありがたいことに、そうなんですよ! 自然に広がっていくそれは本当に謎で「どうしてなんですか?」とよく聞かれるんですけど、私にもわかりません(笑)。
──最近では「フクロウ」(2017年)がそうでしたね。YouTubeで190万回を超える再生を記録しました。
びっくりですよね。なんでそんなに人気が出たのか。そもそもこの曲は息子が生まれたことで、子供も喜ぶようなアルバムを作ろうと、「ぱたぱた」とか「とんとん」とかオノマトペを入れて、かつ、動物をテーマに曲を書こうと思って立ち上げた動物シリーズのアルバムがきっかけでした。この「フクロウ」は「ほうほう」というフクロウの鳴き声を生かした曲を書こうと思って書いた曲です。
──そういう言葉遊びみたいなアプローチは「調和 oto ~with reflection~」(2006年)にもありましたね。架空の言語で歌われていて、ファンの間では「KOKIA語」とも呼ばれています。
ある日、キャンプに行ったときに、大自然の中で「静かだな」と、感じたのですが、自然界には音があふれていることに気付きました。川で水が流れる音、木の枝が風で揺れたりする音、いろんな音がひっきりなしに聞こえているのに、静かだと感じる。この圧倒的な自然の感じを音楽で表現したいと思ったのがきっかけです。ただ、単にそれを歌詞にするのでは言葉を超越したところにある自然界の圧倒的な雰囲気には足りない気がしました。でもスキャットで歌うのは表現としては弱い。そこで考えたのが架空の言葉で歌うことでした。言葉は国によって違うけど、同じ感情を伝えるためのツール。だから言葉というのはレゴのパーツみたいなものだと思ったんです。言葉の粒みたいなものがあって、それをパッと撒いてかき集めたら日本語になったりフランス語になったりするんじゃないかって。
──それがKOKIA語になることもある。
そうなんです。「調和 oto ~with reflection~」では、まず日本語で歌詞を書いて、それをローマ字に変換して、言葉のパーツ、レゴのパーツを作る。それをパッとばらまいてKOKIA語を歌詞として構成し直しました。その際、言葉がメロディに乗るように細かく調整して。「書いた歌詞を逆にしているのでは」と言われたりもしますが、実際はもっと複雑なことをしているんですよ。そうやって言葉っぽいものを歌うことで、スキャットで歌うよりも感情のようなものが伝わると信じています。
今の自分が一番いい
──今回のアルバムには、初CD化となる新曲「白いノートブック」(2023年)も収録されていますが、この曲はどういう背景で生まれたのでしょうか。
ハイレゾで聴くことを前提にした曲を作ってほしいという依頼があったんです。ハイレゾで配信されている曲はありますが、そういう依頼を前提に曲を作るのは初めてで、歌詞や曲調よりも曲が仕上がったときの音像を意識して作りました。曲の空間や演奏者の息遣いが伝わったほうが音のよさが際立つかな、と思ったので、グルーヴを大切にしながらバンドでレコーディングしました。新曲だし、今回特に聴いてもらいたかった曲でもあるので「YELL」の1曲目に入れています。
──「白いノートブック」はデビュー25年にして新しい挑戦だったんですね。
25年もやってきたのに、まだまだ新しいことができそうな気がするんですよね。今回、過去の曲と向き合って感じたのは、今の自分が一番いいということ。少しずつ進化し続けてこれた。そういうふうにやってこれてよかったと思っています。
──これまで壁にぶつかったり、スランプになったりしたことはなかったんですか?
それなりに悩んで進んできたと思うけれど、スランプと呼ぶようなものはないです。基本的にいつでも曲が書けるのはずっと同じです。どんなオーダーがきても器用にこなせてしまうのも事実です。曲が書けないという悩みより、自分がやりたいことをするための環境を作る、という悩みのほうが大きかったです。いつも、私を有名にしたいと思っていろいろ考えてくださる方たちとの、戦略の違いのすり合わせというか(笑)。そんな中で「自分はどういうところに落ち着くんだろう」ということは、独立してからもずっと考えていましたね。答えが見つかったのはつい最近のことです。
──その答えというのは?
私の音楽を楽しみに待っていてくれるファンの人たちと作るKOKIAという世界。さっき、音楽を食べ物にたとえましたけど、ミュージシャンの多くはフランス料理のシェフだったり、中華料理の料理人だったり、自分が得意な料理が決まっていると思うんですよ。でも、私はどんな料理でも出すレストランのシェフみたいなタイプ。日によってフレンチを出したり、中華を出したり、和食を出したりする。献立はその日によって違うけど味には自信がある、というお店のイメージです。
──それはファンも楽しいですね。KOKIAさんを通じて、いろんな料理が、いろんな曲が楽しめる。
私の歌には「旅」というモチーフがよく出てきますけど、その土地の食べ物を楽しむことも旅の醍醐味ですよね。だから私の中では、リスナーの皆さんには音楽で旅をしながら、いろんな料理、テイストを楽しんでもらいたいという思いがあります。
──これからやってみたいことはありますか?
今、とある作品の劇伴を制作しているんです。これまで主題歌を書かせてもらうことは多かったけど、インストを書かせてもらうお仕事は初めてです。ボーカル曲に比べてインストはもっと自由度が高くて、いろんな私の引き出しを使って曲を書けるのが面白いですね。完成したら、ぜひファンの方に聴いてもらって、「KOKIAのインストいいね」と楽しんでもらえたらうれしいです。あと、ミュージカルの音楽も書いてみたいし、新しいアルバムも作りたいし、コンサートの予定もあって時間がいくらあっても足りない。動物シリーズのアルバムも目指せ100匹なので、あと4枚は出したいと思っています。やりたいことは無限です。ワクワクは止まらないので、時間が許す限り1つずつ、叶えていきたいと思っています。(笑)。
公演情報
愛と平和と音楽と
2024年12月2日(月)東京都 キリスト品川教会 グローリア・チャペル
KOKIA 音楽の降る場所 vol.7
2025年1月18日(土)長野県 八ヶ岳高原音楽堂
KOKIA Once-in-a-lifetime-Meeting 2025 ~一期一会のうたツアー~
- 2025年2月15日(土)神奈川県 横浜赤レンガ倉庫 1号館ホール
- 2025年2月16日(日)神奈川県 横浜赤レンガ倉庫 1号館ホール
- 2025年4月13日(日)東京都 日本橋三井ホール
- 2025年4月19日(土)石川県 金沢21世紀美術館シアター21
- 2025年5月17日(土)大阪府 南港サンセットホール
- 2025年5月18日(日)大阪府 南港サンセットホール
- 2025年6月7日(土)北海道 札幌コンサートホールKitara 小ホール
- 2025年7月20日(日)佐賀県 浪漫座
- 2025年7月21日(月・祝)大分県 BRICK BLOCK
- 2025年7月26日(土)山口県 Jazz Club BILLIE
- 2025年7月27日(日)愛知県 電気文化会館 ザ・コンサートホール
and more
※追加日程、詳細はオフィシャルサイトにて順次発表。
プロフィール
KOKIA(コキア)
1976年生まれの女性シンガーソングライター。幼少期より楽器に親しみ、高校と大学では桐朋学園で声楽を専攻。大学在学中だった1998年にシングル「愛しているから」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表した3rdシングル「ありがとう…」は、海外でもリリースされ香港国際流行音楽大賞で3位に入賞。同曲は香港国内にて広東語でカバーされ大ヒットを記録する。その後もCMソングやドラマ主題歌を多数手がけ、2004年にアテネ五輪日本代表選手団応援ソング「夢がチカラ」を発表。2006年には初のベスト盤「pearl」が日本、フランス、スペインでリリースされ、特にヨーロッパ諸国で大きな反響を呼んだ。2023年にデビュー25周年を迎え、2024年11月にオールタイムベストアルバム「essence -25th Anniversary All Time Best-」を発表した。