音楽ナタリー Power Push - 岸谷香×和田唱(TRICERATOPS)

似た者同士の気ままな音楽談義

今の自分を今のカタチで表現すること

──ポール・マッカートニーやマドンナもそうですが、キャリアのあるアーティストが自分の音楽をアップデートさせる上で、新しい世代のプロデューサーと組むと効果がありますよね。

そうなんですよね。実はプリプリの再結成のときもまったく同じ考え方だったんです。プリプリが活動していた頃って、ツアーのスタッフもレコ—ディングのチームもずっと同じだったんですよ。でも、再結成にあたっては同じメンバーでやれば楽しいだろうけど、それは同窓会にすぎない。そうじゃなくて、今一番イケてる若いスタッフで新しいチームを組みたいと思って。実際にそれがすごくよかったし、今回のアルバムも「昔はよかったね」みたいなものには絶対にしたくなくて。これは私の信念なんですけど、現役のミュージシャンというのは、「今の自分を今のカタチで表現できる人」だと思ってるんですよね。

──それは完全に功を奏してますね。このアルバムはまさに、今の岸谷香さんが今のサウンドで表現されているので。

岸谷香

よかったです。「DREAM」のときは、まだ怖いところもあったんですけどね。「人の言うことを聞く」って決めたものの「うーん……」ということも多くて、かなり悶々としてたので。最初の頃なんて「なんでギターやベースまで打ち込むの? 演奏すればいいじゃん」「いえ、これは生の音源です」「違う! それをエディットしたら生とは言わないの!」みたいな話をディレクターとしてましたからね。先が思いやられるなって……向こうも同じように思ってただろうけど(笑)。でも、制作を進めていくうちにディレクターの男の子とも深く理解し合えるようになったし、こっちも「自分がいいと思えるまでやる」という気持ちになれて。その最高の成功例が「Kiss & Kiss」だと思うんですよね。

──プリプリの富田京子さんが作詞している楽曲ですね。

これ、曲自体は2012年に作ったんです。とにかくプリプリでの活動で被災地復興支援の義援金を残したかったし新譜を作るための予算は使いたくなかったから、再結成のときは新曲を作らなかったんだけど活動が終わったあとで「もし新譜を出してたら、どんな曲をやっただろうな?」って妄想してたんですね。「きっと『これがプリプリだ!』っていう曲を作っただろうな」って思いながら作ったのが「Kiss & Kiss」のもとになる曲だったんですよ。自分のライブでも歌ってみたんですけど「ホントにプリプリみたいだな」って思ったし(笑)、今回のアルバムにも入れたいなって。このアルバム自体、再結成がなかったら作ってなかったかもしれないし、そこは敬意を表して。で、富田京子さんに「歌詞書かない?」って連絡したら「書く書く!」って言ってくれて。アレンジは若手のイケてるアレンジャーにお願いして、4リズム(ドラム、ベース、ギター、鍵盤)はさっき言ったスーパーバンドと一緒にレコーディングしたんです。

──確かに楽曲自体はプリプリのイメージだけど、サウンドメイクはすごく現代的ですよね。

そうなんです。

音楽をやらずにはいられない

──「PIECE of BRIGHT」というタイトルについては?

まず、プリプリの再結成以降の活動が終わったときに「2012年はすごく笑っていたな」と思ったんですよね。ちょっとクサい言い方だけど、「私の毎日がキラキラしてたんだな」って思ったんです。「それはなんでだろう?」と考えてみると、やっぱり生活の中に音楽があったからなんですよね。それでプリプリの活動が終わったあとも「音楽をやらずにはいられない」と思ったわけだし。そのキラキラした欠片を集めたのが、今回のアルバムじゃないかなって。

──しかもこのアルバムは、単なるカムバック作ではなく、アーティストとして新しい表現に踏み出した作品ですからね。

そう言ってもらえるとうれしいな。ひさしぶりに現役に戻るにあたって、過去を完全に切り離したかったんですよね。岸谷香という名前ではそれほど活動していないし、自分の気分としては新たなアーティストなので。新人って「自分はこうです。こんなアーティストです」というのをどんどん表現しないといけないじゃないですか。だから「すべてに自分を入れよう」と思ったんですよね。弾きたい楽器は全部弾いたし、とにかく好きなこと、やりたいことをやろうって。

──躊躇せず、新しい音楽に向かっていこうと。

そもそも私、「過去のなんとか」みたいなものが好きじゃなくて。過去の栄光という言い方が合ってるかどうかわからないけど、そういうものに興味がないんですよね。プリプリのときにもらった賞のトロフィーとか埃被っちゃってますから(笑)。もちろん、賞をいただいたときはうれしいんですよ。「やったー!」って思うんだけど、今となっては昔もらったものにすぎない。あとね、新しい作品を発表するんだったら、「今何をやっているのか」「どういうものに触発されているのか」ということを反映しないとダメだと思うんです。どんどん変わっていきたいタイプというか……だから、プリプリのときは大変だったんですよ。ある意味、変わっちゃいけないバンドだったから。

──あれだけ大きな成功を収めたバンドだし、ファンが求めるプリンセス プリンセス像も強かったはずだから葛藤はあったでしょうね。

そうなの。昔はマネージャーともよくケンカしてました。私がいつも言ってたのは「小学生のランドセル姿はかわいいけど、大学生がランドセル背負ってたら、おかしいでしょ? それと同じで音楽家も成長しなくちゃダメなの!」っていうことなんです。私、新しいことをやるのは全然怖くないんですよ。それよりもマンネリのほうが怖いかな。気が付かないうちにマンネリになってたりもしますからね。

──「PIECE of BRIGHT」はアーティスト岸谷香の新しいスタートになりそうですね。このアルバムを作ったことで、岸谷さんが得たものとはなんでしょう?

やっぱり音楽が好きっていう思いですね。家でリハーサルの準備とか歌詞を書いたりしてると、子供たちが「毎日楽しそうだね」って言うんですよ。それはたぶん、私からそういう空気が出てるからなんだろうなって。このアルバムを作ったことで思い知らされましたね、自分がどれだけ音楽を好きかっていうことを。

KAORI PARADISE 2016 -はじめてのひとり旅-

  • 2016年6月2日(木)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート) 小ホール
  • 2016年6月3日(金)三重県 三重県文化会館 小ホール
  • 2016年6月4日(土)愛知県 長久手市文化の家 森のホール
  • 2016年6月11日(土)岡山県 MO:GLA ※2部制
  • 2016年6月12日(日)愛媛県 WStudioRED
  • 2016年6月18日(土)秋田県 酒造道場仙人蔵 ※2部制
  • 2016年6月19日(日)宮城県 気仙沼はまなすホール
  • 2016年6月24日(金)富山県 入善町民会館(コスモホール)
  • 2016年6月26日(日)福島県 いわきPIT
  • 2016年7月1日(金)京都府 磔磔
  • 2016年7月2日(土)兵庫県 神戸布引ハーブ園 森のホール ※2部制
  • 2016年7月3日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2016年7月8日(金)山口県 周南市文化会館
  • 2016年7月9日(土)広島県 Live Juke ※2部制
  • 2016年7月10日(日)福岡県 イムズホール
  • 2016年7月17日(日)山梨県 東京エレクトロン韮崎文化ホール
  • 2016年7月18日(月・祝)茨城県 東海文化センター
  • 2016年7月23日(土)東京都 クラブeX ※2部制
  • 2016年7月24日(日)東京都 クラブeX ※スペシャルゲスト:和田唱(TRICERATOPS)
  • 2016年7月30日(土)鹿児島県 ASIVI ※2部制
  • 2016年7月31日(日)鹿児島県 ASIVI ※2部制
収録曲
  1. 49thバイブル
  2. Kiss & Kiss
  3. ミラーボール
  4. My Life
  5. DREAM
  6. オーディナリーピープル
  7. Rhapsody In White
  8. precious
  9. Romantic Warriors
  10. レクイエム
  11. Dump it!
  12. ナイトミュージアム
岸谷香(キシタニカオリ)
岸谷香

1967年生まれのシンガーソングライター。1986年にガールズバンド・プリンセス プリンセスのボーカリスト&ギタリストとしてデビューし「Diamonds」「世界でいちばん熱い夏」などビッグヒットを連発する。1996年のバンド解散後、俳優・岸谷五朗と結婚。しばしの休養ののち、シングル「ハッピーマン」でソロデビューを果たす。以来出産を機にそれまでの奥居香から岸谷香に名義を改めつつ、コンスタントにリリースを重ね、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースワークなどを行う。2006年前後より育児中心の生活にシフトしていたが、2011年に東日本大震災復興支援のためにプリンセス プリンセスを期間限定で復活。東京・東京ドーム公演を開催し、2012年末の「NHK紅白歌合戦」にバンド名義で出演した。2014年5月にソロ名義のベストアルバム「The Best and More」をリリース。2016年5月に10年ぶりとなるオリジナルアルバム「PIECE of BRIGHT」を発表した。