音楽ナタリー Power Push - 岸谷香×和田唱(TRICERATOPS)
似た者同士の気ままな音楽談義
覚える気になったら連絡して
──お二人のソングライターとしての変化についても聞かせてもらえますか? まずTRICERATOPSは来年でデビュー20周年になりますが……。
和田 そうなんですよね。あっという間でした。
岸谷 しかも、ずっとやり続けてるのがすごいよね。休んだ時期とかないんでしょ?
和田 ないんだよね。アルバムが4年くらい出なかったことはあるけど、その間もずっとライブをやってたし。アルバムなんてそんなにしょっちゅうは出せないでしょ。
岸谷 出せないよー。だってさ、唱くんは1人で曲を作ってるんでしょ? それでここまでやってるのは本当に偉いと思う。私だったらメンバーに「ダメな曲でもなんとかするから、とにかく書いてきて」って言うだろうな。
和田 あ、俺もそういう時期あったよ。「俺ばっかりツライな」って思っちゃって、だんだん腹立ってくるというか(笑)。曲のよし悪しに関わらず、自分と同じ気持ちを味わってほしいってだけで「書いてきてくれ」って言ったんだよね。もう10年以上前の話だけど。
岸谷 そうなんだ。
和田 曲は書けないときは書けないし。最近も曲を作ろうしたんだけど、まあできないできない(笑)。もうね「終わったかな」って思っちゃうこともあるよ。
岸谷 わかる。「もう生産中止なのかな」って。
和田 生産中止ね(笑)。そういうとき、どうするの?
岸谷 外国行くのがいいよ。空気が全然違うところに行くと、道を歩いているだけで曲が浮かんだりするから。プリプリの頃は簡単に録音できるものがなかったから、海外にいるときに曲が浮かんだら五線譜にバーッとメロディを書いて。
和田 すごいね。いつ楽譜の書き方を覚えたの?
岸谷 「Diamonds」のあとくらいかな。その頃、初めてほかのアーティストに楽曲を提供したんだけど、できあがった曲を聴いたら、私が作ったメロディと違ってたの。そのことをブーブー言ってたら、当時のプロデューサーに「譜面を渡さなかったお前が悪い」って言われて。そこで「じゃあ、教えてよ」ってなったんだけど、その気になれば1日で覚えられるよ。
和田 え、1日? その努力を俺はしてないってことか。
岸谷 覚える気になったら連絡して(笑)。
和田 わかった。でも、俺、楽譜にトラウマがあるんだよね。小さい頃にピアノを習ってたんだけど、五線譜とかって、学校で勉強してるみたいな感じがして苦痛だったの。だから譜面が全然読めなくて、先生が弾いてる手を見て、曲を覚えてたからね。耳コピじゃなくて、目コピ(笑)。
岸谷 私も小さい頃はそうだった!(笑)
和田 (笑)。ジョン(・レノン)とポール(・マッカートニー)も譜面が読めないって知って、勝手に勇気付けられたし。
唱くんには出産を体験させてあげたいな
岸谷 譜面を覚えることで得られるものもあるけど、失うものもあるからね。さっきのコーラスの話もそうだけど、楽譜のことがわかると1つひとつチェックしないと気が済まなくなるから。
和田 「Diamonds」のコーラスも「今だったら、こういうふうに書かない」って前に言ってたよね。
岸谷 あの曲のコーラスって、ユニゾンになったり、ハモったり、3度になったり5度になったりするからね。楽譜のことを知ってたら「これはおかしいよ」ってなったと思う。最近はまた違ってきてるけどね。「楽譜的にはおかしいけど、これでいい」という判断もできるようになってきたから。年齢によって考え方が変わってくるし、女性の場合は結婚や出産などによっての意識の変化もあるし。
和田 俺はずっと東京で暮らしてるし、基本的には何も変わってなくて、ただ単に年を取ってるだけって気がするんですよ。何か変化があったほうがいいのかな。
岸谷 結婚したらいいじゃん。
和田 結婚とか出産とかね。俺は出産できないけど。(※取材は和田が結婚を発表する前の5月中旬に実施)
岸谷 あ、でも、唱くんには出産を体験させてあげたいな。女子力高いし(笑)。次は女の子に生まれてくるといいよ。
和田 そうかな(笑)。どうなの女の人って?
岸谷 最高だよ。だって、一生、趣味で音楽と関わることだってできるんだから。男性ミュージシャンにね、よく「音楽活動を休んで、怖くない?」って言われるんですよ。私は全然怖くないけど、家族を養わないといけないって思うと、なかなか休めなかったりするじゃない?
和田 なるほどね。
岸谷 もちろん、すごい馬力で一生音楽をやるのも素晴らしいし、男と女でどっちがいいってことではないけど。
和田 男もいいよ。
岸谷 唱くんみたいに「永遠の少年」というか、ずっと変わらないのも魅力だよね。
和田 変わりたいという気持ちもあるけどね。さすがに40歳だから、そろそろ何か変化が訪れるんじゃないかな。
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収録曲
- 49thバイブル
- Kiss & Kiss
- ミラーボール
- My Life
- DREAM
- オーディナリーピープル
- Rhapsody In White
- precious
- Romantic Warriors
- レクイエム
- Dump it!
- ナイトミュージアム
岸谷香(キシタニカオリ)
1967年生まれのシンガーソングライター。1986年にガールズバンド・プリンセス プリンセスのボーカリスト&ギタリストとしてデビューし「Diamonds」「世界でいちばん熱い夏」などビッグヒットを連発する。1996年のバンド解散後、俳優・岸谷五朗と結婚。しばしの休養ののち、シングル「ハッピーマン」でソロデビューを果たす。以来出産を機にそれまでの奥居香から岸谷香に名義を改めつつ、コンスタントにリリースを重ね、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースワークなどを行う。2006年前後より育児中心の生活にシフトしていたが、2011年に東日本大震災復興支援のためにプリンセス プリンセスを期間限定で復活。東京・東京ドーム公演を開催し、2012年末の「NHK紅白歌合戦」にバンド名義で出演した。2014年5月にソロ名義のベストアルバム「The Best and More」をリリース。2016年5月に10年ぶりとなるオリジナルアルバム「PIECE of BRIGHT」を発表した。
TRICERATOPS(トライセラトップス)
1996年に和田唱(Vo, G)、林幸治(B)、吉田佳史(Dr)により結成されたロックバンド。ポジティブな歌詞と良質なメロディ、厚みのあるバンドサウンドを特徴とする。1997年7月にシングル「Raspberry」でメジャーデビューを果たして以降、精力的なリリースやライブ活動を展開している。デビュー15周年を迎えた2012年には DVD付きのベスト盤「DINOSOUL -BEST OF TRICERATOPS-」をリリース。2014年に11枚目となるアルバム「SONGS FOR THE STARLIGHT」を発表した。なおフロントマンの和田は、KANやSMAPに楽曲を提供したり、SCANDALのシングルをプロデュースしたりと多角的に活躍している。