「キンスパ」は短いステージの中で、どれだけ全力投入できるのかがテーマ
──そんな皆さんのファミリー感の強さを存分に味わえるのが、2015年に始まった「KING SUPER LIVE」なのかなと。
水瀬 そうですね。「キンスパ」では先輩方が本当に無邪気で(笑)。みんな熱くて、みんな自分のやっていることに自信があって、その場にいられることに対する喜びと感謝の気持ちがある。その姿に一番泣けてくるんです。コロナ禍で開催できない年があったことも含めて、出演者それぞれが困難を乗り越えて公演があるので、私も出演できて本当に光栄だなと思います。
岡咲 私は昨年が初参加でしたけど、宣伝隊長という大役まで任せていただいて。その責任感の重さに痺れていましたが、本番まで無我夢中で突っ走りました。ひと足先にBlu-rayのメイキング映像を拝見しましたが、観た瞬間に高校生の頃の自分にスッと戻ることができて。この世界に足を踏み入れた今も、声優に憧れていた昔の私がずっと自分の中にいるんだなと再認識しました。
水樹 私は2015年の初回から参加していますが、まさにレジェンドな大先輩方がめちゃめちゃカッコいいですし、どんどん増えてきた後輩たちからも毎回刺激をいただいています。そのときの自分の全力を短いステージの中で、どれだけ投入できるのかが毎回のテーマなんです。ありがたいことに、私は毎回トリを務めさせていただいていて、去年は初日のトップバッターまでやらせていただきました。いつも重要なポジションを任せていただけることに恐縮しつつも、キングレコードのチームアニソンに恥じないパフォーマンスにしなければと、自分に言い聞かせて臨んでいます。「ほかのレーベルメイトに負けられない」という心地いい緊張感もありますし、その一方で楽屋に戻るとみんなが「観てたよー」と温かく迎えてくれる。みんなレーベル愛が強くて。そういう特別な関係性を実感できるのも「キンスパ」ならではですし、定期的に開催できていることもすごくうれしいです。最初はキング創立84周年っていう、すごく中途半端なタイミングで開催されたイベントだったんですけど(笑)。
水瀬 三嶋さんにお告げがあったんでしょうね(笑)。
水樹 「今やーっ!」ってね(笑)。私たちの手応えも皆さんからの反響も大きかったので、「1回だけで終わらせるのはもったいない」という話になって。森口(博子)さんも「オリンピックのように何年かに1回開催して続いていくイベントになるといいね」とおっしゃっていましたが、それが本当に実現していて、すごく幸せなことだと思います。
───昨年5月11、12日にKアリーナ横浜で開催された「KING SUPER LIVE 2024」では、2日間で100曲が披露されたわけですが、キングレコードのアニソン文化が成熟した表れでもありますね。
水樹 しかも、若い世代の方から、大人世代まで熱く盛り上がって泣ける曲、あらゆる世代に刺さる曲がそろっているのが本当にすごいことです。これからも大事に続けていけたらなと思います。
──水樹さん、水瀬さん、岡咲さんは、水樹さんの楽曲でコラボを果たしました。まずDAY1では、水瀬さんと岡咲さんが「COSMIC LOVE」を披露しました。
水樹 振付も完璧でしたよね。これも、うちの三嶋さんが「せっかくやるんやったら、振付までそろえてやったほうがええと思うんやけど」と、本番直前に言い出して(笑)。
水瀬 リハーサルのときからPA席で、鋭い目でこちらを見ていたんですよ(笑)。「えっ、ええ……何かしましたか? ご、ごめんなさい」と思っていたら……。
岡咲 「振付なしじゃダメや!」とお話しされていたそうで……(笑)。
水樹 それで、リハのあと私の楽屋に三嶋さんがやってきて、「2人に教えてやってくれ」と。
水瀬 私たち的には奈々さんがあの振付を踊ることに意味があると思っていたから、一度考えた結果、あえてやっていなかったんです。そうしたら、プロデューサー自らゴーサインを出したので……。
岡咲 「それなら私たち、教わらなくてもわかるんで大丈夫です!」と(笑)。
水樹 さすがでしたね(笑)。
水瀬 本番では最初はさすがに緊張しましたが、お客さんがみんな温かくて。それも全部、「COSMIC LOVE」という曲がここまで愛されてきた結果だと思いますし、我々が歌うことにも皆さんがストーリーを感じてくれているのかなと思って、楽しく歌えました。
岡咲 イントロが流れた瞬間からお客さんの熱気がすごくて。曲が愛されていること、奈々さんが愛されていることが存分に伝わってきましたし、その愛に包まれながら歌えたことは本当に幸せでした。しかも、いのりさんと2人だけで歌うのも初めてで、リハのときからすごく楽しかったです。
演出家の方もすごいことを考えるなと
──DAY2では岡咲さんが「DISCOTHEQUE」、水瀬さんが「Glorious Break」を、それぞれ水樹さんと一緒に歌唱しました。「DISCOTHEQUE」は「NHKのど自慢」で水樹さんを前に歌った思い出の1曲で、「Glorious Break」は水瀬さんが水樹さんと初共演を果たした「戦姫絶唱シンフォギアGX」の挿入歌。それぞれのストーリーを感じさせる選曲でしたね。
水樹 美保ちゃんの振付、キレキレで完璧でしたよね。
岡咲 歌が始まった瞬間、会場中に地鳴りみたいな声援が響きましたもんね。でも、その前が……。
水樹 そう、直前のマモ(宮野真守)たちがなかなか終わらないから笑っちゃって(笑)。私たちは緊張してスタンバイしてるのに、「そこで締めないんかい!」ってネタがずっと続いていたんですよ(笑)。
岡咲 「あ、やっと終わる」と思ったら、今度は宮野さんが(センターステージから水樹と岡咲がいる)メインステージに向かってきてて(笑)。
水樹 でも、それで心がほぐれて笑顔になれたよね。
──にしても、2人で「DISCOTHEQUE」を歌う日が訪れるなんて。
水樹 感慨深くて、母のような目で美保ちゃんを見てしまいました。
岡咲 え~、そんな……私にとっては人生において一生忘れられない時間になりました。
──「キンスパ」はアニソンの歴史はもちろん、それぞれのアーティストの背景にある物語が垣間見える瞬間も多々ちりばめられていますよね。
水樹 そうですね。だから、美保ちゃんの成長を見守り続けてきた私にとっても、「DISCOTHEQUE」をあのステージで一緒に歌えたのはやっぱり特別な瞬間で。岡山でのあのときの風景が、一瞬にしてよみがえってきました。
岡咲 「NHKのど自慢」のときは奈々さんがいらっしゃるということで、岡山中の奈々さんファンの方が会場にいらしていたんですよね。私が「DISCOTHEQUE」を歌うと、皆さんがコールしてくださったりペンライトを振ってくださったりして。あのときの温かさを、まさか10年ぶりにまた味わえるとは思わなかったですし、何より横に笑顔の奈々さんがいらっしゃるのがとても幸せでした。
水瀬 私は次の曲のためにセンターステージの下で待機していたから、「私にも観せてくれーっ!」と禁断症状でおかしくなりそうでした(笑)。でも、これが終わったら今度は私が奈々さんと歌うんだと思うと、情緒不安定になってしまって。
岡咲 私がセンターステージで奈々さんと「DISCOTHEQUE」を歌い終えると、奈々さんはそのままステージに残って、いのりさんがセンターステージから登場してメインステージで合流するという。
水瀬 演出家の方もすごいことを考えるなと思いました。奈々さんが待ってくれているところに私が歌いながらも前進していって、最後は2人でリフターに乗る……おこがましいですけど、奈々さんに憧れて離れたところから見ていた自分が、今では隣に立っているというのが本当に自分の半生のようで。「これ、走馬灯じゃないか?」みたいな気持ちになりましたし、あとでメイクさんが撮った動画を観たら、私が失神しそうな顔をしていたんですよ(笑)。
──確かに、映像からも水瀬さんの緊張した様子は感じ取れました。
水瀬 ですよね(笑)。映像で観ると、私が奈々さんのもとへゆっくり歩いて行くときはお客さんの歓声がものすごかったんですけど、当の私は静寂に感じられるぐらいに頭の中が真っ白で。意識がなくなる寸前というか、ようやくたどり着いたメインステージって感じでした。
──「Glorious Break」という選曲もまた絶妙でしたよね。
水瀬 ステージにいるのは水瀬いのりと水樹奈々さんなのですが、もう1つの意味としてはキャロルと翼さん(「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズで水樹が演じる風鳴翼)でもあるわけですしね。そこも含めて、すごく粋なステージだなと。本当にここまで続けてきてよかったと強く実感できた、忘れられない1日になりました。それにしても、リフターで隣に立ったときは緊張がマックスでした。
水樹 そうそう!2人がそろったところでリフターが上がるんですけど、上がる直前までいのりちゃんが(リフターの)枠から離れたところにいたんですよ。だから慌てて「いのりちゃん、前に出て」とサインを送って。
水瀬 それに気付いて、私も内心「危ない、危ない!」ってドキドキしました。
水樹 あと少しで、いのりちゃんだけ置いてきぼりで歌うことになるところでした(笑)。この難しい曲もリハーサルから完璧で、相当練習を積んで曲と向き合ってくれていることが伝わってきました。だから本番は安心して臨めるなと思っていたんですけど、あの瞬間に「あ、すごく緊張してるんだな」と気付いて、かわいいなと。
水瀬 一歩間違ったらケガをしていたかもしれないのでそこは反省点ですが、奈々さんの女神のような温かさに包まれて歌うことができたのは、本当に幸せで。そのあとALL LINE UPでの「Shangri-La」のパフォーマンスでイベントはエンディングを迎えて、歌い切ったあとは酸欠に近いような抜け殻状態でした。
もし3人一緒にコラボするとしたら……
──それにしても、名曲の数々を通じてキングレコードの歴史はもちろん、アニソンの歴史をあの場にいるお客さんと共有できたという意味で、本当に重要な2日間でしたよね。
水樹 やっぱり音楽のすごさって、曲を聴くと瞬時にその曲がリリースされた当時の自分に戻れることなんですよ。レコーディングスタジオやアフレコスタジオの匂いまでよみがえってきますし、当時聴いてくださっていたファンの皆さんもそれぞれ同じような感覚を味わってくださっているのかなと思うと、ちょっと同窓会みたいなものでもありますよね。思い出を一緒に積み重ねて未来へと更新していくステージを、今後も定期的にやり続けていけたらうれしいです。
──今回3人でのコラボは実現しませんでしたが、いつか一緒に並んでステージに立つ姿も見てみたいです。
水樹 実は、事前に「どんなコラボがいいですか?」というアンケートがあって、そこで私はいつかこの2人と一緒にコラボしたいと答えていたんです。そのときはそれぞれ1人ずつ、合計2曲も時間をもらえるなんて思っていなかったから、「両手に花で歌ってもいいですか?」みたいなことを話していました(笑)。
水瀬・岡咲 えーっ!?
岡咲 結果、バトンタッチする形のコラボになったんですね。
水樹 そう。もし3人一緒にコラボするとしたら、キング100周年でやりたいね(笑)。
水瀬 確かに! 例えば、バラードとか大人っぽい曲を3人で歌うのも、ちょっと憧れますね。かわいくて元気に盛り上がる曲ももちろん素敵ですけど、ちょっとしっとりとした感じとか。バラードだとそれぞれの声の“芯”みたいなものが見えそうで、違う色が混ざったときにどうなるのか面白そうです。
水樹 私としては、今回私の曲でコラボしてもらったので、今度は2人の曲を歌ってみたい。
水瀬・岡咲 えー!
水瀬 そんなそんな……メドレーでもいいので、大歓迎です!(笑)
岡咲 でも、最後は奈々さんの曲で締めましょうよ。私は奈々さんの「POP MASTER」を3人で歌いたいです。
水瀬 あーっ、素敵!
岡咲 私、受験のときにこの曲を聴いて励まされたんです。奈々さんが作詞した曲って夢に向かっていくパワーがたっぷり感じられるから、私だけじゃなくて聴いた皆さんもそれぞれ元気付けられると思います。未来を見せるという意味でも、この曲はぴったりじゃないかな。
水樹 ありがとう! そう言ってもらえるのはうれしいですね。演出的にやってみたいことはある? 例えば、3人同時に飛ぶとか。
岡咲 え、飛んでいいんですか?
水瀬 完全にお祭りですね!
水樹 あとは、3人でフォーメーションを組んで、ダンスしながら歌うとか。
岡咲 センターがどんどん変わっていくみたいな。
水樹 あとは……一緒に走りながら歌う?
水瀬 奈々さんといえばダッシュの印象が強いですからね(笑)。
岡咲 まずは次回までにみんなで体力を付けましょう(笑)。
プロフィール
水樹奈々(ミズキナナ)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京・東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。声優として第一線で活躍しながらコンスタントに作品を制作し続けており、2025年12月にアーティストデビュー25周年を迎える。
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水瀬いのり(ミナセイノリ)
1995年、東京都生まれ。2010年にアニメ「世紀末オカルト学院」で声優デビュー。「恋愛ラボ」の棚橋鈴音や劇場アニメ「心が叫びたがってるんだ。」の主人公・ 成瀬順の声を担当し注目を浴び、2016年には声優アワード・主演女優賞、第25回日本映画批評家大賞アニメ部門新人声優賞を受賞した。アーティストとしては、2015年12月の20歳の誕生日にキングレコードよりシングル「夢のつぼみ」でデビュー。以降、東京・日本武道館や神奈川・横浜アリーナ、千葉・LaLa arena TOKYO-BAYなどで全国ツアーのファイナル公演を開催。2025年12月2日にアーティスト活動10周年を迎える。
水瀬いのりオフィシャル (@inoriminase_info) | Instagram
岡咲美保(オカサキミホ)
1998年生まれ、岡山県出身。2017年に声優デビューし、翌2018年にテレビアニメ「転生したらスライムだった件」で主演・リムル=テンペスト役に抜擢された。2025年開催の「第19回声優アワード」では主演声優賞を受賞した。歌手としては「アイドルマスター シャイニーカラーズ」のライブイベントにおいて高い歌唱力で脚光を浴びたのち、2021年9月にCDデビュー。2023年8月に世界最大のアニソンイベント「Animelo Summer Live」にソロで初出演を果たした。
岡咲美保公式アカウント (@okasakimiho_PR) | X