King Gnu|激動の中でつかんだ自分たちのスタンスと未来 ニューアルバムに刻んだ新章の幕開け

「飛行艇」で描いた従来とは違うスケール感

──「飛行艇」がアルバムを作るにあたっての最初のキーになった曲とおっしゃっていましたよね。この曲は1960年代や70年代の欧米のロックフェスの光景が目に浮かぶような、あの時代のロックが持っていたスケール感を今のやり方で蘇らせている曲だと思います。そういうイメージはありましたか?

常田 ええ。子供の頃から「Woodstock Music and Art Festival」(1969年にアメリカ・ニューヨークで開催された野外ロックフェスティバル)の映像を観て憧れてたんで、そういうルーツは自然と出ている感じですね。今までのKing Gnuとは違うサウンドや規模感を提示できた曲かな。

──リズムもすごくシンプルでパワフルですよね。こういうタイプの曲は、ここ最近の日本のロックバンドの曲にはあまりなかった気がします。

勢喜 そうですね。四つ打ちのリズムは、もっとダンサブルな曲で使われがちだったので。あのテンポでああいうスタイルでできたことには、すごく意味を感じます。

新井 曲が出てから実感したんですけど、確かに今の日本のシーンで、このテンポで四つ打ちをやっているアーティストはあまりいなかったと思います。でも、スケール感がズドンとわかりやすく出たし、すごく気に入っていますね。いい曲だし。

──常田さんとしては、この曲ができたことでKing Gnuの可能性が広がった感じはありますか?

常田 去年はほかにもいろんなアーティストがスポーツに対する曲を書いていて、さまざまな場所で流れていましたけど、「飛行艇」もラグビーW杯の会場やメジャーリーガーの選手、格闘技の選手入場で使ってもらう機会が多くて。正直、そもそも日本でそんなヒットするようなタイプの曲じゃないと思っていたんですが、そういう映像を観ると、人間を本能的に鼓舞できる曲にちゃんとなっていたんだなと思って。そういうところでもすごく意味のある、King Gnuならではの曲になったんじゃないかと思います。

──「傘」もタイアップ曲ですが、これはCMの話があって書き下ろしたんでしょうか?

常田 そうですね。

──どのように作っていきました?

常田 ギターのコードを弾きながらメロディをトップで当てるというやり口で作った曲ですね。「Vinyl」とかもそうなんですけど、わりとKing Gnuの常套句的な作り方です。

──この曲に関しては、歌詞の言葉やメロディも含めて歌謡曲的なエッセンスが前面に出ている印象があります。

常田 そうですね。コード進行とかには複雑な感じもちゃんとありつつ、でもメロディで自然に聴こえるという。

King Gnu流の「歌謡曲」「J-POP」の定義

──常田さんは歌謡曲というものをどういうポイントで捉えていますか?

常田 歌謡曲と言うと、昔のポップスを思い浮かべる人も多いと思うんですけど、正直、今のポップスもなんら変わりなくて。俺が歌謡曲と言っているのは、J-POPみたいな意味で言うことが多いです。

──歌謡曲もJ-POPも、どちらもすなわち日本のポップスであると。

常田 そうですね。そういう意味合いで使ってます。で、それは、メロディが一番気になるもの。例えばヒップホップっぽいトラックの上に歌謡曲っぽいメロディを付けたら歌謡曲になるし。それくらい、よくも悪くもメロディに左右される。King Gnuは歌謡曲やJ-POPのメロディと言葉のハメ方をしているから、聴いた人が懐かしくも思うし、これだけの広がりを持つことができているのかなって思います。

──井口さん、新井さん、勢喜さんは、歌謡曲やJ-POPをどういうものとして捉えていますか?

勢喜 歌いたくなる曲ですかね。

井口 僕も同じかな。台所で母ちゃんが口ずさんでいたり、仕事中に思わず歌っちゃったりするような曲。King Gnuの曲たちはそうなり得る曲たちだから、誰しもに届きうるものなのかなという気がします。

新井 確かにこの中では「傘」が一番「歌謡曲っぽい」って言われる気がしていて。理由を考えると、大前提として哀愁のようなものが感じられるメロディラインが大きいのかなと思います。過去の曲なら「あなたは蜃気楼」とかも、そういうエッセンスがメロディに入ってるし。でも、大希が言ったように「傘」のコード進行ってけっこう変だし、わりとヒップホップ的なビートだったりもするんですよね。僕としては、特にベースを弾くうえでは、J-POPかどうか、歌謡曲かどうかみたいなことはまったく考えていないですね。

「白日」によって難しくなった

──アルバムは「開会式」で始まって、実質的な1曲目が「どろん」となっているわけですが、この始まり方はどういうところから?

常田 最初は「飛行艇」を1曲目にしようと思ってたんですけど、ライブでずっと1曲目に披露していたので、ちょっと新しい切り口の1曲目が欲しいなと思って。

──ということは、6曲目に「幕間」があって7曲目に「飛行艇」があるのは、いわゆるアナログ盤におけるB面の始まりのようなイメージ?

常田 そうです。

──では5曲目の「白日」がA面ラストということですか?

常田 そうですね。大まかに2つに分けるとしたら。

──「白日」はKing Gnuにとってもっとも遠くまで届いた曲になったわけですが、改めて「CEREMONY」を作るうえで、この曲の位置付けはどのように考えましたか?

常田 「白日」がアルバムに入るっていう時点で、難しさが増していったところはありますね。トーンもそうだし、ほかの曲が「白日」に引っ張られてしまうくらい広がったものだったから。アルバムの中で、前後も含めて「白日」をどう処理しようかみたいなことが難しかったです。

勢喜 強調させすぎたくないっていうところかな。

──この曲がKing Gnuにとってのある種の代表曲のような扱い方をされてしまうのは間違いないけれど、アルバムの中ではあくまで12曲のうちの1曲、みたいな感じ?

常田 はい。(CDで)シングル切って稼いどきゃよかったかな(笑)。そうしたらアルバムではあんまり左右されなかったし。

──(笑)。アルバムは「閉会式」の前、11曲目の「壇上」が実質的なラストに置かれた構成です。そう考えると、「白日」と「壇上」が、対称的な位置で対照的な役割を果たしているように思うんですけど。

常田 そうですね。