耳で楽しむ「王様戦隊キングオージャー」|あの最終決戦の音楽面をタカハシヒョウリが徹底解説

2月をもって放送が終了したスーパー戦隊シリーズ47作目「王様戦隊キングオージャー」。東映の特撮作品として初めて全面的に3DCGを使用した美麗な映像や、大河ドラマのような縦軸を重視した重厚なストーリーが幅広い層から熱烈に支持され、特に宇蟲王ダグデド(※1)との最終決戦を描いた48~50話のラスト3話は大きな話題となった。

あらゆる点で異例ずくめの「キングオージャー」だったが、それは音楽に関しても例外ではなかった。この番組の劇伴を収録した4月10日発売の「王様戦隊キングオージャー オリジナル・サウンドトラック」は、当初は最終話放送直後の2月末にリリースが予定されていたが、49話と最終話のために直前になってフィルムスコアリング(絵合わせ)で新曲が作られることになり、その徹底したこだわりゆえ発売が延期されることになったのだ。

では実際のところ「キングオージャー」は音楽面でどのような試みをしていたのだろうか? 本稿では「耳で楽しむキングオージャー」と題して、ロックシーン指折りの特撮ファンとして知られるタカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)に原稿の執筆を依頼。通常回のBGMでの意欲的な試みや、49話と最終話のフィルムスコアリングなどについて、ミュージシャン目線で徹底解説してもらった。

文 / タカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)

「キングオージャー」のどこに「志が高い」と感じたのか

「王様戦隊キングオージャー」、とにかく「志が高い」作品だったと思う。

もちろん、ほかのシリーズ作品の志が低いと言っているわけじゃない。むしろ近年のスーパー戦隊は、毎作何かしら新しい挑戦や改革を取り入れていて、数ある特撮作品の中でも特に挑戦的なシリーズになっている。いや、この大特撮時代、どんなシリーズだって毎作新しい挑戦をしているはずだ。同時期に放送されていた「ウルトラマンブレーザー」なんか、かなり挑戦的な作品だ。だが、それにしても「キングオージャー」は「志が高い」と思ったのだ。

それこそ「王様」を名乗るくらいなので、そもそも志は高いのかもしれないが、それにしたって「志が高い」と言いたい!

なんといっても「キングオージャー」は、現代社会ではない「完全なファンタジー世界」という舞台に挑戦した初めてのスーパー戦隊シリーズだ。

それってつまりどういうことか? それは、現代日本の風景や服装、小道具をそのまんま使うことができないということを意味し、風景は基本的にグリーンバックやLEDスクリーンを使ったCGで(一部実景もありますが)、服装や小道具は登場するそれぞれの国家の文化を反映した作り物で表現しないといけないのだ。

正直言って最初の数話を見たときは、驚きとともに「このクオリティと世界観で最後まで走り抜けられるのか?」と不安がよぎった。そして「ああ、これはわりと早い段階で現実の地球とつながって、後半はこっちの地球が舞台になるんだな?『聖戦士ダンバイン』の『東京上空』みたいに。だから昆虫ロボなんだ!」とか勝手に納得していたが、そんな斜に構えた予想を跳ね飛ばし、「キングオージャー」は、ごく一部のエピソードで地球に飛ばされた以外は“宇宙の片隅の惑星チキュー”という異世界を舞台に全50話を走り抜けたのだった。

それどころか、最終3話では、ファンタジー大作映画のような壮大なクライマックスまで描き切った。

そりゃテレビシリーズだからハリウッドの大作映画のクオリティそのまんまというわけにはいかないが、それに負けない気概と熱量というか、「志の高さ」という意味ではそこに張り合うような物語を完遂しきった稀有なシリーズとなった。

と、作品についていろいろ書いてしまったが、本稿のテーマは「耳で楽しむ」。つまり「音楽」。4月10日発売の「王様戦隊キングオージャー オリジナル・サウンドトラック」を聴きながら、「耳で楽しむキングオージャー」をお届けしたい。

国ごとにまったく異なる音楽ジャンル、それでいて現実の地球にはない楽曲

音楽に関しても、「キングオージャー」はかなりのこだわりを感じさせてくれる。

まず、主人公たち5人の王が統べる風土も文化も違う5つの国、そのそれぞれに“まったく違うジャンル”をあてて音楽が作られている。工業が発展した中世ヨーロッパ×スチームパンク風の国「シュゴッダム」は、王道のRPG音楽。テクノロジーの国「ンコソパ」は、ハイファイなロック。医療と芸術の国「イシャバーナ」は、華やかなクラシック。農業国家「トウフ」は、日本の祭囃子を想起させる民族音楽。そして法治国家「ゴッカン」はクワイアによる荘厳かつ重厚なコーラス、という具合に国の特色が音楽にも反映されている。加えて「キングオージャー」には数多くの勢力が登場するので、ある程度決められた曲数の中で、各国各勢力にこれだけのバリエーションを用意するのは至難の業だっただろう。

さらにこれらの要素の合わせ技というのもあって、例えば第2話「誰がための王」で、シュゴッダムのギラ・ハスティーとンコソパの国王ヤンマ・ガストが初めて同時に戦うシーンに流れる楽曲「敵に挑む二人の王(L-03)」。この曲はンコソパのテーマであるロックを下敷きにしつつ、そこに重なってくるメロディはシュゴッダムを想起させるような生弦楽器になっている。放送時には気付かなかったが、2つの国の王の共闘に、それぞれのテーマがクロスするような構造になっているのだ。「あらすじ語り」に流れていた曲が、実は語り部の正体であったスパイダークモノスのテーマになっていたり、こういうのがじっくり聴けるのもサントラだからこその楽しみだ。

※第2話「誰がための王」。ギラとヤンマが初めて同時に戦うシーンは6分25秒あたりから。

子供の頃、RPGゲームのサントラを聴くのが好きだった。バラエティ豊かな楽曲が、異世界を旅行しているような気分にさせてくれたからだ。今回の「キングオージャー」のサントラでは、それに近い感覚を味わえる。

また、キングオージャーの舞台がファンタジー世界というのは、音楽的にも重要なポイントだ。「キングオージャー」に登場するチキューは、我々が知る地球の文化・歴史とは違う惑星であるため、音楽もどこか「聴いたことのない世界の音楽」でなければならない。農業の国・トウフの音楽も、和風だがそのまんま日本風ではなく、ちょっと異世界風の無国籍な味付けがされているのがポイントなわけだ。

例えば、第20話「王と王の決闘」冒頭の結婚式のシーンで流れるパイプオルガンの賛美歌。これが“地球”を舞台にしたドラマなら既存の曲を使うべきシーンだが、“チキュー”を舞台にした「キングオージャー」では選曲の宮葉勝行さんによってわざわざ新しい賛美歌が作曲されている。異世界を表現するために、世界観の統一が徹底されているという好例だ。

ただ、この次の回の第21話「突き進め王道を」では、イシャバーナの女王ヒメノ・ランがショパンの「幻想即興曲」を演奏するシーンがあって、「もしかしてショパンは異世界転生してる?」という事態になっているのだが、実はこれはヒメノを演じた村上愛花さんがプロ並みのピアノ演奏の腕前で、なんとご本人がショパンの曲を生演奏しているのだ。ここに関してはさすがに新曲を用意して演奏してもらうわけにはいかないと思うし、素晴らしい演奏なので「ショパン異世界転生説 or 異惑星漂着説」でまとめさせていただきたいと思う。


(※1)本名:ダグデド・ドゥジャルダン。2000年にわたる人間とバグナラクの争いの黒幕で、チキューの生物を片付けるために宇蟲五道化を引き連れて襲来した。