川崎鷹也&武部聡志インタビュー|フルオーケストラ公演への意気込みを語る (2/2)

歌についていけばいい

──2025年の春には、「billboard classics『川崎鷹也 Premium Orchestra Concert』~produced by 武部聡志」が開催されます。武部さんのプロデュースするフルオーケストラ公演に川崎さんが出演するわけですが、どんなコンサートになりそうですか?

武部 「歌を届ける」ということは同じですね。70人編成のオーケストラに負けない歌を歌えるようになったと思うしね。

川崎 なれましたかね?(笑)

武部 (笑)。オケは鷹也の背中を押すし、鷹也はそれに負けないパワーで歌ってくれると期待しています。

──武部さんにとって、オーケストラコンサートの醍醐味とは?

武部 オーケストラはいろいろな表現ができるんですよ。全員で強く演奏したときのフォルテシモから弦1本の繊細な響きまで、とにかくダイナミクスが幅広い。僕らもそれを楽しみながら演奏しているし、お客さんにもそれを感じてほしいですね。

川崎 とても貴重な体験ですし、僕にとってもお客さんにとっても、こんなぜいたくな時間はないと思っています。たぶんステージの上で何度も「気持ちいいな」と思うだろうし、武部さんがおっしゃったように、オーケストラの迫力や繊細な響き、音の余韻みたいなものも伝えられたらいいですよね。武部さんの45周年イベント(2023年3月31日に開催された「武部聡志音楽活動45周年プレミアム・オーケストラ・コンサート」)に出させていただいたときは、普段のライブとはリズムの取り方が全然違っていて、最初はかなり戸惑いましたね。何度も岩城直也さん(編曲・指揮を担当)を見て、必死にリズムに追いつこうとがんばりました。あの日、学ぶことがものすごくたくさんあったし、普段のライブとは曲の届き方が違っている実感もありました。

武部 確かに一番戸惑うのはリズムの取り方もしれないね。僕らとしては、歌についていけばいいと思うんですよ。歌い手がひるむことなく、あくまでも自分のペースでしっかり歌ってくれたら、僕らは絶対についていける。お互いに様子見みたいになってしまうのが一番よくないと思うんですが、鷹也は引っ張っていける人だと信じてますから。

川崎 武部さんの45周年コンサートのときも、武部さんと岩城さんに「自由に歌って」と言ってもらいました。「そうか、思った通りに歌っていいんだ」と思えたことでつかめたもの、見えてきたものもたくさんありますね。

左から川崎鷹也、武部聡志。

左から川崎鷹也、武部聡志。

──「billboard classics『川崎鷹也 Premium Orchestra Concert』~produced by 武部聡志」の編曲・指揮も岩城直也さんです。

武部 世代的にとても若いですし、アレンジ、指揮においても非常に優秀な音楽家で、僕も全幅の信頼を寄せています。音楽的な知識や技術を学ぶことも大事ですが、岩城くんはそれだけではなく、音楽の熱量や感動をちゃんとわかっていて。クラシックの演奏家は譜面に書いてあることを重視しがちだけど、彼はもっとエモーショナルな表現、色彩感をオーケストラで表現しようとしている。だからこそ僕は、彼のアレンジや指揮に身を委ねて気持ちよく演奏できます。

──技術だけではなく、エモーショナルな部分が大事だと。

武部 僕らと一緒に音楽を奏でる仲間は、みんな同じように思っているんじゃないかな。もちろん最終的には「お客さんに何を伝えられるか?」「お客さんに感動してほしい、僕らの音楽で元気になってほしい」という気持ちを持ってステージに臨むんですけどね。だからカッコつける必要もないし、無理する必要もなくて。そのときにできる、それぞれのベストを尽くせば、絶対にいい表現につながるはずだと思っています。

川崎 先ほども言いましたが、練習してきたものを披露するだけではなく、表情やトークも含めた、ライブでしかできない表現にお客さんは感動すると思うし、僕もそういうステージが好きなんですよね。武部さん、岩城さんと一緒にステージを作るにあたっては、「お二人の前で歌いたい」という思いもあって。武部さんのピアノ、岩城さんの指揮で歌えるというのが僕の楽しみでもあるし、その熱量はきっとお客さんにも伝わると思います。お二人のお人柄もそうだし、お客さんに対する熱量、あとは僕に対する愛も感じていて。ステージに立っているときも、武部さん、岩城さんの温かみが背中に伝わってくるんですよ。

音楽は仲間で奏でるもの

──愛情を感じている、と。そう言えば「武部聡志のSESSIONS」に川崎さんが出演したとき、武部さんは川崎さんのことを「息子」とおっしゃってましたね。

川崎 ハハハハ。

武部 年齢的にはそうですけど(笑)、音楽をやるときに年は関係ないですから。同じ目線で立っているし、遠慮なんかしてられないと思うんですよ。本当にいいものを作ろうと思ったら、言いたいことを言えばいいし。

川崎 そうですね。僕、初めて武部さんにお会いしたときも言ったんですよ。

武部 「ここはこうしてほしいです」と僕のピアノにダメ出ししてきました(笑)。大事なことですよね。

川崎 もちろん武部さんの意見が圧倒的に正しいことのほうが多いんですけど、思ったことがあれば1回言ってみるようにしていて。

武部 音楽には正解はないじゃないですか。若い人たちにも「もっとこうしたい」という思いがある。僕にも長年やってきた経験値があるし、プロとして「お客さんがどう感じるか」を一番に考えるんですよね。やっぱり自己満足ではダメだし、そこはプロデューサー的な見方で、一番いい伝わり方になるように仕立てたいので。

川崎 僕も「こうしたい」とお伝えするときは、必ず理由があるんですよ。

武部 そうだよね。

川崎 「こういう音にしたいです」も「こういう歌い方がしたい」もそうなんですが、なぜそう思うのか?という根本を整理できているし、説明できるという自負があって。なんとなくこうしたい、みたいなものは1つもないんです。

武部 シンガーソングライターにとって、それができているのはとても大事なことだと思います。そのこだわりこそがシンガーソングライターの生命線だし、それを僕は尊重したい。そのうえで「そこに到達するには、こうしたほうが早道だよ」「こんな方法論もあるよ」というサジェスチョンはできるけど、「こうしなさい」「それは違う」とは言わないので。

左から武部聡志、川崎鷹也。

左から武部聡志、川崎鷹也。

──そろそろセットリストも決まりそうだということですが、どんな内容になりそうか、少し教えてもらえますか?

川崎 僕がやりたい曲、武部さん、岩城さんがやりたい曲を出し合ったんですよ。ステージ全体のコントラストだったり、アレンジの幅などを含めて、バランスを考えたり、「この曲をオーケストラでやったらどうなるんだろう?」と想像しながら、あっという間に決まりましたね。普段、僕のステージではあまりやらない曲もあるし、かなりバラエティに富んだ内容になると思います。僕がギターを弾く曲もあるし、オーケストラだけの曲もあって、幅も広がっているのかなと。

武部 ライブ全体のコントラストはすごく大事ですからね。サウンド感、コード進行、歌詞のメッセージも含めて、バランスよく選んだつもりです。

川崎 僕のファンの方々は、普段の僕のライブとは違ったところが見られると思うし、オーケストラと一緒に聴いてもらうことで、「この曲ってこういう表現もできるんだ」という新しい可能性が広がっていく時間にもなるんじゃないかなと。

武部 僕としては、鷹也のファン以外の人たちにも足を運んでほしくて。川崎鷹也という素晴らしいシンガーを知らない人に、ぜひ聴いてほしいという思いがまずあります。もう1つは「音楽っていいな」「仲間っていいな」と感じてほしい。今回は僕ら3人以外に70人のオーケストラがいて。音楽は仲間で奏でるものなので、そのこともしっかり伝えたいと思っています。

プロフィール

川崎鷹也(カワサキタカヤ)

1995年生まれ。栃木県出身。ハスキーな歌声と美しいビブラート、癖になるメロディーラインが特徴。2020年8月、SNSで人気となった「魔法の絨毯」のストリーミング累計は現在4億回再生を突破し、2023年8月に日本レコード協会から「トリプル・プラチナ認定」を授与された。同年には俳優業もスタートさせ、映画「魔女の香水」やNHK「褒めるひと褒められるひと」への出演を果たす。2024年7月から全国15都市で3万人を動員する自身最大規模の全国ホールツアー「愛心 -MANAGOKORO-」を開催している。

武部聡志(タケベサトシ)

1957年生まれ、東京都出身の作編曲家 / 音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時よりキーボーディスト / アレンジャーとして活躍する。1983年より松任谷由実のコンサートツアーにおいて音楽監督を担当。一青窈、今井美樹、ゆず、平井堅、JUJUらのプロデュースを務めるほか、テレビドラマや映画の劇中音楽、フジテレビ系音楽番組「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督など多岐にわたり活動している。