かつしかトリオにとってライブとは?「今のかつしかトリオは人生の宝物」 (2/2)

イヤモニを使える人は偉いと思う

──今回、映像で観るからこそ気になったポイントが個人的に3点ありまして。まず、向谷さんだけイヤモニをされていないですよね。

櫻井 いや、僕もしてないです。イヤモニみたいに見えるのは耳栓ですね。

向谷 確かに、映像だと一見イヤモニにも見える(笑)。イヤモニを使ってるのは神保さんだけだよね。

神保 そうだね。

向谷 僕はイヤモニが全然ダメなんですよ。もう本当に、まったく無理。モニター音が生々しく聞こえるんで、余計なことが気になりすぎちゃうんです。外の音も何も聞こえなくなるし……だから偉いと思う、イヤモニできる人。

櫻井 僕は使えるなら使いたいんですけど、そうするとワイヤレス機材がもう1つ増えることになるじゃないですか。それを避けるためにモニタはスピーカーを使ってるんですけど、環境さえ許せばイヤモニを使いたい派ではあります。絶対そのほうが演奏がタイトになるし、無駄な力を入れなくても発音が聞こえるから、いいことしかないんですよ。

神保 ドラムの場合は、まず自分の出す生音が大きいんですよね。だからエアーでモニタしようと思ったらけっこうな爆音で返さないといけなくて、その音が全部ドラムのマイクに被ってくるわけです。そうすると、全部の音の輪郭がぼやけてしまう。お客さんが聴く音のことを考えたら、ドラマーは絶対にイヤモニ一択ですね。

向谷 なるほどねえ。俺、キーボードでよかった(笑)。

神保 あと、シンバルの高音というのがすごく耳によくないんですよ。僕は若い頃からずっと爆音でやってきたので聴力がけっこうハイ落ちしていて、検査に行くと「工事関係の方ですか?」と言われるんです(笑)。カーンカーンっていう杭打ちの音を聴き続けた人と同じような落ち方をしているらしくて。だからこれ以上耳に負担をかけないためにも、イヤモニは欠かせないですね。

向谷 へえー、そういう事情もあるんだ。

神保 本当はこういう話を若いドラマーの人たちにも啓蒙していったほうがいいんですけど、なかなかそういう機会もなくて。

──今の若いバンドは当たり前のようにイヤモニを使っている印象がありますけどね。

神保 そうですね。ただ、イヤモニに自分の音を爆音で返していたら同じことですから。そこは気を付けていただきたいですね。

──そして2点目は、櫻井さんの手袋です。昔からずっとだと思うんですけど、演奏時に何やら指ぬきグローブのようなものを着けてらっしゃいますよね。あれはいったいなんなんだろう?という、素朴な疑問がありまして(笑)。

櫻井 あれはサポーターですね。手袋と、あとアームサポーターもしています。ベースってギターよりも弦が太くて重いので、押さえたり弾いたりするときにけっこう力が必要なんですね。それを50年もやっていると、一般の人よりも筋肉の収縮量がかなり大きくなる。で、普通にやってるとその収縮がどんどん大きくなっていくんですよ。それをサポーターで抑えてあげることで、負担を軽減しているんです。

──なるほど。しかも櫻井さんのようにテクニカルなプレイヤーの場合、なおのこと負担が大きそうですもんね。

櫻井 以前は革手袋を使っていたこともあって、そっちのほうが演奏が終わったあとの状態がラクではあったんです。でもやっぱりゴワゴワするから、演奏自体がちょっと大変で。そういうこともあって、今はわりと普通のサポーターに落ち着きました。

──ありがとうございます、謎が解けました(笑)。あともう1点気になったのが、これまた昔からずっとだとは思うんですが、神保さんの姿勢が異常にいいことです。

向谷櫻井 わはははは。

──どんなに激しいプレイをしていても、上半身だけは静止画のようで(笑)。あんなに上体がブレないドラマー、ほかであまり見たことがないです。

向谷 確かに見たことない。

神保 それはですね、棒を飲んでるんです。

──棒……?

向谷 それ、俺が言ったんだよ。ライブ中に神保さんの背中があまりにもまっすぐなんで、「きっと棒を飲み込んでるんだ」って(笑)。

神保 そうそう(笑)。まあ冗談はさておき、昔の映像を観るとけっこう僕も前傾姿勢で叩いているんですよね。背中が丸まってる。

向谷 あ、そうだった?

神保 うん。「THUNDER LIVE」とか「CASIOPEA LIVE」とか、カシオペア初期の映像を観るとけっこう前のめりで力任せに叩いていたことがわかります。それが年齢とともにだんだん脱力することを心がけるようになっていって、年々姿勢がよくなっていってる(笑)。

向谷 すごいなあ。俺なんて、年齢とともに姿勢が悪くなってますけどね。

神保 やっぱりスッと重心がまっすぐ下に落ちていたほうがラクに叩けるというか、理にかなっているような気がするんですよね。「なるべくまっすぐな姿勢を保って、脱力しよう」と常に意識してやってきたので、だんだんそうなってきたんだと思います。

どんどん新曲ができちゃう

──アンコールでは、カシオペア時代の楽曲「Mid-Manhattan」と「Halle」を披露されていましたね。

櫻井 「Mid-Manhattan」は追加公演だけだよね。「Halle」は本ツアーでもやったけど。

神保 そう。やっぱり追加公演ということで、何か本公演とは違う要素も欲しいということになって。

──アルバムを2作リリースして曲数も十分に足りてきたので、かつしかトリオのオリジナル曲だけでやり切るのかな?とも個人的には思っていたんです。

向谷 まあ昔の曲を聴きたいというファンの皆さんのお気持ちもあるでしょうし、僕らが書いた曲に関してはやってもいいかなというのは前からあったんで。それに、4人バンドの曲を3人で演奏するわけですから……。

櫻井 かつしかトリオアレンジにはなっていますよね。ディストーションベースソロになってたりとか(笑)。

向谷 「Mid-Manhattan」なんて、メロディを弾いてるの神保さんだもんね。パッドを使って。

櫻井 そうそうそう。

神保 以前まではどうしても曲が足りないんで、セットリストの中にカシオペア時代の曲を何曲か混ぜてましたけれども、今はもう持ち曲が20曲あって、次のアルバムでもさらに曲が増えます。だから今後はますます「どうやってセットリストを組もう?」という、うれしい悩みが出てくる予感がしますね。

向谷 今まさに次のアルバムを準備中で、けっこういいデモができてきてるんですよ。ロサンゼルスの室内楽団の人たちと一緒にオーガニックなアルバムを作ることが決まっていまして、当初は既存曲のリアレンジを中心としたセルフカバーアルバムに近い内容を考えていたんですが……。

神保 どんどん新曲ができちゃってるので、結局オリジナル中心のアルバムになりそうです。

──その「新曲ができちゃうから仕方なく」みたいな感じが、実にかつしかトリオっぽいですね。

櫻井 はははは、確かに(笑)。

向谷 最初は本当にリメイク中心のつもりだったんですけどね。今回、ネム音楽院(現・ヤマハ音楽院)時代に僕と同級生だった倉田信雄さんにお願いして、一緒にストリングスアレンジをしてもらっているんですよ。ロスでの録音では指揮もしていただこうと思ってるんですけど、いったいどうなるのか楽しみですね。

櫻井 今もデモの段階ですごくいろんなアイデアが出てきていて。せっかくストリングスと一緒にやるなら、僕はベースが主メロを担う曲も入れてほしいなと思ってます。

神保 あと今回、僕が長年「この人の音こそがロサンゼルスサウンドだ」と思い続けてきたドン・マレーさんというエンジニアが、レコーディングとミックスを担当してくださるんですよ。それがもう、めちゃくちゃ楽しみで……!

向谷 ドン・マレーだもんね。相当いい音になると思うよ。楽しみ! ワクワク!

かつしかトリオ

かつしかトリオ

若い頃とは“主語”が変わった

──ライブのお話に戻りますが、皆さんにとってライブとはどういう意味を持つものですか?

櫻井 僕の場合は、ライブのステージが一番楽しめる場所だと思っています。本気で遊べる場所。作品作りは、その場をちゃんと楽しむための準備という感じです。もちろん素材がいい加減だと楽しみも半減しちゃうので、その準備はすごく大事になってきますね。

神保 ライブというのは、お客さんがいて初めて成立する場ですよね。我々が出したエネルギーに対してお客さんが返してくれて、それを我々がまた受け取って返して……という、いいエネルギーの循環が行われる場というふうに自分は捉えています。音楽というのはコミュニケーションなんですよね。通常は言葉を使いますけども、音楽を愛する人は言葉以外にもう1つコミュニケーションのチャンネルを持っていることになる。大げさな言い方をすると、人生が豊かになるものだと思いますね。

向谷 ライブって、袖から入って終わって出るまではその場から動けない、ある意味特殊な空間じゃないですか。その場にバンッと出ていった瞬間に、覚醒したような感覚になるんですよね。そこでは意図したものだけではない、自然発生的に生まれる驚きや喜びが必ずあるんです。櫻井さんの生しゃべりとかね(笑)。そういう偶発的なものが毎回毎回書き換えられ続けていくのがライブの楽しさだと思いますし、バンドを長く続けられる秘訣の1つでもあるのかなという感じがします。

──ライブへの向き合い方で、若い頃と変わってきた部分などは何かありますか?

櫻井 それは容姿でしょうね(即答)。

神保 わははは。確かに、こないだ1980年のカシオペアの映像を確認する機会があったんですけど、向谷さんが痩せてるんですよ!

向谷 そりゃそうだろ! っていうかそれ、向き合い方の話じゃないから(笑)。

櫻井 でも若い頃の映像なんかを観ると、ライブへの入り込み加減が違うなというのは感じますね。当時は当たり前のこととしてやってるんですけど、経験が少ないがゆえの迷いのなさみたいなものがある。もちろん今の我々ならではの老い知らずの入り込み方というものもあるわけですけど、やはり経験がある分、入り込み方の種類が違ってきているなとは思います。エネルギー自体は変わらないんで、いい悪いの話ではないですけどね。

向谷 あとは、“主語”が変わったのはすごく感じます。若い頃はものすごい数のコンサートをやり、たくさんのスタジオアルバムを作り……ということをいろんな人たちに決められていたわけです。それが体力的にも精神的にもかなりキツかったのを覚えていますね。それが今は、もちろん本当に素晴らしいスタッフの皆さんに支えられたうえでのことですが、私たちがやると決めたことをやれている。主語がしっかりと自分たちになっているんです。こういう形になるまでに、何十年も経験してきたんだよなあ……今のこのかつしかトリオの進み方って、僕の人生の中では宝物のような状態なんですよ。その充実感たるや半端じゃなくて、ちょっと若返っているくらいですから。髪の毛が少しずつ増えてきてるんです。

櫻井神保 わはははは。

向谷 どう? 見てて感じない?

神保 (向谷の頭を覗き込んで)ああ、確かに増えたかも。

向谷 でしょ? 「若くなったね」って言われるんですよ、最近。

かつしかトリオ

かつしかトリオ

公演情報

音楽館 40th Anniversary Presents かつしかトリオ LIVE TOUR 2025 Organic

  • 2025年10月18日(土)東京都 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
  • 2025年11月1日(土)福岡県 福岡市民ホール 中ホール
  • 2025年11月4日(火)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2025年11月13日(木)北海道 共済ホール
  • 2025年11月24日(月・祝)大阪府 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール

プロフィール

かつしかトリオ

元カシオペアのメンバーでもある向谷実(Key)、櫻井哲夫(B)、神保彰(Dr)によって結成されたインストゥルメンタルバンド。2021年に活動をスタートさせ、全国5カ所でライブを開催。2022年7月に新曲3曲入りの音源をリリースし、iTunes Storeのジャズチャートで1位を獲得した。2023年10月に1stアルバム「M.R.I_ ミライ」を発表し、2024年9月には前作から1年足らずで2ndアルバム「ウチュウノアバレンボー」をリリース。同月から全国6カ所でワンマンツアーを行い、その追加公演の模様を収録したBlu-ray作品「かつしかトリオ LIVE TOUR 2024『ウチュウノアバレンボー(仮)』」を2025年5月に発表した。