カシオペアの元メンバー向谷実(Key)、櫻井哲夫(B)、神保彰(Dr)によるバンド・かつしかトリオのライブBlu-ray「かつしかトリオ LIVE TOUR 2024『ウチュウノアバレンボー(仮)』」がリリースされた。
本作は昨年開催の全国ツアー「かつしかトリオ LIVE TOUR 2024 ウチュウノアバレンボー(仮)」より、11月に東京・東京国際フォーラム ホールCで行われた追加公演の模様を収録したもの。撮影には19台のカメラが使用され、演奏中のメンバーの手元や足元を仔細に捉えた映像も盛り込まれている。本作のリリースを受けて、音楽ナタリーはかつしかトリオの3人にインタビュー。国際フォーラム公演の振り返りなどを通して、彼らのライブ観を掘り下げた。
取材・文 / ナカニシキュウ
トークはジャズなんで
──昨年11月26日に東京国際フォーラムで開催された「かつしかトリオ LIVE TOUR 2024『ウチュウノアバレンボー(仮)』」の追加公演を収録した映像が、Blu-ray作品として発売されることになりました。
神保彰(Dr) こういう機会を設けてくださったヤマハミュージックコミュニケーションズには本当に感謝ですよ。
向谷実(Key) そうだね。ライブ映像をリリースするのは我々にとってひさしぶりではあるんですけど、こうやって今のかつしかトリオというものを形として残すことには大きな意味があると思いますね。
櫻井哲夫(B) かつしかトリオはアルバム2作しか出していない新人バンドじゃないですか。まだライブを観れていない人が山ほどいると思うんで、ちょうどいいタイミングで出せたんじゃないかなと思います。
向谷 今回は特にステージ美術というか、VJの方に入っていただいて映像演出もかなり凝ったものになっているんで、それも含めて作品として残せるのはうれしいです。
神保 僕は1980年にカシオペアに加入してデビューしたんですけど、その当時からの映像がずっと残っているんですよ。それを観返すと、自分の容姿の変化がわかるし(笑)、もちろん演奏の変化もすごくよくわかる。そういう意味でも、記録としても残る映像作品を出せるのはすごくラッキーなことだと思いますね。
──今回の映像に関して、皆さん的に見どころを挙げるとすると?
櫻井 全部じゃないですか?(笑) 演奏はもちろんですけど、さっき向谷さんも言っていた映像とのコラボも見どころだと思いますし。
向谷 あともう1つ、MC完全収録っていう。意外とやらないんですよ。普通は適当なところでバッサリ切って観やすい映像に編集するものなんですけど、ずーっとダラダラしゃべっているところが全部入ってる(笑)。これはちょっと新しいんじゃないかなと。
神保 向谷さんのおしゃべりって、毎回ライブによって内容が違うんですよ。何を話すか全然考えずにしゃべってるんで、本当にその日限りのものなんです。それが映像として残るというのは面白いんじゃないですかね。
櫻井 向谷さんのトークはジャズなんで。
向谷 「トークはジャズ」、いいね(笑)。でも僕だけじゃなくて、この2人のしゃべりもちゃんと入ってますから。なかなか面白いですよ、個性が出ていて。
櫻井 神保くんのトークには無駄がないんです。毎回まるで台本を読んでいるかのように(笑)、噛まないし要点が押さえられていて。
神保 それに対して櫻井さんのしゃべりは、意外と長い。
向谷・櫻井 わはははは!
神保 ひとしきりしゃべって、そろそろ終わりかなと思ったらまた別の話が始まって、今度こそ終わるだろうと思ったらまた次の話題が出てくる(笑)。
櫻井 すみませんね(笑)。神保くんがあまりにもキレイにまとめるから、僕も同じ感じじゃつまらないと思って、ついダラダラしゃべっちゃったんですよ。
向谷 本当に終わりそうで終わらないんだよね。面白かった。やっぱりトークはジャズだよ。
櫻井 (笑)。
──そのトークでは、櫻井さんが届いたばかりのベースをぶっつけ本番で使っていた話をされていましたよね。
櫻井 このライブの3日前にヤマハから新しいベースが届きまして。実はあれミディアムスケールで、今まで使っていたものとスケールが違うんですよ。だから本当は弾き慣れるまでもっと練習したかったんですけど、もう「やっちゃえ!」みたいな感じで(笑)。
向谷 すごいリスクだよね。でもすっごくいい音だったんで、演奏していて気持ちよかった。締まった音っていうか。
櫻井 ピッチがハッキリするよね。
向谷 そうそう。かつしかトリオのベースラインって、動きが激しいじゃないですか。その1音1音の細かい音程がハッキリするんで、特にユニゾンやハモを弾くときに効果抜群なんですよ。
神保 音の輪郭がすごく見えやすくなって、ボワンとするところがなくなった感じはありましたね。
櫻井 ちゃんと聴いてくれてたんだね。
神保 当たり前だよ(笑)。
かわいそうなのが神保さんで
──「Katsushika De Ska」のアドリブパートでショルダーキーボードを抱えた向谷さんが櫻井さんと2人で客席に降りていくシーンなども、見どころと言っていいんじゃないですか?
向谷 あれはヤマハのKX5というショルダータイプのキーボードに、ワイヤレスMIDIを付けていて。このワイヤレスMIDIはカシオペア時代にも挑戦したことがあるんですけど、あまり遠くに行くと、音が途切れちゃってたんですよね。それから2、30年経ってもう一度チャレンジしてみたら、無線機材の進化のおかげなのかわかりませんが、遠くまで動いても途切れずにちゃんと使えたんですよ。「これなら客席までバーっと出ていって演奏できるじゃん」と思ってやってみたら、これが面白くて面白くて。有線だったらできないような、櫻井さんとクロスする動きとかもやれたしね。
櫻井 僕も以前はワイヤードでやっていたので、可動域がシールドの長さに制限されてたんですよ。9mのシールドを引きずりながら演奏してたんですけど、このツアーでワイヤレスを導入して、ずいぶん変わりました。身軽になったし、お客さんもたぶんこのほうが観やすいんじゃないかな。
向谷 ただ、そうなるとかわいそうなのが神保さんで(笑)。
神保 「いつステージに戻ってくるんだろう?」と思いながらやってました(笑)。
向谷 ドラムのパターンも、ずっと単純なことしかできないもんね。
──ああいうとき、神保さんは「俺も前に出たいな」と思ったりするんですか?
神保 いや、ドラムはやっぱり後ろで座っているのが落ち着くので……ただ、実はカシオペア時代にスティックドラムという、ギターみたいに担げる形の電子ドラムを使っていた時期があるんですよ。それで全員で前に出て演奏したりしていたんですけど、そのときの映像を観ると、もう恥ずかしくて(笑)。
向谷 ステップ決めたりしてたもんね。今思うとホントに恥ずかしい。なんであんなことやってたんだろう(笑)。
神保 しかもあれ、演奏するのが難しいんですよ。左手で鳴らす音を決めて、右手で叩いて音を出すんですけど……。
櫻井 弦楽器と同じような仕組みなんだよね。
向谷 ただ発音タイミングが16分音符くらい遅れるんで、その分、早めに叩かないといけないという。
神保 実際に演奏するタイミングよりも早く操作しないといけないから、ものすごく不自然な動きになるんです。
──それ、もはや楽器演奏とは別物ですね(笑)。
神保 それが難しすぎて誰も使わなかった。だから普及しなかったんですよ。
向谷 神保さんが唯一の使い手だったよね。懐かしいなあ……あれをワイヤレス化したら、どこにでも行けるようになるじゃん。
櫻井 3人でステージから降りられる(笑)。あの楽器って、まだ持ってるの?
神保 ないない。
向谷 え、捨てちゃった?
神保 あれはね、熊丸(久徳)くんが持ってる。でももう動かないと思うよ。
向谷 僕のKX5もとっくに絶版になってるから、生きてる部品を取り出して使えるように2台確保してるんだよ。だから神保さんも同じように、ネットでジャンク品探してさ。
櫻井 いつか3人ともステージから降りて演奏する日が来るかもしれない(笑)。
向谷 客席の後ろから登場するとかね(笑)。
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