柏木ひなたインタビュー|ソロアーティストとしての第一歩、「From Bow To Toe」に込めた感謝の言葉 (2/2)

「裏切られた! いい意味で!」と思ってもらえたら一番うれしい

──ソロでの第一歩をどういう曲で踏み出すか、いろんなパターンがあったと思うんです。同じ感謝を伝えるにしても、壮大なバラードであったり、じっくり歌い上げるようなR&Bだったり。

はいはい。

──デビュー曲「From Bow To Toe」はあらゆるパターンを想像していた中でもちょっと意表を突かれたというか、あまりにも底抜けにアッパーな曲だったのでちょっと笑ってしまいました。

あっはっは。たぶんみんな同じ感想だと思う(笑)。エビ中の曲で言うと「I'll be here」(2019年12月発売のアルバム「playlist」収録曲。柏木のボーカルがフィーチャーされている)とか、そういうちょっと大人びた傾向の曲をみんな想像しているだろうし、こんなアッパーな曲が来るとは誰も思ってないんじゃないかな。ソロデビューを発表したときに「いい意味でファンの方を裏切りたい」と発言していたのは、この曲があったから(笑)。みんなに「裏切られた! いい意味で!」と思ってもらえたら一番うれしいです。バラードとか大人っぽいR&Bとか、みんなが私に求めているものもなんとなくわかるんですけど、それだとどうしてもちょっと暗くなっちゃうかなと思って。

柏木ひなた

──少なくともスタートダッシュはバカ明るく決めたかった。

そう。明るくてかわいい声でもないんですけど(笑)、自分の声を生かしつつ「ありがとう」の気持ちを伝えるには、女性らしさもありつつパワフルな曲のほうがいいなと思ったんです。エビ中時代にもたくさんのジャンルの曲を歌ってきたので、エビ中にもなかったような曲で、どでかく華やかにドン!とソロの1発目を打ち出すには、このくらい強いほうがよかった。

──実際にいろんなパターンを考えて、いろんなバリエーションの曲を用意してもらった中からこの曲を?

はい。本当に何曲聴いたかなというくらいたくさん用意していただきました。

──自分で意見を出して進んでいけるようになった今、音楽的にはどういう指向でいこうと考えているんですか?

ジャンルにとらわれずいろんな曲を歌いたいというのが一番大きいんですよ。エビ中のときからそうでしたけど、バリエーションがいろいろあったほうが聴いていて飽きないだろうし、歌ううえでも新しい発見があるから。方向として「これ!」というものを決めたくないと最初にお伝えしました。

──誰に縛られるわけでもないし、安室奈美恵が大好きだったら、臆面なく安室っぽい音楽をやってもいいわけですよね。

そうなんですけどね(笑)、奈美恵ちゃんは奈美恵ちゃんだから。昔は「ソロで自由にやれるなら奈美恵ちゃんみたいな曲でバリバリに踊って……」とか考えてたけど、それこそ2021年にバンドでソロライブをやったときに「私にはこれが合っているのかもしれない」という新しい発見があったんですよ。

──打ち込み主体のダンスミュージックではなく、生演奏でバリエーションに富んだ音楽を表現する方向に。

はい。生バンドの演奏で踊ることだってできるし、奈美恵ちゃんみたいな楽曲を歌うこともできる。バンド編成のソロライブで今につながる手応えを感じたのは本当に大きかったです。

──楽曲のパターンが決まったあとは、歌詞をどうするかですよね。ファンへの感謝を伝えるうえで、歌詞はどのように考えていったんですか?

音楽活動はやっぱり応援してくれる方がいないとできないことなので、ソロでの活動を応援してくれるファンの方への感謝は一番に伝えたかったし……ソロデビュー曲は柏木ひなた第2章の始まりだけど、まっさらなところからのスタートではなく、聴いてくれるのは当然、今までの私のことを知ってくれている人、支えてくれていた人たちが多いわけですよ。もちろんこれから新しく知ってくれる人たちのことも歓迎しつつも、まずはずっと応援してくれていた人たちを大事にしたいというのが一番で。「ゼロからのスタートになるけど、ここからの活動に期待してほしい」という思いを込めたいと伝えて、できあがったのがこの歌詞です。

──「大大だい好き みんなが」と直球な言葉を投げかけてるのが、柏木さんのキャラを考えると新鮮なんですよね。

これは自分の言葉だけでは伝えられない。歌でなら伝えられるし、歌でどんどん伝えていきたいなとこの歌詞ができあがったときに思いました。歌だったら素直に伝えられるな、ってレコーディングしながら思いましたもん。

──ちなみに「From Bow To Toe」というタイトルはどういう意味合いで付けたんですか?

これは「頭からつま先まで」という意味で。自分も全身で音楽を届けるから、みんなも全身でこの音楽を受け止めて全身で楽しんでほしいという思いを込めました。音楽は耳から聴くものだけど、頭の中に私のことを思い浮かべてもらったり、声を聴いてゾクゾクと体で感じてもらったりしたいんです。いずれライブもやると思いますけど、最近はお客さんの声出しも解禁になってるし……この曲なんて声出すところだらけですからね(笑)。そういうところまで想像して、全身で楽しんで!というタイトルにしました。

「ソングライター柏木ひなた」の可能性は……?

──歌詞にも自分の意見を逐一入れられる状況下で「こういうことは歌いたくない」というNG事項は持っています?

うーん、ほぼないかも。わりと客観的になっちゃうというか、誰かが「柏木ひなたにこれを歌わせたい」と思ってくれるんだったら、私はそれを歌いたいと思っちゃうんですよ。だから「これはヤだ」と思うものはあまりない。「これを歌ってほしい」と思ってもらえるその気持ちが一番うれしいから。

──そのマインドは「受け取ったものをどう表現するか」というアイドル活動で培ったものが大きいかもしれないですね。

大きいですね。常に挑戦していたいというのはあるかもしれない。

──表現欲求はどうですか? ソロでやるのであれば、作詞はもちろん作曲だってしてもいいだろうし、ソングライターとしての一面を望まれるところもあると思いますけど。

今はないです。でも、のちに「今なら自分の言葉で書けるかな」という時期がもしかしたら来るのかもしれないので、勉強はします。日本語の(笑)。私の今の日本語力では書けないから。

──歌詞は別に文法的に成立している必要はないし、じっくり推敲することだってできますよ。現段階でも「書いてほしい」と望まれたりしませんか?

望まれてないですし、まだ望まないでほしい(笑)。(マネージャーに)望んでないよね?

(マネージャー) 望んでないね。

ほらね!(笑)

(マネージャー) 本当は書いてほしいけど、柏木さんの語彙力ではちょっと……。

──(笑)。作詞も作曲もできるようになって100%の理想を自分の手で作り上げたい、という欲求はないですか?

それはあるにはありますけど……彩花(エビ中の同学年メンバー安本彩花)が自分で音楽を作っているのを見てカッコいいなと思って、挑戦してみたんですよ。でもまあ、ひーどい(笑)。「神ちゅーんず ~鳴らせ!DTM女子~」というドラマ(エビ中メンバー全員が出演した、女子高生がDTMに打ち込む青春ドラマ。柏木は音楽制作に没頭する寡黙な主人公・十倉凛を演じた。参照:エビ中新主演ドラマで“神曲”作る高校生に、主題歌は川谷絵音が制作)を撮ってたときは、私が一番DTMを勉強してたはずなのに(笑)。

──作詞作曲は面白そうだなとは思う?

面白そうだなとは思いますけど、私には才能がないなと思う。そこの才能は今のところ伸ばさなくていいから、まだ溜めときます(笑)。時がくれば勝手に伸びる。語彙力なんて。24でまだ伸びてないのはおかしいんだけど(笑)。

──活動しているうちに周りも「そろそろ自作を……」みたいな空気になっていきそうな気もしますが。

そういう空気にしないでください! しないで! ホント困っちゃうから。呼ぶよ? あの、なんだっけ。影の人。

(マネージャー) ゴーストライター?

あーそう! それ! それが出てこない(笑)。

──エビ中では、例えば柏木さんが最後に参加したオリジナルアルバム「私立恵比寿中学」だとSaucy Dogやキタニタツヤさん、TORIENAさんといったアーティストの楽曲提供がありました(参照:これが私立恵比寿中学だ!“Reboot”したエビ中が真っ白な明るい未来に色を付けるセルフタイトルアルバム)。そういうアーティストとのコラボも自発的に行えるわけで、そのあたりの動きも今後の楽しみかなと思います。

確かに。キタニさんに書いていただいた「宇宙は砂時計」(「私立恵比寿中学」収録曲)が私は大好きで。この曲をきっかけにキタニさんのことを知って、そこからキタニさんの楽曲を片っ端から聴いてすっかりハマってしまいました。それから「いつかソロになったら曲を書いてほしいな」と思っているので、ぜひ機会があればお願いしたいです。

──キタニさんの楽曲のどういう部分に惹かれたんですか?

キタニさんの作品は、あまりポジティブじゃなくて、ちょっとダークな感じがありますよね。私自身があまりポジティブな人間じゃないからこそ、キタニさんが作る音楽は歌詞がすごく刺さるんです。ネガティブな自分を肯定してもらえるような気がして。ネガティブだと「もっとポジティブになりなよ!」と言われがちだけど、私にはそれが難しい。多少の開き直りくらいはできますけど(笑)、私はその開き直りをネガティブの中のポジティブだと捉えています。キタニさんの歌詞にはマイナスな部分もしっかり表現されていてすごいなと。いつかしっかりお話しながら曲を作れたらうれしいです。

──今ならいくらでも直談判できるわけですし。

そうですね(笑)。直談判します。

柏木ひなた

「今だから歌える歌」よりも「長く歌える歌」を

──デビューから先の準備も進めていると思いますが、現時点で言える範囲ではどのような感じですか?

EPも7月12日にリリースされます。「From Bow To Toe」も入れて5曲になる予定ですけど、楽曲はエビ中の頃よりもジャンルがバラバラかも。この5曲でなんとなく、私がやろうとしていることが見えてくると思います。

──ソロアーティスト柏木ひなた像がつかめてきた?

そうですね。「From Bow To Toe」のレコーディングのときに「あ、私もう1人じゃん」って急に実感したんですよ。今までもレコーディングは1人ずつ歌ってたのに。ちょっと不思議な感じでした。自分だけの声の作品がリリースされるのは「Fantastic Baby Love」(2015年12月発売のアルバム「エビ中のユニットアルバム さいたまスーパーアリーナ2015盤」収録曲。参照:エビ中、未CD化ソロ曲とSSA新曲収めたユニットアルバム第4弾)以来なので、こんな素敵な楽曲たちが世に出ると思うとワクワクします。

──ソロ活動についてはポジティブに「あんなことやこんなことがやりたい」と考えられている?

はい。それも開き直ってるんだと思います(笑)。とりあえず動き出してしまったし。でもそのくらいが自分にとってはいいのかもしれない。もちろんマイナスに考えてしまうことはたくさんあるけど、「まあ今日はいっかな」とか、ちょっとずつラクに考えられるようになってきました。

──ここから先の自分についての理想像、今考えうる「ソロアーティスト柏木ひなたの最高の状態」はどんなものですか?

うーん、年がら年中ツアーしてることかなあ。それが一番の理想かも。ライブがない年というのをなくしたいんですよ。常にツアーで全国を回っていたい。春ツアー、秋ツアーとかじゃなくて、もう……ツアー!っていう。

──言葉が出てこないですね(笑)。

(笑)。年中ツアーをやっていて、ときどき大きな会場を挟んだりとか……だから年中ホールツアーができるのが私は一番うれしいのかも。

──例えばドームのド真ん中にピンスポでドン、とか安室奈美恵さんみたいな自分は想像しない?

ドームにピンスポでドンなんてことになったら……私は帰ります(笑)。奈美恵ちゃんは奈美恵ちゃんだから……うーん、幕張とか代々木競技場とか好きな会場はあるし、がんばらなきゃなとは思いますけど。うん、目指すは日本武道館かな。あとは地元の市原市民会館に、戻りたい! えへへ。私の初ステージはあそこだから。幼少期に最初に立ったステージが市原市民会館なんです。

──長く活動したいと思いますか? 自分が40歳、50歳になって歌っている姿は想像している?

あまり先までは想像できないけど、歌えるところまでは歌いたい、と今は思います。もちろん先のことはわからないけど、ソロになるにあたって最初にスタッフに伝えたのは「長く歌える歌を歌いたい」なんですよ。「今だから歌える歌」じゃなくて、自分がもっと大人になってからも歌える歌を歌っていけるようにしたい、と伝えて作ったのが「From Bow To Toe」やEPに入る曲たちなんです。長く続けたい。踊れなくなってるかもしれないけど、歌えはするんじゃないかと。たぶん、好きだって気持ちが消えない限りはどこでも歌ってるんでしょうね。

──それが大きなステージじゃなくても。

うん。歌うことはやめないかなと思います。年下の子たちにコーラスで呼んでもらうとか。それは小湊さん(太陽とシスコムーンの小湊美和。柏木のソロライブでコーラスを担当している)の存在が大きいですけど、私にだってそういう道もあると思うと刺激になります。

──近年のアイドルシーンで、グループ卒業後ソロになって長く活動している人って、案外少ないんですよね。モデルケースが意外と少ない。

そうなんですよね。有安(杏果)さんとか、事務所を離れてソロで活動している人はいますけど、スタプラからソロアーティストとしてデビューするのは私が初めてなんですよ。もともと俳優さんの事務所だから、音楽活動でこんなに応援してくれるのはありがたいことなんですけど、前例がないからこそ、自分が先頭に立ってがんばりたいという気持ちもあります。

──最後に完全な余談ですけど、今、音楽以外のことで一番楽しみにしていることはなんですか?

えー? なんだろう。焼き鳥? あはは。晩ごはんに命懸けてる。お昼はあまり食べないで、朝から晩ごはんに照準を合わせてます。晩ごはんを食べながら「明日の晩ごはん何にする?」って話してるんですよ(笑)。

プロフィール

柏木ひなた(カシワギヒナタ)

1999年3月29日生まれ、千葉県出身のソロアーティスト。2010年、11歳で私立恵比寿中学に加入し、2012年5月にシングル「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビューを果たす。グループでの活動と並行し、映画、舞台、ドラマで主演を務めるなど俳優としても活躍。グループ在籍時には2度のソロツアーを成功に収めた。24歳の誕生日を迎えた2023年3月にソロアーティストとして本格始動。6月にデビューシングル「From Bow To Toe」、次いで7月にEP「ここから。」を配信リリースする。