ナタリー PowerPush - かりゆし58

絶好調のバンドに立ちはだかる大きな壁

歌詞を作るときにサイコロ振っていて「コレはヤバイかも」って

──では具体的なことをお聞きたいんですが、アルバム「5」と今作では録り方の違いはあるのでしょうか?

前川 「5」ではプロデューサーさんがいて、導いてくれた感じもあったんですよ。プロデューサーから素晴らしい提示があって、僕らは勉強しながら進んでいったっていう。今回は自分たちだけで作ってみようって。そしたら何をやったらいいのか……。

新屋 変な気負いがあったんじゃないですかね。歌詞を作るとき、最後はサイコロ振ってましたもん(笑)。

前川 字を書いた紙にサイコロ振って、出た字から歌詞を作ってみようって。うまくいきませんでしたけどね(笑)。

宮平直樹(G)

新屋 それ見たとき「コレはヤバイかも」って(笑)。

前川 もう神頼みですからね。

新屋 あと「今のリスナーってどういうものを聴いてるんだろう?」ってことも考え出したり。

──でもおっしゃったようにバンドとしては絶好調で、実際、シンプルでイキイキしたバンドサウンドになってますし。

前川 うん、音的なことに迷いはないんです。

新屋 音はみんなでガーッと。アルバムからの流れで、みんなが各々一番得意なリズムだったりフレーズだったりを素直に出せて。

──3人は前川さんが悩んでる様子を見て、どう感じました?

新屋 正直ちょっとまずいかもなって思ってましたね(笑)。

前川 でもコーラスパートは(宮平)直樹が作ってきたりして。どんどん各々が得意なとこを分担して融合させ始めた。俺がうだうだやってるときにも曲を持ってきてくれたり。メンバーは以前より積極的になってきたと思います。

新屋 これまでは(前川)真悟が曲と歌詞を書いて、僕らは「いいね」って言うだけでしたけど、今回は僕らもホントに動かないとまずいなって危機感もあったりして。各々が自分の意見、自分の気持ちをもっと出さなきゃって。今は新しいアルバムを作ってるんですけど、僕や(宮平)直樹が作った曲も出てきてるし、各々の新しい面はちらほらと出てるんです。

中村洋貴(Dr)

宮平直樹(G) 今までは、曲が浮かんでもちゃんと形にしないとバンドに持っていっちゃいけないって思ってたんです。それが今回は、ちょっとでも形になったら持っていきました。ちょっとだけでもバンドでやれば形になるかもしれないって。やっとバンドらしくなってきました(笑)。

中村洋貴(Dr) 僕はまだ曲は作ってないんですけど。でもみんなが持ってきた曲はすごく面白いなあって。幅も広がるし、次のアルバムはまた違う雰囲気になるんじゃないかと思います。

──うん。サウンドは本当に迷いがない感じですよね。「青春よ聴こえてるか」は前半はシンプルなスカ調で、だんだんスケールあるロック調になって。

前川 ええ。いい感じになってると思います。すごく。

音楽は特別に豪華な料理じゃなく、毎日毎日繰り返されるごはん

──「ゆくれベイベー」の「ゆくれ」というのはどういう意味ですか?

前川 沖縄の方言で「休もう」とかそういう意味の言葉なんです。

──へー、いいですね。「ゆくれベイベー」はノリのいいロックンロールで、普通ならパーティチューンみたいな歌詞になりそうじゃないですか。でもこの曲は、かりゆし58らしい風景が見える曲になっていますよね。

前川 言われた通り、こういう曲調ならパーティチューンのような歌詞が多いのかもしれないけど、でもそれは俺らがやらなくてもいいんじゃないかって。

──いい曲、いい歌詞だと思います。このタイミングならお子さんが生まれた喜びにあふれた歌詞が出てきそうな気もしますが、今回はそういう歌詞とはちょっと違って、儚くて切ないですよね。

前川 ひねくれてるんでしょうかね(笑)。「お前が生まれて俺はどんなにうれしいか」ってことを書こうと思えば書けたと思うんですけど、なんかそういう脳みそにならなかったんですよ。なんなんでしょうね、自分に歯止めをかけてる感じ。

前川真悟(Vo, B)

──きっとすぐに父親になるってものではなく、これから父親になっていくんでしょうね。お子さんと一緒に成長するっていうか。

前川 そうですね、きっと。止まらんぐらい出てきたら歌に変わるんだと思います。

──自分の気持ちに対して誠実すぎるのかもしれないですね。

新屋 ですよね。だから僕らからしたら悩まなくても全然大丈夫だよって。曲って、聴いた人がどう育てるかだと思うんですよ。特に歌詞って。悩んでることを歌詞に出しても、むしろそこで何か感じる人がいると思うし。

前川 うん、そうなんですけどね。でも悩んでしまったんですよね。例えば、昔作った「アンマー」は余計なことは何も考えずに、ホントに言葉がスッと出てきたんです。この曲が誰に届くかとか、いい曲なのかどうなのかってことも考えず。それが今は難しくなって。でも(新屋)行裕が言ったように、悩んでるとこも歌詞にして。あの、ごはんは毎日食べるものですよね。ごはん食べて満腹になっても翌日にはまた腹は減る。音楽もそれでいいんじゃないかなって。つまり特別に豪華な料理じゃなく、毎日毎日繰り返されるごはんかなって、自分たちの音楽は。特別な何かを差し出すっていうより、自然にスッとそこにあるような。

最終回のあとにも人生は続いていく

──うん。今回の2曲を必要とする人は多いと思いますよ。皆さんと同世代の方には特にグッとくると思います。

前川 たぶん、30歳を超えたっていうのも子供ができたっていうのも、大人になるステップのひとつだと思うんです。で、大人ってどういうものかを考えた。それってきっと、一生懸命になって夢を叶えた後だったり、夢が叶えられなかった後だったり。夢が叶った後、次に進むのはしんどいことだと思うんです。これまで必死にやってきたのに翌日の朝は来るし毎日は続いていく。夢が叶えられなかったら、そういう自分を受け入れて人生を生きていくわけで、それはもっとしんどい。何かひとつ答えがわかっても、そこからどうやって生きるのか、そういうことを考えるのが大人なんだと思うんです。映画やドラマの最終回みたいなものが人生の中でときどき訪れるけど、でもその後にも人生は続いていく。最終回の後の、実際に続く人生で、少しでもキラキラとしたものを感じてくれればって、そういう思いで作りました。

──なるほど。

前川 だから次のアルバムは、30歳になってからいろいろ考えたことが濾過されて、純度の高いものになると思います。僕らは新人でもないしベテランでもないわけで、そういう自分たちの立ち位置というか、自分たちのテンションをしっかり持って。バンドも人生も、転機を迎えてもまだまだ先は長いってことは実感しましたから、その道をしっかり進むだけです。

──皆さんのお話を聞いていると、本当にバンドはいい状態ですよね。メンバーが積極的になって。前川さん、安心して悩めるんじゃないですか?(笑)

前川 ですね(笑)。バンドはホントに楽しいです。メンバーが各々「待ってるぜー」って雰囲気なんですよ。「どんな曲を持ってきてもしっかりやるから」って、待ち構えてる感じで。

新屋 サイコロ振るのだけは勘弁してほしいですけどね(笑)。

前川 音作りは楽しくて。安心して悩めます(笑)。

──アルバムはいつ頃になりそうですか?

前川 秋ぐらいには出したいよね。

新屋 うん。もう、メタルっぽいフレーズまで持ってきたりしてますね。今まではやらなかったことが、バンドでやればなんとかなるからって、いろいろ試してるとこです。

宮平 僕が持っていく曲は、たいがいみんな笑うんですけどね(笑)。

前川 みんなすごくいい状態なので、今のこの感じを見てもらうために、ライブにもぜひ来てほしいですね。

前川真悟(Vo, B)
ニューシングル「青春よ聴こえてるか」 / 2013年5月8日発売 / 1050円 / Pacific Records / LDCD-50090
「青春よ聴こえてるか」
収録曲
  1. 青春よ聴こえてるか
  2. ゆくれベイベー
  3. 青春よ聴こえてるか(カラオケ)
  4. ゆくれベイベー(カラオケ)
かりゆし58「青春よ聴こえてるか」リリース記念インストアイベント スケジュール
  • 2013年5月8日(水)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
  • 2013年5月9日(木)福岡県 キャナルシティ博多B1Fサンプラザステージ
  • 2013年5月11日(土)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店屋上特設スペース
  • 2013年5月12日(日)兵庫県 阪急西宮ガーデンズ4Fスカイガーデン 木の葉のステージ
かりゆし58 ライブスケジュール
HTB夢チカライブ
  • 2013年5月18日(土)北海道 Zepp Sapporo
ガガガSP主催イベント「長田大行進曲行脚2013」
  • 2013年6月14日(金)大阪府 なんばHatch
  • 2013年6月16日(日)愛知県 名古屋CLUB DIAMOND HALL
  • 2013年6月28日(日)福岡県 福岡DRUM LOGOS
MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVAL 2013
  • 2013年6月22日(土)沖縄県 南西楽園宮古島リゾート敷地内特設会場
四星球方向性会議
  • 2013年6月27日(木)東京都 代官山UNIT
第31回 ピースフルラブ・ロックフェスティバル 2013
  • 2013年7月13日(土)沖縄県 沖縄市野外ステージ
OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL vol.4
  • 2013年7月27日(土)秋田県 男鹿市船川港内特設ステージ
かりゆし58(かりゆしごじゅうはち)

2005年沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題を集めた。2011年7月発売のベストアルバム「かりゆし58ベスト」のヒットを経て、2012年11月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「5」を発表。ライブも精力的に行っており、沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。2013年5月8日にはニューシングル「青春よ聴こえてるか」をリリース。