ナタリー PowerPush - 菅野よう子×AKINO
「アクエリオン」を彩る音楽の秘密
12時間くらいレコーディングを続けて「まだできます」
菅野 14歳のときに歌ってもらったあとってライブはどのくらいやってたの?
AKINO 結構やってました。月に3~4回。
菅野 週1ってこと?
AKINO そうですね。1時間のライブを毎週って感じですね。
菅野 ホントすごいですよね。
──ええ。7年間、毎日1時間半以上のトレーニングと、ほぼ週1、要は年50本近く1時間のステージを続けていたわけですから。
菅野 特にそのライブがすごくいい経験になってるんですよ。お客さんの前でやると直に反応があるから。
AKINO ええ。自分たちのモットーはどんなときでも全力を出す。「全力で未完成」なので(笑)。どんなちっちゃいところでも、お客さんが1人か2人のところでも自分たちのベストを出そうって4人で決めてます。私たちを観に来てくれるお客さんの期待には応えないといけないと思うので。満足してもらえるように自分たちも100%の力を出すし、準備もしなきゃいけないと思ってます。
菅野 そういう日々を過ごしたから、6~7年経ってもテクニックをキープ、どころか伸びたんですよね。普通の人だったらラクしようと思うんですよ。ライブってある程度はお客さんの層が読めるから「まあこんなもんでいいか」って。だいたい毎回1時間全力で歌って踊ってたら疲れるし(笑)。
──若くていろんな可能性があるだけに歌以外の世界に興味を持つこともあるかもしれないし。
菅野 別の道に進んだっていいんだし。それに少なくとも1曲は売れたことだからって「もうこれでいいじゃん」ってなっても全然おかしくない(笑)。でもこの人たちは全力でやる。それは今回の「アクエリオンEVOL」のレコーディングのときもそうで。デモの段階ですでに私の要求水準はとっくに超えてるし、そのあとも、12時間くらいレコーディングを続けて、納得のいくテイクも録れたから「じゃあ、このへんで」って言うと「まだできます」って言うんですよ。
──実際「まだできる」んですか?
菅野 できますね。普通の歌手だと「まだできます」って言ってもできないです。結局技術がついてこないし、プロデューサーに対するパフォーマンスとして「できる」と言ってるだけだったりするんですけど、この人はホントに超えるんですよ。ほかの人の場合、高く見積もりすぎたり、逆に低く見積もったりしてるんだけど「ここらへんまではできるな」っていう自分の可能性がちゃんとわかってるんです。
AKINO ……すみません。実は全然わかってないです。
菅野 あはははは(笑)。でも多分聴けばわかるんですよ。自分が今歌った分のプレイバックを聴けば「あっ、もっとできるな」って。
AKINO あっ、それはわかりますね。
菅野 ねっ。自分のイメージではプレイバックよりももっとうまく歌えていて「あっ、まだ近付けてない」っていうのがわかるんですよ。そして、実際にまだできてるわけだから、そのイメージは間違ってない。
──どうして自分のイメージと実力を正しく見極められるんですか?
菅野 ちゃんと練習しているからでしょうね。で、練習中にもっとうまく歌えていたことを体が知ってるんですよ。レコーディング前も毎日1時間半は練習してるの?
AKINO だいたいそれくらいはしてますね。曲を覚えるのがあんまり早くないので音源が届いたらすぐに練習するようにしています。特に「君の神話」は「創聖のアクエリオン」よりもキーが高いから「声が出るのかな?」って心配でたくさん練習しました。ただ、毎日全力で歌ってたら、お兄ちゃんとお父さんに「もう練習しないほうがいいよ」って。「声が枯れてきてるからやめなさい」って言われたりもして。以前は声が潰れても歌ってたんですけど、そういうふうに言われてたので、最近は自分の声と相談しながら練習していますね。
菅野 22歳にして技術のコントロールだけじゃなくて、身体コントロールもやっている。本当に恐ろしい(笑)。
姉弟で歌うラブソング
──今回「創聖のアクエリオン」と「アクエリオンEVOL」のボーカルナンバーをパッケージした「LOVE@New Dimension」がリリースされますが、一番スムーズに歌えたお気に入りの楽曲やフレーズと、反対に……。
菅野 お気に入らない楽曲を教えてください(笑)。
AKINO あはははは(笑)。どの曲も自分の力を全部出して歌ったので「この曲はラクだった」「この曲は好き」っていうのはなくて、全部大好きなんですけど「月光シンフォニア」は印象に残ってますね。弟のAIKIとデュエットしたんですけど、やっぱりふたりとも最初は恥ずかしい気持ちがあって。ホントにLOVEな歌詞だったので。それでも、レコーディング前には、歌詞の読み合わせというか、台本のようにそれぞれの歌詞を言い合ったり、振り付きで歌ってそういう感情を作るようにはしたんですけど、練習している部屋にお兄ちゃんが入ってくると、恥ずかしくなってお互い一瞬で練習をやめちゃいます。(笑)。
菅野 普通、姉弟でデュエットなんてしないもんね。しかも「あなたが恋しい」「あなたに会いたい」って(笑)。
──その「あなたが恋しい」「あなたに会いたい」って詞を書いたのも、実の姉弟に歌わせたのも菅野さんですよね?
菅野 ええ。だから、よく考えると姉弟だし、恥ずかしいだろうな、ということはわかってましたよ、そりゃ(笑)。ただ「マクロスF」の頃からそうだったんですけど、河森監督が歌舞伎の面白さについて結構おっしゃっていて。それで私も観に行ったんですけど、あれこそ、おじいちゃんと孫、しかも男同士でラブストーリーを演じているわけじゃないですか。しかも、おじいちゃんが女形で「行かないで!」とか言って、孫が「お前なんか!」ってやるわけでしょ。あれを観て「すごい世界だな」と思ったんですよ。観ているほうは、話や芝居の面白さだけじゃなくて、その奇妙な関係性も含めて、歌舞伎のことを愛でてるんですよね。宝塚もそうですよね。その多重性を楽しめる独特な感性を持っているんですよ、我々は。だから私は、AKINOちゃんとAIKIくんが姉弟であることをあえてバンバン言って、歌っている本人と聴いているみなさんに「わーっ、恥ずかしい」と思いながら楽しんでいただく、と(笑)。
──難解な日本語を歌わせるだけでなく、そんな無理のさせ方までしてましたか。
菅野 そう、bless4歌舞伎説(笑)。「○○家」「××屋」みたいな。ただ、歌舞伎の面白さやすごさのひとつに、家族という情の世界、しがらみの世界を乗り越えて孤高の芸の高みに向かっていく徳の高さっていうのもあると思っていて。彼女たちにも「家族だから」という事実を超えてパフォーマンスすることで、深みのある面白さを表現してもらいたかったんですよ。それでなくとも、あんなに合う声もないわけですから。
──実際ドラマチックな曲に仕上がりましたが、AKINOさんは勝因はどこにあると思います?
AKINO 自分たちは小さいときからずっと一緒にパフォーマンスしているので、うまくいったんだと思います。ほかのボーカリストの人がいきなり「弟さんとデュエットしてください」ってなっても多分息は合わないけど、私たちはいつも一緒にいつもいて、仲いいし、なんでも話し合えるので、それが歌に出たんじゃないかな、とは思いますね。ただ「アクエリオンEVOL」は「EVOL」の逆「LOVE」がテーマで、「月光シンフォニア」以外にもラブソングが多かったんですけど、私、彼氏がいたことがないんですよ。
菅野 ここで言うことか、それは(笑)。
AKINO お兄ちゃんがステージとかでいっつもネタにしているので大丈夫です(笑)。で、彼氏がいたことがないので、自分にとっての愛、家族や友達とか、そういうものを浮かべて歌ってみました。
私たちの想像以上の高みに向かってくれている
──「創聖のアクエリオン」「アクエリオンEVOL」の2作でご一緒してもなお、AKINOさんの底は見えない?
菅野 全然見えないですね。この人、とにかくレコードに収まらないんですよ。
──でも「LOVE@New Dimension」って素人が一聴してわかるくらい、きちんとお金をかけている。どの楽曲も豊かでダイナミックな音を高品質で録ってますよね。聴いていて本当に気持ちがいい。
菅野 でも、全然収まらないっス(笑)。私としてはこの人のいいところを全部レコードに収めたいし、そのための工夫もしたし、そのときどきにできる最高のレコーディングをしたつもりではあるんです。だから、これもいいアルバムにはなったんですけど、それでも必ずハミ出すんですよ。例えば映画に向いているスターと、テレビ向きのスターと、写真向きのスターと、舞台向きのスターっていますよね。で、彼女は舞台向きのスター。歌や声量も踊りも含めて舞台に向いていて、スタジオでマイクで録るとちょっと小さくなっちゃう。だからこそ「アクエリオンEVOL」で再度声をかけたときに「もうカレシいっぱい!」みたいな不良にならないでいてくれてホントに良かった。「もし彼女が歌ってくれていなかったら」って考えたらゾッとしますね。
AKINO (涙ぐみながら)ありがとうございます!
菅野 あれ、どうしちゃった?
──どうもこうも、菅野さんの言葉に感動したのかと。
菅野 そうか(笑)。でも、ホントこの人すごいんで。正直な話、bless4の4人の中で、自分のことはある意味ミソっかすだと感じてたと思うんですね。最初の頃は「AIKIくんに年齢が近いから」みたいな理由で呼ばれただけだと思っていただろうし。元々コーラスをお願いするつもりだったから、ソリストをやるつもりもないまま来て「やっていいのかな」ってずっと悩みながら7年間やってきた。でも、この人は、その弱さを全部受け止めた上で、技術的にも人間的にも、私たちの想像以上の高みに向かってくれているんですよ。だからこれからもこのままのAKINOちゃんであってほしいな、と思ってます。
AKINO 本当にありがとうございます! 自分は緊張するタイプなんですけど、いつもこう言ってもらえて、そうすると緊張が吹っ飛ぶんです。
菅野 こんなにすごい歌い手さんなのに、ホントに緊張しいだし、イマイチ自信がないみたいなんですよね。そこが謙虚でかわいらしいところでもあるんですけどね(笑)。
CD収録曲
- 君の神話~アクエリオン第二章(「アクエリオンEVOL」前期OPテーマ)
- 荒野のヒース(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
- Go Tight!(「創聖のアクエリオン」新OPテーマ)
- パラドキシカルZOO(「アクエリオンEVOL」後期OPテーマ)
- 創聖のアクエリオン お兄さまと (「創聖のアクエリオン」OPテーマ[アルバムver.])
- プライド~嘆きの旅(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
- オムナ マグニ(「創聖のアクエリオン」EDテーマ)
- ニケ15歳(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
- a tot(「アクエリオンEVOL」より)
- 鳥になって(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
- Unforgettable(「アクエリオンEVOL」より)
- 昇天唱歌(「アクエリオンEVOL」より)
- イヴの断片(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
- 光のカデンツア(「アクエリオンEVOL」より)
- 月光シンフォニア(「アクエリオンEVOL」前期EDテーマ)
- 残響encore(「アクエリオンEVOL」より “シュレードのピアノ曲”)
- ZERO ゼロ(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
- Genesis of LOVE~愛の起源(「創聖のアクエリオン」OPテーマ[EVOL版New Ver.])
- [M01, 04, 05, 18]
- 歌:AKINO with bless4
- [M02, 03, 06, 08, 13, 17]
- 歌:AKINO from bless4
- [M07]
- 歌:牧野由依
- [M10]
- 歌:多田葵
- [M12]
- 歌:聖天使学園男子部有志
- [M15]
- 歌:AKINO&AIKI from bless4
全作曲・編曲:菅野よう子
菅野よう子(かんのようこ)
作曲家 / 編曲家 / プロデューサー。早稲田大学在学中にロックバンド、てつ100%のキーボーディストとしてデビュー。バンド解散後より作曲 / 編曲 / プロデュース業を行うようになる。SMAP、今井美樹、坂本真綾、小泉今日子、T.M.Revolution、湯川潮音、元ちとせといったさまざまなアーティストを手がけるほか、CM音楽のジャンルで多数の広告音楽賞を受賞。アニメ作品のサウンドトラックも数多く手がけ、国内外で熱狂的なファンを獲得。2005年には作・編曲を手がけたアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」が大ヒットを記録した。2012年にはこの続編となるアニメ「アクエリオンEVOL」で再び音楽を担当。7月25日には両シリーズのテーマソングや挿入歌などを収めたアルバム「LOVE@New Dimension」がリリースされた。
AKINO(あきの)
1989年生まれ。沖縄出身の両親を持ちながらもアメリカで生まれ育つ。1997年に帰国後、兄AKASHI、姉KANASA、弟AIKIとのユニット「bless4」として2003年5月にメジャーデビューを果たし、2005年にはアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」でソロデビュー。2012年1月より放送された続編アニメ「アクエリオンEVOL」では、AKINO with bless4名義によるオープニングテーマ「君の神話~アクエリオン第二章」「パラドキシカルZOO」や弟AIKIとのデュエットによるエンディングテーマ「月光シンフォニア」などでボーカルを担当した。